329 / 371
57話 如月のために作るお守り。家に届く悪質な年賀状に不安が押し寄せるーー。
しおりを挟むーー5日 佐野家
如月の実家から帰ってきた。帰ってくるなり、如月はこの家を出ていく準備を始め、胸が苦しくなった。
昨日は乗り切れる!! そう思ったのに、この家に帰ってきたら、急に居なくなるということが現実的になってきて、決まっていた覚悟が揺らぐ。
洋室で座って荷造りする如月を、襖の陰からじぃっと見つめ、声をかけた。
「何か手伝うことある?」
「必要最低限しか持っていかないつもりなので…特には……ありがとう。そんなところにいないで、おいで」
如月のそばに寄ると、すぽっと如月の脚の間におさめられた。ぎゅうっと如月が俺を抱きしめる。
「明日から離れるなんてさびしいです」
「……離れたくない」
「同棲なんかやめちゃおっか」
「……出来ないくせに」
少しずつ埋まっていくスーツケースがお別れのカウントダウンに思え、見ていられず膝に顔を埋める。
「これ、新しい住所です」
「なんで手帳……?」
「あげる」
「ありがとう……?」
2024と書かれた茶色のクラシカルな手帳を如月から受け取った。別に、メールで送ってくれればいいのに。
「後ろの方に住所が書いてあるから」
「分かった。でもこれ、もらっちゃっていいの?」
「今年の手帳は持ってますから」
「なるほど」
「ところで今日の予定はどうしましょうか?」
今日の予定……。スマホで時間を確認する。もうすぐお昼。卯月もいるし、どこか遠くに出かけたりは出来ないだろう。個人的にはもういっかいくらいえっちしたいけど!!!
「なんか今、えっちしたいみたいな顔した」
「してません~~」
「目つきがいやらしかったぁ」
「俺だってね!! 毎日えっちしたいと思ってる訳じゃないんだから!!!(嘘だけど)」
「へー」
ばむっ。
如月がスーツケースを閉じると、俺の頬にキスをした。ちゅ。なんていうか、お別れが近いせいか、ちゅーの頻度が増えている。普段もこれぐらいして欲しい。
「如月は何か俺としたいことや行きたいところとかないの?」
「そうですねぇ……」
「訊かれると困るでしょ」
「なんだろう、なんか見つけられない……あ、お守り欲しいです」
「お守りぃ?!?!」
今更?!?! 初詣デート、もう終わってるのに!!!! お揃いで色々装飾品はつけているが、願掛けになるようなお守りは持っていない。
「また参拝に行きますか?」
「う~~ん。パワーストーンブレスレット作る?」
「なんだかご利益のありそうな装飾品ですね」
「形にこだわりがなければ……本のしおりとか……」
「そっちの方が嬉しいかな」
よし!!! しおり付きブックカバーを作ろう!!!
押し入れを開け、ごそごそとあるものを探した。
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
ーーーー
*
どーーん!!!
こたつの上に置かれたミシンとはぎれ布。こたつで勉強している卯月さんは少し困惑している。
「ふふふ、こう見えて俺は家庭科が得意なんだ」
「女子じゃん」
「女子言うな!!! 誰がいつも雑巾とか給食袋作ってきたと思って!!!」
じょきじょきじょき。
なんという、手際の良さ。感心する。真剣な眼差しも可愛い。私のために作ってくれていると思うと本当に嬉しい。
カタカタカタカタ。
布を縫う音が心地よくて、耳を澄ませながら読みかけの小説を開く。もっと睦月さんのそばにいきたい。のそのそ。こたつから出て、膝掛けを抱きかかえ、睦月の後ろへ行く。
邪魔は出来ないから……。
「ちょっとぉ!!!! 背中もたれないで!!! 今ミシンしてるんだから!!!」
「じゃあどこならもたれていいですか?」
「……膝……」
それ自分がやりたいだけじゃないの? ごろんと寝転がり、睦月の腿の上に頭を乗せ、本を読む。時々、睦月が私の髪を撫でた。
「如月、もう出来るよ~~」
「早いですね」
「裁縫は得意ですから!!!」
「女子じゃん」
「女子より女子力は高いはず!!! アイロンかけてくる!!!」
睦月が立ち上がるので、身体を起こす。ブックカバーにアイロンをかけ終わったのか、睦月が戻ってきた。
「しおりつきブックカバー!!!」
「すごいです。縫ってるところ真っ直ぐ……」
作ってもらったブックカバーを今読んでいる本に被せる。ピッタリ。褒めて? 褒めて? と言うように私をキラキラした瞳で見つめてくる。眩しい……。
「ありがとう、とても素敵です。大切に使わせて頂きます」
「それだけ~~?!?!」
「え?」
「『ありがとう、大好きですよ。ちゅ』とかないの?!?!」
なるほど。もっと愛を囁いて、キスして欲しかったと。膨らんでいる睦月の頬をぷすっと手で潰す。
「はいはい、大好きですよ、ありがとう~~」
「愛こもってない!!!」
「愛してる愛してる。めっちゃ愛してる」
「なにもぉ~~ひどい~~」
正面に座る卯月が肘を突いて、呆れた顔で私たちを見てくる。卯月さん見てるけど、いっか。ぶーぶー怒っている睦月に唇を重ねた。
ちゅ。
「これで気は済みましたか?」
「そんなんで俺が足りると思った?」
「いちゃつくなら和室へ行ってくれ」
「あ、年賀状!! 私、見に行ってきます」
身体を求めてくる睦月をサッと交わし、玄関のポストから年賀状を取り出す。輪ゴムで束ねられた年賀状は10枚もない。少なくなったなぁ。
「睦月さ~~ん、年賀状来てました」
「ばあちゃんからでしょ?」
「ですね。あともう一枚……」
年賀状の文面を見てゾッとし、思わず隠す。なんだこれ。筆ペンで大きく死ねと書いてある。誰だ差出人は。宛名面を見るが、書いてない。でも、睦月さん宛に届いている。
「如月? もう一枚あるんじゃないの?」
「あ……いえ。ないです。間違えました」
「やっぱり今年も一枚だけだったか~~」
能天気に睦月さんは笑っているが、全く笑えない。明日、私はこの家を出て行っても大丈夫なのか? 睦月さんに何かあったりしない? 胸に不安が押し寄せる。
「如月? どうした?」
「いや……なんでもありません……年賀状が減るのは少しさびしいですね」
悪質な年賀状を握り潰す。誰が一体こんなことを? まさか北条家が? 睦月さんに嫌がらせするメリットなんてないのでは? なんのために? それとも誰か個人の仕業?
「う~~ん……」
「如月?」
「……なにか最近変なこととかありませんでした?」
「変なこと? ん~~……あ、あった。まぁただの悪戯だと思うけど、エロサイトに携番とアドレスと、少し個人情報漏れた」
「なんですかそれ!!!!」
全身から血の気が引いていく。既に変なことが起きている。何もなかったから良かったものの、何か起きてからでは取り返しがつかない!!!
「なんでもっと早く言わないんですか!!!」
「なんでって……そんな大したことじゃないかなぁって……ごめん」
「もうっ……」
この手の中にある年賀状も見せるべきなのだろうか。あまり見せたいものではないが、見せたことで、少しでも睦月さんの警戒心が強まるならいいのかもしれない。問題の年賀状をこたつの上に置いた。
「なにこれ……」
「きも……」
「ポストに入ってました。理由は分かりませんが、睦月さんが誰かのターゲットになってるのは間違いありません。卯月さんも気をつけて」
絶句する睦月を後ろからぎゅっと抱きしめる。
私が居るから大丈夫だよ、そう言ってあげたいのに、言えない。何故このタイミングで私はこの家を出ていかなければならないのだろうな。
漠然とした不安が私の心をとらえ続けた。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話
八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。
古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる