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番外編2-1
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オスカー編1
領主屋敷の食堂でテーブルを囲むのは、領主のパリス、側仕えのダグラス、ダグラスの婚約者オリビア、側仕え見習いのオスカーの四人だ。
「俺は料理人になりたかったのになぁ」
オスカーがため息混じりに言うと、オリビアが
「お兄様は子爵家の跡取りなんだから、どちらにしろ料理人にはなれないじゃない」
と言う。
「冷たいなあ。オリビアは」
「今日の料理はオスカーが作ったんだろう?とても美味しいよ」
パリスがにっこりと笑って言うと、ダグラスも頷く。
「オスカーは本当に料理上手だ」
「それにお兄様、領主屋敷なら家族以外にも料理を振る舞えてやりがいがあるじゃない」
オリビアが言うと
「…思う存分料理できるのは嬉しいけどね」
オスカーはジトっとオリビアを睨む。
「済まないね、オスカー。でも私の側仕えとしては適任だと思うんだ」
パリスが苦笑いしながら言う。
「俺も、オスカーは向いていると思う」
「…俺なんかただ情報統括を担う家に育っただけの、平凡な男ですけどね。まあやると決めたからには頑張りますよ」
オスカーは拳を握った。
-----
「オスカー様、ジャガイモ剥くの手伝います」
オスカーが厨房でジャガイモを剥いていると、領主屋敷のメイドの一人、メグがやって来た。
領主屋敷の使用人は少ない。人件費を削減し、修道院への寄付金を少しでも早く貯めるためだ。
厨房にはオスカーの他に二人、侍女は二人、メイドが五人、庭や屋敷のメンテナンスなどの雑用を全てこなす庭師が一人、執務に関する事柄は今はダグラスが担っているが、いずれはオスカーの役目となる。
屋敷自体はさほど大きくないので最低限の人数で回しているのだ。
「メグさん、ありがとう」
メグは薄っすら桃色がかった金髪で赤い瞳をしている。目が大きく可愛らしい顔立ちだ。年は19と本人は言っているが、オスカーは本当はもう少し下だと思っていた。
「呼び捨てでかまいませんのに」
メグは無表情で言う。
この子、笑わないんだよなあ。
「うん。まあまだ慣れてないからね。仕事は終わりました?」
「はい。掃除は割と得意なので」
「そう、じゃあお願いします」
椅子に座り、ショリショリとジャガイモを剥くメグの手元を眺める。
小さい頃から親の手伝いをしていたような子ではないな。下手でもないが、すごく上手でもない、慣れているようで、慣れていない。
「メグさん、よく厨房に来るけど、料理好きなんですか?」
「…ご迷惑ですか?」
メグが真剣な表情でオスカーを見る。
「いえ。他意はありません。料理好きなのかな、と」
オスカーがにっこり笑って言うと、メグはほっと息を吐く。
「…お料理、覚えたいなと思っているんです」
そう言った時、厨房に勤める二人が戻って来た。一人はジョンと言う50歳くらいで恰幅の良い、気の良い男性で、もう一人は18歳の料理人見習いの男性ニクスだ。
「メグ、来てたのか」
ジョンが言うと、ニクスは
「また来てたのか」
と言った。
「お邪魔してます」
メグが無表情で軽く頭を下げると、ニクスはふんっと鼻で笑う。
「メグちゃんはオスカー様に会いたいだけなんだろ?本当は」
皮肉気に言うと、メグは首を横に振る。
「オスカー様はお料理上手で尊敬していますが、会いにきているとかでは…」
「どうだかね」
ニクスはメグさんを好きなのかな?
オスカーはニクスの絡み方を見てそう思う。
ニクスとメグは年が近い。侍女は二人とも既婚者だし年も上だ。メイドも五人中三人は既婚者、後は十三歳でメイド見習いの子と、このメグなのだ。
しかしメグさんは…。
「ニクス。ジャガイモ剥きを代わってくれ。ダグラスに用事ができた」
オスカーはそう言って立ち上がった。
-----
「メグ?ああ、あの子の素性は不明だ」
「不明?」
ダグラスとオスカーはいずれ義兄弟となるが、兄となるオスカーの方がダグラスより年下で、ダグラスが伯爵家に勘当を解かれた今は身分も上だ。敬称や敬語など、互いに話し合った結果「呼び捨て」「敬語なし」との取り決めとなっていた。
「急に雇ってくれとやって来たんだ。パリスが気に入って…ほら髪色がマリに似てるから」
「ああ…」
マリはパリスの恋人だ。マリはメグより濃い目の桃色の金髪だった。パリスは、寄付金を納め、マリを修道院から出すために質素倹約生活をしているのだ。
「…パリス様のお気に入り?」
「いや、そういう意味ではない。たまに眺めてマリに思いを巡らせているだけだ」
「…そうか。それで素性は調べなかったのか?パリス様の屋敷に勤めるなら素性調査は必須だろう?」
「そうなんだが…何か訳ありなのは間違いないし、パリスに何か企んでいる様子もないし、調べる気になればすぐだしな」
ダグラスには諜報員である「影」が付いている。その気になればすぐ調べられるのは間違いなかった。
「俺は、メグさんは上位貴族の令嬢ではないかと思っている」
オスカーがそう言うと、ダグラスも頷いた。
領主屋敷の食堂でテーブルを囲むのは、領主のパリス、側仕えのダグラス、ダグラスの婚約者オリビア、側仕え見習いのオスカーの四人だ。
「俺は料理人になりたかったのになぁ」
オスカーがため息混じりに言うと、オリビアが
「お兄様は子爵家の跡取りなんだから、どちらにしろ料理人にはなれないじゃない」
と言う。
「冷たいなあ。オリビアは」
「今日の料理はオスカーが作ったんだろう?とても美味しいよ」
パリスがにっこりと笑って言うと、ダグラスも頷く。
「オスカーは本当に料理上手だ」
「それにお兄様、領主屋敷なら家族以外にも料理を振る舞えてやりがいがあるじゃない」
オリビアが言うと
「…思う存分料理できるのは嬉しいけどね」
オスカーはジトっとオリビアを睨む。
「済まないね、オスカー。でも私の側仕えとしては適任だと思うんだ」
パリスが苦笑いしながら言う。
「俺も、オスカーは向いていると思う」
「…俺なんかただ情報統括を担う家に育っただけの、平凡な男ですけどね。まあやると決めたからには頑張りますよ」
オスカーは拳を握った。
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「オスカー様、ジャガイモ剥くの手伝います」
オスカーが厨房でジャガイモを剥いていると、領主屋敷のメイドの一人、メグがやって来た。
領主屋敷の使用人は少ない。人件費を削減し、修道院への寄付金を少しでも早く貯めるためだ。
厨房にはオスカーの他に二人、侍女は二人、メイドが五人、庭や屋敷のメンテナンスなどの雑用を全てこなす庭師が一人、執務に関する事柄は今はダグラスが担っているが、いずれはオスカーの役目となる。
屋敷自体はさほど大きくないので最低限の人数で回しているのだ。
「メグさん、ありがとう」
メグは薄っすら桃色がかった金髪で赤い瞳をしている。目が大きく可愛らしい顔立ちだ。年は19と本人は言っているが、オスカーは本当はもう少し下だと思っていた。
「呼び捨てでかまいませんのに」
メグは無表情で言う。
この子、笑わないんだよなあ。
「うん。まあまだ慣れてないからね。仕事は終わりました?」
「はい。掃除は割と得意なので」
「そう、じゃあお願いします」
椅子に座り、ショリショリとジャガイモを剥くメグの手元を眺める。
小さい頃から親の手伝いをしていたような子ではないな。下手でもないが、すごく上手でもない、慣れているようで、慣れていない。
「メグさん、よく厨房に来るけど、料理好きなんですか?」
「…ご迷惑ですか?」
メグが真剣な表情でオスカーを見る。
「いえ。他意はありません。料理好きなのかな、と」
オスカーがにっこり笑って言うと、メグはほっと息を吐く。
「…お料理、覚えたいなと思っているんです」
そう言った時、厨房に勤める二人が戻って来た。一人はジョンと言う50歳くらいで恰幅の良い、気の良い男性で、もう一人は18歳の料理人見習いの男性ニクスだ。
「メグ、来てたのか」
ジョンが言うと、ニクスは
「また来てたのか」
と言った。
「お邪魔してます」
メグが無表情で軽く頭を下げると、ニクスはふんっと鼻で笑う。
「メグちゃんはオスカー様に会いたいだけなんだろ?本当は」
皮肉気に言うと、メグは首を横に振る。
「オスカー様はお料理上手で尊敬していますが、会いにきているとかでは…」
「どうだかね」
ニクスはメグさんを好きなのかな?
オスカーはニクスの絡み方を見てそう思う。
ニクスとメグは年が近い。侍女は二人とも既婚者だし年も上だ。メイドも五人中三人は既婚者、後は十三歳でメイド見習いの子と、このメグなのだ。
しかしメグさんは…。
「ニクス。ジャガイモ剥きを代わってくれ。ダグラスに用事ができた」
オスカーはそう言って立ち上がった。
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「メグ?ああ、あの子の素性は不明だ」
「不明?」
ダグラスとオスカーはいずれ義兄弟となるが、兄となるオスカーの方がダグラスより年下で、ダグラスが伯爵家に勘当を解かれた今は身分も上だ。敬称や敬語など、互いに話し合った結果「呼び捨て」「敬語なし」との取り決めとなっていた。
「急に雇ってくれとやって来たんだ。パリスが気に入って…ほら髪色がマリに似てるから」
「ああ…」
マリはパリスの恋人だ。マリはメグより濃い目の桃色の金髪だった。パリスは、寄付金を納め、マリを修道院から出すために質素倹約生活をしているのだ。
「…パリス様のお気に入り?」
「いや、そういう意味ではない。たまに眺めてマリに思いを巡らせているだけだ」
「…そうか。それで素性は調べなかったのか?パリス様の屋敷に勤めるなら素性調査は必須だろう?」
「そうなんだが…何か訳ありなのは間違いないし、パリスに何か企んでいる様子もないし、調べる気になればすぐだしな」
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