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第三章『俺が豊穣の災厄を倒すまで』
41 豊穣の災厄
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ローブを脱ぎ去った男たちは全員額から鋭い角が生えていて、背中には大きな翼を持っていた。
間違いなく人間では無いのは、もはや火を見るよりも明らかだった。
となると……だ。
目的は一体何なのか。それが一番重要だろう。
人では無い存在がここまでして一体何をしようと言うのか。
「アンタらの目的はなんだ。どうしてこんなにも多くの人を殺した」
「良いだろう、教えてやる。どうせすぐに死ぬことになるのだからな」
余裕たっぷりと言った様子で男はそう言った。
相当舐められているみたいだが、この状況ではむしろ好都合だ。
ベラベラと喋ってくれるのならそれに越したことは無い。
「我らは皆、この時を待っていたのだ。この地で眠りについた豊穣の災厄を復活させる、今日この日を……な」
「豊穣の災厄……?」
聞いたことが無い名だ。
とは言え、奴らの雰囲気からしてそれがろくでもない何かなのは容易に想像がつく。
「そのために、彼らを殺したって言うのか……」
「その通り。復活のためには大量の魂を生贄として奉げる必要があるのだ。冒険者は強大な魂を持っているからな。これだけの量を集めるのには少々骨が折れたが、これから起こる惨状のためならばむしろ安いくらいだろう」
「……そうか」
正直なところ、これだけ状況が整えられてしまえば何となく想像も出来ていた。
感情に身を任せた虐殺にしては妙に統率が取れていたしな。
それにこれだけの人数の遺体を運び込む手段があるのなら、それこそこんな街中でやる必要も無い。
見せしめにするにしたって余計な面倒事を増やすだけだろう。
「ノア……」
「……? どうした、リリィ」
「ん、豊穣の災厄については少し知っている」
「え……?」
聞き間違いじゃないよな?
いやでもそうか。リリィはグリーンローズの祭壇にいたんだ。
そこで何か聞いていてもおかしくは無いのか。
「昔、私を作った人たちが話しているのを聞いた。豊穣の災厄は生命のエネルギーを意のままに操る怪物だって。その力でいくつもの国を滅ぼしたとも聞いた」
「国を滅ぼすって……流石にヤバすぎだろ」
リリィが耳打ちで教えてくれた情報は中々にとんでも無いものだった。
生命エネルギーを操るってのもそうだし、何より国を滅ぼした怪物ってのがもうとんでもなさ過ぎる。
そんな奴を復活させようってのかコイツらは?
どれだけの被害になるか分かったものじゃないぞ。
これは絶対に止めないと不味い。
「さて、お喋りもこれくらいにしておこう。いよいよ、復活の時だ。そのために……貴様も、生贄となれ!!」
「おい待て! ソイツに迂闊に近寄るな!」
「おっと」
リーダーっぽい男が突然飛び掛かってきたので即座に避けた。
「……運のいい奴め。だが、今度はそうは行かん」
男は再び攻撃を仕掛けてくる。
だが遅い。余裕で目で追える程だった。
「な、何故だ……! 何故当たらん!!」
「だから言っただろう……! 奴は……異質なのだ……」
「しかしだ! 我らは魔族だぞ!!人間なぞに後れを取るなどあるはずが無い……!!」
何やら滅茶苦茶に憤っている。
それほど俺に避けられたのが堪えたのだろうか。
と言うかコイツ、今「魔族」って言ったのか?
魔族って確か、かつて存在したとされる魔王の手下とかじゃなかったか?
いや、いやいや待て待て。
魔族なんてここ数十年は観測されていないって話のはずだ。
それに魔族がいるってことはもしかして魔王もどこかに……?
「クソッ! こうなれば儀式を進めるまでだ! 豊穣の災厄を復活させ、お前も、街も、全人類を滅ぼしてやろうぞ!!」
「ッ!! させるか!」
「遅いッ! 既に召喚は始まっているッ!!」
「ぐっ……!?」
突如、広場の地面が光り輝き始めた。
眩し過ぎて何も見えなくなってしまう。
畜生……してやられたな。
情報を引き出すために悠長に喋らせていた間にも、奴らは豊穣の災厄とやらの召喚を進めていた訳だ。
不味いな。こうなった以上は何とかして止めないと街に被害が……
「一体全体何の騒ぎだねこれは!?」
「その声は……!」
背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
この街のギルドマスターの声だ。
スキンヘッドと2メートルはあろうかと言う筋骨隆々な巨躯が特徴的な彼が、どうやら俺の背後にいるらしい。
「危ないですから下がっていてください!」
「しかし街が襲われているのだろう!? 黙って見ている訳には行かん!」
「ほう、かなりの魔力を持っているようだが……今更一人増えたところで無意味だ。こうして召喚は成功しているのだからな」
「お、おいおいおい! 何なんだアレは……!!」
ギルドマスターの声が響く。
まるで怪物を前にしているような声が……いや、実際にそうなんだろう。
現に、今俺の前方には凄まじい圧を放つ何かがいる。
「さあ、とくと見よ! これこそが我々の希望! 豊穣の災厄である!!」
「……マジかよ」
目が慣れてきて辺りが見えるようになってきたかと思えば、真っ先に視界に入って来たのは形容しがたい姿をした怪物だった。
全身が真っ黒なヘドロのような物質で覆われ、巨大な右腕のような形状の全身からは無数の細い腕が生えている。
まさしく、人知を超えた怪物。
魔物なんかよりも遥かに異質な存在が、そこにはいた。
「だ、駄目だ……アレは人が戦っていいものじゃねえ! に、逃げないと駄目だ! 街の住民を、少しでも遠くに避難させねえと!! それに救援も必要だ!!」
そう言いながらギルドマスターは走り出した。
流石は大規模なギルドを束ねる存在だ。
慌ててこそいるものの、決してパニックにはならずに自身がやるべきことを即座に認識している。
……よし、俺も負けていられないな。
「おい、アンタらも逃げた方が良い! あんな化け物、俺たちには手に追えねえ!」
「いえ……俺はここに残って時間稼ぎをします。少しでも多くの人たちが逃げられるように」
「なっ!? む、無茶だ!! いくらアンタがユニークモンスターを討伐した冒険者っつっても、アレはもはや次元が違う! 間違いなく死んじまうぞ!!」
「それでも、今ここで俺が戦わないと被害はより大きくなるでしょう。なのでここは俺に任せて、ギルドマスターは行ってください」
「……分かった。絶対に死ぬんじゃねえぞ!」
ギルドマスターの走り去る音がだんだんと小さくなっていく。
これだけ離れれば巻き込まれることも無いだろう。
「わざわざ一人減らし、たった二人で挑むことを選ぶとはな。随分と自信があるようではないか」
「自身とは違うさ。ただそれぞれ、やるべきことをやるってだけだ」
そう、ギルドマスターにはギルドマスターの役割がある。
街の住民を避難させるのに、彼の持つ権限は大いに役に立つはずだ。
そして他所から救援を呼ぶのも、ギルドマスターならば他の街との連絡手段を持っているだろうし可能となる。
対して今ここでコイツを抑え込むのは俺たちの役割。
避難が終わるまで、少しでも時間を稼ぐ必要がある。
「良いだろう。では記念すべき最初の獲物は貴様らにしてやる。さあ、行け。豊穣の災厄よ。奴らを貪り、糧とするのだ!」
「メア゛ア゛ア゛ァァァァ」
獣とも人間ともつかない奇妙な雄たけびを上げつつ、豊穣の災厄は歩き出した。
一歩、また一歩と、奴が歩くたびにズシンズシンと地面が震える。
あの体躯に潰されでもしたらただじゃ済まないだろうなきっと。
とは言え動きは鈍い。
そして的はデカい。
あれでは狙ってくれと言っているようなものだ。
「行くぞ、リリィ!」
「ん、サポートは任せて」
俺は剣を抜き、走り出した。
あれだけデカければ死角も大きいはずだからな。
そこに潜り込んでしまえばこっちのものだ。
「おっと、そうはさせんぞ」
くそっ、どうやらそう簡単には行かないらしい。
魔族の男たちが俺を豊穣の災厄に近づけさせないように魔法を放ってくる。
リーダーらしき男は上級魔法を、それ以外の二人は中級魔法を使っているようだ。
纏っている雰囲気からも分かるが、あのリーダー格は他に比べても頭一つ抜けているみたいだな。
だが!!
「なにッ!? 魔法を、斬り裂いているだと……!?」
魔剣士スキルによって、俺の剣は魔法すらも斬り裂けるようになっている。
これなら奴らの攻撃を無効化しつつ、突っ切ることだって出来る!!
「はあぁぁぁッ!!」
「メギャアアァァァッ!!」
腕……いや、足か?
まあそれはどうだって良い。
豊穣の災厄の無数の腕を、ズバズバと斬り裂いて行く。
すると奴は絶叫しながらドタバタと暴れ始めた。
その度に奴の体からヘドロのような液体が飛び散る。
当たったら……不味いだろうな。
とは言え、これだけ暴れまわるって言うならダメ―ジは入っているってことだ。
いくら国を滅ぼした怪物と言えど、ダメージが入るなら倒すことだって出来るはず。
「あ、ありえん……!! たかが人の剣で何故豊穣の災厄を斬れる!?」
「いや……待ってくれあれは……」
「嘘だろ!? アイツ、ブラッドウォリアーの剣を持ってやがるぜ!?」
「何だと!? あの魔王様ですら手名付けるのに手を焼いたブラッドウォリアーを人間風情が倒したと言うのか!?」
何やらとんでもない話が聞こえてくる。
アイツらの話を聞く限り、やっぱりこのブラッドウォリアーの剣は恐ろしい代物のようだ。
道理で硬いゴーレム種もスパスパ切れる訳だ……。
ただ、それを知れたのは大きい。
魔王ですら手を焼いた……それはつまり、魔王自体がこの剣の性能にお墨付きを与えているようなものだ。
なら、もう怖がる必要は無いな。
何故ならこの剣は……物凄く、滅茶苦茶に、とんでもない業物と言う事なのだから。
「うおぉぉぉッ!!」
ズバズバと豊穣の災厄の腕を斬り落としていく。
ああ、思えば今まではどこか疑いを持っていたのかもしれない。
魔剣士スキルに耐えきれずに剣が刃こぼれしたらどうしようだとか、真っ二つに折れたらどうしようだとか、そんなことを考えていた。
しかし、奴らの話を聞いて確証が持てた。
この剣なら、そんな心配は微塵も必要ないのだと。
「ミ゛ェ゛ア゛ァァァッッ!!」
苦痛に悶えるかのように、豊穣の災厄は叫ぶ。
剣を信用したことで、どうやら俺の剣の威力は向上したらしい。
もはや何の抵抗も無く、奴の腕を斬り落とせるようになっていた。
となればそれだけ攻撃の速度も速くなるわけで。
奴に与えているダメージもその分だけ増えているのだろう。
だからこそのこの叫びなんだ。
ああ、間違いない。
これこそが、俺の本当の剣なんだ……!
だから今の俺は……この怪物にすら勝てる!!
間違いなく人間では無いのは、もはや火を見るよりも明らかだった。
となると……だ。
目的は一体何なのか。それが一番重要だろう。
人では無い存在がここまでして一体何をしようと言うのか。
「アンタらの目的はなんだ。どうしてこんなにも多くの人を殺した」
「良いだろう、教えてやる。どうせすぐに死ぬことになるのだからな」
余裕たっぷりと言った様子で男はそう言った。
相当舐められているみたいだが、この状況ではむしろ好都合だ。
ベラベラと喋ってくれるのならそれに越したことは無い。
「我らは皆、この時を待っていたのだ。この地で眠りについた豊穣の災厄を復活させる、今日この日を……な」
「豊穣の災厄……?」
聞いたことが無い名だ。
とは言え、奴らの雰囲気からしてそれがろくでもない何かなのは容易に想像がつく。
「そのために、彼らを殺したって言うのか……」
「その通り。復活のためには大量の魂を生贄として奉げる必要があるのだ。冒険者は強大な魂を持っているからな。これだけの量を集めるのには少々骨が折れたが、これから起こる惨状のためならばむしろ安いくらいだろう」
「……そうか」
正直なところ、これだけ状況が整えられてしまえば何となく想像も出来ていた。
感情に身を任せた虐殺にしては妙に統率が取れていたしな。
それにこれだけの人数の遺体を運び込む手段があるのなら、それこそこんな街中でやる必要も無い。
見せしめにするにしたって余計な面倒事を増やすだけだろう。
「ノア……」
「……? どうした、リリィ」
「ん、豊穣の災厄については少し知っている」
「え……?」
聞き間違いじゃないよな?
いやでもそうか。リリィはグリーンローズの祭壇にいたんだ。
そこで何か聞いていてもおかしくは無いのか。
「昔、私を作った人たちが話しているのを聞いた。豊穣の災厄は生命のエネルギーを意のままに操る怪物だって。その力でいくつもの国を滅ぼしたとも聞いた」
「国を滅ぼすって……流石にヤバすぎだろ」
リリィが耳打ちで教えてくれた情報は中々にとんでも無いものだった。
生命エネルギーを操るってのもそうだし、何より国を滅ぼした怪物ってのがもうとんでもなさ過ぎる。
そんな奴を復活させようってのかコイツらは?
どれだけの被害になるか分かったものじゃないぞ。
これは絶対に止めないと不味い。
「さて、お喋りもこれくらいにしておこう。いよいよ、復活の時だ。そのために……貴様も、生贄となれ!!」
「おい待て! ソイツに迂闊に近寄るな!」
「おっと」
リーダーっぽい男が突然飛び掛かってきたので即座に避けた。
「……運のいい奴め。だが、今度はそうは行かん」
男は再び攻撃を仕掛けてくる。
だが遅い。余裕で目で追える程だった。
「な、何故だ……! 何故当たらん!!」
「だから言っただろう……! 奴は……異質なのだ……」
「しかしだ! 我らは魔族だぞ!!人間なぞに後れを取るなどあるはずが無い……!!」
何やら滅茶苦茶に憤っている。
それほど俺に避けられたのが堪えたのだろうか。
と言うかコイツ、今「魔族」って言ったのか?
魔族って確か、かつて存在したとされる魔王の手下とかじゃなかったか?
いや、いやいや待て待て。
魔族なんてここ数十年は観測されていないって話のはずだ。
それに魔族がいるってことはもしかして魔王もどこかに……?
「クソッ! こうなれば儀式を進めるまでだ! 豊穣の災厄を復活させ、お前も、街も、全人類を滅ぼしてやろうぞ!!」
「ッ!! させるか!」
「遅いッ! 既に召喚は始まっているッ!!」
「ぐっ……!?」
突如、広場の地面が光り輝き始めた。
眩し過ぎて何も見えなくなってしまう。
畜生……してやられたな。
情報を引き出すために悠長に喋らせていた間にも、奴らは豊穣の災厄とやらの召喚を進めていた訳だ。
不味いな。こうなった以上は何とかして止めないと街に被害が……
「一体全体何の騒ぎだねこれは!?」
「その声は……!」
背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
この街のギルドマスターの声だ。
スキンヘッドと2メートルはあろうかと言う筋骨隆々な巨躯が特徴的な彼が、どうやら俺の背後にいるらしい。
「危ないですから下がっていてください!」
「しかし街が襲われているのだろう!? 黙って見ている訳には行かん!」
「ほう、かなりの魔力を持っているようだが……今更一人増えたところで無意味だ。こうして召喚は成功しているのだからな」
「お、おいおいおい! 何なんだアレは……!!」
ギルドマスターの声が響く。
まるで怪物を前にしているような声が……いや、実際にそうなんだろう。
現に、今俺の前方には凄まじい圧を放つ何かがいる。
「さあ、とくと見よ! これこそが我々の希望! 豊穣の災厄である!!」
「……マジかよ」
目が慣れてきて辺りが見えるようになってきたかと思えば、真っ先に視界に入って来たのは形容しがたい姿をした怪物だった。
全身が真っ黒なヘドロのような物質で覆われ、巨大な右腕のような形状の全身からは無数の細い腕が生えている。
まさしく、人知を超えた怪物。
魔物なんかよりも遥かに異質な存在が、そこにはいた。
「だ、駄目だ……アレは人が戦っていいものじゃねえ! に、逃げないと駄目だ! 街の住民を、少しでも遠くに避難させねえと!! それに救援も必要だ!!」
そう言いながらギルドマスターは走り出した。
流石は大規模なギルドを束ねる存在だ。
慌ててこそいるものの、決してパニックにはならずに自身がやるべきことを即座に認識している。
……よし、俺も負けていられないな。
「おい、アンタらも逃げた方が良い! あんな化け物、俺たちには手に追えねえ!」
「いえ……俺はここに残って時間稼ぎをします。少しでも多くの人たちが逃げられるように」
「なっ!? む、無茶だ!! いくらアンタがユニークモンスターを討伐した冒険者っつっても、アレはもはや次元が違う! 間違いなく死んじまうぞ!!」
「それでも、今ここで俺が戦わないと被害はより大きくなるでしょう。なのでここは俺に任せて、ギルドマスターは行ってください」
「……分かった。絶対に死ぬんじゃねえぞ!」
ギルドマスターの走り去る音がだんだんと小さくなっていく。
これだけ離れれば巻き込まれることも無いだろう。
「わざわざ一人減らし、たった二人で挑むことを選ぶとはな。随分と自信があるようではないか」
「自身とは違うさ。ただそれぞれ、やるべきことをやるってだけだ」
そう、ギルドマスターにはギルドマスターの役割がある。
街の住民を避難させるのに、彼の持つ権限は大いに役に立つはずだ。
そして他所から救援を呼ぶのも、ギルドマスターならば他の街との連絡手段を持っているだろうし可能となる。
対して今ここでコイツを抑え込むのは俺たちの役割。
避難が終わるまで、少しでも時間を稼ぐ必要がある。
「良いだろう。では記念すべき最初の獲物は貴様らにしてやる。さあ、行け。豊穣の災厄よ。奴らを貪り、糧とするのだ!」
「メア゛ア゛ア゛ァァァァ」
獣とも人間ともつかない奇妙な雄たけびを上げつつ、豊穣の災厄は歩き出した。
一歩、また一歩と、奴が歩くたびにズシンズシンと地面が震える。
あの体躯に潰されでもしたらただじゃ済まないだろうなきっと。
とは言え動きは鈍い。
そして的はデカい。
あれでは狙ってくれと言っているようなものだ。
「行くぞ、リリィ!」
「ん、サポートは任せて」
俺は剣を抜き、走り出した。
あれだけデカければ死角も大きいはずだからな。
そこに潜り込んでしまえばこっちのものだ。
「おっと、そうはさせんぞ」
くそっ、どうやらそう簡単には行かないらしい。
魔族の男たちが俺を豊穣の災厄に近づけさせないように魔法を放ってくる。
リーダーらしき男は上級魔法を、それ以外の二人は中級魔法を使っているようだ。
纏っている雰囲気からも分かるが、あのリーダー格は他に比べても頭一つ抜けているみたいだな。
だが!!
「なにッ!? 魔法を、斬り裂いているだと……!?」
魔剣士スキルによって、俺の剣は魔法すらも斬り裂けるようになっている。
これなら奴らの攻撃を無効化しつつ、突っ切ることだって出来る!!
「はあぁぁぁッ!!」
「メギャアアァァァッ!!」
腕……いや、足か?
まあそれはどうだって良い。
豊穣の災厄の無数の腕を、ズバズバと斬り裂いて行く。
すると奴は絶叫しながらドタバタと暴れ始めた。
その度に奴の体からヘドロのような液体が飛び散る。
当たったら……不味いだろうな。
とは言え、これだけ暴れまわるって言うならダメ―ジは入っているってことだ。
いくら国を滅ぼした怪物と言えど、ダメージが入るなら倒すことだって出来るはず。
「あ、ありえん……!! たかが人の剣で何故豊穣の災厄を斬れる!?」
「いや……待ってくれあれは……」
「嘘だろ!? アイツ、ブラッドウォリアーの剣を持ってやがるぜ!?」
「何だと!? あの魔王様ですら手名付けるのに手を焼いたブラッドウォリアーを人間風情が倒したと言うのか!?」
何やらとんでもない話が聞こえてくる。
アイツらの話を聞く限り、やっぱりこのブラッドウォリアーの剣は恐ろしい代物のようだ。
道理で硬いゴーレム種もスパスパ切れる訳だ……。
ただ、それを知れたのは大きい。
魔王ですら手を焼いた……それはつまり、魔王自体がこの剣の性能にお墨付きを与えているようなものだ。
なら、もう怖がる必要は無いな。
何故ならこの剣は……物凄く、滅茶苦茶に、とんでもない業物と言う事なのだから。
「うおぉぉぉッ!!」
ズバズバと豊穣の災厄の腕を斬り落としていく。
ああ、思えば今まではどこか疑いを持っていたのかもしれない。
魔剣士スキルに耐えきれずに剣が刃こぼれしたらどうしようだとか、真っ二つに折れたらどうしようだとか、そんなことを考えていた。
しかし、奴らの話を聞いて確証が持てた。
この剣なら、そんな心配は微塵も必要ないのだと。
「ミ゛ェ゛ア゛ァァァッッ!!」
苦痛に悶えるかのように、豊穣の災厄は叫ぶ。
剣を信用したことで、どうやら俺の剣の威力は向上したらしい。
もはや何の抵抗も無く、奴の腕を斬り落とせるようになっていた。
となればそれだけ攻撃の速度も速くなるわけで。
奴に与えているダメージもその分だけ増えているのだろう。
だからこそのこの叫びなんだ。
ああ、間違いない。
これこそが、俺の本当の剣なんだ……!
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