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いざ、決戦の地へ①
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……ここで殊勝な態度取るとか、ずるいよな。
俺だけならともかく、レオもいるこの場では、俺はあまり寛容にはなれないのに。
レオが親父を憎んでいたとしたら、それは虐待的教育の被害者であるレオの、当然の権利だ。「親父もかわいそうな過去があるんだから、許してやろう」なんて、態度で間接的にも伝えたくはない。
俺が親父を許すことと、その姿をレオに見せてレオにも許しを強いることは、また別の話なんだよ。
「……俺はずっと、辺境伯領は近い将来滅ぶものだと思っていた。どれほど足掻いても、どうせ未来は変わらないのなら、いざその時までは領民達には自分達を守ってくれる頼もしい英雄の夢を見せて、お前達が英雄らしく華々しく散れればそれでいい、と。英雄として相応しい死を潔く受け入れられるものに育つよう、この地を守って死ねと言い聞かせて育てた」
「……父上」
「けれど……お前達は諦めないのだな。たとえやむを得ずこの地が滅んだとしても、必ずいつか再興すると、未来を信じ続けることができるのだな。……お前達の強さが、今の俺にはとても眩しく見える」
そう言って親父は、祈るように両手を組んだ。
「目の前で兄を失ったその日から、俺は女神に祈ることをやめたが……数十年ぶりに俺は、息子達と辺境伯領の未来の為に祈ることにしよう。エドワード。お前が全てを『なかったこと』にして戻ってくる未来を。生まれてくるお前の子を、変わらぬこの地で、この手に抱ける未来が無事にやって来ることを。万が一の為の備えを進めながら、一人祈り続けよう。だからどうか、無事に戻って来てくれ。今更こんなことを言っても白白しいだけだろうが……俺は自分が思っていた以上に、お前達を愛していたらしい」
思わず涙が溢れそうになるのを、寸でに堪える。
「……父上までそんなことを言ったら、まるで私が本当に危険な場所に赴くみたいじゃないですか。結界を強化したら、すぐ私は安全な場所に避難しますよ。だから心配なさらないでください」
「……ああ、そうだな。そうだった」
まあ、こんな三文芝居をしたところで、もはや聡い弟を誤魔化しようがない。
レオは決意をこめた眼差しで、俺を見上げた。
「……兄上。やっぱり僕も一緒に」
「要らない。足手纏いだ」
非常に胸が痛んだが、こうなったからにはもう冷たく突き放すしかない。
「自分が戦闘能力がないことは、自覚しているだろう。お前に着いて来られたら、本来は危険がないはずの行為でも命取りになる。お前がなんと言おうと、俺はお前を最優先で守らずにはいられないからな」
「っなら、せめて、他の兵を!」
「幼少期の俺にさえ、怯え恐れていた奴らだぞ? お前よりは多少マシかもしれないが、足手纏いには変わりない。俺は集団を率いての戦闘に慣れてないしな」
結局の所、俺は一人が一番強い。……いや、アストルディア並みの圧倒的な力の持ち主で、こっちが意識しなくても連携してくれる相手がいれば当然その方が強くはなるだろうが、残念ながらそんな人材は辺境伯領にはいない。今は亡きWじじいの教えにどっぷり染まってる奴にいたっては、背中から刺されかねないしな。
とは言っても、俺はけして自身の並外れた強さを誇っているわけではない。寧ろ逆だ。クリスから駒作りの下手さを指摘されて、二年弱。結局俺は、背中を預けて戦う仲間を作れなかった。部下を育成することも、率いて戦うこともできないのは、指導者として致命的な弱点だ。非常に情けない。
情けなくはあるけども、がんばって足掻いた結果タンクのように命懸けで助けに来てくれる友人は作れたので、まあ、よしとしよう。今、反省してもどうしようもないし。
たとえ俺は一人でも、ヴィダルスにもその部下達にも勝てる自信はある。アイテムボックスの中には万が一の自体に備えて私財で買い漁った、最高級のポーションやマジックポーションをぎちぎちに詰め込んであるし。あんまり母体にはよろしくないらしいから、できれば乱用はしたくないが、それを気にしてやられたら元も子もないので、今回ばかりはがっつり活用させてもらう予定だ。腹の子よ、明るい未来の為に、今日だけは耐えてくれ。
獣人は自己治癒能力が高い分、ポーション技術が人間に比べて発達してないので、これだけで既にめちゃくちゃアドバンテージになる。
本当に一人でも、「何ごともなかった」ように収められる自信はあるんだ。……強制力に負けたアストルディアが、敵に回らない限り。
俺だけならともかく、レオもいるこの場では、俺はあまり寛容にはなれないのに。
レオが親父を憎んでいたとしたら、それは虐待的教育の被害者であるレオの、当然の権利だ。「親父もかわいそうな過去があるんだから、許してやろう」なんて、態度で間接的にも伝えたくはない。
俺が親父を許すことと、その姿をレオに見せてレオにも許しを強いることは、また別の話なんだよ。
「……俺はずっと、辺境伯領は近い将来滅ぶものだと思っていた。どれほど足掻いても、どうせ未来は変わらないのなら、いざその時までは領民達には自分達を守ってくれる頼もしい英雄の夢を見せて、お前達が英雄らしく華々しく散れればそれでいい、と。英雄として相応しい死を潔く受け入れられるものに育つよう、この地を守って死ねと言い聞かせて育てた」
「……父上」
「けれど……お前達は諦めないのだな。たとえやむを得ずこの地が滅んだとしても、必ずいつか再興すると、未来を信じ続けることができるのだな。……お前達の強さが、今の俺にはとても眩しく見える」
そう言って親父は、祈るように両手を組んだ。
「目の前で兄を失ったその日から、俺は女神に祈ることをやめたが……数十年ぶりに俺は、息子達と辺境伯領の未来の為に祈ることにしよう。エドワード。お前が全てを『なかったこと』にして戻ってくる未来を。生まれてくるお前の子を、変わらぬこの地で、この手に抱ける未来が無事にやって来ることを。万が一の為の備えを進めながら、一人祈り続けよう。だからどうか、無事に戻って来てくれ。今更こんなことを言っても白白しいだけだろうが……俺は自分が思っていた以上に、お前達を愛していたらしい」
思わず涙が溢れそうになるのを、寸でに堪える。
「……父上までそんなことを言ったら、まるで私が本当に危険な場所に赴くみたいじゃないですか。結界を強化したら、すぐ私は安全な場所に避難しますよ。だから心配なさらないでください」
「……ああ、そうだな。そうだった」
まあ、こんな三文芝居をしたところで、もはや聡い弟を誤魔化しようがない。
レオは決意をこめた眼差しで、俺を見上げた。
「……兄上。やっぱり僕も一緒に」
「要らない。足手纏いだ」
非常に胸が痛んだが、こうなったからにはもう冷たく突き放すしかない。
「自分が戦闘能力がないことは、自覚しているだろう。お前に着いて来られたら、本来は危険がないはずの行為でも命取りになる。お前がなんと言おうと、俺はお前を最優先で守らずにはいられないからな」
「っなら、せめて、他の兵を!」
「幼少期の俺にさえ、怯え恐れていた奴らだぞ? お前よりは多少マシかもしれないが、足手纏いには変わりない。俺は集団を率いての戦闘に慣れてないしな」
結局の所、俺は一人が一番強い。……いや、アストルディア並みの圧倒的な力の持ち主で、こっちが意識しなくても連携してくれる相手がいれば当然その方が強くはなるだろうが、残念ながらそんな人材は辺境伯領にはいない。今は亡きWじじいの教えにどっぷり染まってる奴にいたっては、背中から刺されかねないしな。
とは言っても、俺はけして自身の並外れた強さを誇っているわけではない。寧ろ逆だ。クリスから駒作りの下手さを指摘されて、二年弱。結局俺は、背中を預けて戦う仲間を作れなかった。部下を育成することも、率いて戦うこともできないのは、指導者として致命的な弱点だ。非常に情けない。
情けなくはあるけども、がんばって足掻いた結果タンクのように命懸けで助けに来てくれる友人は作れたので、まあ、よしとしよう。今、反省してもどうしようもないし。
たとえ俺は一人でも、ヴィダルスにもその部下達にも勝てる自信はある。アイテムボックスの中には万が一の自体に備えて私財で買い漁った、最高級のポーションやマジックポーションをぎちぎちに詰め込んであるし。あんまり母体にはよろしくないらしいから、できれば乱用はしたくないが、それを気にしてやられたら元も子もないので、今回ばかりはがっつり活用させてもらう予定だ。腹の子よ、明るい未来の為に、今日だけは耐えてくれ。
獣人は自己治癒能力が高い分、ポーション技術が人間に比べて発達してないので、これだけで既にめちゃくちゃアドバンテージになる。
本当に一人でも、「何ごともなかった」ように収められる自信はあるんだ。……強制力に負けたアストルディアが、敵に回らない限り。
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