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ハドソン領 花街道(仮)編 ワトル村
急病人 5
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私の言葉に息を飲んでお互いの顔を見るスコティッシュ子爵夫妻に、やっぱり妊娠しているのは確定なのだなぁ、とアシュトンさんの鑑定通りだったことに感心してしまう。
アシュトンさん曰く、子爵夫人を鑑定した時にもう一人分出てきたらしい。といっても、性別と両親の名前ぐらいで赤ちゃんの情報は殆ど無かったらしい。
だけどそれで十分じゃない?
というか、子の親が鑑定で分かるってDNA鑑定しなくても簡単に分かっちゃうって凄くない?
あ、でもスキル持ちの人が悪用したり、知ってはならない秘密を知った!とかで消されたりとかもあるかも?
だからどこまで鑑定出来るのか?は、秘匿した方が良いんだろうね。アシュトンさんも私を鑑定した時に言ってない事があるようなことを言っていたものね。
「君の言っている病気は、その・・・。妻は本当にその病気なのだろうか?」
「それはまだわかりません。ただ、その病気は長時間同じ姿勢で足を動かさないことで、血のめぐりが悪くなり、血液が固まりやすくなった結果、血の固まりが肺の方まで流れて詰まったりする事で発症すると言われています。
初期症状では、片足、特にふくらはぎや足首の腫れや浮腫が出るそうです。その他にも鈍い痛みや皮膚が赤黒くなったりするらしいです。
クリスティーヌ様は、現在足の腫れやむくみなどの症状はありますでしょうか?
子爵様、ご確認をお願い出来ませんか?」
実はアシュトンさんの鑑定で、子爵夫人の片足にむくみが出ているのは判っている。けれど鑑定した事は内緒なので、一先ず子爵に確認してもらう。
両足が浮腫んでいる場合は妊婦さんだから、という判断されるかもしれない。
だけど私自身は妊娠・出産はした事はない。保健の授業で習った程度の知識しかないから、実体験のあるナタリーさんやユッカさんにも部屋にいてもらっているんだよね。同じ事を言うにしても、私よりも経験者の人の言葉の方が受け入れやすいだろうしね。
そしてたぶん、アシュトンさんは子爵夫人の体を確認する可能性もあるから部屋を出て言ったんだと思う。
足でさえ見せるのははしたない、だとか言われる世界だからねぇ。子爵夫人はまだ着替えもしていないから、外出着のままだけど、それでもベッドに横になっている姿を夫以外の人に見られるのも恥ずかしい事なのだろう。
「ティーヌ、足を見せて。・・・確かに。少し肌の色が赤くなっているような。それに片足だけ腫れている」
「では、その腫れた部分を指で押してみてください。へこんまま、直ぐに元に戻らない場合は足の血のめぐりが悪くなっている証拠でしょう」
「む。本当だ!ティーヌの美しい足がこのような事にっ!!」
いや、今は子爵夫人の足が美しいかどうかは問題ではないよ。そんな言い方をするから、子爵夫人の頬が赤く染まっているじゃん。
「静脈血栓塞栓症の疑いあり、というところでしょうか。
ただ、頭痛や腰が痛くなったり、足が浮腫んだり、というのは妊娠中にも起こりやすい症状ではあるんです。
それで起こりやすい妊婦さんが狭い場所で長時間同じ姿勢でいると、更に静脈血栓塞栓症になりやすい、という事みたいです」
「なるほど。確かに今、クリスティーヌは妊娠している。どうしてもアターミに向かわねばならない用が出来た為に、彼女が安定期に入っていた事もあり、馬車で向かう事にしたのだ」
やっと子爵の口から子爵夫人が妊娠している、という言葉が出た。今までは、知り合いでもない赤の他人、それも平民相手にデリケートな話をする必要はないと思っていたのだと思う。
だけど私の話で話した方が良いと判断してくれたらしい。
「まぁ!それでは水ではなく、白湯の方が良かったのかしら!?
あぁっ!話に割り込んでしまってすみませんっ」
ナタリーさんが驚いたように声を上げて、だけど『貴族様に話しかけてしまった!罰せられる!』と思ったみたいで慌てて口を閉じた。
白湯の方が良かったか?というのは、お腹を冷やさないようにということかな?
「大丈夫ですわ。ですが、そうですね。あまり体が冷えるのも良くないでしょうから、出来れば白湯をもう一杯頂けないかしら?」
「は、はい!今すぐっ。お作りしてお持ちします!!」
子爵夫人に微笑まれながら声を掛けられたナタリーさんは慌てて部屋を出て行った。ユッカさんが『お母さん、ずるい』とボソリと呟いていたのは、たぶん部屋を抜け出せた事に対しての言葉なのだろう。
「あの、まだ体調は回復していないと思いますが、今はどんな感じですか?
それから子爵様たちは急遽この宿屋にお泊まりになる事になりましたので、子爵様たちも、宿屋の方でも準備が足りないかと思います。
クリスティーヌ様の体調改善を試みるにしても、客室の方に移ってからになると思うので、白湯のように、何か用意して欲しいものとか、こうして欲しいなどの要望はありますか?」
「えぇと、まだ腰は少し痛いの。申し訳ないけれど、もう少し腰に負担のかからないように寝台を整えて頂けないかしら?」
「あ!そうですよね。妊娠中は腰に負担がかかって、横になっても眠りが浅くなったりもしますよね。今すぐ寝台をもっと腰に負担がかからないように整えてきますね!」
ユッカさんは子爵夫人が喋り終わらないうちに、そう言って笑顔で部屋を出て行った。とても嬉しそうな笑顔で。
・・・逃げられた。
まぁ、いいか。ナタリーさんたちも貴族と一緒の部屋にいるのもそろそろ限界っぽかったら、何かアドバイスが欲しい時は聞きにいけばいいか。
逆に無理に待機してもらって悪かったかな。
ーーーーーーーーーーーーーーー
ここまでお読みいただきありがとうございます。
「いいね」やエールでの応援もいつもありがとうございます。
アシュトンさん曰く、子爵夫人を鑑定した時にもう一人分出てきたらしい。といっても、性別と両親の名前ぐらいで赤ちゃんの情報は殆ど無かったらしい。
だけどそれで十分じゃない?
というか、子の親が鑑定で分かるってDNA鑑定しなくても簡単に分かっちゃうって凄くない?
あ、でもスキル持ちの人が悪用したり、知ってはならない秘密を知った!とかで消されたりとかもあるかも?
だからどこまで鑑定出来るのか?は、秘匿した方が良いんだろうね。アシュトンさんも私を鑑定した時に言ってない事があるようなことを言っていたものね。
「君の言っている病気は、その・・・。妻は本当にその病気なのだろうか?」
「それはまだわかりません。ただ、その病気は長時間同じ姿勢で足を動かさないことで、血のめぐりが悪くなり、血液が固まりやすくなった結果、血の固まりが肺の方まで流れて詰まったりする事で発症すると言われています。
初期症状では、片足、特にふくらはぎや足首の腫れや浮腫が出るそうです。その他にも鈍い痛みや皮膚が赤黒くなったりするらしいです。
クリスティーヌ様は、現在足の腫れやむくみなどの症状はありますでしょうか?
子爵様、ご確認をお願い出来ませんか?」
実はアシュトンさんの鑑定で、子爵夫人の片足にむくみが出ているのは判っている。けれど鑑定した事は内緒なので、一先ず子爵に確認してもらう。
両足が浮腫んでいる場合は妊婦さんだから、という判断されるかもしれない。
だけど私自身は妊娠・出産はした事はない。保健の授業で習った程度の知識しかないから、実体験のあるナタリーさんやユッカさんにも部屋にいてもらっているんだよね。同じ事を言うにしても、私よりも経験者の人の言葉の方が受け入れやすいだろうしね。
そしてたぶん、アシュトンさんは子爵夫人の体を確認する可能性もあるから部屋を出て言ったんだと思う。
足でさえ見せるのははしたない、だとか言われる世界だからねぇ。子爵夫人はまだ着替えもしていないから、外出着のままだけど、それでもベッドに横になっている姿を夫以外の人に見られるのも恥ずかしい事なのだろう。
「ティーヌ、足を見せて。・・・確かに。少し肌の色が赤くなっているような。それに片足だけ腫れている」
「では、その腫れた部分を指で押してみてください。へこんまま、直ぐに元に戻らない場合は足の血のめぐりが悪くなっている証拠でしょう」
「む。本当だ!ティーヌの美しい足がこのような事にっ!!」
いや、今は子爵夫人の足が美しいかどうかは問題ではないよ。そんな言い方をするから、子爵夫人の頬が赤く染まっているじゃん。
「静脈血栓塞栓症の疑いあり、というところでしょうか。
ただ、頭痛や腰が痛くなったり、足が浮腫んだり、というのは妊娠中にも起こりやすい症状ではあるんです。
それで起こりやすい妊婦さんが狭い場所で長時間同じ姿勢でいると、更に静脈血栓塞栓症になりやすい、という事みたいです」
「なるほど。確かに今、クリスティーヌは妊娠している。どうしてもアターミに向かわねばならない用が出来た為に、彼女が安定期に入っていた事もあり、馬車で向かう事にしたのだ」
やっと子爵の口から子爵夫人が妊娠している、という言葉が出た。今までは、知り合いでもない赤の他人、それも平民相手にデリケートな話をする必要はないと思っていたのだと思う。
だけど私の話で話した方が良いと判断してくれたらしい。
「まぁ!それでは水ではなく、白湯の方が良かったのかしら!?
あぁっ!話に割り込んでしまってすみませんっ」
ナタリーさんが驚いたように声を上げて、だけど『貴族様に話しかけてしまった!罰せられる!』と思ったみたいで慌てて口を閉じた。
白湯の方が良かったか?というのは、お腹を冷やさないようにということかな?
「大丈夫ですわ。ですが、そうですね。あまり体が冷えるのも良くないでしょうから、出来れば白湯をもう一杯頂けないかしら?」
「は、はい!今すぐっ。お作りしてお持ちします!!」
子爵夫人に微笑まれながら声を掛けられたナタリーさんは慌てて部屋を出て行った。ユッカさんが『お母さん、ずるい』とボソリと呟いていたのは、たぶん部屋を抜け出せた事に対しての言葉なのだろう。
「あの、まだ体調は回復していないと思いますが、今はどんな感じですか?
それから子爵様たちは急遽この宿屋にお泊まりになる事になりましたので、子爵様たちも、宿屋の方でも準備が足りないかと思います。
クリスティーヌ様の体調改善を試みるにしても、客室の方に移ってからになると思うので、白湯のように、何か用意して欲しいものとか、こうして欲しいなどの要望はありますか?」
「えぇと、まだ腰は少し痛いの。申し訳ないけれど、もう少し腰に負担のかからないように寝台を整えて頂けないかしら?」
「あ!そうですよね。妊娠中は腰に負担がかかって、横になっても眠りが浅くなったりもしますよね。今すぐ寝台をもっと腰に負担がかからないように整えてきますね!」
ユッカさんは子爵夫人が喋り終わらないうちに、そう言って笑顔で部屋を出て行った。とても嬉しそうな笑顔で。
・・・逃げられた。
まぁ、いいか。ナタリーさんたちも貴族と一緒の部屋にいるのもそろそろ限界っぽかったら、何かアドバイスが欲しい時は聞きにいけばいいか。
逆に無理に待機してもらって悪かったかな。
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ここまでお読みいただきありがとうございます。
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