俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

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君だけだから①

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 俺の悲しみに寄り添ってくれる人は、きっとアストルディア以外にもいるだろう。
 けれど、こんな風に……子どものだだの様なみっともない本心を引き出してくれる人は、きっとアストルディア以外にはいない。
 俺は、俺自身にすら取り繕うのが当たり前で、子どもじみた本心はいつも心の奥底に沈めて、なかったことにしてしまうから。
 アストルディアにじゃなければ、俺はこんな気持ちは晒せない。

 ひどいよ。ひどいよ。勝手だ。
 俺ばかりに、背負わせて。
 自分達は、何も後悔もなく、満足げに逝くんだから。

 セドリック。
 アダム。

 俺はずっとあんたらに、復讐よりも俺を選んで欲しかったんだよ。俺と生きる道を、選んで欲しかった。

 あんたらは、復讐よりも俺を選んではくれたけど……俺と生きる道は、選んでくれなかったな。


「……アスティ」

 口づけたのは、それが一番胸の喪失感を忘れるのに手っ取り早かったってのもあるけど、勝手なじじい共への意趣返しもあった。

 ーーお前らのせいだよ。じじい共。
 全部お前らのせいだ。
 お前らのせいで、お前らが育てた【国境の守護者】は、取り返しがつかないとこまで堕ちるんだ。

「獣人って、生まれるまでに半年くらいかかるんだったよな? ……じゃあ、もういいよな。俺を、孕ませてくれよ」

 生まれてくる子どもが、じじいのどちらかの生まれ変わりだなんては、思わない。
 だけどもし、そうだとしたら、滑稽だとすら思う。
 あのじじい共は生まれ変わってなお、死んでも見たくなかった、セネーバとリシス王国が和平した未来を見る羽目になる。
 寧ろ、自分自身が二国の架け橋になるんだって思ったら……笑えるだろう?

 お犬様モードのアストルディアのマズル先に口づけて、そのまま割った口に舌を差し込んでみた。
 狼の舌とのディープキスはいつもと感じは全然違うけど、少しも気持ち悪いとは思わない。  
 もういっそこのまま獣姦しちゃうか、なんて思った時、舌の感覚がいつもの調子に戻った。

「……自棄になってないか。エディ」  

「……何で人化するんだよ。あのままでも良かったのに」

「やっぱり自棄になっているだろ」

 ため息と共にアストルディアは、優しく目元に口づけた。

「……獣化状態では、しない」

「何で」

「獣化状態だと理性がなくなるから、お前のことを傷つけるかもしれない」

 傷つけてくれてもいいのに。寧ろ傷つけて欲しかった。

 ……そう思ってから、今の俺の誘いは自傷じみた行為でもあったんだな、と気づかされた。
 アストルディアが、俺のことを傷つけたがるはずがないと、わかっていたはずなのに。

「……ごめん」

「別に謝ることはない。獣化状態の俺も、俺自身であることは間違いないからな。寧ろお前が、人化じゃない姿の俺も受け入れてくれることが、俺は嬉しい」

「……獣面状態でも、今の俺は普通に受け入れられるよ。姿が違っても、全部アストルディアだってわかってるから」

「それは嬉しいが、今日は人化状態にしておこう。今の状態のエディなら、きっといつもの姿の方が心が落ち着くはずだ」   

 確かに毛皮がない人肌だからこその、安心感があるのも確かだ。
 ただでさえ、久しぶりの触れ合いだと思えば、慣れた姿の方がリラックスできるかもしれない。

「……抱いては、くれるか」

「お前が望むのなら、喜んで」

「子どもは……?」

「……一生の思い出になるだろうから、できればもっとちゃんとした場所が良かったんだがな。だが、時期もちょうどいい。エディが望んでくれるのなら、俺は構わないぞ。死体が転がってる戦場よりは、ずっとマシなはずだ」

「そんなとこで、子づくりする予定は一生ねぇわ」

 なんで突然そんなとんでも事例が出てきたんだ。怖過ぎるわ。
 苦笑いをしながら、アストルディアの頭に手を回し、そっと口づける。当たり前だけど人化状態の唇は、マズルの先よりずっと柔らかかった。

「……ちょうだい。アスティ。俺に赤ちゃん、産ませて」

 
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