俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

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駆けつけてくれる人②

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「いや、その気持ちは嬉しいけど……俺が転移魔法を使った方が早かったんじゃね? せめて山頂で待ち合わせするとか……」

 麓に来る為にも転移魔法を使ったんだから、行き先が山頂でも手間は一緒だったわけだし。
 ネーバ山の山頂なら、今でも国境が曖昧なままだから、密入国でもなかっただろう。
 会うのが目的なら、アストルディアがわざわざここに来る必要なかった気しかしない。いや、四時間走り回らせて、こう言うのも何だけどさ。

「……言われてみれば、そうだな」

「言われてみればって……」

「早くお前に会いに行かなければという一心で、そこまで深く考えてなかった。……山を降りている途中で、さすがに領主館まで行くのはまずいとは気付いたが」 

 絶対やめてね!? まず森を抜けて、砦まで行った時点で、アウトだからね!?
 最悪親父が子どもの頃の悪夢の再来と思われるし、運良く獣人だって気づかれなくても、森から狼型の魔物が襲撃にきたって大パニックになっちゃう。
 普段は俺より頭の回転早いのに、何で変なとこ抜けてるの?

「エディ。屈んでくれ」

 一人頭を抱える俺をよそに、失敗を大して気にする様子もなく、お犬様アストルディアが足元にすり寄ってきた。
 久しぶりの可愛らしいお犬様動作に、思わず胸がきゅんとする。
 言われるままに屈むと、アストルディアの分厚い舌が俺の目もとを舐めた。

「……大分一人で泣かせてしまったようだな。目もとが、腫れている」

「ははっ、ブサイクだろ」

「どんな顔でも、お前は綺麗だ。少なくとも俺には、誰よりも美しく見える」

 そう言ってアストルディアは、白銀の毛皮で優しく俺を包みこんだ。

「すまない。エディ。……俺との婚姻の為に、お前に大切な相手を殺させてしまった」

 何故大切な人を、この手で殺めることになったのか。
 きちんと理由を話していないのに、アストルディアは既にその背景も察していた。
 すっとぼけるべきか少し悩んだけれど、迷った末に笑みを浮かべて首を横に振った。

「……お前が謝ることじゃないよ。アスティ。俺が自分で決めて、成したことだ。必要なことだったって、言っただろう」

「だとしても……お前が今苛まれている罪の半分は、俺のものだ」

 アストルディアの金の瞳が、まっすぐ俺を見据える。

「共に背負わせてくれ。エディ。一人で泣いて、一人で苦しまないでくれ。それを直接お前に告げる為に、今、俺はここにいるのだから」

 すっかり乾いたと思った涙が、再びぶり返してきた。
 幼いあの頃、山頂で泣くたびに隣で寄り添ってくれた。
 セネーバの学校では、毎晩一緒に寄り添って眠って、俺が泣いた時は必ず涙を舌で舐め取ってくれた。
 国を跨いでいてなお、その姿勢を崩さないなんて、馬鹿なんじゃないかと思う。
 山頂で待ち合わせできたあの頃よりも、毎日ずっと忙しいだろうに、こんなことしてる時間なんかないだろうって。
 ここは感謝するよりも、寧ろ叱りつける場面だろう。

 そう、思うのに。

「……アスティ……」

「お前の気持ちを、教えてくれ。エディ。虚勢も虚飾もない、本当の気持ちを」

 久しぶりに感じたアストルディアの体温が。囁くアストルディアの声が、優しくて。
 気がつけば毛皮に顔を埋めて、咽び泣いていた。

「……っころしたく、なかった……」

「……ああ」

「大切だった。家族だった……愛、してた」

「……そうか」

「なのに……なんでだよ。クソジジイ。なんで、生きようとしてくれなかったんだよ……なんで、俺にあんたらを殺させるんだよっ……!」

 頭では、それしか手段はなかったのだとわかってる。
 どうやっても、過去の憎しみから逃れられないなら、せめて弟子である俺の手にかかって死にたかったんだろうって。
 
 でもさ……俺は、嫌だったんだよ。

 あんたらを殺したくなんか、なかったんだよ。

 戦争がない平和な世界で……ベッドの上で安らかに寿命を迎えるまで、一緒に生きて欲しかったんだ。

「……馬鹿野郎っ……」


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