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14話(6)出て行った如月。俺はケンカしていても顔が見たいよーー。
しおりを挟む「うぅ~~」
ぶくぶく。
湯船に顔を半分沈ませ、泡立てる。湯に浸かっていると、気持ちがリラックスして、少し冷静になる。
「はぁ~~……」
いつもなら『睦月さん、お風呂空きましたよ』ぎゅ。ちゅ。って、少しいちゃいちゃしてから、如月と交代でお風呂に入るのに、今日はこんな状況なせいもあり、ただ、肩を叩かれただけだった。
あたたかい、優しい茶色の瞳も、今日ばかりは冷たくて、鋭いものに感じた。
そんな風に言うつもりなんてなかったのに。なんだかムカついて、すごく嫌なことを言ってしまったし、俺もかなり嫌なことを言われた。
俺から謝る? 如月が悪いのに??
「んーーっ……」
でもお互いがお互いを傷つけたのは間違いない。やっぱり如月に謝らなきゃ。
ざばぁ。
浴槽から立ち上がり、浴室を出た。身体に付いた水滴を拭き、着替えてキッチンへ向かう。冷蔵庫から水を取り出し、コップに注いだ。
「卯月、如月は?」
「あーーなんかしばらく帰らないって言ってたけど?」
は?
卯月の言葉に思考が止まる。帰らないって? 居ないの? この家に?? 注いでいたコップから水が溢れた。
「え? 出て行ったの?!」
「お兄ちゃん、水、溢れてるよ」
「えと……拭いといて!!!」
コップをキッチンカウンターに置き、和室へ急いで行く。襖を開けて、部屋の中を見渡した。如月が居ない。
「うそ……」
リビングに戻りノートパソコンを探すが、パソコンがない。え、本当に? 本当に出て行ったの?! 慌てて洋室も見に行く。
「カバンがない……如月……如月どこ……?」
家中探しても、如月が居ない現実に青ざめる。あぁ、どうしよう。やってしまった。俺はまた、如月を家から追い出してしまった……?
「卯月……如月どこ行ったか知ってる?」
「え? 知らんし。2、3日したら帰ってくるでしょ」
なんであんなこと言っちゃったのかなぁ? 強がってるけど、メンタル弱いの分かってたじゃん。ほんと、俺、最悪。とりあえず電話してみようかな?
謝らないといけないのは分かっているのに、なんとなく、電話をかけることに気が進まない。頭の片隅で『俺からかけるの?』『如月が悪いのに?』と自問自答してしまう。
スマホを片手に持ち、電話を掛けるか悩む俺を見て、卯月がぼそりと呟いた。
「……如月からは折れないと思うよ」
知ってる。そういう人じゃない。それに俺がそっぽを向いた時点で、如月は一度折れている。なのにそこで許さなかった俺が悪い。
電話してみようかなぁ……? 遅くなったら拗れそう。通話画面を開き、如月に電話をかけた。
『おかけになった電話はーー』
あぁ~~。電源切ってる!!! 蒼のことも有耶無耶になってるのに……。でも今は蒼の件より如月との仲の方が重要。
ねぇ、いつ戻ってくるの? しばらくってどれくらい? どこにいるの? 出て行くほどの怒る内容だった? 衣食住提供してやってるって言ったことは流石に謝るよ。
なんで出て行くの? 顔も見たくない? 俺はケンカしていても、同じ家に居たいし、毎日顔がみたいよ、如月。
どうしようーー。
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
ーーーー
*
ーー皐宅
ここ最近、皐はずっと家に帰っても仕事をしている。プロポーズしたその日から、皐の家で同棲を始めた。一人暮らしをしていた家は解約し、全て皐の家へ荷物を持ってきた。
果たして、このプロポーズが正解だったのかはわからない。ずっと原稿をチェックしている皐に声をかけた。
「皐さん、今話せる?」
「なんだい? 湊」
僕の方を見ようともせず、原稿に視線を向けたまま、皐は答える。まぁ、いいけどさ。
「ご両親の挨拶の件なんだけど……連絡してくれた?」
「していない。要るのか? 挨拶は。必要性を感じない」
はぁ? 思わず、眉を顰める。
「いるでしょ……結婚するんだよ?」
「この指輪も必要性を感じない」
「いや、抜かないでよ」
薬指の指輪を抜こうとする皐の指を押さえる。何考えてるの!! この人!!
「何故式を挙げないといけない?」
「そりゃ、親孝行や人生のけじめとして……」
「必要ないな」
「僕は挙げたい。皐さんのウェディングドレスがみたい」
「そうか、頑張れ」
真面目に考えている僕を皐は嘲笑い、頬に触れると、また原稿へ目を通し始めた。完全に他人事。式、挙げる気ないでしょ。
何? そもそも結婚する気あるの? 全くないよね? 全部全部必要ないって……ぁあああああ!!! 僕のこと何も考えてない!!! 本当にムカつく!!!
「結婚は恋愛と違って、お互いの家族を巻き込んでいくんだよ? 分かってる? 2人だけのものじゃないよ? 責任が出てくるんだからさぁ。少しは協力してくれない? 僕だけじゃどうにも出来ないよ」
皐の見ている原稿を掴み、取り上げる。面倒くさそうに、皐が僕を見た。
「はぁ。結婚とは、面倒くさいものだな」
「え?」
「自由もなくなりそうだ」
「ぇえ?」
「仕事は続けられるのか?」
「それは大丈夫……」
「事実婚でいいのでは」
「はぁ?」
イラァ……。結局セフレが良いって!!! あまりの腹立たしさに、皐の顎を掴み口付けする。
「何? なんでそんなこと言うの? 一生人生一緒に過ごすって誓ったんじゃないの?」
「ーーん。誓ってない。湊が勝手に話を進めただけだ」
はぁ? ひど。
「私は事実婚で構わない。正直、こんなに面倒くさいものだと、思わなかった。私は自分の人生が、充実していればそれでいい。嫌なら別れてくれ」
皐が紅茶の入ったティーカップに口付けた。その行為が、大事なことを話している訳ではないように思え、更に怒りが湧く。
「どういうつもり? ここまできて別れてくれ? 指輪も買いましたが!!」
皐の方が僕より給料は高いのに、僕が全額負担した。ボーナス一括払いなんて言えば格好良いが、23歳の僕にとって、結婚指輪の買い物は懐のダメージが半端ない。
「外そう。そして売れば良い」
「今更やめるんですか!」
ティーカップをテーブルに置き、薬指の指輪を外す皐を見て、奪った原稿をグシャっと握り潰した。
「ふ。籍は入れていない。まだ間に合う。良かったな」
バカにしたように鼻で笑うと、僕の手からシワクチャになった原稿を奪い、皐が席を立った。
「はぁ。この家は好きに使うといい。3日位、家を空ける。頭を冷やせ」
「頭を冷やせって……なんで僕が!! 冷やすのは貴女でしょ!!」
椅子に置かれた鞄に原稿を突っ込み、家を出ていく皐の姿をただ、見つめる。
なんなの? 全然結婚に前向きじゃない。独身派の思考回路。結婚を受け入れた訳じゃない? 意味が分からないし、話し合いにもならない。
指輪を選んでいる時は楽しそうだったのに。指輪、置いて出て行ったし。これ、要らないの?
はぁ。ため息をつき、スマホに入っているGPSをみる。玄関門扉のところで止まっている。全く。行くところないんじゃん。仕方ないな。
ドアを開け、外に出る。皐は居ない。え? どういうこと?
なんとなく気になり、ポストを開けると皐のスマホが入っていた。手に取り、スマホを見る。ご丁寧にメモの画面になっており『残念だったな、湊』と文字が打たれていた。
薄く笑って文字を打つ、皐の姿が目に浮かぶ。
この人は~~!! でもこういうところが憎めない。はぁ。溜め息をつき、皐のスマホを片手に家の中へ戻った。
3日後に帰ってくるとはいえ、僕はどうするべきなんだ? 本当に3日後に戻ってくるんだよね? 結婚に前向きじゃないなら別れるべき?
いや、結婚が目的で近づいた訳ではない。でもセフレは勘弁。何これ、イチかゼロしか選択肢がない感じ。
皐の言う通り、まだ籍は入れていない。そもそもどれが本心? 全て? 何故そんなことを言うの? 僕を試しているのか? それとも本当に結婚したくないのだろうか?
分からないーー。
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