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救いの手④
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ライラスさんの懇願混じりの言葉に、俺は何も言い返せなかった。
もしタンクが、俺と同じく辺境伯領を守ることを第一に考えている同志や部下だったら。俺は、俺の為に死んでくれと言えたかもしれない。
けれどタンクは辺境伯領と無関係な、獣人の友達で。そんな勝手なことを、言えるはずもなかった。
そもそも、タンクに時間を稼いでもらってその間に逃げようにも、タンクの背中から降りたら俺の足は首輪の効果で一歩も動けない。結局結果が同じならば、少しでもタンクが負う傷は、少ない方がいい。
ーーごめんな。タンク。
俺の為に大切な人達を裏切ってまで、救出に来てくれたのに。
結局お前に本来なら負う必要がない罪を、負わせただけだったみたいだ。
「……わかっ」
「ーーてかさー。俺、思ったんだけど、これサイラス先輩が見逃してくれればいいだけじゃない?」
「は?」
「へ?」
……ちょ、待て。
名案!みたいな感じに、何言い出してんだ。タンク。
あんまり過ぎる提案に、ライラスさんも、口開けて固まってんじゃん。
「……アホだアホだと思っていたが、さすがにそれはねぇだろうが。アホカバ。何で俺が、お前らを見逃してやんなきゃなんねぇだよ」
「だって先輩、近衛じゃないし、女王派でもないじゃん。だったら、アストルディア王子が戻って来た時の保険に、ここで俺達に恩売って置いた方が良くない?」
「それは……」
「みんな、最悪アストルディア王子が戻って来ても、エド様が五体満足で生きてれば何とかなるって、軽く見てるけどさー。アストルディア王子の執着、甘く見すぎだと思うんだよね。サイラス先輩も見たでしょう? エド様と並んで歩いてる時のアストルディア王子の、人が変わったみたいな雰囲気。アストルディア王子、エド様のことめっちゃ好きじゃん。それなのに自分だけじゃなくエド様まで冤罪着せられて、故郷滅ぼされて、さらにヴィダルス様からエッチなことまでされたとなったら、アストルディア王子が狼獣人でなかったとしても、普通にめちゃくちゃぶちキレると思うんだよね。そん時女王陛下の命令に従っただけとはいえ、黙ってその仕打ちを見てた俺らに、アストルディア王子の怒りが向けられないと思う?」
「……アホの癖に、核心付くようなこと言いやがって」
……? ニルカグルに挨拶する為にアストルディアと歩いてた時、あいつそんなに雰囲気違ってたか? いつもと同じだった気がしたんだけど。
「別に俺はサイラス先輩に、共犯者になってくれとは言わないよ。エド様を逃がした罪を問われるのは、俺だけでいい。サイラス先輩は、ただここで俺達と会わなかったか、もしくは逃げられたふりをすればいいんだって。それでアストルディア王子に恩が売れるなら、安いもんでしょ」
「だが、嘘を言った所で、臭いでバレるぞ」
「エド様の臭いについて一切言及しなかった人達だよ? 嘘をついているとわかった所で、言えなくない?」
「……タンク。お前実は、頭いいだろう。ずっとアホなふりをしてたのか?」
「え、俺、頭いいの!? 初めて言われた! 後でポンダーとアンゼに自慢しなきゃ!」
「……演技じゃなくて、素でそれとか、敵に回すと厄介過ぎだろ……あー、くっそ。どうすっかなー」
……お、おお。今度は角で地面をガリガリしだした。
その角、地面に届くもんなのな。野生のサイはどうか知らんが、意外に柔軟。
しかし、思いの他、タンクの言葉が効いてるぞ。
「……俺は、この先の門の警護を任された。任務は絶対だ。ここから先は通さねぇ」
「サイラス先輩~……」
「最後まで話を聞け。タンク。ここから先は通さねぇが、それ以外の場所を通る分は、何も言わねぇと言ってんだよ」
そう言ってライラスさんは、ニルカグルの離宮があった方向に角を向けた。
「……ニルカグル様の離宮裏のワタヌミスの大木の洞の中に、魔具で作成された緊急用の脱出経路がある。女王陛下の命による暗殺を恐れて、ニルカグル様が秘密裏に作らせたものだから、女王派の兵は誰も知らないはずだ。俺をはじめとした、一部のニルカグル様の元護衛以外はな。そこを使え」
「っサイラス先輩! 大好き!」
「うっせえ! くそっ、俺も大好きだっつーの。アホカバタンク。俺に泥被らせたからには、ぜってぇ生きて戻って来いよ。 死んだら許さねぇからなっ!」
もしタンクが、俺と同じく辺境伯領を守ることを第一に考えている同志や部下だったら。俺は、俺の為に死んでくれと言えたかもしれない。
けれどタンクは辺境伯領と無関係な、獣人の友達で。そんな勝手なことを、言えるはずもなかった。
そもそも、タンクに時間を稼いでもらってその間に逃げようにも、タンクの背中から降りたら俺の足は首輪の効果で一歩も動けない。結局結果が同じならば、少しでもタンクが負う傷は、少ない方がいい。
ーーごめんな。タンク。
俺の為に大切な人達を裏切ってまで、救出に来てくれたのに。
結局お前に本来なら負う必要がない罪を、負わせただけだったみたいだ。
「……わかっ」
「ーーてかさー。俺、思ったんだけど、これサイラス先輩が見逃してくれればいいだけじゃない?」
「は?」
「へ?」
……ちょ、待て。
名案!みたいな感じに、何言い出してんだ。タンク。
あんまり過ぎる提案に、ライラスさんも、口開けて固まってんじゃん。
「……アホだアホだと思っていたが、さすがにそれはねぇだろうが。アホカバ。何で俺が、お前らを見逃してやんなきゃなんねぇだよ」
「だって先輩、近衛じゃないし、女王派でもないじゃん。だったら、アストルディア王子が戻って来た時の保険に、ここで俺達に恩売って置いた方が良くない?」
「それは……」
「みんな、最悪アストルディア王子が戻って来ても、エド様が五体満足で生きてれば何とかなるって、軽く見てるけどさー。アストルディア王子の執着、甘く見すぎだと思うんだよね。サイラス先輩も見たでしょう? エド様と並んで歩いてる時のアストルディア王子の、人が変わったみたいな雰囲気。アストルディア王子、エド様のことめっちゃ好きじゃん。それなのに自分だけじゃなくエド様まで冤罪着せられて、故郷滅ぼされて、さらにヴィダルス様からエッチなことまでされたとなったら、アストルディア王子が狼獣人でなかったとしても、普通にめちゃくちゃぶちキレると思うんだよね。そん時女王陛下の命令に従っただけとはいえ、黙ってその仕打ちを見てた俺らに、アストルディア王子の怒りが向けられないと思う?」
「……アホの癖に、核心付くようなこと言いやがって」
……? ニルカグルに挨拶する為にアストルディアと歩いてた時、あいつそんなに雰囲気違ってたか? いつもと同じだった気がしたんだけど。
「別に俺はサイラス先輩に、共犯者になってくれとは言わないよ。エド様を逃がした罪を問われるのは、俺だけでいい。サイラス先輩は、ただここで俺達と会わなかったか、もしくは逃げられたふりをすればいいんだって。それでアストルディア王子に恩が売れるなら、安いもんでしょ」
「だが、嘘を言った所で、臭いでバレるぞ」
「エド様の臭いについて一切言及しなかった人達だよ? 嘘をついているとわかった所で、言えなくない?」
「……タンク。お前実は、頭いいだろう。ずっとアホなふりをしてたのか?」
「え、俺、頭いいの!? 初めて言われた! 後でポンダーとアンゼに自慢しなきゃ!」
「……演技じゃなくて、素でそれとか、敵に回すと厄介過ぎだろ……あー、くっそ。どうすっかなー」
……お、おお。今度は角で地面をガリガリしだした。
その角、地面に届くもんなのな。野生のサイはどうか知らんが、意外に柔軟。
しかし、思いの他、タンクの言葉が効いてるぞ。
「……俺は、この先の門の警護を任された。任務は絶対だ。ここから先は通さねぇ」
「サイラス先輩~……」
「最後まで話を聞け。タンク。ここから先は通さねぇが、それ以外の場所を通る分は、何も言わねぇと言ってんだよ」
そう言ってライラスさんは、ニルカグルの離宮があった方向に角を向けた。
「……ニルカグル様の離宮裏のワタヌミスの大木の洞の中に、魔具で作成された緊急用の脱出経路がある。女王陛下の命による暗殺を恐れて、ニルカグル様が秘密裏に作らせたものだから、女王派の兵は誰も知らないはずだ。俺をはじめとした、一部のニルカグル様の元護衛以外はな。そこを使え」
「っサイラス先輩! 大好き!」
「うっせえ! くそっ、俺も大好きだっつーの。アホカバタンク。俺に泥被らせたからには、ぜってぇ生きて戻って来いよ。 死んだら許さねぇからなっ!」
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