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第二章『俺が過去を乗り越えるまで』
29 一方その頃③
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アドルフは単身、とあるダンジョンへとやってきていた。
もはや言うまでも無く、ブラッドオークが目撃されたダンジョンである。
そう、彼はたった一人でユニークモンスターを討伐するつもりなのだ。
と言うのも、ノアが生きていたことにより彼は嘘つきのレッテルを張られることとなってしまっていた。
当然そんな彼とパーティを組んでくれる者など存在せず、それどころか冒険者としての立場すらも危うくなっている始末である。
町最強のBランク冒険者様は仲間を囮にして自分だけ助かろうとするクズ。
そう言う扱いが徐々に広まって行ったのだ。
しかし、アドルフのプライドはそれを許さない。
自分こそが称えられる存在であり、蔑まれるなど決してあってはならない……彼は心からそう思っていた。
だからこそ、こうして単身ダンジョンへとやってきたのである。
ユニークモンスターであるブラッドオークを討伐出来れば、全ての汚名を払拭できると考えた訳だ。
事実、この世界においてはいくら素行に問題があろうが功績さえ残せば英雄として語り継がれるものである。
そう、冒険者はどこまで行っても実力主義。
要は力さえあれば良いのである。
ただ、彼は一つ大きな間違いを犯していた。
……それは彼の力だ。
確かに彼の持つスキルは優秀だった。
それに培ってきた斧の技術も並み以上はあるだろう。
だがそれは所詮、辺境の狭い範囲で考えればの話である。
この広い世界において、彼はちっぽけな存在だった。
力こそ全てな世界において、力無き者は弱者である。
彼は自身がその弱者であることを知らなかったのだ。
「見つけたぞ! お前さえ倒せば、僕は……!!」
ブラッドオークを見つけたアドルフは背後から駆け寄り、隙だらけの背中に思い切り斧を振り下ろした。
しかし斧はオークの外皮に当たり跳ね返ってしまう。
「うぐっ……!?」
彼の身体能力が高いからこそ、跳ね返った際の衝撃も大きかったようだ。
斧は彼の手から離れ、後方へと吹き飛んで行く。
「グルブルゥ……?」
「ひっ……!?」
オークはゆっくりと振り返り、アドルフの顔を見た。
その目はただ純粋な殺意に満ちている。
それが真っすぐにアドルフの目を見つめているのだ。
「ぁっ……あぁ……」
声にならない声を漏らすアドルフ。
瞬く間に彼の中を恐怖が埋め尽くしていった。
それでもすぐさま逃げようと足を動かすことが出来たのは、彼に根性があったからか……或いは本能的に体がそうしたのか。
どちらにせよ、彼はすぐにオークから距離を取ることには成功したのだった。
「クソッ! どうして、こんなことに……!!」
ある程度距離をとり、冷静になったアドルフは本格的に逃げ始めた。
斧を失った今の彼は丸腰である。
下手に戦おうとせずに逃げたのは正解と言えるだろう。
「ブルァァッ!!」
現にブラッドオークはゆっくりとアドルフとの距離を詰め始めている。
とは言え、本気で彼を襲う様子は無かった。
一歩。また一歩。
そうして少しずつ歩みを進めるくらいには遅い動きであった。
何故ならブラッドオークは既に大量の魔物や人間を喰っており、満腹に近い状態なのだ。
そのためアドルフは幸運にも餌として認識されなかった訳である。
そもそもブラッドオークが空腹状態であったなら、最初に接敵した時点で本気で襲われていただろう。
そうなっていれば間違いなく彼は死んでいた。
まさに運が良かっただけなのである。
……しかし、彼に降りかかる災難はまだ終わってなどいなかった。
「なっ……!?」
道行く先には魔物の群れ。
斧を置いて来てしまった彼にはどうしようも無かった。
一応小型のナイフを携帯しているものの、こんなものでは魔物を相手には出来ないだろう。
こういう時、仲間がいれば、或いは予備の武器を持ち運ぶ荷物持ちがいれば違ったのだろうが、生憎と彼は一人である。
もはや魔物の群れを突っ切って逃げることしか出来なかった。
そうなればいくらBランクとは言え、無傷では済まない。
魔物の群れからは命からがら逃げきることに成功したようだが、手足には無視できない傷を負ってしまっていた。
これではダンジョンから出るのも難しいだろう。
「クソがッ!! どうして僕が、こんな目に遭わなければいけないんだ……!! これも全部、アイツが……ノアが悪いんだ……!!」
悪態をつきながらヨタヨタと出口を目指して歩き続けるアドルフ。
そんな彼の前に、見覚えのある顔が現れた。
「アドルフ……? どうしてここに?」
「……それはこっちの台詞だ。どうして、お前がここにいる……ノアッ!!」
それは彼が今最も出会いたくないであろう人物。
彼がこうなった全ての原因。
……ノアだった。
もはや言うまでも無く、ブラッドオークが目撃されたダンジョンである。
そう、彼はたった一人でユニークモンスターを討伐するつもりなのだ。
と言うのも、ノアが生きていたことにより彼は嘘つきのレッテルを張られることとなってしまっていた。
当然そんな彼とパーティを組んでくれる者など存在せず、それどころか冒険者としての立場すらも危うくなっている始末である。
町最強のBランク冒険者様は仲間を囮にして自分だけ助かろうとするクズ。
そう言う扱いが徐々に広まって行ったのだ。
しかし、アドルフのプライドはそれを許さない。
自分こそが称えられる存在であり、蔑まれるなど決してあってはならない……彼は心からそう思っていた。
だからこそ、こうして単身ダンジョンへとやってきたのである。
ユニークモンスターであるブラッドオークを討伐出来れば、全ての汚名を払拭できると考えた訳だ。
事実、この世界においてはいくら素行に問題があろうが功績さえ残せば英雄として語り継がれるものである。
そう、冒険者はどこまで行っても実力主義。
要は力さえあれば良いのである。
ただ、彼は一つ大きな間違いを犯していた。
……それは彼の力だ。
確かに彼の持つスキルは優秀だった。
それに培ってきた斧の技術も並み以上はあるだろう。
だがそれは所詮、辺境の狭い範囲で考えればの話である。
この広い世界において、彼はちっぽけな存在だった。
力こそ全てな世界において、力無き者は弱者である。
彼は自身がその弱者であることを知らなかったのだ。
「見つけたぞ! お前さえ倒せば、僕は……!!」
ブラッドオークを見つけたアドルフは背後から駆け寄り、隙だらけの背中に思い切り斧を振り下ろした。
しかし斧はオークの外皮に当たり跳ね返ってしまう。
「うぐっ……!?」
彼の身体能力が高いからこそ、跳ね返った際の衝撃も大きかったようだ。
斧は彼の手から離れ、後方へと吹き飛んで行く。
「グルブルゥ……?」
「ひっ……!?」
オークはゆっくりと振り返り、アドルフの顔を見た。
その目はただ純粋な殺意に満ちている。
それが真っすぐにアドルフの目を見つめているのだ。
「ぁっ……あぁ……」
声にならない声を漏らすアドルフ。
瞬く間に彼の中を恐怖が埋め尽くしていった。
それでもすぐさま逃げようと足を動かすことが出来たのは、彼に根性があったからか……或いは本能的に体がそうしたのか。
どちらにせよ、彼はすぐにオークから距離を取ることには成功したのだった。
「クソッ! どうして、こんなことに……!!」
ある程度距離をとり、冷静になったアドルフは本格的に逃げ始めた。
斧を失った今の彼は丸腰である。
下手に戦おうとせずに逃げたのは正解と言えるだろう。
「ブルァァッ!!」
現にブラッドオークはゆっくりとアドルフとの距離を詰め始めている。
とは言え、本気で彼を襲う様子は無かった。
一歩。また一歩。
そうして少しずつ歩みを進めるくらいには遅い動きであった。
何故ならブラッドオークは既に大量の魔物や人間を喰っており、満腹に近い状態なのだ。
そのためアドルフは幸運にも餌として認識されなかった訳である。
そもそもブラッドオークが空腹状態であったなら、最初に接敵した時点で本気で襲われていただろう。
そうなっていれば間違いなく彼は死んでいた。
まさに運が良かっただけなのである。
……しかし、彼に降りかかる災難はまだ終わってなどいなかった。
「なっ……!?」
道行く先には魔物の群れ。
斧を置いて来てしまった彼にはどうしようも無かった。
一応小型のナイフを携帯しているものの、こんなものでは魔物を相手には出来ないだろう。
こういう時、仲間がいれば、或いは予備の武器を持ち運ぶ荷物持ちがいれば違ったのだろうが、生憎と彼は一人である。
もはや魔物の群れを突っ切って逃げることしか出来なかった。
そうなればいくらBランクとは言え、無傷では済まない。
魔物の群れからは命からがら逃げきることに成功したようだが、手足には無視できない傷を負ってしまっていた。
これではダンジョンから出るのも難しいだろう。
「クソがッ!! どうして僕が、こんな目に遭わなければいけないんだ……!! これも全部、アイツが……ノアが悪いんだ……!!」
悪態をつきながらヨタヨタと出口を目指して歩き続けるアドルフ。
そんな彼の前に、見覚えのある顔が現れた。
「アドルフ……? どうしてここに?」
「……それはこっちの台詞だ。どうして、お前がここにいる……ノアッ!!」
それは彼が今最も出会いたくないであろう人物。
彼がこうなった全ての原因。
……ノアだった。
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