最愛の番になる話

屑籠

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2 尚志

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 可愛い、妹と弟たち。
 小さい頃は、本当に可愛いと思っていたんだが。
 いつの頃からか、アルファとわかり、父の期待を、坂牧の後継としての期待を背負うようになってからか。素直に、母に甘える双子が少しだけ煩わしかった。
 妹は家族の中で唯一無二の女性で、甘やかされている。父にも母にも。
 母は、気にかけてはくれるが、それでも下の子たちが優先されてしまうのは仕方がないこと。
 それでも、俺は父がいた。厳しいながらも、愛情を注いでくれる、父が。
 だから、腐ることもなく育ってこれた。
 父は、下の双子にはあまり関心がないみたいだったし。
 だからか、双子たちは俺に近づいてくるようなこともあまりなかった。
 可愛いとは、思っていたのだが。
 雰囲気の違いだろうか? 隣に住む幼馴染の律都に双子が懐くのにそれほど時間はかからなかった。
 律都は律都で、まんざらでもないような顔をして相手をしていたから、問題もなかった。
 問題ない、と思っていたのは俺だけだって、今は思い知らされている。
 目の前の、何も映さない様な瞳をしている、末の弟を目の前にして。
 確かに、かわいそうな弟ではあった。父に、顧みられることはないし、母は母でオメガであった光也に何かあればつきっきりになってしまう。
 そうして、咲也は少しずつ自分を不必要なものだと思ってしまったのだと思う。
 もっと、俺が気にかけていれば何かが変わったのだろうか?
 後悔しても、もう遅いのだろうけれど。
 だから、今は咲也の意志を尊重してやろうと思う。
 けど、バッサリと関係を切ってしまうのは、危うい気がして。

「俺、昼には執事に連絡して他の場所へ移ります。尚志さんがいつも使っていたところであれば、俺が後から来た形になるのでしょうし。尚志さんも、俺がいたらせっかくの休日を休めないでしょう?」
「いや……咲也に問題なければ、ここにいろ」

 キョトン、とした顔で俺を見ている咲也。
 なぜ、と言った顔だ。

「ここ、寝室が1つしかないんですよね? どこで寝ろと?」

 ソファーで寝れば風邪を引くと言ったのは、俺自身だ。
 とはいえ、夏に使用することしか想定されていないこの別荘の中には、掛け布団などは余分にない。

「一緒に寝ればいい。兄弟なんだから、問題ないだろう?」
 
 問題ない、その言葉を使用するたびに、咲也の顔に不快さが加わっていく。
 今更、何言っているんだ、とでも言いたげな顔だ。

「ここにいるのなら、俺はお前がここにいたことも、学校のことも誰にも言わない」
「……別に、言ってもいいですけど」
「母や光也が押しかけてくるぞ? それでもいいのか?」
「うぐっ……」

 完全に嫌だと言った顔をした咲也は、渋々、顔を顰めながら頷いた。

「あの学校だと、冬の間は寮が開いてるんだったか。夏だけだな、ここに来るのは」
「来年も、この別荘に来いと?」
「俺の滞在は、大体三、四日程度だ。夏休みは長いだろ? 別の場所に移るよりは、ここにいた方がいい」

 そのほうが、俺が安心だった。勝手知ったる場所の別荘だということもあるし、何より管理人が信用できる人物だからだ。
 最悪、空腹で倒れる、なんてことにもならないだろう。
 この別荘は、父方の叔父が所有していたもので、誰とも結婚もせず、悠々自適だったという。だから、一人用なのだ、ここは。
 それから一週間程度、咲也とここで過ごした。
 一週間で何か変わるのか、それは分からなかったが、予定よりも長く滞在した事は、思ったよりもいい影響を与えていたみたいだ。
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