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初恋が終わる時⑤
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そう言ってアストルディアは、俺を壊れ物でも抱えるように優しく抱き締めた。
「……求めるより、与えたいと思った。孤独を埋める為ではなく、強いのに脆いお前を支える為に、隣りで生きたいと思った。エディ、俺を変えたのはお前だ。お前に与えられる存在になりたいと思ったからこそ、今の俺がいるんだ。……どうか俺を、今の俺のままでいさせてくれ」
「?????」
予想外過ぎるアストルディアの言葉に、頭が混乱する。
確かに20も年下の主人公に縋る原作アストルディアと、今のスパダリアストルディアとは大きく差があるように思う。でもそれが俺が原因だなんて、とても思えない。
『お前は、俺のことを生まれてはじめてできた友だと言っていたが、俺だって同じだ。畏怖と打算と敵意の中で生きてきた俺に、お前だけがまっすぐで温かい好意を向けてくれた。お前のお犬様として過ごした時間が、当時の俺にとってどれだけ大切な時間だったか。……お前は何もわかっていない』
いつだったか、アストルディアはそんなことを言ってくれたけど。
実際俺はただ、お犬様のアストルディアに依存して、泣いて縋っていただけだ。
学生時代に出会った原作エドワードの方が、よほど対等な友人関係を築けてた気がするのに、何故こっちのアストルディアの方がずっと良い男に育ってる感じなんだ。
……あれか。俺があまりに頼りないからこそ、庇護欲が芽生えたとかそう言う奴か。ちょっとダメな所がある嫁のが、旦那が自尊心満たされる&庇護欲が芽生えていい男に育つ的なアレなのか。
だとしたら結果オーライかもだけど、何か複雑だ。
「アスティ……俺は」
何と言えばわからないまま、口を開きかけた時、指輪が振動した。
……やばい、クリスからの連絡だ。
慌ててアストルディアの下から這い出て、通信を繋げる。
『ちょっと、エディ! 大騒ぎなってるのに、何ですぐに連絡しないのさー!』
「……わ、悪かった」
結局、この時の会話はクリスにこってり絞られているうちに、有耶無耶になってしまった。
夕方に王城の大ホールで行なわれる、新年を祝う貴族対象の舞踏会。
昼とは違って王すらも欠席し、完全にクリスの主催と化した会場で、様々な感情を宿した無数の目に囲まれながら、主賓のアストルディアとワルツを踊る。
女性パートなんかもちろん踊ったのは今日が初めてだが、俺は身体能力SSの悪役チート持ち。足を曲げたままでも、滑るように間違えることなくステップを踏める。
一方意外と言うか当然と言うか、リードするアストルディアのダンスも、非常に優雅で気品がある。まあ、外交で別大陸の夜会に何度も参加してたようだし、運動神経が良いのは分かりきってるのだから当然と言えば当然なのかもしれない。ちょっとイメージなかったけど。
最初は作り笑いを浮かべながらも「獣人なんて穢らわしい」と言う目をしていたお嬢さん方の目が、今や完全にハートになってる。果たしてお嬢様方には、パートナーチェンジの時に、アストルディアにダンスを申し込む勇気はあるかな。さすがに他の人の目を考えたら、それは無理か。アストルディアからは絶対行かないだろうし。
ちなみに俺はパートナーチェンジ後は、まずはクリスと一曲。次にダンテと一曲だけ踊って、退散する打ち合わせをしている。アストルディアにダンスを申し込める猛者が出なかった場合、婚約者を放置して他の男とダンスばっかしてるのも体裁が悪いからね。かと言って一曲踊って退散するのも、礼儀がどうのと言われたりするから面倒だ。
アストルディアとのダンスを終え、さて次はクリス…と思った時、割り込んできた人物がいた。
「ーー美しい方。どうか俺と一曲踊ってくださいませんか」
かつて金と黒のツートンカラーで刈り上げていた髪は、全て金色に染められ。
優雅な仕草にも、丁寧な口調にも、不良だった頃の面影はない。
ちらりとクリスの方を伺うと、想定内だったのか楽しそうにニヤニヤしている。
「……ええ。喜んで。ブラッド」
ブラッドリー・パトリオット。かつての俺の友人で、クリス曰く俺のことが好きだったらしい同級生。
俺は女性のような軽やかな仕草で、手袋で隠した節くれ立った男の手を差し出した。
「……求めるより、与えたいと思った。孤独を埋める為ではなく、強いのに脆いお前を支える為に、隣りで生きたいと思った。エディ、俺を変えたのはお前だ。お前に与えられる存在になりたいと思ったからこそ、今の俺がいるんだ。……どうか俺を、今の俺のままでいさせてくれ」
「?????」
予想外過ぎるアストルディアの言葉に、頭が混乱する。
確かに20も年下の主人公に縋る原作アストルディアと、今のスパダリアストルディアとは大きく差があるように思う。でもそれが俺が原因だなんて、とても思えない。
『お前は、俺のことを生まれてはじめてできた友だと言っていたが、俺だって同じだ。畏怖と打算と敵意の中で生きてきた俺に、お前だけがまっすぐで温かい好意を向けてくれた。お前のお犬様として過ごした時間が、当時の俺にとってどれだけ大切な時間だったか。……お前は何もわかっていない』
いつだったか、アストルディアはそんなことを言ってくれたけど。
実際俺はただ、お犬様のアストルディアに依存して、泣いて縋っていただけだ。
学生時代に出会った原作エドワードの方が、よほど対等な友人関係を築けてた気がするのに、何故こっちのアストルディアの方がずっと良い男に育ってる感じなんだ。
……あれか。俺があまりに頼りないからこそ、庇護欲が芽生えたとかそう言う奴か。ちょっとダメな所がある嫁のが、旦那が自尊心満たされる&庇護欲が芽生えていい男に育つ的なアレなのか。
だとしたら結果オーライかもだけど、何か複雑だ。
「アスティ……俺は」
何と言えばわからないまま、口を開きかけた時、指輪が振動した。
……やばい、クリスからの連絡だ。
慌ててアストルディアの下から這い出て、通信を繋げる。
『ちょっと、エディ! 大騒ぎなってるのに、何ですぐに連絡しないのさー!』
「……わ、悪かった」
結局、この時の会話はクリスにこってり絞られているうちに、有耶無耶になってしまった。
夕方に王城の大ホールで行なわれる、新年を祝う貴族対象の舞踏会。
昼とは違って王すらも欠席し、完全にクリスの主催と化した会場で、様々な感情を宿した無数の目に囲まれながら、主賓のアストルディアとワルツを踊る。
女性パートなんかもちろん踊ったのは今日が初めてだが、俺は身体能力SSの悪役チート持ち。足を曲げたままでも、滑るように間違えることなくステップを踏める。
一方意外と言うか当然と言うか、リードするアストルディアのダンスも、非常に優雅で気品がある。まあ、外交で別大陸の夜会に何度も参加してたようだし、運動神経が良いのは分かりきってるのだから当然と言えば当然なのかもしれない。ちょっとイメージなかったけど。
最初は作り笑いを浮かべながらも「獣人なんて穢らわしい」と言う目をしていたお嬢さん方の目が、今や完全にハートになってる。果たしてお嬢様方には、パートナーチェンジの時に、アストルディアにダンスを申し込む勇気はあるかな。さすがに他の人の目を考えたら、それは無理か。アストルディアからは絶対行かないだろうし。
ちなみに俺はパートナーチェンジ後は、まずはクリスと一曲。次にダンテと一曲だけ踊って、退散する打ち合わせをしている。アストルディアにダンスを申し込める猛者が出なかった場合、婚約者を放置して他の男とダンスばっかしてるのも体裁が悪いからね。かと言って一曲踊って退散するのも、礼儀がどうのと言われたりするから面倒だ。
アストルディアとのダンスを終え、さて次はクリス…と思った時、割り込んできた人物がいた。
「ーー美しい方。どうか俺と一曲踊ってくださいませんか」
かつて金と黒のツートンカラーで刈り上げていた髪は、全て金色に染められ。
優雅な仕草にも、丁寧な口調にも、不良だった頃の面影はない。
ちらりとクリスの方を伺うと、想定内だったのか楽しそうにニヤニヤしている。
「……ええ。喜んで。ブラッド」
ブラッドリー・パトリオット。かつての俺の友人で、クリス曰く俺のことが好きだったらしい同級生。
俺は女性のような軽やかな仕草で、手袋で隠した節くれ立った男の手を差し出した。
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