袁煕立志伝withパワーアップセット おい、起きたら妻がNTRられる雑魚武将になってたんだが。いいだろう、やりたい放題やってやる!

おいげん

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196年 夏 袁煕の嫁とり

第34話 華燭の典

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 犬猿関係が消えたおかげか、甄姫は好意は寄せずとも特段俺を厭う行動をすることはなかった。
 常に周囲には蛇君たちが見張っているので、やるつもりはないが、余計な手出しはできない。

 196年9月吉日
 俺は甄姫との結婚式――華燭の典を迎えることになった。

 東方より俺が貴人の衣と頭冠を身につけ、袁家伝来の宝剣を佩いて広間に向かう。
 俺に付き従うのは、腐れ軍師の郭図。そしてお目つけ役の顔良だ。

 郭図は顔良に大分遊んでもらっていたらしく、すっかりと従順になっていたようだ。それはそれでキモいが、アホなことをほざかないだけマシというものだろう。

「しっかし、若もついにご成婚ですか。立派になられて、俺たちも嬉しいですよ」
 顔良は太い眉根をほころばせ、人懐っこい顔で俺に寿いだ。

「この郭図、ますます知恵の絞りがいがあるというもの。今後ともよろしくお引き立てのほどを」
 胡散臭い詐欺師面をにやけさせてるのがイラっとするが、一応はこいつも喜んでくれてはいるらしい。

「うむ、二人とも、これからもよろしくな。では行こうか」
「はっ!」

 行燈が灯る長き廊下を渡り、麒麟の間と呼ばれる袁家の結婚式場へと足を踏み入れる。左右には群臣が侍り、文武両面の重鎮が居並んでいる。

「袁家当主、袁本初が長男。袁顕奕参上いたしました」
 俺は当主であるパパンに挨拶をし、甄姫の到来を待つ。

「そう緊張するな、顕奕。お前は一皮むけたと儂は思っておるぞ」
「そう……でしょうかね。自分ではなんとも言えませんよ」

 やがて西の扉が開き、艶やかな紅梅の刺繍が成された衣装を纏い、甄姫が静々とこちらへ向かってくる。
 金の雲雀の髪飾りは甄姫のお気に入りなのだろうか。いつも身につけている。
 この日はまさに青天。黄金の雲雀よ、空へ高くはばたけと言わんばかりに輝いていた。

 本来ならば「礼記らいき」に則り、六礼の通りに行うのが正しいそうだ。
 納采のうさいでは男性側が女性側に贈り物をすること。
 問名もんめいで女性側に男性が訪ねること。
 納吉のうきつは男性側が祖廟の前で占いをし、その吉凶を女性側に伝えるというものだ。
 納徴のうちょうは占いで吉兆が現れたとき、女性側に貴重品を贈るという習わしである。
 請期せいきにて結婚式の日取りを決め、親迎しんげいにて新婦は花飾りをされた車にて新郎のもとへと向かう。

 だが今回袁家の場合はちょいと礼記より外れていた。
 ぶっちゃけていうと甄家からの強烈なゴリ押し結婚だったため、袁家から贈った以上の品物が送られてきたという裏事情がある。
 おかげで強力編集も使えたので、そこは無理に礼儀を押し通さなくてもいいだろう。

 既に祖先の廟にて報告を行っていたので、あとは袁家の統領と甄家の統領の前で挨拶をするのみだ。
 
 司会進行役の沮授先生が声を張り上げる。深みのあるバリトンで、落ち着きを感じさせるものだ。

「袁家ご嫡男、袁顕奕様。ならびに甄家一の姫、甄姫様、ご入場完了いたしました」

 儒教の教えによれば、本来は三日に分けて婚姻を行うのが道理だ。
 だが、後漢末期の今、手順は簡略化されているらしい。
 新婦――甄姫のつけている純白のベールを夫である俺がまくり、二人そろって舅と姑に挨拶をして終わる。

 そのあとはロックンロール。
 飲めや歌えやの大宴会が待っている。

「し、甄姫、顔布を取るぞ」
「……はい。御心のままに」

 白磁のような滑らかな肌に、翠成す黒い瞳。目元の泣き黒子と桜のような唇が美を引き立てている。
 俺は目を見張っていたようだ。やっと再起動できた時には、沮授のゴホンゴホンという咳合図が響いていたという。

「これからはよしなに頼む。其方は誰にも渡さぬ」
「まぁ。顕奕様の勘気を買わぬよう、精一杯お仕えいたしますわ」

 二人頷き、両手を握り合う。
 この時代、人前でキスをするのは不道徳とされてるので、今はお預けだ。

「両ご当主様にご挨拶申し上げます。袁顕奕、この度甄家の一の姫との間に婚儀が成立したこと、謹んでご報告いたします」
「うむ。袁家は祝福しよう」
「甄家も惜しみない慶びを伝えよう」

「ありがたき幸せ。甄姫を守れるよう、より一層の精進を重ねてまいります」
「袁家の嫁として恥じぬ行いと、忠節を尽くすことをお誓い申し上げます」

 盛大な歓喜の声と、万雷の拍手で会場が包まれた。
 
 俺は今日この時より、妻帯者となったのだ。


 宴席の様子は多くは語るまい。
 顔良と文醜が酒の入った壺を持ち上げ、がぶ飲みし始めた時点で終末は見えた。

 死屍累々。
 酒瓶を抱きながら寝る者や、机の上でいびきを立てる者。厠に落ちそうになっていた者など、醜態をあげつらえばキリがない。
 まあ、めでたい席だからね。それに三国時代は娯楽に乏しい。こうして集まって酒を飲むのも人生の肴なのだろう。

――
 さて、だよ。
 俺は酒をセーブして宴席を乗り越えた。
 給仕にまわってくれていたマオにお願いし、極限まで薄めた酒を口にしていた。

 顕奕様、お強いですな! なんて言われたが、まあ絡繰りがあるからね。
 新婦with毒蛇との野戦を控えているので、シラフでいないと命に関わるのよ。

「しかし……」
 貧乏ゆすりが止まらない。
 ヤるのか……今から……。

 前世では童貞こじらせてたからな……正直どうしていいのかさっぱり分からん。
 一応雰囲気作りで肉桂の香を焚いてはいるが、果たして正解かどうかも不明である。

 コンコン、と扉が叩かれる。
「う、うむ。入ってくれ」
「失礼いたします」

 侍女と毒蛇籠を伴って、甄姫が華美な夜着で俺の前に立つ。
 彼女が手をスッと挙げると、侍女たちは退室していく。甄姫と蛇だけが夜風を身にまとい、俺の目をまじまじと見ている。

 どうすっかよ、これ。
 ケモノのように襲い掛かるのが礼儀なんだろうか。それとも手を取って紳士に寝台までエスコートすべきか。

 マジで脳がオーバーヒートしそうだ。
 
「くすくす……顕奕様がそこまで緊張なさるなんて。女冥利に尽きるというべきでしょうか」
 儒教的にアウトな発言っぽいが、ここはスルーだ。
 しゃーない。正直に思ったことを言うか。

「すまんな。俺はどうも不調法でな。その、床での作法が……な。手探りでの契りとなるやもしれぬが、そこは笑って見逃してほしい」
「くすくす。はい、旦那様。今宵起きたことは、わたくし誰にもお話いたしませんわ。ですので、思いのたけを頂戴出来ればと」

「ありがとう、甄姫。俺は、君を抱く」
「はい。思し召しのままに」

 燭台の明かりを最小限にし、俺と甄姫は夜の闇に溶け行く。
 時折閃くように声が上がり、互いに貪る姿が映し出されていたことだろう。
 
 雌豹の動きに合わせ、俺は気持ちを寄せ合って応える。
 
――
 目が覚めた。
 そして失禁するところだった。

 俺の胸の上に毒蛇さんがトグロを巻いて鎮座しており、舌をチロチロと出しながらじっと睨んでいる。
 甄姫に籠へと戻してもらおうと思ったのだが、彼女は隣でくぅくぅと小さな寝息を立てていた。

「お、お早うございます……」
 チロチロ、チロチロ。
 まるで値踏みされているようだ。

「あの……起きてもいいでしょうかね。できれば静かに」
 なるべく小声で話しているのだが、冷静に考えたら寝床で毒蛇とグッドモーニングしてるとか、構図がおかしい。

 口をパカっと開け、毒牙を見せた後、蛇は籠へと戻っていった。

『おい小僧、ウチの姫さん泣かせたらガチで殺すぞ』
 彼の目は確かにそう言っていた気がする。

 まあどちらかというとNTR食らって泣かされるのは俺なんスけどね。
 歴史の先取り講義を、爬虫類相手に説いても仕方がない。

 かけ布団をまくると、あらヤダ!
 色々とお痛した痕跡がまじまじと残っていた。
 無性に恥ずかしくなり、俺はもうひと眠りすることにした。

 曹丕……か。
 渡さねえぞ、絶対。
 
 甄姫を、袁家を必ず守って見せる。
 中国史を書き換えるのは、俺だ!
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