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25話(15)ヤンデレとメンヘラの正しい共存法?!それでも俺は手を離さないーー。
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玄関の扉が閉まる音が、胸の奥で響いた。笑顔とぬくもりに満ちた『家族』の空間が、急に手の届かない場所になったようで、ひどく寂しくなった。
「睦月さん。私と卯月さんが居ますよ」
如月が何かを悟ったように、俺と卯月を2人まとめて抱きしめた。
「うん、そうだね。分かってるけど、家族っていいなぁって思っちゃった」
これが、失言だった、と思った時には既に遅くて。
「……大丈夫、睦月さんはまだ家族を持てると思います」
如月は寂しそうに笑い、一度、目を閉じて、深呼吸すると、抱きしめていた手を離した。
「……一度、距離を置きましょう。私はここに残ります」
(……こんなこと言って、私は睦月さんにどうして欲しいんでしょうか)
「何言って……」
「もう一度、睦月さんは自分のこと見つめ直すべきです」
「え? 何? なんで? 急に? それって別れるってこと?? 意味わからない。やだ」
気づけば、両手で如月のシャツを強く掴んでいた。離したくないし、離れたくない。絶対に一緒に帰る。
「だって、私じゃ家族、作れないじゃないですか。家族って良いなって思えたのなら、考え時だと思いますよ」
全てを諦めたような視線が突き刺さる。何をそんなに諦めているの? この一瞬で、俺との関係の全てを諦めきれるの? 唇を噛み締め、涙を堪える。
「やだ。離れない。なんで? 一緒にこれからのこと考えていこうって、俺、言ったよね? 同意、してくれたよね?」
如月のシャツを握る手に力が入る。
「うん……でもこれでいいのかなって。今思いました。今に始まったことでもないですが……。『家族』が欲しいって思った時にはもう遅かった、みたいには、睦月さんにはなって欲しくないなと」
シャツを握る俺の手を如月がそっと外した。
「俺はそれも全て織り込み済みで如月と付き合っている!!」
「でもそれが如月にとって負担で、重荷にしかならないなら、俺は……如月と別れてもいい」
その言葉を口から吐いた瞬間、溜まっていた涙が溢れ、胸がぎゅっと締め付けられた。快感で流れる涙とは全く違う。
「なんで……そうなるんですか……」
卯月が突然手を挙げた。
「はい、喋っていいですか」
「え?」
「え?」
引き裂けそうな胸が、卯月の声で、少しだけ穏やかになる。
「お互いがお互いのために動こうとしてるけどさ……結局、『誰かのため』じゃなくて、『自分がどうしたいか』が大事だと思うんだよね」
「…………」
「…………」
なんだか旭にも同じようなことを言われた気がする。
「自分が決めた道の先に今よりもっと楽しいことがあるって思えるか、どうかじゃない。まぁ離れてみて見えることもあるんじゃね。知らんけど」
涙を手の甲で拭い、手を挙げた。
「はい、喋って良いですか」
「どうぞ」
「どうぞ」
「俺は、如月とずっと一緒に居たいんだよ! 別れた先に、今より楽しい未来があるなんて、これっぽっちも思えない! 如月がいない人生なんてーー考えられない! 朝起きた瞬間から絶対涙出るし、毎晩布団で枕濡らす未来しか見えない!」
「メンヘラじゃん」
「メンヘラ違うし。ちょっと寂しがり屋で如月が大好きなだけだし」
卯月が引く中、如月が手を挙げた。
「はい、喋ってもいいですか」
「どうぞ」
「どうぞ」
「私は……私の気持ちは睦月さんとずっと一緒に居たいです。『自分自身がどうしたいか』で話してしまうと、私は睦月さんを箱の中に閉じ込めて、私だけのものにしたいくらい愛してます。睦月さんに誰かと家族なんて作って欲しくないです。今流しているその涙すら全て愛おしい」
「やばい、病んでる」
「普段フツーに振る舞ってるけど、皐さんと付き合ってた時点で病み属性なの薄々気づいてたし驚きはない……」
「人をヤンデレみたいに言わないでもらえます?」
如月はムッとした。
(どっちかというとヤンデレの類だろ)
「お兄ちゃんも如月も一緒に居たいって思ってるなら、別れる必要なくね?」
「それはそうですけど……」
卯月が俺と如月を交互に見る。
「だから~~家族を持たなければいけない、なんてないし、家族の形も人それぞれでしょ。それに俺には家族はこうあるべきみたいな理想もないし」
「それに家族だって、他人。同じ家に住んでるのに、みんな違う人生歩んでる別の人間だしぃ~~」
「なんですかそれ~~」
「家族へのこだわりはないよって話。だから一緒に帰ろう?」
如月に手を差し出すと、手が重なった。
「今日ごはん如月のおごりね」
「ぇえ~~なんでですかぁ~~」
呼んであったタクシーにみんなで乗り込んだ。行き先を伝え、一息つく。卯月がぼそりと呟いた。
「……結局、ヤンデレが情緒不安定になって、ちょっと暴れただけだった件について」
「違いますって」
「はぁ~~あ、びっくりした。もうやめて? 心臓に悪いから」
「睦月さんがメンヘラだなんて知りませんでした」
「ヤンデレに言われたくないし」
「なんか如月のせいで急激に疲れた」
如月の肩にもたれかかると、卯月も如月にもたれかかった。
「もう~~2人してもたれかからないでくださいよ」
卯月は目を閉じて、言った。
「如月だいすき。如月とお兄ちゃんが笑ってると安心する。私にとっては、どっちも大事で、だいすき」
俺は、卯月の言葉に一言、加えた。
「だからどこにも行かないで」
静かに瞼を落とす。ラジオが流れる静かな車内で、一言、声が聞こえた。
「……ありがとう。どこにも、行かないよ」
卯月と俺の背中に腕が回り、軽く引き寄せられた。
「運転手さん、すみません。駅から行き先を変えます。少し遠くなりますがーー」
タクシー行き先は佐野家。長い帰省。誰かに気を使う必要がない、久しぶりの自分たちの時間。3人で肩を寄せ合いながら、少しだけ、眠りについた。
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