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ハドソン領 花街道(仮)編 ワトル村
診察
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護衛騎士がイベリスから連れてきた医者は、白髪混じりの五十代ぐらいの男性で、いかにも『私が医師です』というような雰囲気のお医様だった。
イベリスには貴族向けの高級宿屋が一軒あり、その宿屋と専属契約を結んでいるお医者様とのこと。
スコティッシュ子爵御一行もその宿屋に宿泊する予定だったそうだ。ワトル村に急遽、泊まることになってしまったので、事情説明と宿泊代の支払いも護衛騎士の人に任されていたらしい。
宿屋で医者の手配の話をする際に、アシュトンさんから渡されたハドソン伯爵家の家紋入りの手紙が大いに役立ったと護衛騎士が感謝していた。
騎士服姿ではなかったけれど、スコティッシュ子爵家の使いだという事は、宿屋側もなんとか信じてくれたらしい。昨日の分の宿代をその場で支払ったからかもしれないけれど。
だけど医者の手配については、最初は町医者の住所をメモされた紙を渡されただけだったとか。
不慣れな町でメモ書きを頼りに医者の家を探すのは時間が掛かる。それに訪ねたところで、ワトル村まで診察に来てくれる保証もない。
護衛騎士が、せめて医者の家まで案内を頼みたいと受付の人間に頼めば、『持ち場を離れるわけにはいかない』と、あっさりと断られてしまったそうだ。
そりゃそうだ。けれどだからと言って急病人がいるから診てくれる医者を探しているのに、その対応もちょっと、いや、かなり微妙。他の従業員に代わってもらったり誰かに案内させるぐらいの対応は出来たはず。
護衛騎士は医者の家の住所は教えて貰えたのだから、と仕方なく引き下がろうとしたところでアシュトンさんから渡された手紙の存在を思い出した。アシュトンさんからは『困った時に宿屋の店主に渡すように』と言われていたらしい。
「実はイベリスの町の町長がその貴族向けの宿屋の経営者なのですよ。代々、イベリスの町で貴族向けの宿屋を経営していて、先々代の時に王家より爵位を賜って準男爵になったそうです。その後、イベリスの町長にも名乗りを上げて、今は息子から孫へと引き継がれています」
『やりたい!』と手を上げれば町長になれるものなのか。以前のイベリスの町長が世襲制だったとしても、準男爵とはいえ、身分でいったら貴族になった人から言われてしまえば・・・という感じかな。
まあ、町長という役職にどれほどの旨みがあるのか?と考えると、それもまた微妙ではあるよね。イベリスの町はこの街道沿いの町村の中では一番人口も多く、貴族も多く宿泊している町だそうだ。
だけど所詮は田舎の町で、そもそも宿泊客もイベリスを目的としてやって来るわけではない、アターミへ観光に行く途中の宿泊場所でしかない。イベリスの地名は知っていても町に観光名所があるわけでもない。
田舎の町長よりも貴族相手の宿屋を経営している方が収入は良いと思うけど、名誉職的な感じで町長になりたかったのかなぁ。
「貴族の中には町医者に診てもらうのを嫌がる方もいますし、ましてや診てもらいたいのは子爵夫人です。
町医者を連れてきて診察を拒否されるような事があった場合、万が一、夫人の容体が悪化した際に取り返しのつかない事態になる危険性もあります。
言及される事はないのかもしれませんが、やはりハドソン領内でそのような事が起こる可能性は避けたいですからね。
貴族向けの宿屋でしたら、常駐ではなくともお抱えの医者がいるはずです。普通はその医者を紹介するものですが、万が一を考えて私の方で手紙を用意させて頂いたのです。
但し、スコティッシュ子爵の名ですぐに紹介されれば手紙は不要になります。ですから困った時のみ渡すように、と伝えていたのです」
子爵夫人の診察が終わるまで、食堂で待機していた私たちにアシュトンさんが教えてくれた。
町医者に診てもらうのを拒否する貴族もいる、というのが驚きだったけれど、実際にそういう事があるからアシュトンさんは手紙を渡したのだろう。
結果的にハドソン伯爵家が関係している、となって宿屋側が快く?お抱えの医者を送り出してくれたわけだ。
そして診察の結果はというと、『旅の疲れが出たのだろう』と言われ、『よく休み、栄養があり消化の良いものを適度に食べさせてください』という言葉だけだったらしい。
子爵はなんとも言えない微妙な表情で、イベリスの街へと戻るお医者様を見送っていた。
え?
これ、私、大丈夫?
無駄に心配させるような事を言った、と罰せられたりしないよね?
ーーーーーーーーーーーーーーー
ここまでお読みいただきありがとうございます。
「いいね」やエールでの応援もいつもありがとうございます。
イベリスには貴族向けの高級宿屋が一軒あり、その宿屋と専属契約を結んでいるお医者様とのこと。
スコティッシュ子爵御一行もその宿屋に宿泊する予定だったそうだ。ワトル村に急遽、泊まることになってしまったので、事情説明と宿泊代の支払いも護衛騎士の人に任されていたらしい。
宿屋で医者の手配の話をする際に、アシュトンさんから渡されたハドソン伯爵家の家紋入りの手紙が大いに役立ったと護衛騎士が感謝していた。
騎士服姿ではなかったけれど、スコティッシュ子爵家の使いだという事は、宿屋側もなんとか信じてくれたらしい。昨日の分の宿代をその場で支払ったからかもしれないけれど。
だけど医者の手配については、最初は町医者の住所をメモされた紙を渡されただけだったとか。
不慣れな町でメモ書きを頼りに医者の家を探すのは時間が掛かる。それに訪ねたところで、ワトル村まで診察に来てくれる保証もない。
護衛騎士が、せめて医者の家まで案内を頼みたいと受付の人間に頼めば、『持ち場を離れるわけにはいかない』と、あっさりと断られてしまったそうだ。
そりゃそうだ。けれどだからと言って急病人がいるから診てくれる医者を探しているのに、その対応もちょっと、いや、かなり微妙。他の従業員に代わってもらったり誰かに案内させるぐらいの対応は出来たはず。
護衛騎士は医者の家の住所は教えて貰えたのだから、と仕方なく引き下がろうとしたところでアシュトンさんから渡された手紙の存在を思い出した。アシュトンさんからは『困った時に宿屋の店主に渡すように』と言われていたらしい。
「実はイベリスの町の町長がその貴族向けの宿屋の経営者なのですよ。代々、イベリスの町で貴族向けの宿屋を経営していて、先々代の時に王家より爵位を賜って準男爵になったそうです。その後、イベリスの町長にも名乗りを上げて、今は息子から孫へと引き継がれています」
『やりたい!』と手を上げれば町長になれるものなのか。以前のイベリスの町長が世襲制だったとしても、準男爵とはいえ、身分でいったら貴族になった人から言われてしまえば・・・という感じかな。
まあ、町長という役職にどれほどの旨みがあるのか?と考えると、それもまた微妙ではあるよね。イベリスの町はこの街道沿いの町村の中では一番人口も多く、貴族も多く宿泊している町だそうだ。
だけど所詮は田舎の町で、そもそも宿泊客もイベリスを目的としてやって来るわけではない、アターミへ観光に行く途中の宿泊場所でしかない。イベリスの地名は知っていても町に観光名所があるわけでもない。
田舎の町長よりも貴族相手の宿屋を経営している方が収入は良いと思うけど、名誉職的な感じで町長になりたかったのかなぁ。
「貴族の中には町医者に診てもらうのを嫌がる方もいますし、ましてや診てもらいたいのは子爵夫人です。
町医者を連れてきて診察を拒否されるような事があった場合、万が一、夫人の容体が悪化した際に取り返しのつかない事態になる危険性もあります。
言及される事はないのかもしれませんが、やはりハドソン領内でそのような事が起こる可能性は避けたいですからね。
貴族向けの宿屋でしたら、常駐ではなくともお抱えの医者がいるはずです。普通はその医者を紹介するものですが、万が一を考えて私の方で手紙を用意させて頂いたのです。
但し、スコティッシュ子爵の名ですぐに紹介されれば手紙は不要になります。ですから困った時のみ渡すように、と伝えていたのです」
子爵夫人の診察が終わるまで、食堂で待機していた私たちにアシュトンさんが教えてくれた。
町医者に診てもらうのを拒否する貴族もいる、というのが驚きだったけれど、実際にそういう事があるからアシュトンさんは手紙を渡したのだろう。
結果的にハドソン伯爵家が関係している、となって宿屋側が快く?お抱えの医者を送り出してくれたわけだ。
そして診察の結果はというと、『旅の疲れが出たのだろう』と言われ、『よく休み、栄養があり消化の良いものを適度に食べさせてください』という言葉だけだったらしい。
子爵はなんとも言えない微妙な表情で、イベリスの街へと戻るお医者様を見送っていた。
え?
これ、私、大丈夫?
無駄に心配させるような事を言った、と罰せられたりしないよね?
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ここまでお読みいただきありがとうございます。
「いいね」やエールでの応援もいつもありがとうございます。
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