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26話(8)これが映えるかき氷パです?!エアコンもいいけどたまには扇風機もいい?!↑改稿
しおりを挟むーー佐野家
結局、睦月さんが変な妄想で暴走したせいで、ぐだぐだして時間が過ぎ、寄り道もデートもできず、なんとなくそのまま佐野家へ帰って来てしまった。
「おっっっそーーい!!!!」
リビングから飛び出してきた卯月さんの怒声が響く。
「ごめん~~色々やってたら、遅くなっちゃった」
睦月さんが片手を合わせて、へらっと謝っている。その姿を、私は少し後ろから見守る。怒っている卯月さんも、どこか嬉しそうに見えた。
「暑くて暑くて暑くて!! もうたまらん!!! 早くかき氷パーティーしよ!!」
そう叫ぶと、卯月は冷凍庫から氷をがさがさ取り出し、ボウルに入れてリビングへ戻ってきた。
これでやっと、念願のかき氷タイムだ。
出かける前に睦月さんが切っていたフルーツをお皿に載せて、机の上へ並べる。
「ぉお~~!!」
卯月の目が輝いている。歯磨き粉やハバネロとは全く違う。これは夢のかき氷。私は睦月の隣に座り、かき氷機に氷をセットしてボタンを押した。
ガガガガガガ……。
削られた氷がふわふわと器に積もり、その上に色とりどりのフルーツをトッピングしていく。手を加えただけなのに、見た目が一気に華やかになった。
「お店みたいじゃん!! めっちゃ映えるかき氷!!」
嬉しそうにかき氷を抱える卯月に、こちらもつい笑顔が移る。
「はい、どーぞ」
睦月にかき氷を手渡すと、ニッと「ありがと」と笑った。その笑顔が可愛くて、胸がきゅんとする。こういうところ、ずるいよ。
三人でそれぞれスプーンを手に取り、声を揃えた。
「「「いっただきまぁーーす!!」」」
「美味しぃ~~~っ!!」
幸せそうにかき氷を頬張る睦月を見ていると、自然と笑みが溢れる。……ほんとに、こういう時間って好きだ。
「あ、睦月さん、アレやってもらわないと」
自分のスプーンですくったかき氷を、睦月の口元へ運ぶ。そう、あれ。これを理由に買ってもらったのだから、義務は果たしてもらう。
「はい、あーーん」
ぱくっ。
何の躊躇もなく、食い気味にスプーンをくわえる睦月さんが可愛すぎる。見てるこっちが照れてしまう。
「……溶けるのめっちゃ早い……」
「まぁ……暑いですからね」
卯月が不満げに呟きながら、器を持って和室へ移動していく。私のかき氷も、もう半分くらい溶けている。
かき氷を机に置き、立ち上がろうとしたとき、Tシャツの裾を掴まれて、ぴたりと動きを止められた。
「え? ちょ、どこいくの? 俺もあーーんやりたいんだけど……」
「いやぁ、暑いんで……また今度で」
一刻も早く、エアコンの下に逃げ込みたい。
「ちょっと!! 何それ!!! じゃあ暑くない方法を考える!!」
暑くない方法?
「と、言いますと?」
私が首を傾けると、睦月は得意げに頷いた。
「扇風機を持ってこよう」
そう言って洋室へ消えたかと思えば、戻ってきた手には、若干黄ばんだ古めかしい扇風機を持っていた。かつては白だったのであろうそのボディには、昭和の香りすら漂う。
コンセントを差し込み、風量を調節している。風量・強。
ぶぉおおおお~~~~!
「あぁああぁあぁ~~~~~~」
扇風機の前に座り、全力で声を伸ばす睦月さんの姿が、あまりにも愛おしくて、思わず頬が綻ぶ。
風を受けて、前髪がふわりと後ろになびく。その姿を目で追っていると、扇風機が首振りを始めた。すると、睦月さんの顔もそれに合わせて、連動するように左右へついていく。かわいい。
気づけば、暑さを忘れ、私は自然と睦月さんのそばへ歩いていた。
ぎゅう。
後ろから睦月を抱きしめて、そっと座る。
「なぁに? 暑いんじゃなかったの?」
睦月が振り返る。その笑みに、私もつい口元が緩む。
「これはこれで、アリかなって思いました」
睦月の頬にキスを落とし、扇風機を正面に固定する。クーラーもいいけれど、扇風機も趣があっていい。強く設定された風が私の長い髪を泳がせる。
睦月と目が合った。何も言わずに、唇を重ねる。穏やかに微笑み合い、一緒に正面を向いた。
「「あぁあぁあぁあぁあ~~~~~~」」
黄ばんだ扇風機から鳴る、風切り音。年季の入った部屋には、ロボットみたいな2人の重なった夏の声が響いた。
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