如月さん、拾いましたっ!

霜月@如月さん改稿中&バース準備中

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42話(3)想っていることは同じなのにすれ違う。大丈夫? 何も大丈夫じゃないーー。

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「前、触る?」
「いや……イッちゃうからいい……」


 触れることを拒否されたように思えて、少し俯く。私が始めたことなのに、なんだか胸が苦しい。


「キスする……?」


 俯いた顔を上げ、もう一度、睦月に訊く。


「ううん、いいや。ごめん」
「うん……大丈夫」


 大丈夫? 何が? 全然大丈夫じゃない。睦月さんにキスもえっちも断られたことがつらい。心がナイフで抉られているみたいだ。


 身体を起こすと、睦月も起き上がった。睦月を見る。目が合うと、スッと逸らされた。睦月は立ち上がり、キッチンへ行ってしまった。


 14日後に仲良しになる、どころか、触れ合わない時間が、会話を減らし、私と睦月さんの間に溝を作っているなんて、本末転倒だ。



 いつも一緒に居るはずなのに、心が離れていっている気がする。

 

 私は一体何をしているのだろう?



 いつもなら睦月さんの後ろを追いかけ、背後から抱きしめていたかもしれない。



 でも今はそれすらも出来ない程、断られたことに自信をなくし、その場を動けないでいる。



 もう、どうしていいか分からないよ。



 *




 思わず、断ってしまった……。


 深く舌を絡め合っただけで、ムラムラは最高潮だし、後ろを攻められて、気持ち的には、もう爆発しそうな域まで来ている。


 なのに、如月とえっちすることが重く感じて、身構えてしまう。前も触って欲しいし、キスもしたい欲求はあるのに、気持ちが前向きになれない。


 シたいのに、シたくない。


 このクソゲーのコンセプト的に、絶頂はまだ出来ない。それを良いことに、えっちを断り、如月と距離を取った。最低なことをしているのは分かる。


 心と体が違う反応をするせいで、頭がおかしくなりそう。


(はぁ……なんか気まずい)


 身体を起こし、立ち上がる。一瞬、如月と目が合った。断った手前、如月の目を見ることができず、すぐに逸らす。


「…………」
「…………」


 誘いを断っているのだから、如月の気持ちを考えればフォローした方が良いに決まってる。でも如月と顔が合わせられなくて、逃げるようにキッチンへ行った。


 絶対に良くない。俺の言動が如月を傷つけているかもしれない。いや、確実に傷つけている。如月はメンタルが弱い。そんなの分かっている。


 謝って、自分の気持ちを伝えた方が良いに決まっている。


 なのに、気が進まないのは何故?


 冷蔵庫からお茶を取り出し、コップへ注ぐ。ごくごく。アレ? 最後に如月へ自分から抱きついたのっていつだっけ?


 よく思い出せない。なんだかんだ、触れ合わないで、ここまで来ている。キスやハグはして良いはずなのに。


 寝る前にぎゅーってすることはある。このクソゲーが始まってから寝る前以外で、如月に一度も抱きつきに行っていない……。


 でも如月だって、俺のこと抱きしめてないよね?

 
 なんだかお互いのこともあまり話さなくなったような気がする。


 一緒にいる時間も減ったかも?


 遠目で如月を見る。えっちした場所から動いていない。声をかけるにしても、何を話しかけて良いか分からない。


 いつもなら『ぎゅっ』て後ろから抱きつき、甘えて済ませてきたことも、今はどんな風に如月に抱きついて良いか分からない。


「……このまま、あと4日も過ごしていいの?」


 この先に仲良くなる結末が本当にあるの? 答えが出ないまま、キッチンを離れ、脱衣所へ向かう。


 歩きながら如月の横を通り、チラッと様子を見る。何かを考えているのか、ぼーーっと、体育座りをしていた。


 如月のことは好きだけど、今は触れあいたいという気持ちが思うように湧かない。申し訳ないな、と思いつつ脱衣所の扉を閉めた。



 ーーーーーーーーーーーー
 ーーーーーーーー
 ーーーー
  
 *



 ーー翌日



「あ……如月おはよう」
「おはようございます」



 薄い笑みを浮かべ、私に挨拶をする睦月さんに違和感がある。


 昨日はあの後、色々考えてしまい、全然眠れなかった。結局、抱き合って寝ることも、何か話すこともなく、ただ『おやすみ』とだけ伝え、お互い寝た。


 リビングのローテーブルの上にはいつも通り、朝食が並べられている。いつもと何も変わらない日常のはずなのに、睦月さんと距離を感じる。


「ふぁあ~~お兄ちゃん、如月おはよ」
「もうご飯食べるよ」
「はぁい」


 3人で食卓を囲む。睦月さんと目が合わない気がする。これは昨日のせい? でも拒否したのは睦月さんでしょ……?


 無理強いもしていない。拒否された私が避けるなら分かるけど、なんで貴方が私を避けるの? 分からない。


「いただきまぁす」
「いただきます」
「……いただきます」


 睦月さんの作ったご飯は相変わらず、美味しい。黙々と作られた朝食を食べる。卯月が私と睦月を交互に見つめ、口を開いた。


「なんかあった?」
「なんも」
「ふーん」


 なんもって……。これは何もないことで、いつも通りなの? ご飯を食べながら睦月を見つめる。


「何?」
「別に……」


 心なしか冷たい気もする。


「ごちそうさま」


 食べ終わった食器を持ち、流し台へ向かう。そういえば、最後に抱きしめてコミュニケーションを取ったのはいつだったかな。


 あれ? あれれ?


 急に胸の中が不安になる。私だけじゃない。睦月さんだって私に抱きついたり、そういったコミュニケーションを取りに来ていない。


 リビングの床に座り、ぼーっとスマホをいじる睦月の元へいく。スマホをいじっているのも珍しい。


 抱きしめてみる……?


 また拒否されたらどうしよう。怖い。でもこのままじゃ、どんどん距離が離れていく。それはダメだ。


 大丈夫、きっと、大丈夫。自分に言い聞かせる。


「何見てるんですか?」


 睦月の後ろへ回り、そっと腕を伸ばし、睦月の肩に触れる。


「ちょっ……」


 腕で軽く、振り払われた。咄嗟に肩に触れた手を離す。私に抱きしめられたくなかった? 触れ合いたいと思うのは私だけ?


 気持ちがどんどん沈んでいく。


「あ、いや……えっと……違う……ごめん……」
「ううん、良いんです。ごめんなさい」


 優しく微笑み、軽く、睦月の頭を撫でる。頭を撫でたのも久しぶりかもしれない。この先にあるのは別れでは? 睦月の頭を撫でる手が小さく震える。


 少しずつ崩れていく関係性に不安が募る。震える手で、最後にそっと、睦月の頬に触れた。嫌がらない。私を大きな瞳で、じっと見つめる。


「愛してますよ。私は大丈夫ですから、伝えたいことがあるなら、なんでも言ってくださいね」
「え……?」


 頬から手を離す。今にも涙が溢れそうになるのをグッと堪え、笑顔を作る。


「私はいつでも貴方の幸せを願っています」
「は……?」


 睦月に背を向け、洋室へ向かう。必要最低限の持ち物と読みかけの本をショルダーバッグへ入れ、オーバーサイズのシャツとテーパードパンツに着替える。


 急に肩が掴まれ、後ろに引かれた。振り返ると、睦月が不安そうな顔で立っていた。


「待って。どこいくの?」
「え……家?」


 分からない。だって行き先、決めてない。


 気持ちはぐちゃぐちゃ。これ以上、傷つきたくない。1人になりたい。もしかしたら別れるかもしれない。別れることに対して、気持ちの準備も出来ていない。


 私は大丈夫? 何も大丈夫じゃない!


 自分が思っている以上に心がボロボロになっている。


「なんでそんな泣きそうな顔してるの?」
「え……さぁ……?」
「ねぇ、帰ってくるよね?」


 睦月にシャツが掴まれる。なんでそんなこと言うの? 貴方の気持ちが分からない。睦月の手をシャツから剥がす。


「……帰ってくる」
「それはいつ?」
「…………」


 答えられない。


 別に帰ってこないつもりはない。少し自分の気持ちに整理をつけるだけ。いつ終わるか分からないことを、軽々しく約束することも出来ず、黙って洋室を出た。


「待って!!! ねぇ、話し終わってない!!! 出ていくのは、俺が腕で如月を払ったから?!」


 玄関へ向かう足を止め、後ろから追いかけてくる睦月を見る。今度は何故、貴方が泣きそうな顔をしているの?


「べつにそれだけでは……ほら、仕事行く時間になりますよ」
「やだ……行きたくない!!! 俺が仕事に行って帰ってきたらもう居ないんじゃないの?!」


 何も言えず、目線だけが下がる。


「ねぇ?! 何か言ったら?!」
「……居なくなったりなんかしませんよ」


 ぎゅっと睦月を抱きしめる。そう、居なくなったりなんかしない。貴方が私に別れようと言わない限り、私はずっとそばにいる。


 でも、今だけは1人にして。


 睦月さん。


 久しぶりに抱きしめた睦月の感触。少し高い体温に甘い匂い。愛しいよ。睦月の肩を持ち、自分から離す。


「大丈夫ですよ」
「何が……? ねぇ、何が大丈夫なの?」



 再び睦月に背を向け、玄関へ向かう。何も大丈夫じゃない。自分への言い聞かせに過ぎない。これで良い。全て睦月さんに委ねる。



 自分の気持ちを睦月さんに全てぶつけることが出来たら、どんなに良いか。



 でも嫌われるのが怖くて出来ない。



 靴を履き、玄関扉を開け、外に出た。



 秋晴れとは程遠い、曇り空。雨でも降るかもしれない。どこに行くかなんて決めてない。ただ、行く宛もなく、真っ直ぐ歩き続けた。



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