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冒険鍛冶師編
第28話 村の成り立ちと隠し部屋
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鍛冶工房、ベルハイムの家から墓地へと入る。先程チラっと覗いた時と同様、おどろおどろしい雰囲気が漂う墓地を進む僕達は緊張感に包まれていた。大小様々な墓標は、一見統一感の無いように見えるが、綺麗に整列していて奇妙な印象を与えた。
「此処は200年前、私達が通ってきた山麓都市の元となった村なんだ」
菖蒲さんが語る内容はこうだった。
元々はヒトツミ村という名称だった此処は自給自足の慎ましい生活を営んでいた。平和そのものだった村だが山に囲まれた環境の所為で悪い噂が広まった。それは『此処は元々王族だった者が隠れ住み、金品を隠している』という根も葉もない話だった。
実際は全くそんなことはなく、ただ此処を囲う山脈から良質な金属が採れるということで人が住み着いただけだった。
だが良い金属は金になる。時々、宝石なんかも産出されてしまうから、其処を良くない連中に目をつけられてしまった。
「山賊に見つかってしまったんだ」
山に囲まれた防衛力もない村なんてのは賊からしてみれば楽して稼げる猟場だ。結局対抗出来ないまま蹂躙されることになった。それでもやはり普段から坑道で採掘している者が多いから多少の抵抗はあった。
そうしてギリギリ生き残った者の中で村に残る者と残らない者が現れた。採掘で生きたい者と、こりごりだとつるはしを捨てた者。そうしてヒトツミ村は山を隔てて外と中に分裂した。
「ナカツミ村は産出した鉄を武力に使うことになり、山賊と拮抗するようになった。そうして抵抗し続けた何年か後にソトツミが蓄えた物資と兵力をナカツミに派遣し、合わさった戦力で山賊を見事に撃退したんだ」
こうして村に平和が訪れた。だがこの平和に至るまでには多くの人が亡くなっていった。そうした者達を弔う為に、山間の村には不似合いは大きな墓地が併設された。
それが此処、ナカツミ墓地だった。
それから何年かして、とある鍛冶工房に1人の息子が生まれた。その少年は生まれながらに村の誰よりも多くの魔力を持ち、その力を使って鍛冶をした。そうして生きた先に鉄魔法を生み出し、魔王の側近となり、そして死んだ。
強大な魔力は死後も消えることなく、墓から漏れ出し、墓地へ広がり、村を蝕んだ。
山に囲まれた村に広まった魔力は変質し、墓地を起点とし、ナカツミ村全域を吸収したダンジョン【鐵の墓】へと生まれ変わったのだった。
「ベルハイムの日記にはこう記されていた。『死後も魔法の研究が出来れば良いのだが、その方法はまだ見つかっていない』、と。その執念が彼をアンデッドへと生まれ変わらせたのかもしれないな」
「じゃあ彼はこの墓地の中心で魔法の研究をしているのかもしれないですね」
そうだと良い。それならまだお話が出来るかもしれない。
鐵の墓の村エリアにはあれ程湧いていたオリハルコンゴーレムだが、此方ではまばらである。何となく、これが本来の光景のような気がした。墓地内を見回る墓守。鉄魔法で作られたのだとしたら、それは亡くなった村民を守る為だろう。と、端から見ればそんな印象だが、此処はダンジョンだ。実際の意味合いなんてのは分からない。要素と要素が噛み合っただけだろう。
と、そんなゴーレムの1体が僕達の方へと視線を向けた。罅割れのようなスリットから覗く赤い一つ目がしっかりと僕達を捉えていた。
「来るぞ」
「菖蒲さん、オリハルコンって売れます?」
「え? あぁ、まぁ、需要は高いな」
「了解です」
僕だけが独占しては儲けが薄い。せっかくダンジョンに来たのなら懐も温かくなるべきである。
左手に握る鞘から緋心を抜き、腕を振り上げたゴーレムのその腕を根元から断つ。地響きと土煙を立てて転がる腕を横目に右足、左足とぶつ切りにしていく。立つ為の足を失ったゴーレムは地面に転がりながら残った左腕で起き上がろうとするが、それを手首、前腕、肘、上腕、肩と順に処理していくと、最終的に身動きの出来ない金属の塊が完成した。
「そういえばどうやって持ち帰ります?」
「……君は意外と常識破りなんだな」
「?」
そんなことはないと思うのだが……。なんて首を傾げている僕の横でジレッタがさっさと切り分けたオリハルコンを本の中の倉庫に仕舞っていった。此奴、結構貯蓄癖があるからな……竜が財宝を集めるみたいな習性だろうか。後でちゃんと菖蒲さん達と分ける話はしておかないとな。
両手両足を素材にされてしまったゴーレムは単眼を明滅させながらゆらゆらと動いていた。ゴーレムにはコアというものがあるらしいが、何処にあるのだろうか。
「ゴーレムのコアは胸に置くのが主流だな。その刀なら貫けるんじゃないか?」
「そうですね……ちょっと調べてみますか」
貫いて終わらせてもいいが、コアというのがどんなものなのか見てみたかった僕は緋心を使ってまずは胸の部分を薄くスライスしていく。柳刃包丁の要領だ。後ろでドン引く菖蒲さんの声が聞こえる。
何度か胸肉を薄切りにしていると赤い部位が見えてきた。これがコアかな?
「菖蒲さん」
「何かな……」
「そんな引かないでくださいよ……コアってこれですか?」
「あぁ、うん……そうだね。それがゴーレムを動かすコアだよ」
「おー……これが……」
コアの周りを四角く切り取る。するとコアからの何某かの供給が途絶えたために単眼は消え、動かなくなった。そっちはジレッタがささっと仕舞う。僕はコアを傷つけないように周りのオリハルコンを削いでいく。丁寧に丁寧に剥がしていくと、綺麗な赤い真球だけが残った。
「これがコア……!」
「凄いな。作業中は変態か何かかと思ってしまったが、此処まで綺麗なゴーレムコアは初めて見た気がする。変態に感謝だな」
「……」
この一件で菖蒲さんに僕がどういう人間か、ある程度のレッテルは貼られてしまったようだが、このコアの収穫は大きい。自分用にアレンジして使えば絶対に何かの役に立つだろう。出来ればもっともっと数が欲しいところだが、人命も懸かっている大事な任務だった。
そうだ。菖蒲さんが心配ないと言ったからすっかり安心してしまっていた。信じ切っていたから、鍛冶師になってからついた研究癖が出てしまった。
悪癖も悪癖だ。実りのある結果が出たとは言え、変態も変態である。本当に自重しよう。
「時間使ってしまってすみません。此処からは全滅させるつもりで頑張ります」
「あぁ、この場において最強は君だ。期待している。ではイングリッタの元へ向かおう」
「! 居場所が分かるんですか?」
僕の問いに菖蒲さんは親指を立てて答える。
「あぁ。前回、探索した時に隠し部屋を見つけている。彼処なら安全だし、彼女が居るならきっと其処だ」
なんとまぁ、ベテランというのは凄いな。隠し部屋なんてものがあることすら知らなかったし、当たり前のように見つけているとは。しかも早速有効活用している。恐れ入るね。
「じゃあ案内してください。途中、ベルハイムと遭遇したら奴も引き摺って行きましょう」
「私もその意気だ。よし、ついてきてくれ」
菖蒲さんが先頭に立ち、案内してくれる。淀みない足取りで到着したのは一つの墓標だった。先程までは遠い近いは無いにしても視界の中に必ず1体はゴーレムが見えていたのに、この墓標の周辺だけはゴーレムは見当たらない。足音も届かず、此処だけが閑散としていた。
「ゴーレムが居ないだろう? 私もそれを不思議に思って捜索したんだ。そしたらこの墓標があった。よく見てみろ」
促され、墓標を見る。其処には何も刻まれていなかった。埋葬されている人の名前や生年月日も没日も、何もない。真っ新な墓標だ。まるでこれから誰かが此処で埋葬されるかのような……。
「此処には誰も埋葬されていない。だから墓守が居ないんだ」
「なるほど……」
「その墓標を動かすと……」
菖蒲さんが視線を交わすとデンゼルさんが墓標の前に立ち、奥へと押すように踏ん張った。最初はピクリとも動かなかった墓標だが、それがゆっくりと後方へスライドしていく。すると墓標ごと地面が切り取られたように動いていく。墓標から後ろの地面はカモフラージュになっていたようだ。
「ありがとう、デンゼル」
謝辞に頷き返したデンゼルさんがぐるりと肩を回した。結構重かったんだろう。確かに地面ごと動かすなんてのは相当力がないと出来ない芸当だ。だから今まで見つからなかったんだろうな。
「此処が、隠し部屋だよ」
その墓標の下にあったのは大理石のような綺麗な石で作られた階段だった。
「此処は200年前、私達が通ってきた山麓都市の元となった村なんだ」
菖蒲さんが語る内容はこうだった。
元々はヒトツミ村という名称だった此処は自給自足の慎ましい生活を営んでいた。平和そのものだった村だが山に囲まれた環境の所為で悪い噂が広まった。それは『此処は元々王族だった者が隠れ住み、金品を隠している』という根も葉もない話だった。
実際は全くそんなことはなく、ただ此処を囲う山脈から良質な金属が採れるということで人が住み着いただけだった。
だが良い金属は金になる。時々、宝石なんかも産出されてしまうから、其処を良くない連中に目をつけられてしまった。
「山賊に見つかってしまったんだ」
山に囲まれた防衛力もない村なんてのは賊からしてみれば楽して稼げる猟場だ。結局対抗出来ないまま蹂躙されることになった。それでもやはり普段から坑道で採掘している者が多いから多少の抵抗はあった。
そうしてギリギリ生き残った者の中で村に残る者と残らない者が現れた。採掘で生きたい者と、こりごりだとつるはしを捨てた者。そうしてヒトツミ村は山を隔てて外と中に分裂した。
「ナカツミ村は産出した鉄を武力に使うことになり、山賊と拮抗するようになった。そうして抵抗し続けた何年か後にソトツミが蓄えた物資と兵力をナカツミに派遣し、合わさった戦力で山賊を見事に撃退したんだ」
こうして村に平和が訪れた。だがこの平和に至るまでには多くの人が亡くなっていった。そうした者達を弔う為に、山間の村には不似合いは大きな墓地が併設された。
それが此処、ナカツミ墓地だった。
それから何年かして、とある鍛冶工房に1人の息子が生まれた。その少年は生まれながらに村の誰よりも多くの魔力を持ち、その力を使って鍛冶をした。そうして生きた先に鉄魔法を生み出し、魔王の側近となり、そして死んだ。
強大な魔力は死後も消えることなく、墓から漏れ出し、墓地へ広がり、村を蝕んだ。
山に囲まれた村に広まった魔力は変質し、墓地を起点とし、ナカツミ村全域を吸収したダンジョン【鐵の墓】へと生まれ変わったのだった。
「ベルハイムの日記にはこう記されていた。『死後も魔法の研究が出来れば良いのだが、その方法はまだ見つかっていない』、と。その執念が彼をアンデッドへと生まれ変わらせたのかもしれないな」
「じゃあ彼はこの墓地の中心で魔法の研究をしているのかもしれないですね」
そうだと良い。それならまだお話が出来るかもしれない。
鐵の墓の村エリアにはあれ程湧いていたオリハルコンゴーレムだが、此方ではまばらである。何となく、これが本来の光景のような気がした。墓地内を見回る墓守。鉄魔法で作られたのだとしたら、それは亡くなった村民を守る為だろう。と、端から見ればそんな印象だが、此処はダンジョンだ。実際の意味合いなんてのは分からない。要素と要素が噛み合っただけだろう。
と、そんなゴーレムの1体が僕達の方へと視線を向けた。罅割れのようなスリットから覗く赤い一つ目がしっかりと僕達を捉えていた。
「来るぞ」
「菖蒲さん、オリハルコンって売れます?」
「え? あぁ、まぁ、需要は高いな」
「了解です」
僕だけが独占しては儲けが薄い。せっかくダンジョンに来たのなら懐も温かくなるべきである。
左手に握る鞘から緋心を抜き、腕を振り上げたゴーレムのその腕を根元から断つ。地響きと土煙を立てて転がる腕を横目に右足、左足とぶつ切りにしていく。立つ為の足を失ったゴーレムは地面に転がりながら残った左腕で起き上がろうとするが、それを手首、前腕、肘、上腕、肩と順に処理していくと、最終的に身動きの出来ない金属の塊が完成した。
「そういえばどうやって持ち帰ります?」
「……君は意外と常識破りなんだな」
「?」
そんなことはないと思うのだが……。なんて首を傾げている僕の横でジレッタがさっさと切り分けたオリハルコンを本の中の倉庫に仕舞っていった。此奴、結構貯蓄癖があるからな……竜が財宝を集めるみたいな習性だろうか。後でちゃんと菖蒲さん達と分ける話はしておかないとな。
両手両足を素材にされてしまったゴーレムは単眼を明滅させながらゆらゆらと動いていた。ゴーレムにはコアというものがあるらしいが、何処にあるのだろうか。
「ゴーレムのコアは胸に置くのが主流だな。その刀なら貫けるんじゃないか?」
「そうですね……ちょっと調べてみますか」
貫いて終わらせてもいいが、コアというのがどんなものなのか見てみたかった僕は緋心を使ってまずは胸の部分を薄くスライスしていく。柳刃包丁の要領だ。後ろでドン引く菖蒲さんの声が聞こえる。
何度か胸肉を薄切りにしていると赤い部位が見えてきた。これがコアかな?
「菖蒲さん」
「何かな……」
「そんな引かないでくださいよ……コアってこれですか?」
「あぁ、うん……そうだね。それがゴーレムを動かすコアだよ」
「おー……これが……」
コアの周りを四角く切り取る。するとコアからの何某かの供給が途絶えたために単眼は消え、動かなくなった。そっちはジレッタがささっと仕舞う。僕はコアを傷つけないように周りのオリハルコンを削いでいく。丁寧に丁寧に剥がしていくと、綺麗な赤い真球だけが残った。
「これがコア……!」
「凄いな。作業中は変態か何かかと思ってしまったが、此処まで綺麗なゴーレムコアは初めて見た気がする。変態に感謝だな」
「……」
この一件で菖蒲さんに僕がどういう人間か、ある程度のレッテルは貼られてしまったようだが、このコアの収穫は大きい。自分用にアレンジして使えば絶対に何かの役に立つだろう。出来ればもっともっと数が欲しいところだが、人命も懸かっている大事な任務だった。
そうだ。菖蒲さんが心配ないと言ったからすっかり安心してしまっていた。信じ切っていたから、鍛冶師になってからついた研究癖が出てしまった。
悪癖も悪癖だ。実りのある結果が出たとは言え、変態も変態である。本当に自重しよう。
「時間使ってしまってすみません。此処からは全滅させるつもりで頑張ります」
「あぁ、この場において最強は君だ。期待している。ではイングリッタの元へ向かおう」
「! 居場所が分かるんですか?」
僕の問いに菖蒲さんは親指を立てて答える。
「あぁ。前回、探索した時に隠し部屋を見つけている。彼処なら安全だし、彼女が居るならきっと其処だ」
なんとまぁ、ベテランというのは凄いな。隠し部屋なんてものがあることすら知らなかったし、当たり前のように見つけているとは。しかも早速有効活用している。恐れ入るね。
「じゃあ案内してください。途中、ベルハイムと遭遇したら奴も引き摺って行きましょう」
「私もその意気だ。よし、ついてきてくれ」
菖蒲さんが先頭に立ち、案内してくれる。淀みない足取りで到着したのは一つの墓標だった。先程までは遠い近いは無いにしても視界の中に必ず1体はゴーレムが見えていたのに、この墓標の周辺だけはゴーレムは見当たらない。足音も届かず、此処だけが閑散としていた。
「ゴーレムが居ないだろう? 私もそれを不思議に思って捜索したんだ。そしたらこの墓標があった。よく見てみろ」
促され、墓標を見る。其処には何も刻まれていなかった。埋葬されている人の名前や生年月日も没日も、何もない。真っ新な墓標だ。まるでこれから誰かが此処で埋葬されるかのような……。
「此処には誰も埋葬されていない。だから墓守が居ないんだ」
「なるほど……」
「その墓標を動かすと……」
菖蒲さんが視線を交わすとデンゼルさんが墓標の前に立ち、奥へと押すように踏ん張った。最初はピクリとも動かなかった墓標だが、それがゆっくりと後方へスライドしていく。すると墓標ごと地面が切り取られたように動いていく。墓標から後ろの地面はカモフラージュになっていたようだ。
「ありがとう、デンゼル」
謝辞に頷き返したデンゼルさんがぐるりと肩を回した。結構重かったんだろう。確かに地面ごと動かすなんてのは相当力がないと出来ない芸当だ。だから今まで見つからなかったんだろうな。
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