喜びには感謝を!【32話完結済み】

無職無能の自由人

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悲しい希望の世界

愛の選択肢

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「ルカさま、あの女の子が目を覚ましたそうですよ」
「ん?あぁあの妹か。もう興味ないから帰していいぞ」
「あの子、可愛いですよね。本当に興味無いんですか?」
「確かに容姿は整っていたが子供じゃないか。まぁいいか、愛の研究の為に会ってみるか」


 少女は客間のベッドに寝かされていたが。今は起き上がって食事も終えたようだ。
 名前はメグといったか?兄、じゃなくて姉の方は名前すら知らないな。聞いたことあったっけ?
「あ、あの。ルカ様。この度はお救いいただき、ありがとうございました」
「うん。うん?お前どこでそんな話し方を?」
「あの、取り憑いた悪魔はいなくなったんですが、悪魔の知識とかは残ってます」
「ほぉ」
 殺したんじゃなく浄化したからかな。まぁ少女も生きていられてよかったんじゃないか?

「メグはかしこいなぁ」と呟いている方はスラムの貧民丸出しだが、妹の方は知性も見た目も貴族子女だ。将来は兄たちの妾とかなっていそう。
 そう言えばこの姉、妹を愛しているんじゃないか?食べなかったのは庇護者として利用する為だと思うが、愛を知る悪魔は姉が自分を愛する様に誘導したんじゃないだろうか。

「メグと言ったな。愛とは何か分かるな?」
「は、はい」
 少し顔を赤らめて俯いてしまう。あざといな、こういうので相手の愛を誘うのか?アリアは無表情だが、姉の方は興奮気味だ。
「お前!メグに変な事を言うな!」
「これが愛の虜という奴か。メグ、自覚はあるのか?」
「は、はい。でも、私の意思では……」

 姉の方はがうがう威嚇を続けている。悪魔が憑依したメグに誘導されて愛していることが分かるが、メグは嬉しそうではない。
 これじゃあ俺が利益の為に感謝を引き出していたのと同じだ。利益のために愛を引き出し、不要になったから困惑しているんだ。
 俺の求める愛はこれじゃない。心を蕩かし心酔させたあの愛が欲しいんだ。

「悪魔が育てる愛ってのはこんな物なのか?」
「ど、どういうことでしょう?」
「ルカ様は物語に出てくるような愛を求めているんですよ」
「え、あぁ。そういうお歳なんですね」
「ちがう」


 愛にも色々あるようだ。メグが姉からの愛が嬉しくない理由はなんだろう?
 悪魔の仕業だから?誘導された物だからか?姉に愛されても嬉しくない?それともメグ自身の問題なんだろうか。
 感謝の時はわかりやすかった。大きさは数字に表されるし、それを目安にして純粋な感謝などを感じられる様になった。愛は数値化されないから掴めない。

 いや、違う。そうだ、基準だ。俺には愛の道標もあったんだ。あの母上の愛こそが道標、あれを再現すればいいんだ。
 あの時あったのは純粋で大きな感謝。同時に純粋で大きな愛があったんだと思う。
 大きな愛には大きな感謝が付いている。だが大きな感謝に大きな愛が付いている訳では無い。

 うーん、ぐるぐる回っている。これ以上考えても仕方ないな。実践しなくちゃ掴めそうにない。
 とにかく愛と感謝は近いものという事が分かった。同じではないが近しいもの。
 愛を意識しながら感謝を集めてみよう。打算的に愛を受けるのでなく、相手の自発的な愛を育てるんだ。


「メグ、今何をしてもらったら嬉しい?」
「え、あ、私達は…私達に仕事をください!」
 選択の時だ。メグの事をしっかり考えるんだ。
 仕事。ナゼ仕事がほしい?簡単だ、こいつらにはまともな家も服も食事も無いからだ。
 つまり本当に欲しいのは衣食住、それと引き換える為の金。だがそれを無償の慈悲に縋るのではなく、手に入れる為の仕事を求めているんだ。

 メグは衣食住を求めている、そして同時に自身の誇りも求めている。衣食住をそのまま与えるのは間違いだ。言葉の通り仕事を与えるべき。
 だが彼女はまだ幼女と呼べる歳だ、体力もない、不安も大きいだろう。しかも賢い彼女は適当な誤魔化しは見破るだろう。それは自尊心を傷つける行為だ。
 これらを全て考慮した上でかけるべき言葉は。

「丁度いい、お前には色々聞きたい事もあるからな。俺の相談役として雇おう。姉の方はアリアの補佐として頑張れ」
「あ、ありがとうございます!頑張ります!」

 潤んだ目を一杯に開き、顔を赤くして頭を下げた。浮かび上がる感謝の数値は61。
 これは正解だろう。やった事はないがギャルゲーってこんな感じじゃないか?
 相手の立場、状況、気持ち。これらを考えて本当に必要なものを与える。ただ欲しい物を与えるのではなく、相手に寄り添った正解を導き出すんだ。

 やれる、やれるぞ。この調子で愛を植え付け、育んでいくんだ。いつか大きく育った愛が俺の心を蕩かすまで。俺の為に俺を愛してくれ。
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