静かな夜に揺れる心：触れてはいけない想いと孤独の温度

第4話：元の鞘に

朝の光が差し込む寝室で、麻衣子は目を覚ました。
隣には、義理の娘婿である和聖が静かに眠っていた。
昨夜の出来事が夢だったのではないかと思うほど、部屋は穏やかで、空気は澄んでいた。

麻衣子はそっとベッドを抜け出し、キッチンで湯を沸かした。
湯気の立ち上る音が、心のざわめきを少しだけ落ち着かせてくれる。
彼女は自分の胸の奥にある感情と向き合っていた。
「これは、何だったのだろう……」
孤独、寂しさ、誰かに触れてほしいという思い。
それらが重なり合い、昨夜の一線を越えさせたのかもしれない。

けれど、麻衣子は知っていた。
この関係は、誰かを傷つける可能性があることを。

和聖がキッチンに現れた。
「おはようございます、お継母さん」
その声は、どこか照れくさく、けれど優しかった。
「おはよう、和聖さん。よく眠れた？」
「はい……でも、色々考えてしまって」
麻衣子は微笑みながら、彼にコーヒーを差し出した。

二人はダイニングテーブルに向かい合って座った。
「昨夜のこと……後悔してる？」
和聖はしばらく黙っていたが、やがて静かに答えた。

「後悔はしていません。でも、これからどうすればいいのか、わからなくて」
麻衣子は頷いた。
「私も同じ。あなたと過ごした時間は、確かに心が満たされた。でも、それだけじゃいけないのよね」

和聖は目を伏せた。
「美月のことも、子供のことも、考えなきゃいけない。僕は……彼女の夫だし、子どもの父親だから」

麻衣子は、彼の言葉に胸が締め付けられるような思いがした。
それでも、彼の誠実さに救われる気もした。
「ありがとう、和聖さん。あなたがそう言ってくれて、少し安心した」
二人はしばらく沈黙の中にいた。
けれど、その沈黙は、昨夜とは違っていた。

それは、互いに向き合い、現実を受け止めようとする静かな時間だった。
「これからは、距離を保ちましょう。お互いのために」
麻衣子の言葉に、和聖はゆっくりと頷いた。
「わかりました。僕も、そうします」

その日、和聖は帰宅すると、美月が子供を抱いて笑顔で迎えてくれた。
「あなた、おかえりなさい」
その言葉に、和聖は胸が熱くなった。

麻衣子との夜は、彼の心に深く刻まれた。
けれど、それは、過去として静かに閉じていくべき記憶だった。

―　了　―