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学園一年生編
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そのまましばらく応接室で甘ーい時間を過ごした私達は(ただ延々とアルフレッド様が一方的に喋っていただけだけれど)アルフレッド様が乗ってきた王家の馬車で学園へと向かった。
王家の馬車は、馬車の中だと思えないくらいに広くて大きく、座席もふっかふか。まるで高級ミニバンみたいな乗り心地だ。
それなのに、アルフレッド様は私の正面ではなく、隣に腰を下ろして体を密着させてくる。
「ああ……朝からジルと一緒にいられるなんて、幸せすぎて自然に顔が緩んでしまうな」
嬉しそうにそう語るアルフレッド様に戸惑いながらも、私は笑顔を向けた。
……でも、あと少しで学園に到着する。
そこで、アルフレッド様は風に飛ばされてしまった母親の形見であるハンカチを追いかけるオルティアに出会うのだ。まるで妖精のような佇まいのオルティアを見て、運命の恋に落ちるのよね……。
正面、私の中にはアルフレッド様と離れたくないという気持ちはある。……でも、それが『私』としての気持ちなのか、『悪役令嬢ジュリエット・カラミンサ』としてのゲーム設定による情報によるものなのか、判別がつかない。
私が今体験しているような転生モノのラノベやコミックも読んだことはあるけれど、大体の場合『ゲームの強制力』なるものが存在していて、少なからず転生者を含めた登場キャラに影響を及ぼすじゃない?
でも、私達はゲームのために作られた「キャラクター」ではなく、この世界に生きている、一人の人間なのだ。それが頭では理解できているのに、どうしてもそんな知識が頭を過ぎってしまう。
「ほら、着いたよ。ジル、足元に気をつけながらゆっくり降りてね?」
睡眠不足と緊張と貧血でぼーっとしていたらあっという間に学園に着いてしまった。
先に馬車を降りていたアルフレッド様がエスコートしてくれる。が。
「!」
案の定立ち眩みがして、私は馬車のステップを踏み外してしまった。
「危ない!!」
アルフレッド様が慌てて私を受け止めてくれた。
「……し、失礼を……」
「間に合って良かった。ジルの綺麗な顔に傷でもついたら大事だからね」
アルフレッド様はそのまま私を抱きかかえた。そして誰もいなくなったあろうことがそのまま歩き出したのだ。
「あ……アルフレッドさま……」
当然、他の生徒が私達に注目している。……無理。顔から火が出るほど恥ずかしい。
「あの……降ろして、下さい……っ」
「駄目だ。気が変わった。会場の広間まで私がこのまま運ぶ」
……嘘でしょ。そんなことをしたら、オルティアとの遭遇イベントはどうなるの?
「見て、王太子殿下と婚約者のジュリエット・カラミンサ公爵令嬢よ」
「まあ、噂通り仲睦まじいのね」
「美男美女で、本当にお似合いだわ」
あちこちから、そんな女子生徒の囁き声が聞こえてくる。……恥ずかし過ぎて、死ねそうだ。
私はアルフレッド様の腕の中で、真っ赤になって固まっているしかなかった。
王家の馬車は、馬車の中だと思えないくらいに広くて大きく、座席もふっかふか。まるで高級ミニバンみたいな乗り心地だ。
それなのに、アルフレッド様は私の正面ではなく、隣に腰を下ろして体を密着させてくる。
「ああ……朝からジルと一緒にいられるなんて、幸せすぎて自然に顔が緩んでしまうな」
嬉しそうにそう語るアルフレッド様に戸惑いながらも、私は笑顔を向けた。
……でも、あと少しで学園に到着する。
そこで、アルフレッド様は風に飛ばされてしまった母親の形見であるハンカチを追いかけるオルティアに出会うのだ。まるで妖精のような佇まいのオルティアを見て、運命の恋に落ちるのよね……。
正面、私の中にはアルフレッド様と離れたくないという気持ちはある。……でも、それが『私』としての気持ちなのか、『悪役令嬢ジュリエット・カラミンサ』としてのゲーム設定による情報によるものなのか、判別がつかない。
私が今体験しているような転生モノのラノベやコミックも読んだことはあるけれど、大体の場合『ゲームの強制力』なるものが存在していて、少なからず転生者を含めた登場キャラに影響を及ぼすじゃない?
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「ほら、着いたよ。ジル、足元に気をつけながらゆっくり降りてね?」
睡眠不足と緊張と貧血でぼーっとしていたらあっという間に学園に着いてしまった。
先に馬車を降りていたアルフレッド様がエスコートしてくれる。が。
「!」
案の定立ち眩みがして、私は馬車のステップを踏み外してしまった。
「危ない!!」
アルフレッド様が慌てて私を受け止めてくれた。
「……し、失礼を……」
「間に合って良かった。ジルの綺麗な顔に傷でもついたら大事だからね」
アルフレッド様はそのまま私を抱きかかえた。そして誰もいなくなったあろうことがそのまま歩き出したのだ。
「あ……アルフレッドさま……」
当然、他の生徒が私達に注目している。……無理。顔から火が出るほど恥ずかしい。
「あの……降ろして、下さい……っ」
「駄目だ。気が変わった。会場の広間まで私がこのまま運ぶ」
……嘘でしょ。そんなことをしたら、オルティアとの遭遇イベントはどうなるの?
「見て、王太子殿下と婚約者のジュリエット・カラミンサ公爵令嬢よ」
「まあ、噂通り仲睦まじいのね」
「美男美女で、本当にお似合いだわ」
あちこちから、そんな女子生徒の囁き声が聞こえてくる。……恥ずかし過ぎて、死ねそうだ。
私はアルフレッド様の腕の中で、真っ赤になって固まっているしかなかった。
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