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偏愛Ⅲ≪竜side≫
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俺はベッドに腰掛けて、ハルカさんを見下ろす。
「りゅうー、ただいま」
…こんなにベロベロに酔ったハルカさんて初めてかも。
ニヤニヤしてるの、なんか腹立つな。
「ハルカさん、お水飲む?」
「いい。それより、太もも枕にさして」
そう言ってハルカさんは俺の太ももに頭を乗せ、手で太ももを優しく撫でる。
「気持ちいい。幸せ」
俺はそんなハルカさんの髪の毛を撫でながら言った。
「俺のこと好き?」
「好き」
何を聞いてるんだろう、と自分でも思いながら即答で「好き」と答えてくれたことが嬉しかった。
でも、
その「好き」は、山田先生以上の感情?
「―…一番好き?何番目?」
「順位とかねぇだろ」
「ハルカさん…なんで俺のこと好きになったの?」
山田先生よりも好き?
と聞けばいいのに、聞けない。
でも俺は山田先生よりお金も無いし、頭も良くない。
唯一勝てるのは歌が歌えることだけなのに、山田先生以上に自分の良さが分からない。
他に思い当たるのは、体ぐらい―…?
「んー―…声が好きでさ…最初、歌声聞いて衝撃受けて気になって」
でも、こんな汚れてる俺を好きだなんて…おかしな人だ。
「そしたら笑顔天使じゃん。そんなん好きになるだろ。傍にいてくれたらいいなってずっと思ってた」
「でも体は汚れてるよ。父さんに色々されて…自分でも消えたくなるぐらい、汚れてる」
「お前はキレイだよ。体も声も心も。父親とのことは時間かけて忘れさせてやるから」
俺と父のこと知ってて、それでも好きだと言ってくれるなんて。
「ハルカさん…」
「だから早く俺のモンになれよ…俺はお前の全部受け入れて、守り続けるから。ずっと俺の傍に居て欲しい」
俺の太ももを枕にして泥酔しているくせに、とても綺麗な目をして優しい笑顔を俺に向ける。
「愛してるよ、竜」
―…なに、これ
俺の体は父を満足させるためのもので、
「愛してるよ」は父からの大嫌いな言葉で、
聞くだけで吐きそうになる言葉なのに、
ハルカさんから言われるとまるで別のものみたいに温かくなる。
もっともっと、欲しくなる。
こんな感情知らない。
全部、全部、全部、全部、
ハルカさんで上書きして欲しい。
「ありがとう、ハルカさん…」
俺の涙がハルカさんの顔に触れる頃には、ハルカさんは眠っていた。
翌朝、何度起こしてもハルカさんは起きなかった。
仕事は夕方からって言ってたし、俺はハルカさんを起こさずにバスで学校へ向かった。
今日は迎えにも来れないので、俺は学校帰りに軽く買い出しをしてから帰宅した。
昨日たくさん飲んでたから、鍋にしてあげようと思って買ってきた野菜を大きめに刻む。
変なの。
だって俺、この前この包丁で死のうとしてたのに。
死にたくて、死ねなくて
辛くて、苦しかったのに
死ねるアイテム持って料理してるなんて、笑える。
「ただいまー。お、今日は鍋?いいねー」
「お帰りなさい。いま野菜入れたばっかりだからもう少しかかりますよ。お風呂沸いてます」
「じゃ先に風呂入ってくるわ」
ハルカさんが、くたくたに煮込んだ野菜が好きなのも知ってる。
まだ一緒に暮らして数ヶ月なのに、徐々にハルカさんのことを知れてきた。
「しかも鶏白湯スープ。胃に優しくて最高。チゲだったらきつかった」
「まだ頭痛いんですか?」
「めっちゃくちゃ痛ぇ。ベースの低音も頭に響いたし、宝に怒られた」
「昨日、山田先生も一緒に飲んでたんですね」
いないって言ってたのに…嘘つき。
そんなこと言える立場でも無いのに。
何なんだろ、俺。
「あぁ。マサくん用事無くなったみたいで途中から来た。兄貴と飲み比べ。だからめっちゃ飲んだら二日酔い。負けたし」
大きな口で野菜を食べながらハルカさんは笑ってる。
俺は無意識に、この笑顔に救われてる。
「ハルカさん、昨日帰ってきてから言ったこと覚えてる?」
「好きだ」って即答してくれて、
「愛してる」って言ってくれて、
―…少しトラウマを消してくれた
「昨日?何か言った?待って思い出す」
…覚えてないの?
「あ、おっぱい見せて?揉ませて?って言った気がする。竜の揉んだ?だからじじいって言われたのか」
―…それは山田先生。
「いや、何も言ってなかったですよ」
俺はそう言って、自分の食べたものをキッチンへと運んだ。
「何だよ焦った。変なこと言ったのかと思った」
ねぇ、覚えてないの?
俺のこと好きだって即答したの。
愛してるって初めて言ったの。
「あ、そうだ。兄貴に言えって言われたんだけど…竜、無理してここにいるなら前みたいに寮に戻ってもいいからな」
なに言ってるの?
俺が傍にいなくてもいいの?
「そうですか。じゃあたまには寮に戻ろうかな」
引き留めて欲しいなんておかしいのに。
「俺はもちろんいて欲しいけど、決めるのは竜だからな。俺がここにいろって言ったらずっといてくれんの?」
「ノーコメントです」
「小悪魔め」
「俺、お風呂入ってきますね」
こんな汚れた俺を受け入れてくれるって。
死にたいと思ってたのに、ハルカさんとの毎日がすごく心地いいんだよ?
包丁持っても、死なずにハルカさんのために料理して待ってるんだよ?
「愛してる」を覚えてないなんて、どっちが小悪魔だ。
「りゅうー、ただいま」
…こんなにベロベロに酔ったハルカさんて初めてかも。
ニヤニヤしてるの、なんか腹立つな。
「ハルカさん、お水飲む?」
「いい。それより、太もも枕にさして」
そう言ってハルカさんは俺の太ももに頭を乗せ、手で太ももを優しく撫でる。
「気持ちいい。幸せ」
俺はそんなハルカさんの髪の毛を撫でながら言った。
「俺のこと好き?」
「好き」
何を聞いてるんだろう、と自分でも思いながら即答で「好き」と答えてくれたことが嬉しかった。
でも、
その「好き」は、山田先生以上の感情?
「―…一番好き?何番目?」
「順位とかねぇだろ」
「ハルカさん…なんで俺のこと好きになったの?」
山田先生よりも好き?
と聞けばいいのに、聞けない。
でも俺は山田先生よりお金も無いし、頭も良くない。
唯一勝てるのは歌が歌えることだけなのに、山田先生以上に自分の良さが分からない。
他に思い当たるのは、体ぐらい―…?
「んー―…声が好きでさ…最初、歌声聞いて衝撃受けて気になって」
でも、こんな汚れてる俺を好きだなんて…おかしな人だ。
「そしたら笑顔天使じゃん。そんなん好きになるだろ。傍にいてくれたらいいなってずっと思ってた」
「でも体は汚れてるよ。父さんに色々されて…自分でも消えたくなるぐらい、汚れてる」
「お前はキレイだよ。体も声も心も。父親とのことは時間かけて忘れさせてやるから」
俺と父のこと知ってて、それでも好きだと言ってくれるなんて。
「ハルカさん…」
「だから早く俺のモンになれよ…俺はお前の全部受け入れて、守り続けるから。ずっと俺の傍に居て欲しい」
俺の太ももを枕にして泥酔しているくせに、とても綺麗な目をして優しい笑顔を俺に向ける。
「愛してるよ、竜」
―…なに、これ
俺の体は父を満足させるためのもので、
「愛してるよ」は父からの大嫌いな言葉で、
聞くだけで吐きそうになる言葉なのに、
ハルカさんから言われるとまるで別のものみたいに温かくなる。
もっともっと、欲しくなる。
こんな感情知らない。
全部、全部、全部、全部、
ハルカさんで上書きして欲しい。
「ありがとう、ハルカさん…」
俺の涙がハルカさんの顔に触れる頃には、ハルカさんは眠っていた。
翌朝、何度起こしてもハルカさんは起きなかった。
仕事は夕方からって言ってたし、俺はハルカさんを起こさずにバスで学校へ向かった。
今日は迎えにも来れないので、俺は学校帰りに軽く買い出しをしてから帰宅した。
昨日たくさん飲んでたから、鍋にしてあげようと思って買ってきた野菜を大きめに刻む。
変なの。
だって俺、この前この包丁で死のうとしてたのに。
死にたくて、死ねなくて
辛くて、苦しかったのに
死ねるアイテム持って料理してるなんて、笑える。
「ただいまー。お、今日は鍋?いいねー」
「お帰りなさい。いま野菜入れたばっかりだからもう少しかかりますよ。お風呂沸いてます」
「じゃ先に風呂入ってくるわ」
ハルカさんが、くたくたに煮込んだ野菜が好きなのも知ってる。
まだ一緒に暮らして数ヶ月なのに、徐々にハルカさんのことを知れてきた。
「しかも鶏白湯スープ。胃に優しくて最高。チゲだったらきつかった」
「まだ頭痛いんですか?」
「めっちゃくちゃ痛ぇ。ベースの低音も頭に響いたし、宝に怒られた」
「昨日、山田先生も一緒に飲んでたんですね」
いないって言ってたのに…嘘つき。
そんなこと言える立場でも無いのに。
何なんだろ、俺。
「あぁ。マサくん用事無くなったみたいで途中から来た。兄貴と飲み比べ。だからめっちゃ飲んだら二日酔い。負けたし」
大きな口で野菜を食べながらハルカさんは笑ってる。
俺は無意識に、この笑顔に救われてる。
「ハルカさん、昨日帰ってきてから言ったこと覚えてる?」
「好きだ」って即答してくれて、
「愛してる」って言ってくれて、
―…少しトラウマを消してくれた
「昨日?何か言った?待って思い出す」
…覚えてないの?
「あ、おっぱい見せて?揉ませて?って言った気がする。竜の揉んだ?だからじじいって言われたのか」
―…それは山田先生。
「いや、何も言ってなかったですよ」
俺はそう言って、自分の食べたものをキッチンへと運んだ。
「何だよ焦った。変なこと言ったのかと思った」
ねぇ、覚えてないの?
俺のこと好きだって即答したの。
愛してるって初めて言ったの。
「あ、そうだ。兄貴に言えって言われたんだけど…竜、無理してここにいるなら前みたいに寮に戻ってもいいからな」
なに言ってるの?
俺が傍にいなくてもいいの?
「そうですか。じゃあたまには寮に戻ろうかな」
引き留めて欲しいなんておかしいのに。
「俺はもちろんいて欲しいけど、決めるのは竜だからな。俺がここにいろって言ったらずっといてくれんの?」
「ノーコメントです」
「小悪魔め」
「俺、お風呂入ってきますね」
こんな汚れた俺を受け入れてくれるって。
死にたいと思ってたのに、ハルカさんとの毎日がすごく心地いいんだよ?
包丁持っても、死なずにハルカさんのために料理して待ってるんだよ?
「愛してる」を覚えてないなんて、どっちが小悪魔だ。
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