その美人、執着系攻めにつき。

月城雪華

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第二部 五章

いつまでも慕う 7 ★

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「エルが前、……してくれた、みたいに」

 それは療養するため、公爵邸に滞在した初日の事だった。

 最初こそ排泄するための場所を咥えられるなど信じられなかったが、あまりにも強い快楽に意識が何度飛び掛けたのか数えていない。

「だめ、か……?」

 きゅうと両手を組み換えながら、上目遣いで見つめる。

 エルはわずかに目を瞠り、小さく息を呑むと震える声のまま囁いた。

「駄目じゃ、ない……けど」

 長い指先がそろりと手に触れ、控えめに握られる。

「本当にいいの? 嫌じゃない……?」

 どうやら何をするのか悟ったようで、期待と不安がぜになった声音に、無意識に喉がこくりと音を立てる。

「や、だったら……こんなこと、言わない」

 そこで言葉を切ると勢いのまま、エルの胸元に倒れ込む。

 少しの汗の匂いと花の香りが鼻腔を擽り、くらりと目眩がした。

(止めちゃ、駄目だ)

 アルトはわずかに露出している首筋に唇を寄せると、ちゅうと吸い付いた。

 すぐに赤い花が咲き、その隣りにもう一つ二つと跡を付ける。

 そのままぬるりと舌を這わせ、上着のボタンに手を掛けた。

「あ、あれ」

 外そうとすると、どうしてか滑ってしまい上手くいかない。

 手袋をしているからかと思い、エルから贈られた指輪とそれを外してもう一度ボタンを外そうと試みる。

 しかし何度やっても同じで、そこでやっと己の手が震えているのに気付いた。

「──ちょっと待ってね」

 ふっと笑いを含んだ吐息が耳を掠めると同時に、エルはアルトから少し離れると手袋を外し、上着からシャツを脱いでいく。

「あ、っ……」

 細身ながら引き締まった筋肉が姿を現し、その美しさにしばらく見惚れてしまう。

 さながら神聖で、この姿を見るのは自分だけに許されているのだと実感して、じんわりと身体が熱くなった。

「あんまり見ないで欲しいな」

「ご、ごめん!」

 こてりと首を傾げて淡く口角を上げるさますら妖艶で、アルトは慌てて視線を外した。

「……それじゃあできないでしょ」

 そっと頬に手が触れ、優しく顔を上げさせられる。

 肌の感触を楽しむように何度か撫でられ、ぐいと手首を摑まれた。

「ここ、してくれるんじゃないの?」

「っ……!」

 触れられた先は熱く、時折どくりと脈打つのが手の平から伝わる。

 衣服越しでも分かるほどの熱さに、加えてずっしりとしたそれを想像してしまい、知らず身体の奥が疼いた。

「する、けど」

 甘さを含んだ声に誘われるまま、アルトは震える手を叱咤してトラウザーズの前をくつろげる。

 下着の中で窮屈そうにしており、それとエルとを交互に見つめると小さく呟いた。

「これ……」

(どうしたらいいんだ)

 声には出さず、心の内で続きの言葉を放つ。

 勢いで言ったはいいものの、元の世界であっても同性のものを迎え入れた事はただの一度も無いのだ。

 抱かれた事はもちろん狂おしいほど好きになったのもエルが初めてで、何もかもが未知数だった。

(でもエルは、俺のを)

 思い出すだけで顔が熱を持っていく。

 形のいい唇が己のものを咥え、どこまでも続く口淫に羞恥と迫り来る悦楽を享受するしかできなかった。

 それと同じほどのことを己ができるとはとても思えず、ただただ視線を彷徨わせる。

「朔真、無理なら止めても──」

「やだ!」

 こちらに伸ばされる手の気配に、反射的に声を張り上げる。

 一度言った事を投げ出すわけにはいかず、それ以前に気を遣わせてしまったことが申し訳ない。

「ちゃんとする、から」

 だから止めろなんて言わないで欲しい。

 自分にしてくれたように、エルにも気持ちよくなって欲しい。

 言葉にするにはあまりにも恥ずかしく、見つめるしかできなかったが理解してくれたようだった。

「……苦しかったら止めていいからね」

 エルは小さく息を吐き、そっと頭を撫でてくる。

「ん」

 こくりと頷き、どくどくと逸る心臓はそのままにアルトは下着に手を掛けた。

 ゆっくりと下ろすと、それに反して勢いよく欲望がまろびでる。

 小さな窪みからは透明な雫を滴らせ、幹にまで伝っていた。

 拙い愛撫でこうなってくれているのが嬉しく、同時にこれほどのものが己の中に入っているなど信じられなかった。

 腹に付きそうなほどのそれは血管が浮き出て、じっと見つめているだけで新たな雫が溢れていく。

「……ぁ、っ」

 間近で見るそれは雄の匂いを際限なく漂わせており、知らず吐息が漏れる。

 アルトはそろりと丸く滑らかな先端に口付けた。

「は、っ……」

 ぴくりと雄槍が脈打ち、押し殺した喘ぎが後を追う。

 あまり聞かないエルのあえかな声に、ぞわりと首筋が粟立った。

「ん、ふ……ぅ」

 もっと聞きたくて、アルトは大きく口を開けると深くまで口腔に迎え入れた。

 少しの塩気と苦味が広がったが、それが嫌だとは思わなかった。

 拙いながらも首を前後に動かすと、すぐにぐちぐちと濡れた音が響く。

「っ、ん……ぁ、ふ」

 自身の口の中から放たれる淫猥な音に声を抑えられず、ずくりと下腹部が痛む。

(もっと、もっと……)

 けれど奥まで迎えたくても口の中はいっぱいで、とてもではないがすべては収まり切らなかった。

「……舌、使って」

 苦しさとも申し訳なさともつかないまま涙目になって頭を動かしていると、見兼ねたエルの手がそろりと頬に触れる。

 反射的に顔を上げると苦しそうに眉を引き絞り、淡く頬を染めた男がこちらを見下ろしていた。

「ぁ、っ」

 それだけでずくりと下腹部から蜜が零れ、下着を濡らすのが分かる。

 その熱に突き動かされ、血管の浮き出る幹にちゅうと吸い付いた。

 おぼつかない仕草で先走りを舐め取るように舌を這わせると、少しずつ芯を持ち大きくなっていく。

 時折先端にも舌先を触れさせ、そのまま咥え込めば喉奥に塩気を帯びた味が広がった。

「っ、ふ……はっ」

 どこか甘いそれを音を立てて夢中で吸い上げると、頭上で押し殺した声が響いた。

(気持ちよく、なって……くれてる)

 優越感と少しの羞恥心で背中が震え、知らず腰が動いてしまう。

 もっと聞きたい、あわよくばこのまま熱を出して欲しい、という思いが強くなっていく。

 すると手を重ねられ、竿に導かれた。

「っ」

 直接触れたそこは一際熱く、どくどくと脈打っている。

 手を重ねられたままゆっくりと上下に動かされ、すぐ傍で声が聞こえた。

「そう……上手、だよ」

 低く掠れた声はどこまでも甘く、あやすように空いている手を握られる。

 しかしこれではエルが動いているも同義で、自身で慰撫いぶしているのとなんら変わらない。

「……も、いい」

 ちゅぽ、と楔から口を離すと透明な糸が引いた。

 アルトはのそのそとトラウザーズと下着を下ろし、エルの脚の間にまたがる。

「おれが、ぜんぶ……する、から」

 だから見てて、と視線だけで問い掛ける。

 エルはそのさまに小さく息を呑み、ふっと笑った。

「うん。……ちゃんと見てるよ」

 言いながらエルはベッドに横になると腰に手を添えられ、支えられる。

 危なくないようにとの気遣いなのか、しかし今ばかりはそれが少し嫌だと思ったがこの際だった。

 引き締まった腹筋に両手を置き、そろそろと腰を落とす。

 小さな窄まりに熱く滾った肉槍が触れた。

「ん、ぅっ……!」

 それだけで腰が蕩け、その拍子でぷちゅりとわずかに先端が入った。

「は、ぁ」

 甘い声が抑えられず、そこから先が進まない。

 しかしこのままではエルも辛いと理解しているため、アルトは身体に力を込めて腰を進めた。

 ゆっくりと肉襞を侵入していく楔はいつもよりずっと大きく、熱かった。

 腰を進める度に雄茎からは断続的に透明な雫が竿を伝い、エルの腹を濡らしていく。

「は……っ」

 やがて尻が薄い下生えに触れ、すべて収まったのだとぼうっとした思考で悟る。

 どくどくと最奥で脈打つ動きすら刺激になり、身体の力が抜けていく心地さえした。

 けれど止まっているわけにもいかず、懸命に脚と手に力を入れて上下に動く。

「あ、は、……ぁ、っ」

 すぐに空気の混じった打擲音ちょうちゃくおんが響き、知らず息が弾む。

 出し入れする度に生まれる淫猥な音は、耳まで犯されている錯覚に陥った。

「え、る……エル……っ」

 無意識に名を呼ぶのと同じくして、腹の奥がきゅうと収縮する。

 ぐぽぐぽと結合部から奏でられるそれは淫らで、普段よりも強い快感が駆け巡った。

「きもち、い……?」

 上擦った声のまま問い掛けると、しなやかな腹筋が上下する。

「……うん、上手。気持ちいいよ」

 どこまでも甘く愛おしげに微笑むさまは艶やかで、とぷりと蜜が零れた。

「うれし、い……」

 アルトはそのまま身体を揺らし、時に前後へ揺さぶると喘ぎが甘く大きくなっていく。

「あっ……!?」

 すると不意に腹に収まっているもののかさが増し、その刺激でちかちかと目の前が爆ぜる。

 ぴゅくりと白濁が溢れ、自身の腹を白く染め上げた。

「や、なん、で……」

 唐突な快感に、アルトは涙目のまままエルを見つめる。

 質量のある肉棒はそれまで以上に力強く最奥に入り、己の自重も重なって柔らかな場所を抉る凶暴さが増していく。

 既に中はいっぱいで、これ以上は壊れてしまう。

 そう言いたいのに口を開けば喘ぎばかりで、 意思に反して柔襞は長大なものを搾り取ろうとうごめく。

 きゅうきゅうと吸い付き、更に奥へいざなおうと収縮した。

「……そうやって、貴方が可愛いのが悪い」

 エルはばつの悪そうな顔を向け、手を添えているだけだった腰を痕が付くほどがっちりと摑み直した。

「ぁ、は……っあ……!」

 ごちゅん、と奥の奥まで穿うがたれ、また白濁が溢れる。

「ゃ、おれがする、って……いった、ぁ……」

 あえかな喘ぎに紛れてなんとかそれだけを言葉にすると、エルはゆっくりと笑った。

「これでも我慢してるんだ。──だから、交代」

 艶を帯びた声が聞こえると同時にぎしりとベッドが軋み、エルが起き上がる。

「あ、っ……!」

 視界が反転し、見慣れた黒い天井を見る暇もなく目の前をぱちぱちと星が瞬く。

 先端が柔らかな襞を深く抉り、すぐに力強い律動が始まった。

 ぱちゅぱちゅと互いの肌がぶつかる音が響く度に、部屋が淫靡な空気で満ちる。

「朔真」

 名を呼ばれ、無意識に閉じていた瞼を開けるとエルの顔が間近に迫っていた。

「ん、ぅ」

 歯列を割って舌が入り込み、唐突な事に怯えるそれを絡め取られた。

 肉厚な舌は敏感な上顎を擽り、甘く吸っては噛まれてを何度も繰り返す。

 上からも下からも濡れた音に犯され、おかしくなってしまいそうだった。

「ふ、ぁ……」

 やがて小さな音を立てて唇を解かれ、至近距離で見つめ合う。

 視界がぼやけ、判然としないがエルが笑っているように見えた。

 エルは緩く腰を動かしながらベッドに投げ出されている手を取り、しっかりと握ると淡く口角を上げて言った。

「貴方を寂しがらせた分、後でいくらでも謝るから──」

 そこから先はあまりにも小さ過ぎて聞き取れなかった。

「ぁ、ゃ……あ、エル……っ」

 何を言ったか尋ね返す暇もなく、ぐちゅんと一際強く最奥に突き立てられる。

 弱い部分を何度となく突き上げられ、アルトは甘く喘ぐしかできない。

 靱やかな腰に深く脚を絡め、隙間なく密着する。

 エルから与えられる悦楽は際限なく、己が何を口走っているのかすらも分からなかった。

 しかしそれすらも可愛いというように、エルの手が頬に触れると唇を塞がれた。

 声は腔内に吸い込まれ、ベッドの軋みが激しくなった。

 やがて熱い飛沫が最奥に叩き付けられ、その刺激できゅうと爪先が丸まり吐精する。

「っ、は……ぅ、ぁ」

 蕩けた意識の中愛しい男を見つめ、力の入らない手をエルの頬に添える。

「すき、エル……だいすき」

 こつんと額を合わせ、何度も愛の言葉を繰り返す。

 すると中に収まる雄槍がむくむくと嵩を増し、硬く芯を持った。

「え、っ……?」

 その感覚に、冷たい汗が背中を伝う。

「……ごめん、もう一回」

 申し訳なさなど少しも感じていない声に、アルトは悲鳴にも似た声を上げる。

「ゃ、もう……むり、って言っ、た……のに」

「ごめんね、もう少し付き合って?」

「あっ……!?」

 力なく首を振って拒否すると、美しい笑みを浮かべたエルの顔が迫った。

 これは長くなりそうだ、と思いながら満更でもないという感情に支配される。

 しばらくして啜り泣くような声が聞こえ、寝室は二人の匂いで満ちていった。
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