喜びには感謝を!【32話完結済み】

無職無能の自由人

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美しい感謝の世界

不思議ちゃん(ズタボロ)

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 アリアの母親を確保して一泊だけした。屋敷には帰らなかった。
 朝起きると既に収入が200万ポイントを超えている。これは俺の想像より人口が多かったのか?感謝が大きかったのか?どちらにせよ早く離れた方がいい、大きな感謝はそのまま大きな期待となって俺に覆い被さってくる。
 町の人口は減らなかった。だからこそこの町はまず間違いなく兵糧攻めされるだろう。侯爵軍もそのつもりで陣を構えていたのだと思う。こんな所に残る意味はない。

「アリアもう出よう、遅れると面倒に巻き込まれる」
「申し訳ありません、遅かったみたいです」
 家の周りを武装した兵が囲んでいた。


「罪人ルカ、大人しく縛につけ!」
「ん?なんでこんな事をする?お前たちを救ったのは俺と俺についてきた難民達だ。お前たちには感謝の心は無いのか?」
「うるさい!黙ってついてこい!」
「感謝の心は畜生でも持っているんだぜ。お前たちは畜生より下、ムシケラと同じだ。恥を知るなら今すぐ失せろ」

「馬鹿が思い上がるな!1人で何が出来る!捕ら……」
 言いきる前に首を落とした。感謝の心を持たないなら羽虫と変わらない。何の価値もない。
「お前たちも感謝の心を持たないのか?」
「ひっ!い、いえ!感謝しております!」
「なら感謝を表せ」
「え、あ、ルカ様万歳!町を救っていただいてありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
「ルカ様万歳!」

 ヨシ!それでいいんだ。毎日感謝を表せ。今日お前たちが死ななかったのは感謝のお陰だ、感謝の気持ちがお前たちを救ったのだ。
「行くぞ、早く出た方がいい」


 3人で町を出る。重い荷物を背負って歩かせるとすぐに泣き言が出たので幌馬車を出した。ホムン御者が付いているので俺も顔を出さずに済む。
 門で一悶着あると考えていたがすんなり通れた。流出を防ぐ為に門を閉じていると思ったのだが?これは既に食糧危機が見えているのかもしれないな。少しでも人を減らしたかったか。

 しかしこの後どうしようかな。
 考えていた筋書きは、ヴァルデス家が滅び、有りもしない金鉱を探して領内を荒らす侯爵家の横暴、その中で立ち上がる者を見つけて解放軍を仕立てるつもりだった。俺の立ち位置はパトロン兼参謀だな。スポンサーとして俺の名前を沢山出しつつ、感謝の還元で配給を出す予定だった。
 今から同じことをしようとしたら前線で戦えってなるよな。そうしたらこっそり能力で配給品を産み出すのは難しくなる。前線で誰かの指示で戦うだけとかクソ過ぎるわ。
 いっそ俺が率いて、終わったら顔でも変えるか?でも誰が俺の顔変更を望むんだよ、面倒くさい制限だなぁ。
 まぁ次に動くのはまた領都が攻められてからだな。感謝のおかわりに期待。





 とりあえず難民でも拾うかと考えたが、大きな感謝を稼いだ後なのでちまちま稼がずにどっしり構える事にした。つまりは拠点づくりだ。難民は偶然拾ったら助けれてやればいいだろう。

 手始めに、すぐに甘えたことを抜かすアリアを利用して、馬車を快適なキャンピングカーへと改造する。
 狭い車内を押し広げる空間操作、お手入れ不要の謎の水洗トイレ、燃料不明のコンロ、次々と便利グッズを注ぎ込んで時代にそぐわぬスーパー馬車の完成だ。
 前世のキャンピングカーは移動時に設備を利用できなかったが、こちらでは関係無い。寝転がって音楽を聞きながらお菓子を食べている間に移動出来るのだ。
 あれこれ要望しては休憩と称してだらだらお菓子を食べるアリア。こいつには戦乱など関係無い様子。母親も最初は頭を抱えていたが、今では恥ずかしがりながらもお菓子を食べている。
 アリアは共犯者ではなく、俺の道具でしか無い。アリアがどれだけ綺麗事を言った所で俺の行動が大して変わることは無い、これでいいのだ。

 ある日、たまには外で食事をしたいという願いを引き出してバーベキューの用意をしていたら、匂いに釣られて難民が現れた。
 話を聞くと、村を焼かれた連中が近くに集まってサバイバル生活をしているらしい。
 父上は焼かれた村の再興なぞ一切手を付けていないようだ。まぁ食い物もそれを買う金も無いだろうしな、焼かれてない村の方も悲惨なことになっていそうだ。
 難民にはパンをくれてやり、明日行くから伝えておけと言って帰らせた。勿論その後はゆっくりバーベキューだ。アリアの母親がテールスープを拵えてくれたのが一番うまかった。



「さて、食料を用意して難民の拠点に行くぞ。ノンビリするのは一旦終わりだ」
「移動ですね、馬車に乗っておきます」
「残念だが荷車に差し替えだ」
 ホムン休憩所の指輪に馬車を仕舞い込み、代わりに荷馬車を出す。こっちは荷馬車と言う名の大八車みたいな奴だ。

「えー!やだやだやだやだ綺麗なトイレとおしりが痛くならないソファーがいいですぅ!」
「この子は!やめなさい恥ずかしい!(ちらっ)気持ちは分かるけど!(ちらっ)」
 親子だなぁ。
「駄目だぞ。拠点を整えるからそっちの環境整備を頑張れ。難民は入れないようにするから」
「ぐぬぬぬ。あ、ありがとうございます」
「それでいい」


 荷馬車に食料を積んでいく。俺一人では能力を使えないのでアリアに願いを言わせるのだが、アリア自身が特に困っていないので引き出せる食料は多くない。食料を欲しがる難民の中に放り投げたらそれだけで増えるだろうが、荷馬車に積める分以上を望むことはなかった。

 聞いていた場所に移動すると、難民たちが集まっている場所を見つけた。
 100人ほどが集まっている。ただの難民集団としては大規模な物だと思う。一応枯れ木や葉を使ってシェルターを作っているようだ。近くに小川が流れており、当面生きる環境だけはあるんだろう。
 リーダーは居らず、幾つかの村や領都から逃げ出した者が集まって出来たらしい。街道からの獣道すら無く、ホムンじゃなければ荷物を引いてくるのも難しい場所だが、水や食料を求めていると自然に集まり易い場所なのだろう。
 最低限排便場所などの約束事が保たれていて気に入った。こいつらを使って拠点を作ろう。


 まずはパンだけを配る。このパン1つで2日は生きられるだろう。感謝の収支も上々だ。
 その中に意外な人物が居た。前世で妹を治療してやったガキだ。
 領都のスラムに居たはずだが逃げ出したか。鼻が効くのか何なのか、まぁあそこにいるよりはマシかもな。
「動けない妹がいるんだ、2個くれよ」
「先に妹を連れてこい、俺が診てやる」

 このガキは荷車をかっぱらって妹を乗せて移動したらしい。見るからにやばい状態の娘、誰も関わりたがらなかったお陰でここまで来れたのだろう。
 前世で見たのと同じ、目が潰れてやせ細り腹が突き出たガキ。だが死にかけなのにここまでの移動に耐えた事に違和感を感じた。
 前世では魔法の様な儀式で一瞬で治療したが、ゆっくりと経過を見た方がいいかも知れない。

「大分悪いな。だが安心しろ、ちゃんと治療してやる。暫く預かるからお前も一緒に来い」
「わかった、なんとかしてくれ」
 とりあえず「治療」を使っておいた。1度だけでは焼け石に水、後で点滴を繋げて様子を見ながら治していこう。





 無償のパンを配りきった。感謝は1P使って10Pくらい返ってきたかな。この方式は前世で散々やったが、大規模かつ継続的にやらないと大きな収益にならない。やりすぎたら怒られるしな。
「1日分の食料と引き換えに1日働く者は居ないか。食料を作るためだ、成功すれば村を作れるぞ」

 これにより50人の開拓班が結成され。嫌がるアリアを班長に据えた。
 それでも俺の期待に応え、やれ道具が悪いだの、土が悪いだの、発育が遅いだの、収穫が少ないだのと文句を垂れて俺を頼る。そして産み出される鉄の農具、柔らかく栄養豊富な土、2日で実る謎の種、大量に収穫される農作物。
 能力から直接出すよりも遥かに勝るコストパフォーマンスを誇り、難民たちは笑顔を取り戻した。
 だが感謝の半分がアリアに注ぎ込まれていってないか?

 俺の嫉妬を受けて焦るアリアを眺めて、こんな気楽なのも悪く無いなと思えた。ほんの一瞬だけな。
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