偏愛-henai-

槊灼大地

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偏愛Ⅱ《ハルカside》

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ある日、曲作りの途中で昼休憩していると竜がギターを持って来た。



「ヴァイアさんに教えてもらって、結構弾けるようになってきました」



「へぇ、何か弾けるようになった?」



「小さい時に聴いたことある曲なんですけど…」




竜はゆっくりとギターを弾き始めた。



そしてそのメロディを聞いて宝は歌い始めた。




「その曲…」




そのギターのメロディは、幼少期に宝がよく口ずさんでいたオリジナルの歌だった。




優しいバラードだが、未だに歌詞は無いため全て「La La La…」のみで歌っていた曲。




「竜…お前アメリカにいたことあるのか?」


「はい。確か7歳ぐらいのときに家族旅行で。2週間ぐらい滞在して、そのとき会った女の子と一緒に歌ってた」




あの当時、宝は言っていた。



滞在してたホテルでアジア人の『ユウ』という少年に出会ったと。



宝は英語以外話せなくて、名前を聞いたら『ユウ』だと言っていたと。



ユウの歌声が好きだから、あの曲はユウと作りたい。だから完成させないと言っていた。


    
「竜…その女の子は宝だ。宝が探してたユウって竜のことだったのか」


「《でも彼はユウじゃないわ。リュウよ。日本人は途中で名前が変わるの?》」


「《リがちゃんと聞こえなくて、竜って言ってたけどユウって聞こえたんだろ》」


「あの時、この曲を歌って星空を見ながらクリームソーダを一緒に飲んだよね?」




宝の大好きなクリームソーダ。
間違いない。




その竜の発言を聞いて、竜がユウだと確信した宝は、竜に飛び付いた。



「―…ユウ」


ぎゅっと竜に抱きついた宝は、普段では考えられないぐらいテンションを上げて話し始めた。



「《やっぱり私はユウの歌声が好き。早く歌えるようになって欲しい。また一緒に歌いたい》」



「竜の声が好きだってさ」


「ありがとう」




俺もいつか竜の歌声が聴けたらいいなと思ってる。










それから1週間後、夜に歌の生放送があるためスタジオへ向かった。



「《ハルカ…リュウは生放送見てくれるかしら?》」


「《あぁ。見るって言ってたよ》」


「《そう》」




20:00



MAR RE TORREの出番がやって来た。



もらっている時間は6分間。



今日はメジャーデビュー曲とアルバム曲のメドレーで2曲続けてやる。




マイクスタンドの前に立ち、深呼吸をして、宝は眼帯を外した。



宝がテレビで素顔を見せたのは初めてでスタッフがどよめく。



俺と陽とヴァイアさんも驚く。



そして再び深呼吸をして、宝が英語で話し始めた。




「《この曲はずっとずっと歌詞が決まっていなくて…でも私はやっと歌詞を決めた。この歌を、大切な人を亡くして悲しんでいるリュウのために歌うわ》」



歌詞が決まってない?
そんなわけねぇだろ。




―…竜のため?


おい、まてよ宝、もしかして…





「starry float」



そして宝は『星空のフロート』とタイトルであろう俺たちも知らない曲名を呟いたあとに、メロディしか決まっていなかったユウとの思い出の曲を歌い始めた。





「La La La...」





この後の旋律は俺も陽もヴァイアさんもずっと聴いてきた。



あぁもうアドリブで生放送でどうにも出来ないのなら、宝に合わせるしかねぇだろとメンバー誰もが思って各自楽器を鳴らした。



starry float

作詞:TaKaRa
作曲:TaKaRa



闇の中 迷子になっても
ずっと君は 一人じゃない
僕の歌で 支えるから
だから 隣で聴いていて


どんな時も どんな場所でも
僕は傍にいるから
君が立てるまで
希望の歌を君に届けよう


雨の日は 傘となり
晴れの日には 太陽を
僕は君を守るから
僕を信じて 裸足のまま
ゆっくりと 歩いていこう


どんな時も どんな場所でも
僕は傍にいるから
君が泣き止むまで
希望の歌を君に届けよう


君が歩けないのなら 僕が背負うから
君が泣くのなら 僕が拭うから
君が悲しむのなら 僕が包むから
だから


どんな時も どんな場所でも
僕らは一緒にいるから
いつか見れる笑顔のために
希望の歌を君に届けよう


苦しくて 理解不能で
嫌になって 無理でもいい
そう だから僕がいるよ


見上げれば まるで星空が
ソーダの泡のように輝く
だから僕は星空の下で
ずっとこの歌を届けるよ

La La La....










「親愛なるJEESの帝真竜。私はあなたの歌声が大好き。だからいつかまたあなたの歌声を聴かせて欲しい。この曲が少しでもあなたのパワーになりますように」




苦手な日本語を流暢に10文字以上続け、カメラに素顔を見せ、竜に敬意を払い、この歌を完成させた宝。




「MAR RE TORREが…バラードかよ…初めて聴いたわ」


「すっげぇ鳥肌…」




周りの歓声は凄まじかった。




「おい宝。お前なぁ…生放送であぁいうのはやめろ。心臓に悪い。メロディ知ってたからアレンジ効いたけど」


「《ハルカと陽とヴァイアを信じてたから。生放送を見ているリュウに歌声をどうしても届けたくて》」


「いいよ宝。あとでプロデューサーには謝っとくから」



珍しくオネエではなく、一人の大人としての声のトーンで宝を撫でるヴァイアさん。




プロデューサーにはやはり進行を変えて生放送だし何が起きるか分からないけど、でも結果よかったと許してもらえたようだ。








―翌日






『MAR RE TORREのTaKaRaが日本語を5文字以上話す』




「そんなのでネットニュースになるなんてすげぇな宝」


「…うるさい」


「はい、安定の4文字サンキュー」



竜はその歌を聴いて感化され、再び歌えるようになり、JEESの帝真竜は復活した。


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