逃亡悪役令嬢はスキル【鑑定】で強面剣士を支えたい ーただし見た目はリスザルだー

空飛ぶひよこ

文字の大きさ
6 / 49
第一章

譲れないプライド

しおりを挟む
甘えるように、ゼドの太い首に顔を押し付けながら、お猿のロクセラーナはすんと鼻を鳴らす。
(屋敷を脱出して、人目を避けて、国境の森に入ったまでは良かったですわ……敵だらけの森生活が、本当に大変で)
 最初は単に魔物の襲来に怯えるだけだったが、やがてその警戒対象には人間も含まれるようになった。
 どうやら今のロクセラーナの姿は水リスザルという希少な魔物で、売れば生死関係なく高値がつくらしい。
(性格を【鑑定】しても「やや強欲」とか「見栄っ張り」とか、そういう情報は出るのに……「お猿を売るかどうか」まではわかりませんでしたわ……!)
(スキルがあるから、食べられる植物には困りませんでしたが……もうずっと果物しか食べてなくて……寝る時も外敵に震えながら、ごつごつの木の洞に縮こまって……)
 自分で言うのもなんだが、ロクセラーナは衣食住には一切不自由してこなかった生粋の貴族令嬢だ。いや、王族に次いで高貴な、特別な令嬢だ。森でのサバイバル生活は、あまりに過酷だった。
(この姿のどこが最適なのかと女神ラケシアを呪ったところで、変化は解けませんでしたし)
 だからこそ、ゼドを森で見かけた時は、とうとう女神ラケシアが哀れな自分の懇願を聞き届けてくれたのかと思ったのだ。
 一級冒険者という、並みの相手を蹴散らせる実力の持ち主ながらも、性格は「小動物好きのお人よし」。こんな好物件、もう二度と現れるはずがない。
 リスクを冒してでも冒険者ギルドまで追いかけて、保護してもらうように働きかけたかいがあった。
(ちょっとくらい顔が怖いだなんて、この状況じゃ些事ですわ、些事! もう二度と離れません!)
 その為なら、人間としてのプライドなぞ、いくらでも捨てる所存だ。
 猿に変化する前は、「鑑定スキルを使ってグラディオンで成り上がり、いずれはリヒト王子や両親に復讐を……」などと夢想したものだが、今はそれどころではない。生き延びることが最優先だ。
(そのためには、べったり甘えて、この男を陥落させて……)
「……ああ、そうだ」
「うきっ?」
 ゼドがこちらに視線を向けたタイミングで、即座にかわいい顔を作って、首をかしげる。その姿には、【金茨姫】と呼ばれたかつての面影は一切ない。
(今の私はお猿……無垢で愛らしいお猿なのですわ!)
 公爵令嬢時代だって、家族が望む誇り高い令嬢姿を演じていただけだ。今更、演技を苦痛だとも思わない。
 そう、演じるのだ。……無垢でかわいらしい、ゼドが好みそうな従順なお猿を。
「お前の名前だが……サル太郎というのはどうだ?」
「………………うき?」
「ウキの助でもいいぞ」
「うっきぃいいいいい!!!!!」
 ――前言を撤回しよう。
「ど、どうした⁉ サル太郎。急に怒りだして」
「うきうきうきうっきぃいいいい!!!!」
(そのようなセンスのない名前で、私をお呼びにならないで!!!!)
 ロクセラーナは、生粋の貴族令嬢である。生きるためとはいえ、さすがに許容範囲はある。従順は無理だ。
「そ、そんなにこの名前が嫌か……」
 ちょっとだけショックを受けたようなゼドを横目で睨みながらも、フォローするように、その頬に額をこすりつける。ついでに怒りで逆立った尻尾の毛を、戻し戻しするのも忘れない。表情ではわかりにくいが、なんとなくゼドの機嫌が戻ったのが伝わってきた。存外単純な男である。
「もしかして、お前はメスなのか? ……メス……メスの名前なあ」
「……………(変な名前つけたら、今度こそ許しませんわよ)」
「金の毛に、青い目かぁ……そうだなあ……」
 ゼドの黒い目が首元にいるロクセラーナを観察するように、まっすぐ向けられる。強面の癖に、ひどく優しいその視線が何だか少し居心地が悪くて、思わずロクセラーナは尻尾を抱いて俯いた。
「……ロシィ、なぁんてな」
「っ⁉」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

『追放令嬢は薬草(ハーブ)に夢中 ~前世の知識でポーションを作っていたら、聖女様より崇められ、私を捨てた王太子が泣きついてきました~』

とびぃ
ファンタジー
追放悪役令嬢の薬学スローライフ ~断罪されたら、そこは未知の薬草宝庫(ランクS)でした。知識チートでポーション作ってたら、王都のパンデミックを救う羽目に~ -第二部(11章~20章)追加しました- 【あらすじ】 「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」 王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。 彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。 追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった! 石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。 【主な登場人物】 ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。 ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。 アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。 リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。 ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。 【読みどころ】 「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。

お前を愛することはないと言われたので、姑をハニトラに引っ掛けて婚家を内側から崩壊させます

碧井 汐桜香
ファンタジー
「お前を愛することはない」 そんな夫と 「そうよ! あなたなんか息子にふさわしくない!」 そんな義母のいる伯爵家に嫁いだケリナ。 嫁を大切にしない?ならば、内部から崩壊させて見せましょう

悪役令嬢に仕立て上げたいなら、ご注意を。

潮海璃月
ファンタジー
幼くして辺境伯の地位を継いだレナータは、女性であるがゆえに舐められがちであった。そんな折、社交場で伯爵令嬢にいわれのない罪を着せられてしまう。そんな彼女に隣国皇子カールハインツが手を差し伸べた──かと思いきや、ほとんど初対面で婚姻を申し込み、暇さえあれば口説き、しかもやたらレナータのことを知っている。怪しいほど親切なカールハインツと共に、レナータは事態の収拾方法を模索し、やがて伯爵一家への復讐を決意する。

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

処理中です...