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26話(2)清涼感が欲しいからってかき氷になんでもトッピングしていいわけじゃない?!
しおりを挟む「睦月さんが居ません!!!」
リビングの机にはかき氷機とメモ紙が置かれていた。
「『シロップなかった。買い物行ってくる。睦月』ぇえ……今から食べられる訳じゃないんですか……騙された」
暑さのあまり、ズボンのポケットから扇子を取り出し、広げて扇ぐ。あっつ。
「じゃあ、先にかき氷作って待っていようよ」
「いいですね、そうしましょう」
卯月が冷凍庫から氷をボウルに入れ、リビングへ持ってくるのを見て、少しだけ涼しい気持ちになった。
かき氷機のフタをあけ、氷を中へ突っ込む。器をセットして、あとはこれでボタンを押すだけだ。これくらいなら私にも出来る。
「押すね~~!」
卯月がボタンを押すと、細くてふわふわとしたかき氷があっという間に器へ積もった。美味しそう。ふたつの器に柔らかなかき氷が出来上がり、私たちは手を合わせた。
「「いただききまぁ~~す」」
スプーンで掬い、口元に運ぶ。しゃりしゃり。
「……………」
「……………」
冷たくはあるが、味がない。これは、ただの氷だ。
「氷ですね」
「氷だね。もっと、こう、清涼感とか欲しい。暑いから」
卯月がかき氷を片手に、冷蔵庫へ向かった。何かトッピングする気か??
「これはどうだろうか?」
睦月さん特製きゅうりの浅漬け。咄嗟に、持っている器を後ろへ隠す。
「え? いや、それ…かき氷に乗せるつもりですか?」
「うん、素麺って、きゅうり乗せたり、氷入れたりするじゃん? だから逆にかき氷にきゅうりが乗っていても一緒じゃない? 器よこせ」
卯月さんが私の腕を引っ張ってくる!!!
「逆にとは?!?! どういう理屈!!! なんで?!?! イヤ!!! やめて!!! 自分のかき氷に乗せればいいと思います!!! 離して!!!」
腕が引っ張られ、後ろに隠した器が前へ出てしまう。あぁ、これはーー。
敢えなく、自分の器の上に乗せられる睦月さん特製きゅうりの浅漬け。睦月さんのきゅうりの浅漬けは美味しいけど、これはどうなの!!!
「早く食べろし」
「…………」
卯月を薄目で睨みながら、口の中へきゅうりの浅漬けと、かき氷を運んだ。きゅうりのみずみずしい食感と氷が口内に広がる。
しかし、やられて黙っている私ではない!
「なんていうか、ただの冷たいきゅうり浅漬け……。私、せっかくの納涼祭なので、卯月さんにはもっと清涼感を感じて、スースーして欲しいなと思うんです」
お菓子の入っている戸棚を開け、ミントタブレットを取り出して、蓋を開ける。
「とても冷たく感じると思いますよ。夏にピッタリですね~~」
笑顔で卯月の器にミントタブレットを振りかけた。
「そうだねっておぃいいぃいいぃい!!! 何してんだぁああぁあ!!!!」
「ラムネが入ってるアイスと同じ原理です。これも氷なので、タブレットが乗っていても一緒です。早く食べてください」
扇子で扇ぎながら優雅に卯月を煽る。中々食べようとしない卯月に痺れを切らし、スプーンで掬って、無理やり卯月の口の中へ入れた。
「一緒のワケあるかぁあぁぁあぁあ!!! んぐ」
「どうですか? 清涼感ありますか?」
「…………バリボリします。ミントタブレットを口に突っ込まれたのと同じ。氷が生かされてない。私はスースーを生かし、尚且つ氷が生かされる食べ方を思いついた!!!!」
「え? あ、ちょっ?!」
器が卯月に奪われ、新たなかき氷が盛られる。そして、卯月が脱衣所へ向かった。
「え? どこいくんですか?!?! 私の器返して!!!」
卯月を追いかけ、脱衣所に行くと、卯月の手には歯磨き粉が握られていた。まさか……それをかき氷に?
いやいやいや!!! スースーするけど!!! 清涼感あるけど!!! それは無理ですって!!!!!
かき氷に歯磨きをかける卯月を見つめた。
「それは違うと思います」
「チョコミント的な感覚と同じです。それにいつも食べてるじゃん」
「食べてはないです。使ってはいますけど」
これはもう、本体ごと封印するしかあるまい。卯月に気付かれないように、そっと、脱衣所のドアに手をかけた。
「出来たよ、如月」
満面の笑みで歯磨き粉かき氷が差し出された。
「要りません」
私は満面の笑みで脱衣所のドアを閉めた。
「ちょっとぉおおぉおお!!! 開けてよ!!!! 暑い!!!」
ガタガタガタ。絶対に開けない!! ドアを押さえつける。
「あるじゃないですかぁ、そこに清涼感のあるスースーするいい食べ物が」
ガタガタガタ。
「食えるかぁあぁあぁあ!!!」
ガタガタガタ。力強っ! 流石中学生っ!!
「ぇえーーっ!! 自分が食べられないのに、私に食べさせようとするとは、なんて残忍な!!!!!」
ガタガタガタ。すごいパワー! 押さえきれない!!
バン!!!
力負けした。10代恐るべし。
「ふはははははは!!! よくも閉じ込めたな!!! 如月ぃいぃいい!!! うーばー卯月でぇええぇす!!! お届けに参りましたぁあぁあぁあ!!!!」
溶けかけの歯磨き粉かき氷の器を片手で持った卯月が、勢いよく脱衣所から飛び出すと、私の顔に器を押し付けた。
びちゃ。イラ。
歯磨き粉が髪の毛にべたべたとまとわりつく。ミントの香りが漂う水滴が毛先を伝う。とても不快。
こんのがきぃいいぃーーーー!!!!
キッチンへ向かい、冷凍庫にある全ての氷をかき氷機へ突っ込み、ボタンを押す。出来たてのかき氷にハバネロ、鷹の爪、豆板醤をたっぷりかけた。
「お客様~~お待たせしました~~!!! 如月弥生特製、夏の暑さを上回るハバネロかき氷でぇええぇえす!!!」
片手で器を持ち、卯月の顔に当てた。(※良い子は真似しないでください)
「ーーっ辛ぁあぁぁあぁあ!!!! 水っ!!!! 如月みずっ!!!!!」
「水? お客さまぁ入ってますよぉ、その器の中に!!!」
卯月を後ろから抱きしめて座り、ハバネロ氷の器を卯月の口元へ運ぶ。
「あ~~確かに…って違ぁあぁあぁあ!!! 流し込むなぁあぁあ!!! なんたる客への対応!!!! 辛ぁあぁぁあぁあ!!! 店長呼べぇぇええぇえ!!! 店長ぉおぉおぉ!!!!」
卯月が口元を手で押さえ、叫んだ瞬間、背後から、声がした。
「何やってんの?」
卯月と一緒に振り返ると、睦月が冷たい目で私たちを見ていた。
「あ、店長」
「誰が店長だ……」
「店長、新作ハバネロかき氷です」
にっこりと笑みを浮かべ、どろどろになったハバネロかき氷を睦月へ渡す。
睦月は無表情で辺りを見回した。
かき氷でびしょびしょに濡れた床。散らかった浅漬け。そして赤く染まった床にへばり付く歯磨き粉。
睦月は怒りで肩を震わせ、けれど、それを堪えるように、かき氷の器を受け取った。
「これはキミの賄いだよ、ほら食べたまえ」
全ての怒りをハバネロかき氷に込めるように、器が私の顔に押し付けられた。
全て私が悪いとでもいうのか。
「からぁあぁあぁああい!!! 睦月さぁあぁん!!! ひどぉおぉい!!!」
辛さが目に染みて涙が滲む。
「やっぱりお兄ちゃんは私の味方……」
「俺は片付けないから!!! ちゃんと片付けるまで店長のかき氷はなし!!!!」
睦月は布巾と雑巾を私と卯月の頭に被せると、キッチンへ行ってしまった。致し方なく散らかした、かき氷を卯月と片付ける。ふきふき。
掃除が終わり、一度シャワーを浴びて、髪の毛についた歯磨き粉を落とす。よし、これで一旦全てリセット。着替えを済ませ、キッチンにいる睦月の元へ向かった。
睦月の後ろから何をしているのか覗き込む。様々なフルーツを食べやすい形に切っていた。これをかき氷に乗せるのかな? 美味しそう。
「これをトッピングするのですか?」
苺をひとつ、つまみ、口の中に放り込む。
「あっ! 食べないで! そう! 折角だから美味しいかき氷作ろうかなって」
ふと、あることに気づき、いつものように肩に顎を乗せようとして、やめる。ついでに抱きしめようとした手も引っ込めた。
そう、ハバネロかき氷の時点で気づくべきだった。
Tシャツじゃない!!!! 肩むき出し!!! 黒タンクトップ~~?!?! 薄っす!!! 生地、薄っす!!! 謎ネックレスも今日は映え!! 黒が逆にえっち!!! 無自覚誘惑テロ!!!
「如月? ぎゅーしてくれないの?」
振り返り、眉尻を下げ、上目遣いで訊いてくる。どうしても、胸元に目がいってしまう。
「あ……いや…ただでさえ暑いのに…くっついたら余計に暑いかなって……」
その甘えたような表情と色っぽい上半身に緊張して、余計、抱きしめられなくなる。
「まだぁ? 早く後ろからぎゅーして」
これはずるい。ドキドキしながら後ろから抱きしめ、顎を肩に乗せる。一枚しかない薄いタンクトップは、ほぼ素肌に近い。抱きしめている手を胸元でクロスさせた。
「っん……如月、だめ。俺、今、包丁使ってる」
指先が少し突起に触れただけで反応する睦月さんは本当に可愛い。まぁ、でも危ない。我慢我慢。一旦離れよう。抱きしめている腕を離す。
「よし、出来た!! あとはトッピングして食べるだけ!! 氷氷……アレ?」
だが、冷凍庫に氷は、もう1つも存在しなかったーー。
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