俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

文字の大きさ
255 / 311

渇望の墓標③

しおりを挟む
 けれど女王が刺客を差し向けることがないまま、月日は流れ。やがて老いて寝たきりになったニルカグルは、ベッドから離れることができなくなり、ここを訪れることもできなくなった。
 そして、ニルカグルは誰にもこの場所を打ち明けることがないまま亡くなって、アルデフィアの墓の場所を知るものはいなくなった。ニルカグルの、アルデフィアの死を永遠に自分だけのものにするという願いは、もう少しで叶う所だったんだ。……俺達がここに訪れさえしなければ。

 ニルカグルが亡くなって狂った女王のことを考えれば、ひどい話だと思う一方で、狼獣人でもないのに死ぬ瞬間までアルデフィアに囚われ続けたニルカグルの気持ちを思うと、切ない気持ちにもなる。
 家族も国も全てを捨てて、裏切り者と謗られながらも、アルデフィアを救いあげたのは、エレナ姫だ。けれど同じ奴隷だったニルカグルしか知らない、アルデフィアと助けあって過酷な境遇を乗り越えた過去も、確かにあったのだろう。
 どちらの境遇が、アルデフィアに相応しいかなんて、俺にはわからない。ただアルデフィアが愛して番に選んだのが、エレナ姫だったというだけだ。

「……行こう。タンク。ここはあまり、俺達が長居してはいけない気がする」

「でも、どこへ行くの? 出口はある?」

「大丈夫……薄っすらだけど魔道具に込められた、魔力の気配を感じる。恐らくこれは、認識阻害の魔道具だ」

 魔力の気配を辿って行くと、存在に気づくまでは肉眼では捉えられなかった、階段を発見した。
 360°取り囲む円柱状の垂直な崖に沿うように作られた螺旋階段の根元には、古い使い切りタイプの認識阻害効果がある魔道具が埋め込まれおり、魔石に込められた魔力残量がかなり少なくなっていた。だからこそ、俺は魔力の気配で、階段に気づくことができたのだろう。
 タンクと俺の体重で軋むそれを、こわごわ登って空を目指す。これもニルカグルが一人で設置したのなら、耐久性は期待できない為、非常に怖い。身が軽いアンゼなら、この絶壁も軽々と登れたかもだが、タンクはきつそうだ。……でも自殺が禁じられてることを考えれば、極限状態なら俺も動けるようになるのか? 可能性はあるけど、そんな悠長な検証ができる状況じゃないので、階段くんには頑張って欲しい。
 ビル五階ほどの高さまで上り、ようやく一番上に到着した。穴の外はなだらかな坂になっていて、俺とタンクは、高い岩山の上の、円柱上にくり抜かれた穴の中にいたことが判明した。
 入口にも認識阻害の魔道具が埋められていたが、これまた魔力残量が少なくなっていたので、いくらニルカグルが永遠を願ったところで、そのうちアルデフィアの墓は誰かしらに発見されていたかもしれない。

「ようし、到着ー! おっととととっ」

 タンクが階段を降りた瞬間、一際嫌な音を立てた階段の一部が壊れ、そのまま下に崩れ落ちて行った。ちょうど、先程までタンクが立っていた所だ。まさに、間一髪。
 結構な高さなので、正確な下の状況はわからないが、落ちた階段はまっすぐに墓の上に落ちたようで、石が割れて崩れるような嫌な音がした。
 それを見下ろして、タンクと顔を見合わせる。

「……やっぱり、呪いってあるのかな」

 ニルカグルの執念が、所在がバレた墓を道連れにしたようにも思えなくもないな。そう考えたら、間一髪で俺達が助かったのも、「アルデフィアの傍で、お前らが眠ることは許さん」ということかもしれん。

「……それより、ここはどこだ」

 深く考えたら駄目な気がしたので、手だけ合わせて、話を切り変える。
 回りには同じような岩山と……向こうに川が見えるけど、情報はそれくらいか? あ、岩山に隠れてわかりにくいけど、あれは湖か? 見たことあるような気もするけど、こんな場所いくらでもありそうだし、そもそも俺、セネーバの地理についてあまり詳しくないんだよなー……。

「……うん? あの川。それに、あの湖。嘘でしょ。そんなことって、あんの?」

 一方でタンクは、驚いたように目を見開いた。

「エド様。俺達もしかしたら、すごくラッキーかも」

「ここがどこか、わかるのか?」

「エド様も、一度ここの麓来てるよ」

 ……と、言うことは。

「ここ、ポンダーの村の近くにある岩山だ」

しおりを挟む
感想 161

あなたにおすすめの小説

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

処理中です...