如月さん、拾いましたっ!

霜月@如月さん改稿中&バース準備中

文字の大きさ
193 / 371

29話 やっと会えた時は愛しさしかない!

しおりを挟む

「あ。睦月さん。私、明日から1週間くらい実家に帰ろうかと思います」

「は……?」


 からん。


 睦月の手からスプーンが落ちた。私の言葉を聞いて、思考停止の如く、固まっている。睦月の表情が少しずつ曇っていくのが分かる。


 睦月さんの表情が暗くなるのも当たり前。お盆に実家へ帰ったばかりなのに、また帰ろうとしている。今度は1人で。先ほどまであった睦月の笑顔が消え、少し不安になる。


 でも私はどうしても実家へ帰りたかった。今後の執筆活動のため、少し1人になって考える時間が欲しい。自分の家だと睦月さんが簡単に来れてしまう。


「な、なんで……?」不安そうに見つめてくる。

「調べ物とか、取材とか、行きたいところもあるので……あと千早の仕事の手伝いも兼ねて」ぎゅ。Tシャツが睦月に掴まれる。


 少し都合の良いような言い訳。千早に仕事の手伝いを頼まれているのは本当だ。まぁどうせ、いつもの手伝いだと思うけど。


「それは……実家に帰らなきゃいけないことなの……? 千早さんの手伝いって何……?」ごもっともな質問である。


 1週間顔を合わせないというのは、私に依存しがちな睦月さんにとって、かなりの不安要素でしかないのだろう。でもどうにか許可を得たい。


「あっちの方が本もいっぱいありますし……実家の方が都合よくて……。千早の件は仕事の相談に乗るようなものですよ。悩んでるみたいですから」なだめるように睦月の頬を撫でた。

「やだ……」ですよね。


 まぁ、元々「いってらっしゃい」なんて優しい言葉で背中を押してもらえるとは思っていなかったし。睦月さんの、依存、束縛、独占欲が私には絡みついている。そう簡単に通る話ではない。


 愛してるがゆえの重い愛情。でも、イヤだとは思わない。汚い感情も全て曝け出して、愛してくる睦月さんは、愛しい。


「1週間でちゃんと帰ってくるから」睦月の両手を手で包み込み、目を見つめる。
「やだぁ……やだやだやだぁ~~!! 1週間有休取る!!」包んだ手が振り払われた。

「こんなことで有休無駄遣いダメ!!! 有休大切!!!(知らんけど)」駄々をこねる子供みたいにTシャツを引っ張ってくる。

「じゃあ5日!!! ちなみに1週間行く場合、千早さんと会う日は俺も行く」どういう条件?!


 5日の場合は来ないってこと? 千早の仕事の手伝いに恋人連れてくるってどうなの?! デートじゃないんだから!!! 社会人とかやったことないけど、それはダメな気がする!!! なんとなく!!!


「5日の場合は千早と会う日は来ないってことですか?」訝しみながら訊く。
「5日の場合も千早さんと会う日は俺も行く」どんだけ!!!


 5日も1週間も何も条件が変わってないのでは?!?! むしろその場合、1週間行った方が2日お得(?)ということか!!! おけ!!! 1週間で打診!!!


「なら1週「なお、1週間の応募は締め切られました」睦月は無表情で告げた。

「は、はめられたぁあぁぁああ!!! 何これ!!! 選択肢5日しか残ってない!!! なんか良いように丸め込まれたぁあぁあぁ!!!」

「良かったね、予定が決まったよ。如月」なんて邪悪な笑顔!!!


 もはや、鬼!!!! 顔は笑ってるのにオーラが黒い!!! こわすぎる!!! これ以上の交渉は状況を悪化させる!!! やめよう!!!


「5日で大丈夫です……」敗北。哀しみで俯く。
「千早さんとはいつ会うのかな?」顎を掴まれ、睦月の方を向かされる。こ、こわい。


 笑ってるけど、千早と会おうとしてること内心めっちゃ怒ってる?!?! オフで会うわけじゃないし!!! 今事前報告してるのに?!?! 


「……3日後」顎を離してもらえない。

「そっかぁ、おっけー。有休取るね。はぁあぁぁ~~っ……こんなことならもういっかいシとけば良かったぁ~~っん」睦月の顔が近づき、唇が重なった。少し強引なキス。

「ん……」


 色々思うところはあるが、これでいいのかも。1週間顔が見れないのは私もさびしい。それに睦月さんがこの条件で納得してくれているなら、それに越したことはない。


「如月、やっぱり3日で……」甘えるように見つめてくる。
「だーめ。もうだーめ! そんな顔しても5日です~~」


 不満を持ちながらも譲歩してくれた、その優しさが心に沁みて、睦月を胸元へ抱き寄せた。


 ぎゅ。


「5日間いちゃいちゃできない。その間に欲求不満になっちゃったらどうしよう!!!」背中に回る睦月の腕が強く締まる。

「いや、それはいつものように(?)ご自分で」爽やかな笑顔で伝える。
「だってだって……1人じゃなんか物足りないんだもん!!!」


(この人は何を言ってるのかな?)


「明日早いので……も、もう寝ますんで……(これ以上、えっちに付き合いたくない)」睦月を自分から剥がし、和室へ向かう。



 がしっ。



 背中から抱きつかれた。



「恋人に言うことないの??」



 言うこと? なんだろう。ありがとう? おやすみ? 行ってきます(?)なんだ?? さっきの会話の流れから考えろ!!! マスターベーションが物足りないだっけ?!?! えーっとえーっと!!! あぁね!!! なるほど!!!



「後ろでマスターベーションすれば良いんですよ」拳を握り、自信満々に答える。
「何を言ってるの?」冷めた表情で見つめてくる。

「え? なんか物足りない的な話だったので、1人でも満足できる案の提示を……」何かミスった?

「もぉーー!!! そうじゃなくて!!! 愛してるでしょぉおおぉおおお!!!」



 背中から怒りで睦月が頭をぐりぐり擦りつけてくるのが伝わり、なんだか愛らしく思えて、笑みが溢れた。



「はいはい。愛してますよ、睦月さん」



 後ろにそっと手を回し、睦月の頭を撫でた。



 ーーーーーーーーーーーー
 ーーーーーーーー
 ーーーー
 *



 ーー夏季休暇も終わり、日常が戻る。翌日。



「睦月さん私、行ってきますね~~」
「朝ごはんも俺と食べずに行くと言うのか!!! この薄情もの~~!!!」玄関で靴を履く如月の背中をぐーで殴る。ぽかぽか。

「だって時間が迫ってますし……」如月は腕時計を見た。


 普段はおしゃれで高そうな腕時計をしているが、今日はお揃いの腕時計をつけてくれている。離れていても同じ時を刻む、腕時計。お揃いのものをつけているのだから、想われているのは間違いない。


 むー。でも朝ごはん一緒に食べたかった!!!


「これ……電車の中で食べたら」


 ランチクロスで包んだ2つのおにぎりを如月の目の前へ突き出す。炊き立てのご飯で作った鮭おにぎり。家を出てから、お腹が空かないように愛情を込めて作った。なんとなく気恥ずかしくて、顔を横に逸らす。


「わざわざ作ってくれたんですか?」
「そうだよ……お腹空くかなって……」ぎゅ。如月の腕が俺を包む。

「ありがとうございます。嬉しいです。電車で頂きます~~っ……苦し!!!」そっと背中に腕を回し、きつく抱き寄せる。ぎゅむ。


 2日間耐え抜くためのエネルギーチャージ&いちゃ溜めは必須!!! これをしなければ3日後に会う前に死んでしまう!!! もっと、もっと、ハグを!!! そして愛情を吸収せねば!!!


「2日分愛情えねるぎぃーーチャーーーージ!!! ぁあああぁああ!!!! さびしぃいいぃい!!!! いやだぁああぁあ!!! 行かないでぇええぇえ!!!」ぎゅううぅ~~。

「ちょっ!!! 何?!?! 力強っ!!! 睦月さん!!! 苦しい!!! 今更行かないは無理ですよ!!!」なでなでなで。


 後頭部が優しく撫でられる。そんな優しいなでなでじゃ足りない。全ッ然足りない!!! 充電出来ない!!! 最低ライン、キスぐらいはしてもらわないと!!!


「如月、行ってきますのちゅーして」じぃっと如月を見つめる。
「そんな可愛く見つめないで。もう仕方ないな~~」如月は睦月に顔を近づけた。


「ん……っん…んはぁ…ん…ふ」唇が少しずつ触れ合う。ゆっくり、丁寧なキス。その優しさが、不安な気持ちを落ち着かせる。


「ん…はぁ……ん…んっ…んはぁ…ん…ふ…はぁ…ん」呼吸が合ってくると、唇を少し開け、如月を迎い入れる。キスも暫くお預け。いっぱいしておかなくちゃ。


 舌を大きく絡める如月に全てを委ね、触れ合わせる。これが終わったらもう出発してしまうかと思うと、やめたくない。


 もっとキスしたい。


「…ん……んん…んっ…はあぁっ……睦月さん、ストップ。もう行かないと」求める俺に対して、緩やかに離された。


 キス終わっちゃった。さびしい。もう少し、もう少しだけ、俺に愛を!!! らぶを!!! ぱわーを!!! 2日間生きるために!!!


 やっぱりそのためにはアレしかない!!! でもでも~~っ。卯月がリビングにいるのにぃ。これは生き抜くためだ!!! 致し方なし!!! 誘おう!!!


「如月、えっちしよ」如月のシャツを両手で掴む。
「いやいやいや……」ぎゅう。シャツを引っ張る。目を瞑って何か格闘している。

「如月ぃ……えっちしよ?」うるうるうるじぃ。

「だぁああぁあああぁあ!!!! だからもう行くんだってばあぁああぁあ!!!! えっちそれは出来ません!!! もぉ!!! ちょっとだけですからね!!!」如月は荷物を床に叩きつけた。

「やったぁ~~でも、えっちがだめならおくちでするしか……こんなところで恥ずかしい」もじもじ。背徳感で頬が染まる。

「くっ。いいよ、する!!! します!!! なんか分かんないけどあざとい!!! ずるい!!! 可愛い!!! ぁあああぁああ!!! 断れない!!!」如月は目元を押さえて泣いた。


 ーー如月は睦月に弱かった。玄関先でいちゃいちゃ致すこと20分。


「ぁっあっ…きさらぎっ…やっだめっ…きもち…あっはぁ…俺っ…んっ出ちゃうっ…はぁあっ……」もういちゃらぶチャージ満タンっ。

「ん……満足した?」挑発的な笑みが少しゾクっとする。
「うん……ありがと……」如月を優しく抱きしめた。ぎゅ。


 このハグも最後。次は2日後。さびしい。

 
「……もう行きますね……(私、朝から頑張った)」疲労感のある如月に少し申し訳なさを感じる。



「いってらっしゃあ~~い」



 満面の笑みで如月を送り出す。



「……行ってきます」



 如月は薄く微笑み、家を出て振り返り、睦月を見つめた。




「?」

「…………」




 最近、睦月のことが鬼嫁に思えた如月であった。




 ーーーーーーーーーーーー
 ーーーーーーーー
 ーーーー


しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

処理中です...