俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ

文字の大きさ
278 / 311

知られざる裏設定

しおりを挟む
 もし、これが少年漫画かなんかだったら。「……仲間を」なんて、軽蔑の眼差しで糾弾する場面だろうが、俺はただ何も言わず冷めた目でヴィダルスを見据えた。
 もしアストルディアが来るタイミングが遅ければ、俺が殺していただろう4人だ。ヴィダルスが殺したとしても、俺に非難する権利はない。
 ただ、改めてヴィダルスのことをクソ野郎だと思っただけだ。

「……俺が不在の間に、随分と好き勝手やってくれたようだな。ヴィダルス」

 俺を背中で庇うように前に進み出たアストルディアに、ヴィダルスは憎悪の眼差しを向けた。

「ハッ……好き勝手やったのは、お前だろう。アストルディア。よくも本来あるべき運命に逆らって、未来を変えやがったな。本当なら、エドワードは俺のもんだったのによお」

「……お前も、あの夢を見たのか」

「何が『運命を変えてください』、だ。あのクソ女神のせいで、全てがおかしくなっちまった。俺は、あの未来が良かったのに。エドワードがお前のもんになるくらいなら、一緒に地獄に落ちたかったのに」

「そのせいで、エディが不幸にもなってもか」

「善人面してんじゃねぇよっ、アストルディア! エドワードを救いに来た正義のヒーローぶってるけどよお、お前だって本質的には俺と変わらねぇだろぉが! ……いや、お前の方が俺より、よっぽどゲスだな。少なくとも俺は、まだエドワードを抱いてねぇからなァ」

 ……ちょっと待て。何の話をしてるんだ。

「本当ならば、エドワードの故郷を滅ぼすのは、お前のはずだった! 戦争を止められなかったお前が、エドワードを打ち倒して故郷を滅ぼして。死を願うエドワードに【隷属の首輪】をつけて、戦場で犯して孕ませるはずだったんだ! 愛してるから死なせたくないだなんて、ふざけたことを口にしながらなァ。そして、死を偽装して、エドワードを救い出すのが、本来は俺の役割だったはずだ。それなのに、人に悪役押し付けて、エドワードを奪ってんじゃねぇよっ!」

「っ」

 ヴィダルスの口から語られる、知られざる原作の裏設定。
 
 俺からすると完全に寝耳に水な衝撃の事実だったが、まるでパズルのピースがぴたっと嵌まったように、納得する自分もいた。

 ずっと疑問だったんだ。故郷を滅ぼされ、愛する弟を間接的に死に追いやられたにしても……不本意な戦争に巻き込まれただけの、かつての親友を、あれほど憎めるものかと。
 その背景には、俺の知らなかった、別の裏切りがあったのだ。

「……俺が、お前を悪役にしたわけじゃない。お前が自分で望んでそうなったんだ。あの夢の俺はあくまであり得た可能性の俺であって、今の俺ではない」

「お前が俺からエドワードを取らなきゃ、俺はこんなことしてねぇんだよっ!」

「……そうだな。その可能性は否定しない。もし俺がお前と同じ立場ならば、俺はお前以上に愚かな男に成り下がっていただろう。俺達は狼獣人で、認めたくはないが、本質はよく似ている」

 まっすぐに金色の眼差しでヴィダルスを睨めつけながら、アストルディアが淡々と語る。

「結局の所、今の俺があるのは、幼少期に女神の夢に従ってネーバ山に赴き、幼いエディと出会えたからだ。その当時は運命のことなど知るよしもなかったが、あの出会いをきっかけに俺は変われた。ただ無気力に両親に従うのではなく、いつかエディを支え守れる男になろうと。その一心で努力してきたからこそ、俺は愚か者にならずに済んだ」

「だったら、俺でも良かっただろうが! 俺が先にエドワードに出会う未来だってあったはずなのに!」  

「……お前は当時、まだネーバ山に登頂していなかった。俺には女神の考えはわからないが、恐らくはあの時あの場所で出会うことこそが、運命を変えるには重要だったんだろう」

「っふざけんな! そんな、理由で……そんなどうしようもない理由で、俺からエドワードを奪ってんじゃねぇよ! クソ女神がっ」
しおりを挟む
感想 161

あなたにおすすめの小説

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

処理中です...