七王の戒律

第一冠：崩れゆく均衡

第九冠裏切者にある＜冥府の座＞。それは地獄の最奥、七王のみ入れる禁域。
七人が座する円卓に、地獄の業火が影を落とす。言葉よりも先に、空気が変わっていた。誰もが気付いていたのだ。
「罪人が……消えた」
最初に声を発したのは強欲の王ハミン・アヴァリスだった。
「罪が罰を超え、存在そのものが無になった──」
怠惰の王レビク・ラビリンスが淡々と告げると、その言葉が闇に波紋のように広がっていた。
「誰の冠の者だ」
と、憤怒の王シュリノア・クリムゾンが問う。刃のような声だった。
「第六冠嫉妬者しっとのもの、第七牢域所属。名は記されてない……灰の痕跡しかないねぇ」
色欲の王シヴィ・ヴェルヴェザーが微笑みながらそう言う。
「嫉妬のとこってまた珍しいところで……」
暴食の王シラク・アビスが興味なさそうに言葉を落とす。
「ただの騒ぎか、それとも前兆か」
傲慢の王リション・ナイトフォールの目が卓の中央を見据える。
「地獄の掟の従うならば──これもまた‘‘審理‘‘されるべき事象よ」
嫉妬の王シェニア・トルメントの囁きは、毒のように滑らかだった。
王たちは静かに頷き、ひとつの決定を下した。

──地獄全冠に調査の命を。
──罪人の動向を探れ。
──冠の下を揺るがす者があれば、それは‘‘堕とす‘‘対象にほかならぬ。

こうして、すべては始まった。
地獄の均衡は、静かに軋みを上げていた。