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偏愛《竜side》
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しおりを挟むある日、ひー兄が検査をするために1週間入院をすることになり病院へ向かった。
俺はいなくなった母の代わりに主治医から現状の説明を受ける。
前回から今回の数値の変化。
それは明らかに悪くなっていることが記されていた。
「常に全身が痛く、徐々に痛み止めが効く時間も短くなってきている」
主治医の説明のあと、ひー兄の病室へ向かった。
「ひー兄」
「竜」
窓際の日差しに照らされた肌は白く、透き通って今すぐにいなくなってしまう不安に駆られる。
「ひー兄…」
検査入院て…なんで?
だってこんなに元気に見えるのに?
いなくなるなんて嘘だ。
「ねぇひー兄、元気になったらどこに行く?」
「竜…」
ひー兄は困った表情で俺を見る。
俺はそんなひー兄を無視して明るく振る舞う。
「俺のライブ見に来てよ!来年ツアーもやるし」
ひー兄が俺の歌声を好きだと言ってくれたから、縁があってバンド活動を始めることになった。
ひー兄とカラオケに行って、部屋を間違えた事務所の人が俺の歌声を聞いてスカウトしてくれて。
「いいじゃん。竜の歌声、俺すごく好きだから。色んな人に聞いてもらいたい」とひー兄が言ってくれたから始めたバンド。
そしてJEESはインディーズNo.1のバンドになった。
ねぇ…ずっと俺の歌声を届けるから。
だから―…
「竜…俺、長くないんだ」
だから現実を突き付けないで。
知ってる。
知ってるよ。
だって数値が悪くなっているって主治医に聞かされたから。
「…そんなわけないじゃん!ひー兄は元気になるよ」
「自分のことは自分がよく分かる。最近体が重い。薬も量が増えた。なかなか効かない」
分かってる。
分かってるから。
だから言わないで―…
「そんなわけないって言ってるじゃん!!」
白い部屋に俺の怒鳴り声が響く。
そんな俺にひー兄は一瞬驚いていた。
「あ、ごめ…」
ダメじゃん俺。
ひー兄にこんな顔させて。
余裕なくて声を荒らげて。
考えないようにしていたのに、俺の目から涙が溢れた。
「何で…何でひー兄なの?どうして?死んでもいいやつなんて他にいるのに…母さんだってもういない…俺は一人になるの…?」
「俺は大丈夫だから。この体がお前じゃなくてよかったよ」
「ひー兄がいなくなるなら生きてる意味ない」
ひー兄に近づいて、ベッドで泣きついて。
優しく抱き締められると涙が余計に溢れる。
「そんなこと言うな」
「嫌だ。せっかくあの人から少し離れられて、ひー兄と同じ学校に行けたのに。短すぎるよ…長く生きられないなんて!」
「俺が生きている間は思い出たくさん作ろう」
「嫌だ!嫌だ!嫌だ」
分かってる。
ひー兄だって生きたいってこと。
分かってるのに俺は子供で。
「泣くなよ。俺はまだ生きてるだろ?」
「嫌だよ。嫌だ。嫌だ。嫌だ嫌だ!」
背中を擦り頭を撫でるのと比例して俺の涙は溢れ出る。
―…生きてる意味なんて、ない
絶望しか無い中、ふと脳内の悪魔が囁いた。
あぁ…そうか
「あぁ、そうか…会える方法があるじゃん」
そうだよ。
いなくなるのが確定なら、ついていけばいいんだ。
「…竜?」
「ひー兄がいなくなっても、すぐに会える方法がさ」
何を悲しむ必要があったんだろう。
すぐに同じ場所へ行けばいいんだ。
「おい…変なこと考えるなよ?」
俺はニコッと笑って立ち上がり、鼻歌を歌いながら窓の外を眺めた。
あの綺麗な空。
いつか先にひー兄が旅立ったら、俺も同じ場所へ行くだけのこと。
不安なことなんて、何も無い。
「久しぶりに会ったのに、上の空だね竜。僕が満足させられていないのかな?」
「も…やめ!アッ―…ん、イクッ!アッ―…父さ…ん」
―…大丈夫、この地獄ももうすぐ終わる
「愛してるよ、竜」
「ありがとうございます…父さん…」
春休みに父に犯され続けて最終日になり、ようやくいつもの地獄から解放された。
明日からまた普通の生活に戻れる。
ひー兄がいなくなったら、俺もやっとこの地獄から抜け出せるんだ―…
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