袁煕立志伝withパワーアップセット おい、起きたら妻がNTRられる雑魚武将になってたんだが。いいだろう、やりたい放題やってやる!

おいげん

文字の大きさ
14 / 78
196年 賊徒討伐編 袁煕部隊出陣 VS黒山賊

第14話 袁尚の改善

しおりを挟む
 一重に性癖変更と言っても、今以上に歪めてしまうのは危険が過ぎる。日常生活を送れなくなるレベルになってしまったら、俺が介護しなくてはならん。
 余りにもの惨状になってしまったら、この時代だ、放逐や処罰も十分考えられる。

「にいしゃん……もっと絞めて……この駄犬をボコボコにして……」
 よだれ垂らしながら天国へ行きそうな妹を目にして、人は何を思うだろうか。首絞めが基本とか、ちょっと人類の枠組みから離脱してる。

顕甫けんほ、今更生してやるからな」
 俺は強力編集パワーアップセットの性癖記入欄を脳内でクリックし、フリーワードを書き込む。
 無駄にタグカテゴリが充実していたのが気になるが、追及は後にしよう。

『礼儀正しく、誇り高く、平和的な統治に興奮する』
 真人間に改造しよう。日々勉学や訓練、統治に邁進していればご褒美がもらえる仕組みと気づいてもらいたい。
 袁尚えんしょうが治める邯鄲かんたんの人々は困惑するだろうが、そのうちに慣れるだろう。まあ、馬上で達したり、政務中に痙攣したりするかもしれんが、処刑よりは遥かにマシだ。

『性癖設定はこれでよろしいですか? 是 否』
 是だ。可及的速やかに実施すべし。

『おおっと! 合体事故だ! ジャーン! ジャーン!』
 誰も悪魔合体や錬金なんぞしてねえぞ。そもそもメーカーが違うやつのイベントじゃねえか。いいのか、南華老仙なんかろうせん。コンプラ違反になってんぞ。

『新性癖が設定されました。再変更には金9000が必要です』
 課金額えっぐ。
 いや、一般的な武将の一年の生活費が金1000くらいよ? 名門袁家でも流石に毎回事故ガチャするのはきつい。しかもこの金はどこに消えてるんだ。

 デデデデデ、と馬蹄が大地を踏みしめるような音が響く。俺の脳内に。
『既存武将:袁尚の性癖→礼儀をなじられ、誇りを踏まれ、統治を罵倒されると異様に興奮する』
「えぇ……これはどういうシチュエーションを想定してんだよ。このチートを作った奴の顔見てみたいわ」

 打ち付ける銅鑼の音とともに、強力編集の無用な機能がフルパワーで発動した。
 まあ、首絞めよりは遥かに穏当なものかもしれん。しばらくは俺も邯鄲に行き、様子を見るぐらいのアフターケアは必要だろうか。

 そんなことを考えていると、不意に袁尚が俺の手を首から外した。上気していた顔は真面目なものに変わり、きゅっと引き締めた凛々しい瞳が輝いている。

「大変失礼いたしました、お兄様。何故自分でもあのような行為に陥ったのか覚えておりませぬが、多大なるご心痛を誘いましたこと、深くお詫びいたします」
「お、おう。コホン……俺が思うに、恐らくは酒の質が悪かったのであろう。名門袁家の膳に饗されるものに粗末なものがあるとは思いたくないが、そういうこともあろう」

「寛大なお言葉、まこと感謝の至りでございます。よろしければお兄様のご機嫌が直るよう、この袁顕甫が酌をさせていただきたく思います」
「う、うむ。戦場では予測のつかないこともある。それは家内においても同じという教訓だろう。お互い勉強になったな!」
「はい、お兄様」

 丸く収まった。
 夜風に吹かれていると、先ほどの喧騒も自然と散らしてくれる。
 袁家の大将・袁紹えんしょうに中座をしていた詫びを入れ、俺は袁尚に酒を注いでもらいつつ宴を楽しんだ。ときたま群雲を抜けて月が顔を出す。
 木製の格子越しに見る夜空は、冬の空気を纏いながらもどこか、俺たちを見守ってくれる温もりがあった気がした。

「お兄様は変わられましたね。もう私では御量りすることができぬ人物になられたかと」
「そんなはずはなかろう……と言いたいが、俺も少しは実戦を経験してきたからな。成長していなかったら落ち込むところだ」
「素敵です、お兄様。その向上心は見習いたく思います――あっ!」

 手が滑ったのか、袁尚が誤って俺の膝に酒をこぼしてしまった。まあ大分宴もたけなわだしな、手元云々言ってたらキリがない。

「申し訳ありません、このような粗相を! どうかお許しを、お兄様」
 俺もちょっと酔いが回ってたのか、少しイタズラをしたくなった。なので怒っている振りでもしてみよう。

「顕甫、年長者に酒をかけるとはどのような料簡だ。この不始末、ただの叱責で終わると思うなよ」
「覚悟しております……ハァ……どうぞお好きなように……ハァハァ、処罰を……」
「—―すまん、顕甫。俺の冗談だ。気にする必要はないぞ」

 すっかり忘れてたが、こいつには強力編集のドーピングがぶち込まれてるんだった。つまり常人と認識してはいけないということだ。

「私はぁ無礼なぁ、ダメな犬です……お兄様、ハァハァ、こ、この鞭でどうかし、尻を……」
「やめよ、祝いの席で妹に鞭打つことこそ、礼儀がなっていないことだろう。斯様な狼藉は俺には出来ん」
「ンッ、また私が……ハァ、いけないことぉしちゃったんれすね……どんな、ンッ、罰が待っているのか……」

 無理ゲー。
 コミュニケーション取れん。ってか、何を言っても自分が興奮する方向に、言葉を捻じ曲げてくるんじゃなかろうか。
 袁尚の性根を糺すつもりであったが、四方八方に快楽スイッチがついたモンスターを生み出してしまった。

「よせ、戯れだ顕甫。償いと言うのであれば、もっと酌をしてくれ」
「かしこまりまひた、おにいしゃま」

 そんなアブノーマルな酒席を見守る野獣の眼光に、この時の俺はまだ気づかなかった。冠の位置を直しつつ、呑気に酒を飲んでいたが、風雲急を告げることになる。

――
「おい、顕奕けんえき。ちょっと邪魔するぞ」
 二弦の楽器の音に酔いしれ、美人たちの舞を観る。そろそろ微睡む者たちも出そうになりそうなときだった。ようやく袁尚も大人しくなり、静かになったと思ったのに……。

 よっこらせと隣に腰を下ろして来る、ミディアムヘアの女性。
 破壊者の名は袁譚えんたん。隣で蕩けながら酌をしてくれている袁尚の犬猿武将だ。

「おう顕奕、そんな根暗の酒なんぞ飲むと、体がおかしくなっちまうぞ。そんなもん捨てて、オレの持ってきたやつを飲めよ」
「いや、はは……酒職人が丹精込めて作りし命の水です故、粗末にするのはやりすぎかと。それに俺も大分酔いが回りましたので――」
「お姉ちゃんの、言うこと……ヒク、聞けないのか……エグッ」

 お前泣くんか! ここで、この場で、この状況でか!
 えぇ……どう見ても俺が悪く見えるじゃんよ、これ。

 凡庸なりに大人しくしてたつもりだが、アッと言う間に注目の的になってしまった。幸いなことに当主の袁紹は中座している。
 しかしその隙を突かれ、群臣が二グループに分かれてしまった。

「おお……お気を確かに、顕思けんし様。この辛評しんぴょうがお側におりまするぞ」
「顕甫様、ささこちらに。逢紀ほうきめがついておりますので、心配ございません」

 袁譚派と袁尚派の反目が始まったのか。
 やばい、これは本当に危険だ。両陣営ともに自らが推す者を袁家の跡取りにさせようとしている。

 袁紹ー--っ! 早く戻ってきてくれっ!
 ここを押さえられるのは、君主であるアンタしかいねえんだ!
 俺の両袖をひっ掴む姉妹は、一歩も譲る気はなさそうだ。
 片やガン泣きして袖に縋りつく姉。もう片方は何事もないように笑顔で酌を続ける妹。
 人、これを極限状態と呼ぶ。

「ご、ご報告いたします!」
 ええ、今度はなんだよ。今そういう状況じゃ……。
 転がり込むようにすっ飛んできた伝令に、思わず厳しい視線を送ってしまったことを悪く思いつつ、先を促すことにした。

「申せ」
「お、御館様が……御館様が倒れられました……!!」
「は? え?」
「侍医の報告によれば、今夜が峠だと」

 袁紹おおおおおおおおおおっ!! 何してんだあああああっ!
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

幻影の艦隊

竹本田重朗
歴史・時代
「ワレ幻影艦隊ナリ。コレヨリ貴軍ヒイテハ大日本帝国ヲタスケン」 ミッドウェー海戦より史実の道を踏み外す。第一機動艦隊が空襲を受けるところで謎の艦隊が出現した。彼らは発光信号を送ってくると直ちに行動を開始する。それは日本が歩むだろう破滅と没落の道を栄光へ修正する神の見えざる手だ。必要な時に現れては助けてくれるが戦いが終わるとフッと消えていく。幻たちは陸軍から内地まで至る所に浸透して修正を開始した。 ※何度おなじ話を書くんだと思われますがご容赦ください ※案の定、色々とツッコミどころ多いですが御愛嬌

OLサラリーマン

廣瀬純七
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...