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第二章『俺が過去を乗り越えるまで』
31 現れしブラッドオーク
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アドルフと別れ、奥へと進む。
すると何やら人影が見えてきた。
見たところ冒険者だ。
いやこんなところにいる時点で冒険者じゃないはずが無いか。
「……って、これは」
近づいて分かったが、それは死体だった。
立ったまま死んでいる。
武器を構えている辺り、何かと戦っていたみたいだが……。
「ん、あれ見て」
「……ああ、そう言う事か」
死体があった場所よりも更に奥を見ると、天井に大量の魔物が張り付いているのが確認出来た。
蝙蝠のような姿をしたあれらは恐らくケイブバットだろう。
洞窟内に生息していると言う魔物で、他の生き物から血を吸って栄養にしているんだったか。
と言う事は立ったまま死んでいた彼も、コイツらに一気に大量の血を吸われて死んでしまったと言う事か。
「キ……キキッ」
「来るぞリリィ!」
「ん、任せて!」
飛んできた大量のケイブバットの群れにリリィは上級魔法をぶち込んでいく。
圧巻の威力だ。改めて上級魔法スキルと言う物の凄まじさが分かる。
っと、彼女だけに任せてはいられないな。
「フロストショット!」
リリィが撃ち漏らしたケイブバットを精密射撃系の魔法で撃ち落としていく。
軽く数百匹はいたであろうケイブバットも、気付けば一匹残らず殲滅し終わっていた。
「これでもレベルは上がらない……か」
パーティ機能の影響か、リリィが倒した魔物からも経験値なるものが俺に入って来るようになっている。
ただ、あれだけのケイブバットを倒してもなお俺のレベルが上がることは無かった。
と言うよりドレッドオロチを倒した時もそうだが、祭壇を出てからまだ一度もレベルが上がっていない。
それだけあのダンジョンにいた魔物は規格外の化け物ってことなのか。
「よし、ひとまず全部倒せただろうし先に進もうか」
「分かった。後ろは引き続き私が警戒しておく」
「ああ任せたぞ」
リリィを背に、俺は再び前進を始めた。
それからしばらく魔物と接触することもなく、俺たちは着実にダンジョンの奥へと進んで行った。
……いや、待て。おかしい。
ダンジョン内でこんなに魔物と出会わないなんて、普通はありえない。
まるで何かに殲滅された後みたいな……ああ、そうか。
と言う事は、この先にいるんだな。
……奴が。
「ん、この先に強い魔力の反応がある」
「……やっぱり、そうなんだな」
リリィの言葉通り、俺も何やら強い圧のようなものを感じていた。
恐らくは奴が……ブラッドオークが放っているんだろう。
「……」
「やっぱり怖い?」
「怖いさ……あんな目にあったんだ……」
リリィを心配させないように極力抑えてきたつもりだが、ここまで近づいてしまった以上はもうごまかせないらしい。
足が、手が、震えている。
剣を握ることすら出来ないんじゃないか……と、そう考えてしまう程に。
だってそうだろう。
あの時の痛みを、苦しみを、恐怖を、忘れられるはずが無い。
目の前で自分の腕を食いちぎられる経験を、どうやって忘れろって言うんだ。
……けど、だとしても。
俺はもう……逃げない。
奴を倒して、何としてでも俺は過去を乗り越えるんだ。
そして、リリィと一緒に幸せを掴む。
そのためにここに来た。
覚悟はとっくに決めている。
「行こう、リリィ」
「ん、私たちは無敵。絶対に負けはしない」
そう言いながらリリィは手を握ってきた。
ありがとう……リリィ。
俺に、勇気をくれて。
「ふぅ……」
深く息を吸い込み、一歩踏み出す。
その瞬間、何かが吹っ切れた気がした。
今ならアイツにだって勝てる。
どんな奴にだって負ける気がしない。
全身から力がみなぎってくる……そんな感覚だ。
「ん、来た……!!」
リリィのその言葉と共に、前方から凄まじい圧が近づいてくるのが分かった。
恐らく向こうも俺たちを認識しているんだろう。
こうなりゃ不意打ちも出来ない。
小細工も無しの、正真正銘真正面からのぶつかり合いと言う訳だ。
「俺が前に出る。リリィはサポートを頼んだ」
そう言い、俺は前へと出た。
「……ッ!!」
奴の姿が見えてくる。
あの時と同じ、禍々しい姿。
オークとしての巨躯に、体表を覆っている脈打つ血管。
血に塗れたオークだなんて、まさしく言い得て妙な名だ。
「ブルルゥ……」
向こうもこちら側を視認出来たのか、鼻息を荒くしながら俺たちとの距離を縮めてくる。
すぐさま飛びかかってこない辺り、こちらの力をある程度は認識しているってことなんだろうか。
……それなら、こちらから行かせてもらおう。
すると何やら人影が見えてきた。
見たところ冒険者だ。
いやこんなところにいる時点で冒険者じゃないはずが無いか。
「……って、これは」
近づいて分かったが、それは死体だった。
立ったまま死んでいる。
武器を構えている辺り、何かと戦っていたみたいだが……。
「ん、あれ見て」
「……ああ、そう言う事か」
死体があった場所よりも更に奥を見ると、天井に大量の魔物が張り付いているのが確認出来た。
蝙蝠のような姿をしたあれらは恐らくケイブバットだろう。
洞窟内に生息していると言う魔物で、他の生き物から血を吸って栄養にしているんだったか。
と言う事は立ったまま死んでいた彼も、コイツらに一気に大量の血を吸われて死んでしまったと言う事か。
「キ……キキッ」
「来るぞリリィ!」
「ん、任せて!」
飛んできた大量のケイブバットの群れにリリィは上級魔法をぶち込んでいく。
圧巻の威力だ。改めて上級魔法スキルと言う物の凄まじさが分かる。
っと、彼女だけに任せてはいられないな。
「フロストショット!」
リリィが撃ち漏らしたケイブバットを精密射撃系の魔法で撃ち落としていく。
軽く数百匹はいたであろうケイブバットも、気付けば一匹残らず殲滅し終わっていた。
「これでもレベルは上がらない……か」
パーティ機能の影響か、リリィが倒した魔物からも経験値なるものが俺に入って来るようになっている。
ただ、あれだけのケイブバットを倒してもなお俺のレベルが上がることは無かった。
と言うよりドレッドオロチを倒した時もそうだが、祭壇を出てからまだ一度もレベルが上がっていない。
それだけあのダンジョンにいた魔物は規格外の化け物ってことなのか。
「よし、ひとまず全部倒せただろうし先に進もうか」
「分かった。後ろは引き続き私が警戒しておく」
「ああ任せたぞ」
リリィを背に、俺は再び前進を始めた。
それからしばらく魔物と接触することもなく、俺たちは着実にダンジョンの奥へと進んで行った。
……いや、待て。おかしい。
ダンジョン内でこんなに魔物と出会わないなんて、普通はありえない。
まるで何かに殲滅された後みたいな……ああ、そうか。
と言う事は、この先にいるんだな。
……奴が。
「ん、この先に強い魔力の反応がある」
「……やっぱり、そうなんだな」
リリィの言葉通り、俺も何やら強い圧のようなものを感じていた。
恐らくは奴が……ブラッドオークが放っているんだろう。
「……」
「やっぱり怖い?」
「怖いさ……あんな目にあったんだ……」
リリィを心配させないように極力抑えてきたつもりだが、ここまで近づいてしまった以上はもうごまかせないらしい。
足が、手が、震えている。
剣を握ることすら出来ないんじゃないか……と、そう考えてしまう程に。
だってそうだろう。
あの時の痛みを、苦しみを、恐怖を、忘れられるはずが無い。
目の前で自分の腕を食いちぎられる経験を、どうやって忘れろって言うんだ。
……けど、だとしても。
俺はもう……逃げない。
奴を倒して、何としてでも俺は過去を乗り越えるんだ。
そして、リリィと一緒に幸せを掴む。
そのためにここに来た。
覚悟はとっくに決めている。
「行こう、リリィ」
「ん、私たちは無敵。絶対に負けはしない」
そう言いながらリリィは手を握ってきた。
ありがとう……リリィ。
俺に、勇気をくれて。
「ふぅ……」
深く息を吸い込み、一歩踏み出す。
その瞬間、何かが吹っ切れた気がした。
今ならアイツにだって勝てる。
どんな奴にだって負ける気がしない。
全身から力がみなぎってくる……そんな感覚だ。
「ん、来た……!!」
リリィのその言葉と共に、前方から凄まじい圧が近づいてくるのが分かった。
恐らく向こうも俺たちを認識しているんだろう。
こうなりゃ不意打ちも出来ない。
小細工も無しの、正真正銘真正面からのぶつかり合いと言う訳だ。
「俺が前に出る。リリィはサポートを頼んだ」
そう言い、俺は前へと出た。
「……ッ!!」
奴の姿が見えてくる。
あの時と同じ、禍々しい姿。
オークとしての巨躯に、体表を覆っている脈打つ血管。
血に塗れたオークだなんて、まさしく言い得て妙な名だ。
「ブルルゥ……」
向こうもこちら側を視認出来たのか、鼻息を荒くしながら俺たちとの距離を縮めてくる。
すぐさま飛びかかってこない辺り、こちらの力をある程度は認識しているってことなんだろうか。
……それなら、こちらから行かせてもらおう。
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