如月さん、拾いましたっ!

霜月@如月さん改稿中&バース準備中

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19話(10)打ち上がるランタンを見ながら、気持ちを打ち明けるーー。

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「如月、遅くない?」
「混んでるんじゃね?」


 スマホをいじりながら、卯月と2人で待つ。かれこれ、30分以上待っている気がする。まぁ、混むかぁ。こういう場所は。もう少し待ってみよ。



 ーー10分経過



「……いやいやいや、遅いでしょ!!」
「うんこじゃない?」
「うんこ言うな」


 卯月は特に気にも留めず、スマホを見続けるけど、俺はやっぱり気になる。それに、こんなに待てない!!


「ちょっと様子見てくる」


 卯月に声をかけ、如月が向かったお手洗いへ行く。そんなに混んでないし。


「って居ないし!!! 何故?!」


 ずっとスマホ見ていたせいで、出てくる瞬間は見ていない……。まさか、お手洗いから、自分の元へ帰ってこないなんて思いもしなかった。


 でもなんで? え? 原因、俺? うそ、なんかした? あ。手を繋ぐのを断った……? いや、でもあれは如月が気にするかなって思ったから断ったというか。


 あれ? でも誘ってきたのは如月からか。断る必要って……。


 なくね!!!!(がーーん)


 むしろ、ひどいことをした説。あんまり自分から誘わない如月が、言ってきたのに断ったとか……2度と手なんか繋がないとか言われそう!!(※正解)


 でもどこに行ったの?! この短時間で?! また放浪癖?! もぉやめてよぉ~~!! お手洗いから戻り、卯月に話しかけた。


「如月、いませんでした」
「マジかぁ、どこ行く?」
「とりあえず連絡を……」


 手に持っているスマホで如月へ電話をかける。


 繋がった。


『あ……睦月さん? 今戻りますから、待っていてくださいね』
「え?」


 ぶつっ。


 会話、3秒。切るの早。


 その場を動かず、如月を待ち続ける。待てる男だな、俺は。遠くの方から如月が歩いてくる姿が見えた。やっぱりどっか行ってたんじゃん。なんだよ、連絡なしに。


「どこ行ってたの?」


 じぃっと如月を見つめると、如月の目が泳いだ。なんだ? 気になる。


「えっ? いや、どこも……」
「なんか、あるの?」
「えっ? な、なにもないですけど……」


 如月に焦りの色が見える。なんか変だ。一度疑うと、疑念で頭がいっぱいになっていく。


「何?」
「べ、べつに。ちょってぷらっと歩いて帰ってきただけというか……」
「ふぅん?」


 なんか、如月が香水くさい。付けないでしょ、アナタ。旭と居たんじゃないの? 俺に黙って密会ですか? 何してたの? 旭へのヤキモチで顔が曇る。


「今からどこへ行きますか?」
「ランタンの打ち上げイベントがあって、見に行きたい!」
「そんなのあるんだ」


 モヤモヤするけど一旦保留にしよう。展示場を出て、イベントホールへ向かう。陽は少しずつ暮れ始め、風が涼しくなっていく。ランタンが打ち上げられるには、良い頃合いかもしれない。


「ちょうど今から始まるね!」
「どうせなら、チケット買って参加すれば良かったかな?」


 ランタンを手に持つカップルや、家族たちを眺める卯月の表情はどこか、羨ましそうで。そっと、卯月の頭を撫でると、俺を見て、卯月が微笑んだ。


「いいよぉ、別に。一緒に見ることが出来ればそれで」
「ありがとう」


 人の手から空へ浮かぶランタンを見つめる。LEDが中に入っている、色とりどりのランタンは淡い光を放ち、空高く打ち上がっていく。とても綺麗。隣に立つ如月が話しかけてきた。


「……えっと……嘘は吐きません。旭さんと居ました……色々思うところがあり……睦月さんの元へここへ戻ってきました……」
「ふーん?」


 空に昇るランタンではなく、地面に視線を落とす如月を、横目で見つめる。


「『如月弥生』として、セクシュアルマイノリティを世間に公表します」


 如月はパッと顔を上げ、俺を真っ直ぐ見つめた。


「え? なんで? 良いんじゃないとは言ったけど……如月自身が苦しくなる道は望んでないよ」
「ふふ、ありがとうございます。でも…これは……その……私が睦月さんと……えっとぉ……うぅん……」


 如月の頬が赤い。声が小さくなり聞こえづらい。口篭って、歯切れが悪い。でも、聞き取りたくて、そっと如月に寄り添う。


「なに? よく聞こえないんだけど?」
「えっ……ちょ……はぁあ……」
「早く続き言ってぇ~~」


 赤くなった顔を、手の甲で隠す如月をじぃっと見つめる。


「……む、睦月さんと……一緒に色んなこと楽しみたいし……睦月さんの喜ぶとことはしたい……ので……そ、そうすると……か、隠しているより……公表した方が……睦月さんと……い、色んなことが出来る……」


 なんか可愛いこと言ってる。顔が見たい。如月の手首を掴み、顔からずらず。恥ずかしそうに、目線が逸らされた。


「ぇえ~~っそんなこと思ってくれるの? 如月って俺に対してなんていうか……塩みたいなとこ多いし……どこか面倒くさそうだし……だからすごく嬉しい!!」


 嬉しさのあまり、目が細くなる。口角が上がり、顔いっぱいに笑顔が広がった。


「それでですね……て……ん~~っ……えっと……て……あの…その……」
「なにぃ?」


 如月が恥ずかしそうに人差し指で頬を掻きながら、ちらちらと俺を見てくる。その姿が愛しい。


 旭へのやきもちなんてどうでもいい。如月が、赤面してまで、何を言い出そうとしているかも分かってしまい、顔の綻びが止まらない。


「……手…繋ぎませんかっ! 睦月さんっ!!」


 顔を真っ赤にして、ギュッと目を閉じ、言い切る如月に、胸が矢で貫かれる。可愛い。キュン死にする!! こんな37歳ありかよ。顔がふにゃけちゃう~~。


「うんうん~~繋ごぉ~~あの時は断ってごめんねぇ~~もう2度と断ったりしないよぉ~~」
「お兄ちゃん、デレやばい」
「いやぁ~~もぉ嬉しくてぇ~~」


 如月の指先が俺の指先を触った。


 そんなんじゃ『繋いだ』にならないよ。仕方ないなぁ~~。


 手の甲に指がつくまで、ゆっくりと、指を差し込んでいく。指がこれ以上進まないくらい、奥まで入ると、手のひら同士にあった隙間は閉じた。


 如月をちらりと見る。視線に気づいた如月は柔らかく微笑み、口を開いた。


「ランタン、綺麗ですね」
「やっぱりチケット買えば良かった。そうしたら、一緒に打ち上げられたぁ……残念」
「私はランタンの打ち上げより、これで良かったです」


 繋がれた手が持ち上げられ、如月が俺に見せた。嬉しくて、如月に少しだけ顔を近づける。


「じゃあ~~、手繋いでるついでにちゅーしちゃう?」
「……う~~ん。ここ、人多いですし、周りから見て、メンズ同士の公然のキスはどうかと……」
「大丈夫だよ、イケメン×イケメンなら推せるから」


 躊躇う如月に対して、卯月がウインクをして、俺たちの背中を押した。


「どういうこと……」
「妹が腐っていく……」
「もういっそ、推してもらいましょう」
「ぇえ~~?」


 目を軽く閉じると、口唇が優しく重なった。


 指先が絡まり、触れ合う手と手。重なる唇。相手が男とか、女とか、周りが自分たちの関係をどう思おうが、そんなのは関係ない。


 この繋がっている手の先にいる、如月のことが好き。ただ、それだけ。それはきっと如月も同じのはず。


 如月が俺と色んなこと楽しみたいように、俺も如月と色んなこと楽しみたい。もっと喜ばせたいよ。


 如月は何をしたら喜んでくれるのかな?


 空に放たれるランタンを見つめながら、隣に居る如月のことをぼんやり考えた。


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