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カーディンクルの野望②
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思いがけない言葉に唖然とする俺に、カーディンクルは目を細めた。
「獅子獣人は本能的に自身のプライドを第一に考えるものだが、残念ながら私は自分を愛してくれる相手しかプライドのメンバーと認識できなくてね。セネーバと言う国そのものを、自分のプライドとみなすことはできなかったんだ。アルデフィアのプライドの一員になることを望みながらも叶わなかった父は、本来プライドにかけるべき情熱を国の運営に注ぐことができたようだが、私はそんな情熱があるなら、私を愛してくれる妻達や領民に全て捧げたい。だからこそ、私は王候補として無能なんだ。アストルディアならば、狼獣人の性で何より番を第一に考えたとしても、片手間で問題なく国を運営できるだろうがね。それだけの力と才が、あれにはある」
「ですが、今アストルディアは……」
「残念ながら、誰も行方を知らない状況ではあるが。あれは殺しても死なない男だから、必ず戻ってくるさ。その時に、番である君が健やかな状態じゃなければ困るんだ。番を失って狂った母を廃し、王になるべき男が、同じように狂ってたんじゃ、今度こそ私にお鉢が回ってくるじゃないか! 他の王候補にしても、君に何かあればヴィダルスも同様に狂うだろうし、あれの兄弟は私以上に無能だ。ヴィダルスの両親は互いのことが第一で、とても国を運営できる器じゃない。私と妻達の気楽で明るい未来の為にも、君には無事にいてもらわないと」
あっけらかんと語られる、自分都合の考えに口元を引きつらせながらも、この言葉が真実か見極めるべくカーディンクルと二人の妻達の様子を観察する。
首輪を外してくれたことは素直にありがたいが、全てが罠の可能性は捨てきれない。カーディンクルならば、追い詰められた俺を騙すことなんて簡単のはずだ。
「……カーディンクル殿下は、戦争を起こして人間を繁殖用の奴隷にしたいとは思わないのですか?」
「全く思わないな! 私は自分を愛してくれる相手にしか、興味がない。それなのに戦争に勝って人間を繁殖用の奴隷にするような社会になれば、王族として優秀な子を残せと、無理やり人間の奴隷を充てがわれるのは目に見えている。私は私を愛してくれる妻達には平等に与えられた以上の愛を注いでいるが、不本意に繁殖用奴隷になった者に同じ愛を注げるとは思えないし、はっきり言ってそんな相手に勃つとも思えない。妻達もまた、そんな人間が私のプライドに入り子を孕むことを認めないだろう」
「当たり前です! 本当はカーディンクル殿下を独占したいくらいですが、他の妻達も私と同じくらい殿下を愛しているのを知っているからこそ譲歩してるのです! たとえ魔力相性が良くても、殿下を愛してもない相手が殿下の御子を孕むなぞ、許せるはずがありません!」
「悪ぃが殿下、俺はそんな奴がプライドに入って来たら噛み殺すぜ。新しく誰かをプライドに入れる時は、妻達全員の了承を得てからだと約束したしなぁ。他のメンバーの子なら、誰が産んでも全員の子として扱うと皆で取り決めてるが、さすがにそんな奴の子は愛せねぇよ」
……うーん。言っていることは一貫しているし、嘘をついているようにも見えないけど……本当に信じていいのだろうか。
小さく唸る俺に、カーディンクルが肩を竦めた。
「疑い深いのは結構だが、今はそれより村に戻った方がいいんじゃないか? 随分と騒がしいようだが」
「っ」
以前建国祭でヴィダルス達の会話を盗み聞きした時の要領で、村の方の音を探ると、村人達と王宮兵による乱闘の様子が耳に入ってきた。しかも、どうやら村人達が劣勢のようだ。
「っタンク! 転移魔法を使うから、こっちに来てくれ! 今すぐポンダーの所戻るぞ」
「っでも」
「大丈夫。……首輪さえ外してもらえれば、俺は無敵だ」
もっとも、アストルディアには絶対勝てない呪いがかけられてるし、あくまで人類最強のポテンシャルがあるだけで、対獣人戦でも無敵だなんて保証はないのだけど。
それでも、この状況で戻らない選択肢はあり得ない。ポンダーや村の人達を巻き込んだのは、俺なのだから。
「今、私達がボンドロネリと顔を合わせるのは色々不都合だから、私達は歩いて後から向かうよ。こちらのことは気にせず、二人で転移するといい」
「獅子獣人は本能的に自身のプライドを第一に考えるものだが、残念ながら私は自分を愛してくれる相手しかプライドのメンバーと認識できなくてね。セネーバと言う国そのものを、自分のプライドとみなすことはできなかったんだ。アルデフィアのプライドの一員になることを望みながらも叶わなかった父は、本来プライドにかけるべき情熱を国の運営に注ぐことができたようだが、私はそんな情熱があるなら、私を愛してくれる妻達や領民に全て捧げたい。だからこそ、私は王候補として無能なんだ。アストルディアならば、狼獣人の性で何より番を第一に考えたとしても、片手間で問題なく国を運営できるだろうがね。それだけの力と才が、あれにはある」
「ですが、今アストルディアは……」
「残念ながら、誰も行方を知らない状況ではあるが。あれは殺しても死なない男だから、必ず戻ってくるさ。その時に、番である君が健やかな状態じゃなければ困るんだ。番を失って狂った母を廃し、王になるべき男が、同じように狂ってたんじゃ、今度こそ私にお鉢が回ってくるじゃないか! 他の王候補にしても、君に何かあればヴィダルスも同様に狂うだろうし、あれの兄弟は私以上に無能だ。ヴィダルスの両親は互いのことが第一で、とても国を運営できる器じゃない。私と妻達の気楽で明るい未来の為にも、君には無事にいてもらわないと」
あっけらかんと語られる、自分都合の考えに口元を引きつらせながらも、この言葉が真実か見極めるべくカーディンクルと二人の妻達の様子を観察する。
首輪を外してくれたことは素直にありがたいが、全てが罠の可能性は捨てきれない。カーディンクルならば、追い詰められた俺を騙すことなんて簡単のはずだ。
「……カーディンクル殿下は、戦争を起こして人間を繁殖用の奴隷にしたいとは思わないのですか?」
「全く思わないな! 私は自分を愛してくれる相手にしか、興味がない。それなのに戦争に勝って人間を繁殖用の奴隷にするような社会になれば、王族として優秀な子を残せと、無理やり人間の奴隷を充てがわれるのは目に見えている。私は私を愛してくれる妻達には平等に与えられた以上の愛を注いでいるが、不本意に繁殖用奴隷になった者に同じ愛を注げるとは思えないし、はっきり言ってそんな相手に勃つとも思えない。妻達もまた、そんな人間が私のプライドに入り子を孕むことを認めないだろう」
「当たり前です! 本当はカーディンクル殿下を独占したいくらいですが、他の妻達も私と同じくらい殿下を愛しているのを知っているからこそ譲歩してるのです! たとえ魔力相性が良くても、殿下を愛してもない相手が殿下の御子を孕むなぞ、許せるはずがありません!」
「悪ぃが殿下、俺はそんな奴がプライドに入って来たら噛み殺すぜ。新しく誰かをプライドに入れる時は、妻達全員の了承を得てからだと約束したしなぁ。他のメンバーの子なら、誰が産んでも全員の子として扱うと皆で取り決めてるが、さすがにそんな奴の子は愛せねぇよ」
……うーん。言っていることは一貫しているし、嘘をついているようにも見えないけど……本当に信じていいのだろうか。
小さく唸る俺に、カーディンクルが肩を竦めた。
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「っ」
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