没落令嬢は僻地で王子の従者と出会う

ねーさん

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 山を下った所にある集落で馬車を降りる。
 飲食店はないので、オリビアとジルは食べ物と飲み物を調達しに小さな店へ入る。
 ダグラスは「ルイに話があるから二人で行って来てくれ」と言い、馬車に残っていた。
「私に話が?」
 ルイが馬車の外からダグラスに声を掛ける。ダグラスは馬車を降りると扉を開けた入り口に座った。
「すまん。一人になりたかっただけだ」
「…そうですか。少し報告しても?」
「ああ」
「昨夜の賊は…一人は金のためなら何でもすると有名な、裏とは関わりのない奸物でした。二人目はこちらの世界のはみ出し者で流れ者、特定の雇い主はいないと。三人目は…以前、エバンス侯爵家で雇われていた間者です」
「そいつが、オリビアの髪を掴んだ男か?」
「そうです」
 やはり、オリビアを知っているのか。
「三人共何らかの罪で服役していたのですが、最近脱獄したと情報が回りました」
「三人は共謀して脱獄を?」
「そのようです」

「オリビア様、どうして落ち込んでいるんです?」
 パンとミルクを買って店を出て、馬車まで並んで歩きながらジルが言う。
「私?落ち込んでるかしら?」
 オリビアはきょとんとしてジルを見た。
「はい。元気がありません」
「…ジルには隠し事できないわね」
 オリビアは苦笑いをしてため息を吐く。
「そうですよ」
「今朝から…ダグラスと目が合わないの。偶然か、気のせいかも知れないけど」
「ダグラス様と目が合わないと落ち込むんですか?」
 しれっと言うジルをオリビアは睨む。
「…そうよ。悪い?」
「いえ。そんなオリビア様に確認したい事があるんですが」
「何?」
「…王都で起こった事、どこまでダグラス様たちに話して良いですか?」
 オリビアは目を見開いてジルを見る。
「……」
「ある程度、話さなくてはなりません」
 ジルは真顔で言う。
「昨夜の襲撃と関係ある?」
「はい」
 オリビアは自分のスカートをぎゅっと握りしめた。
「…何も、隠さなくて良いわ」
「オリビア様が…拐われた時の事も?」
 オリビアは視線を落として無言で頷いた。

 ダグラスの視界に戻って来たオリビアとジルの姿が映る。
「…ルイ。馬車に乗れ。皆で情報と状況を擦り合わせよう」
 ダグラスは二人から目を逸らして立ち上がると、一足先に馬車へ乗り込んだ。
 オリビアはそんなダグラスの様子を見て立ち止まる。

 何かダグラスの気に障る事をしたのかしら?
 昨夜は助けてくれて、抱きしめてくれたのに…。

 馬車に乗り込むと、ダグラスとルイは並んで座って地図を見ながら話をしている。オリビアはダグラスの向かいに座ると、ジルはその隣に座った。
「とりあえず、情報の擦り合わせをしたい。良いか?ジル」
 ダグラスがジルを見る。
「はい」
 ジルが頷くと、ダグラスはオリビアを見た。
「とりあえず食べながら話そう」
 一瞬目が合うと、すぐに買って来たパンの入った袋へ視線を逸らした。
 ダグラスの視界の隅に眉を寄せたオリビアが見えた。
 態度に出すな。と、ダグラスは自分を叱咤する。
「まずは昨夜の賊、ジルが一人知っていると言ったのは、そいつがエバンス家に雇われていた男だからだな?」
「え?」
「そうです」
 オリビアが驚いてジルを見る。
「エバンス家に?」
 ジルはオリビアを見て頷くと
「昨夜の三人は…三年前、オリビア様を拐った三人です」
 と言った。
「…え?」
 オリビアは瞠目し、ジルを見つめる。手が小刻みに震え出す。
「私は三年前、あの男たちを捕らえ、制裁を加え、警察へ引き渡しました。しかし最近、三人が脱獄したと知り、きっとオリビア様を狙うだろうと、オリビア様を追ってここへ来ました」
「あの…時、うちに雇われていた男がいた…の?」
 オリビアが震える声でジルに問う。
「…オリビア様、リネット様を連れ去った、実行犯の男を覚えておられますか?」
 リネットの鳩尾を殴り、乱暴しないでと言ったオリビアに「オリビア様は甘い」とニヤリと笑って言った男。
 ーー捕まえた。
 昨夜オリビアの髪を掴んだ男の声と重なった。
「あの男が…?」
 胸の前で組み合わせたオリビアの手がぶるぶると震える。ジルはそっとオリビアの手を取る。
 ダグラスは視線を下に向けた。
「オリビア様を拐った、主犯はその男ですが、実際は他の二人を使い、自分は見張りをしていました」
「何故…?」
「あの男は…」
 言い淀むジルに、オリビアは
「私は大丈夫だから、包み隠さず話して」
 と言う。ジルはオリビアを見てから、ダグラスを見る。
 ダグラスはゆっくりと頷いた。
「あの男は、オリビア様に劣情を抱いていました。二人が、オリビア様を…犯した後、自分もするつもりだったと」
 
 
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