バカな兄&クールな弟

タニマリ

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バカな兄&クールな弟 前編

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今日から新学期、また健一《けんいち》に毎朝会える。

春休み中は全然会えなかったからな~。
高校の春休みってなんであんなに長いんだろ……


私は玄関で車椅子に座りながら健一がいつものようにおはよって元気よく言いながらドアを開けるのを待っていた。


そう、私は歩くことが出来ない。

家の中では手すりや杖を使ってなんとか移動しているが、一度転けてしまうと自力ではなかなか立ち上がれないので外では車椅子を使っている。

私がまだ小さかった頃に起きた事故が原因なんだけど……



「おはようございます。」
ドアを開けてゆっくり健一が入ってきた。

いつもと全然違う雰囲気に戸惑ってしまった。
確かに健一なのだがなんだろうこの違和感は……
エリに付いている学年ごとのカラーが違うピンバッチが見えた。


「……もしかして健次《けんじ》君?」
「はい。兄貴、新学期早々寝坊です。」

健次君は健一のひとつ下の弟だ。
今年から私達と同じ高校に入学した。


しばらく見ないうちにすっかり大人になっている……
身長もぐんと伸びて兄である健一と変わらない。

もともと顔がそっくりな兄弟だったが、体型もこんなに似てしまっては双子みたいで区別がつかなくなってしまっていた。


「おいおいっ健次!桃を朝送るのは俺の役目なんだから勝手に取るなっ!!」
健一がドアを勢いよく開けて入ってきた。
まだパジャマでシャカシャカと歯磨きまでしている。

「ならもっとちゃんとしろよ。兄貴が遅刻したら桃香さんまで巻き添え食らうだろ。」
「五分で用意するから待っとけ桃!」

そう言って健一はバタバタと隣に建つ自分の家へと戻っていった。よく見たら裸足だった……
健一の焦りまくりの様子に笑いが込み上がる。

「あんなバカのどこがいいの?」
健次君がため息混じりに私に聞いてきた。
どこがいいって……
別に私達は付き合っているわけではないのだけど。


私達三人は産まれた時から家がお隣り同士の幼なじみだ。
小さい頃は三人でよく遊んだ。
学年が違う健次君とは今は距離が出来てしまったけれど、健一とは相変わらずな友達関係が続いている。



「健次君は入学早々遅刻するわけにはいかないからもう行った方がいいよ。」

「……わかった。そうする。じゃあね、桃香さん。」

大人っぽくなったなあ健次君。
小さい頃は泣きながら私達のあとにくっついてきたりしてたのに……
私のこともモモお姉ちゃんと呼んでいたのに、いつの間にさん付けになったんだろ。
なんだかこしょばいな……

近所のおばちゃん気分で健次君の成長の早さに目を細めてしまった。





「健次のヤロー。俺と同じ顔のくせに入学式でもう女の子から告白されたらしいぜ?クソ生意気っ。」
「あー、健次君はモテそうな雰囲気出てるもんね。」

「俺は?!雰囲気出てない?」

高校までは歩いて10分くらいの距離である。
それくらいなら自分で手でこいで行けるのだが、小学生からの習慣になっている健一は当然のように高校になっても車椅子を押して一緒に登校してくれた。


「まあ俺は城ヶ崎さんだけにモテたらそれで満足なんだけどねー。」
胸がチクリと痛む……
健一は高校に入ってから城ヶ崎さんという学年一可愛い女子に夢中だ。



「じゃあまた明日な。桃っ。」

私を教室まで送り健一は行ってしまった。

「おはよう桃。朝から彼氏とご登校ですか。」
「だから、そんなんじゃないって……」
健一が女子からモテない理由。
みんな私と付き合っていると思っているからだ。
ただの幼なじみだとその都度否定はしているのだけれど、毎朝の様子を見ればそう疑われるのは仕方のない気がする。

私は健一のことが好きだ。

悪いと思いつつ、健一に誰も寄ってこないこの状況に安心している。
いけない子だ……


教室に入ると友達と楽しげに話す城ヶ崎さんの姿が目に入ってきた。
今年は城ヶ崎さんと同じクラスだ。
彼女にだけは誤解を解いておいた方がいいのかも知れない。
でも…話したこともないのにいきなりそんな話をするのも変か……








放課後は一人で帰る。
パートの仕事のない日は母が迎えに来たりしてくれていたが、私ももう小さい子ではないので大丈夫だからと最近では断っている。

「桃ーっ!気をつけて帰れよーっ!!」

サッカー部の練習で運動場にいた健一が私を見つけて大声で声をかけてきた。
練習中だったので周りにいる部員から一斉に冷やかされている。そんなことするから誤解されるのに……

私は健一の優しさに笑顔で手を振った。




「いつまでこの関係続ける気なの?」
私のすぐ横に健次君が立っていた。

私の気持ちを見透かされてるようなその言葉にドキッとした。

なんか健次君怒ってる……?

健一と違い、いつもクールな雰囲気の健次君はあまり表情を崩さないので何を考えているのかがよく分からない。

「関係も何も…私達はただの幼なじみだから……」
「自分にもそう言い聞かせてるの?」

なんなのなんなの健次君。もしかして私の気持ちがバレてる?
そういえば健次君は昔から感の鋭い子だった。

私は健次君から逃げるようにして車椅子をこいだ。


「帰りは俺が送るよ。」
そう言って健次君は私の車椅子を押し出した。

「えっちょっ……健次君?!」
「これから毎日、放課後は俺が家まで送るから。」

有無を言わせぬその態度に何も言えなくなってしまった。
家に着くまでずっと沈黙状態だった。


健一はほっといてもベラベラとしゃべるタイプだ。
対して健次君は口数が少なく静かな印象だ。私もあまり会話がうまい方ではない。
気まずい、これは気まずいぞ……

同じ家庭で育って見た目もそっくりなのに、こうも性格って違ってくるもんなのだろうか。


「じゃあまた明日。」
私の家の玄関の中まで送ってくれた健次君はそのまま帰ろうとした。
「ちょっと待って健次君っ。健次君までこんなことしなくていいから!」

健次君は玄関のドアノブに手をかけたまま、私の方をゆっくりと振り返った。




「あの日のこと───

責任感じてるの兄貴だけじゃないから。」




胸にズキンと突き刺さる。

健次君が去って行った玄関のドアを見つめたまま、しばらく動くことが出来なかった。









あの日──────

小学生になったばかりの私は健一と健次君と三人で近くの公園へと遊びに来ていた。
いつもの公園、いつもの光景だ。

ただひとつ違っていたのは、小学生になるまでは遊んじゃダメと言われていた背の高い遊具で初めて遊んだことだった。

私はまだ危ないから止めた方がいいと言ったのに、小さい頃から運動神経の良かった健一はひょいひょいと登り始めた。

まだ幼稚園児だった健次君まで平気で登り出し、二人で楽しそうに遊んでいた。
私は下から危ないから早く降りてきた方がいいとずっと叫んでいた。


怖がりながら私も大丈夫かなと思い登ったのだが、一番高いところから落ちた。
そして地面にあったとがった石に腰を強打した。

私がどん臭かっただけだ。
そして運もなかった……

二人が責任を感じる必要なんてなにもない。


なにもないのに……




健一もそんな風に思っているのだろうか……

自分の歩けない足を見つめながら、情けなくなって涙がこぼれてきた。








「昨日は健次に送ってもらったんだって?」
朝、車椅子を押す健一に聞かれた。

「健次君にそんなことしなくていいからって健一からも言ってくれない?」
「なんで?帰りは送ってもらったらいいじゃん。その方が安全だし。」

安全か……
健一はあんまり深く考えない性格なんだよね。

だいたい健一と恋人同士だと誤解されているのに、その弟にまで送ってもらったら周りからなんと思われるだろう……
兄弟を二股してるとかわけのわからない噂が立ちそうだ。


「…でさーそこで俺は健次の頭を思いっきりチョップしてやったんだよっそしたらあいつ……」

健一が楽しそうに昨日あったことを私に話してくれていた。
この兄弟すごく仲が良いんだよな……
楽しそうに二人がジャレてる姿が目に浮かんだ。


「じゃあまた明日な。桃っ。」
「ちょっと待って健一っ。」

いつものように教室まで送って去ろうとした健一を呼び止めた。
私はずっと健一に甘えていた。
昨日健次君に言われて気付かされた。

健一のことをあの日のことでずっと縛り付けておくのはいけないことだ。


「あの、明日から送ってもらうのはもう……」
健一を解放してあげないといけない。


「二人っていつも仲良しだね。」

私達が教室のドアをふさいでいたので困ったように話しかけてきたのは、あの城ヶ崎さんだった。

「うわあっ城ヶ崎さん!!」
健一がわかりやすいくらいに慌てふためく。
普段はおちゃらけてるくせに恋愛に関してはホント奥手だ。

「ち、違うよっ俺達はただの幼なじみで……」
ただの幼なじみ……
健一が私のことをなんとも思ってないことぐらいわかりきってたことなのに。
こうもハッキリ言われると落ち込む。

「えっ……そうなの?」
城ヶ崎さんがビックリして私の方を見た。
「そうだよ。私達はただの幼なじみ。健一にはちゃんと他に好きな子がいるから。」
ポロッと本人を目の前にして言ってしまった。

「うおおいっ!桃────っ!!」

健一が私の車椅子を引っ張って廊下を突っ走った。


「なんであんなこと言っちゃうの?!バカ?バカなの桃?!」
「健一こそチャンスだったのになんで逃げるの?バっカじゃない?」

「心の準備ってもんがあんだろっ!」
「城ヶ崎さん狙ってる人多いのに取られてもいいの?」

「あぁもうわかってるよ、それくらいっ。」
「明日から朝送らなくていいから!」


「はあ?桃……っ。」



私は呼び止める健一を無視して自分で車椅子をこいで教室に戻った。


何をやってるんだろうか私は……
今まで毎日ありがとうと、ちゃんと感謝の言葉を添えて断りたかったのに……
ずっと優しくしてくれてた健一に対してなに怒りながら言ってんだ……


サイテイだ……










放課後、一年生の下駄箱で私は待っていた。
今日から一年生は部活を決めるための見学が出来る。
その説明を受けているのだろう、全体的にホームルームが延びていた。

しばらくして健次君がやってきた。

「昨日迷惑そうにしてたから待ってるとは思わなかった。」

相変わらず健次君は鋭い。
確かに、今朝のことがなければ一人で帰っていた。


「健次君にお願いがあるの……」
私は遠慮気味に口を開いた。

「何?やっぱり送らなくていいとかなら聞かないよ。それ以外ならなんでも聞くけど。」
靴を履き替えながら健次君は答えた。


「今度の休み、ダブルデートをしてもらいたいんだけど……」


健次君が持ってた上履きを床に落とした。












その週の土曜日、私達は四人で遊園地に来ていた。

組み合わせは私と健次君。
健一と、あの城ヶ崎さんだ。


「信じられない。意味がわからない。」
私の車椅子を押しながら健次君がずっとブツブツ文句を言っていた。


私は思い切って城ヶ崎さんに声をかけた。
今度の土曜日ダブルデートをしてくれないかと。

健一に好きな人がいると言ったあとのお誘いだったのでどういうことなのかは多分丸わかりだったと思う。
その上でOKをしてくれたのだからなかなか脈ありな感じではある。

健一も最初はビックリしていたが、だんだんとあの憧れの城ヶ崎さんとデートが出来るという実感が沸いてきたのか、よっしゃーっ!と興奮していた。


「だいたいなんで遊園地?桃香さんほぼ乗れないじゃん。」
「それは……城ヶ崎さんああ見えて絶叫系が大好きらしくって。」

私の車椅子に合わせてしまうとデートなんて行けるところが限られてしまう。
ご飯を食べる場所だとかトイレの場所だとか……
いろいろ調べてからでないと移動も出来ない。

遊園地はバリアフリーなのでその点はクリア出来る。
健次君が言うように私が乗れるのなんて数個しかないのだが、二人を仲良くさせるにはもってこいの場所だった。


「ごめんね健次君。私のことはいいから健次君も乗り物のってきてね。」
「あの二人の間に入って?乗れるわけないだろ。」
だよね……
健次君のことを全然考えてなかった。

後ろでずっと私を押してくれているから健次君の顔は全然見えないのだけれど……
いつもポーカーフェイスな健次君もさすがに怒った顔をしているよね。

最初はぎこちなかった健一と城ヶ崎さんもいくつか絶叫系に乗るうちに親密さを増してる感じに見えた。
吊り橋効果というやつだろうか……

今まで私は当たり前のように健一からいっぱい優しさをもらっていた。
これは私からのせめてもの恩返しのつもりだった。


自分が望んでやったこととはいえ……


やっぱり…辛いな。



健一が次はあれ乗ろうと自然に城ヶ崎さんの手を握った時に、私は思わず二人から目をそらした。





「兄貴っ。俺ら今から別行動するから!」
健次君が健一に声をかけたあと、すぐさま私をクルッとターンさせた。

「なんて顔してんの?バカな兄貴でもさすがに気付くよ?」
「……ウソ。健次君から私の顔なんて見えないでしょ?」


「見なくてもわかるよ。泣いてると思う。」


健次君の言う通りだった……
胸が一気に締め付けられて、涙が抑えられなくなっていた。









「はい。これでも飲んで落ち着いて。」

健次君が自販機で買ってきてくれたのは私の好きなレモンティーだった。

「好み…変わってないよね?」
「うん。今でも好きだよ。ありがとう。」

よく覚えてるな……
レモンティーを一口飲んだら少し気持ちが落ち着いてきた。
健次君は近くにあったベンチに腰を下ろし、コーラを飲み始めた。

「ごめんね健次君。巻き込んじゃって…」
「好きな男に他の女をあてがうなんて頭おかしいの?」
グッサぁ……
容赦なく切り込んでくるな……

「もう私もいいかげん健一から卒業しようと思って……」
「なにカッコつけてんの?俺が変にあおったからでしょ?兄貴が可愛いだけの子を好きになるのなんていつものことじゃん。」

ベンチに座っていると、私と目線の高さがピッタリと合う。
健次君は私の目をしっかりと見つめながら言った。


「なんで告白しないの?」



それは───────……


「断られるのわかってるのに…勇気出ないよ。」
「なんでそう思うの?兄貴単純だから言ったら意識しまくると思うけど?」

こんなにまっすぐに見つめられてズバズバ言われたらなにも言い返せない。
そうだった……
昔っから健次君は思ったことをハッキリ言う子だった。


「まあ、別にいっけど。でも見てて歯がゆい。」
すっかり呆れられてしまったかな。
私は自分でも煮え切らない性格だと思う。



遊園地にはたくさんのカップルや親子連れが来ていた。
昔……まだ私が歩けた頃、お互いの母親に連れられて三人で来た記憶がある。
この観覧車にも乗ったよな……
恋人同士のジンクスの話を聞いて子供ながらにドキドキしたっけ。


「……観覧車のりたいの?」
ぼんやりと観覧車を見つめていた私を見て健次君が言った。
観覧車はあれ以来ずっと乗っていない。
遊園地自体も来ていないかもしれない。

でもこの観覧車のゴンドラは小さすぎて車椅子なんてとても入らない。
健次君がチケット売り場へと歩き出したので慌ててあとを追った。

「健次君、無理だからいいよ。」
「いいから。」

健次君はチケットを二枚買って観覧車の乗り場まで私を押していった。
車椅子のブレーキをかけると、座っている私の背中と膝の裏に手を回した。

「ちょっ……健次君っ?!」
「俺の首もって。危ないから。」

だっ、だってこれって……っ。
観覧車の係のお兄さんが私達を見てピューって口笛を鳴らした。

男の子にお姫様抱っこされながら観覧車に乗る女の子なんて見たらそうなるよね……
顔がすっごく熱い……


健次君は相変わらずのポーカーフェイスのまま私を座席にそっと下ろし、すぐ隣に座った。
普通は向かい合わせに座るものだと思う。
並んで座ると座席が狭いので、体がピッタリと密着してしまっていた。

「あの健次君。私一人でもちゃんと座れるよ?」
「知ってる。」

知ってるって……
あまりに密着してるから私を支えてくれてるもんだと思ってしまった。

えっ……じゃあ何?
わざと私の横に座ったってこと?
くっついちゃうのに?


何考えてるんだか全然わかんないよ健次君────



にしてもこの沈黙……
この状況での沈黙はとても耐えられそうにない。

「健次君と健一ってホントそっくりよね。同じ服着てたら見分けがつかないや。」
こんな至近距離……
私の声は聞こえてるはずなのになぜか何も返ってこない。


健次君は小さな吐息をもらしたあと、話し始めた。

「小さい頃みんなで観覧車に乗った時に聞いた恋人同士のジンクスって覚えてる?」
「うん。私のお母さんが教えてくれたよね。」



観覧車の一番上でキスをすると

永遠に別れない───────




それを聞いた健一と健次君は、一番上で私を挟んで左右のほっぺに同時にキスしてくれたっけ。
可愛い思い出すぎて今でも顔がほころんでしまう。



「俺のこと兄貴だと思ってやってみる?」



えっ……?





「俺、兄貴のマネ上手いから。見てて。」

健次君は顔を隠すように下を向いたあと、スイッチが入ったようにパッと顔を上げた。


「桃、観覧車久しぶりだなっ。」
そう言って屈託なく笑うこの笑顔……
健一そのものだった。

一気に胸の鼓動が早くなる。

「俺…桃とずっとこうしたかったんだ。」
私達が乗ったゴンドラは観覧車の一番上までもう少しの高さだった。

「……桃。」

健一が私の頬をなで、その手で髪をなで…私を自分の方へと近づける……
健一の顔から目が離せない。

健次君なのに……健一にしか見えないっ。
もう少しで二人の唇が触れ合ってしまう……



「……桃香さん、逃げないと本当にしちゃうよ?」



そこで慌てて我に返った。
「健次君っ冗談キツイ!!」
健次君から離れようと体を急にそらしたので踏ん張りがきかなくなって上半身がよろけた。

「危ないっ!」
健次君がとっさに私を支える。

「ごめん健次君…もう大丈夫だから。」
健次君の腕の中で思いっきり抱きしめられてる状態になってしまった。


「……健次君?」

健次君は私を離そうとしてくれないどころか、さらに力を入れて抱きしめてきた。
耳のそばで聞こえる健次君の心臓の鼓動が早くなっていくのがわかった。


「兄貴が他の女と仲良くしてるの見てどうだった?」
「どうって……」
私の心臓の音も健次君と合わせるように早くなる。

「辛くなかった?」
「……辛いよ…すごく。」

「俺はずっとその状態なんだけど。」
「……えっ?」

「物心ついた時からずっと…好きな子が他の人を見てるとこを見てた。」


─────────────っ?!




えっ……健次君………
今の言葉の意味って─────────






「なんで兄貴なの?」







ウソでしょ…………






観覧車の下で健一と城ヶ崎さんが私達を待ってる姿が見えた。
健次君もそれに気付いたようで、私から離れた。



健次君の顔が見れない……
いつものようにポーカーフェイスなのだろうか?
私はこれ以上ないってくらい動揺している。
どうしていいかわからない……泣きそうな顔になっているかもしれない。


「兄貴のやつ……手、つないでる。」

健次君がボソッとつぶやいた。
これ以上あの二人の仲の良い姿を見るのはとても無理だ。

「耐えれる?」
私は顔を手で覆いながら首を左右に振った。



「俺が守ってあげる。」




ゴンドラが一番下に着き、係の人が扉を開けた。
健次君は乗った時と同じように私を軽く持ち上げた。



「観覧車乗るなら言えよ~一緒に乗ったのに。」
健一が明るく声をかけてきた。
健次君は私の顔が二人から見えないようにしながら車椅子へと運んでくれた。

「桃香さん疲れてるようだから俺らはもう先に帰るよ。」
「あっ、ちょっと待てよ。報告があんだよ、二人に。」

報告────?
イヤな予感がして息がつまりそうになった。


「それがさぁ、城ヶ崎さんも俺の事好きだったみたいで……俺達付き合うことになったから。」
「おいっ兄貴っ……!」
健次君が何かを言いそうになったので腕をつかんで止めた。


「おめでとう健一、よかったね。」



「……桃香さん?」
「行こう健次君。疲れちゃった。」

私達は二人に別れを言ってから遊園地をあとにした。




「私、ちゃんと笑えてたかな?」
「かなり引きつってた。」

「……だよね。」
「もう我慢しなくていいから。」


「……うん、ごめん……」



堪えきれずに人目もはばからず泣いてしまった。

健次君は何も言わず、車椅子の後ろで私が泣き止むまでずっと待っていてくれた。



物心ついた時からずっと…

好きな子が他の人を見てるとこを見てた。




健次君の気持ちを知ってしまったのにまたこんな姿の私を見せてしまっていることが、すごく申しわけなかった。




勇気を出して告白していたらなにかが変わったのだろうか?

自分のしたことに後悔なんてしたくはないけれど……


失ってからこんなにも狂おしい気持ちになるとは思わず、切なくて涙が止まらなかった。










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