とある少女の物語

有箱

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 しかし、不確定な要素が多すぎる中で、たった一人を見つけるのは至難の業だった。
 宿のベッドに顔を埋めながら、アロは声をあげる。ロンは悲しげな視線を流したが、アロは気づく様子もなかった。

「見つからない……情報もない……」
「まぁ、馬車の事故は毎年起こってるしね。折角来たんだから観光も楽しみなよ」
「うん……」
「萎れないでよ、明日は髪の毛結ってあげるから」
「良いの!?」

 髪を結う――聞こえた申し出に飛び起きる。アロにとって、この行為は特別な意味を持っていた。
 二人の中、髪型はもう決まっている。少女の時の髪型だ。嘗てアロ一人で挑んだこともあったが、難し過ぎてできなかった。記憶の中で、兄にしてもらっていたせいかもしれない。

「うん、それしてもうちょっと頑張ろ。でさ……」

 ロンの瞳が切なげに細められる。続く言葉の空気を悟り、とっさに目を反らした。

「もし見つからなかったら諦めようよ。ここに来るのも大変だしさ。すれ違う運命なんだって諦めた方がきっと楽だよ」
「嫌」
「お願い、アロの為に言ってるの」
「私の為なら応援してほしいよ……」
「結ばれるなら応援したいけど……それにお兄さんだってもう忘れてるかも。癒えた傷を抉ることになるかも」
「それは……」

 何度目かの鋭い指摘に返事が澱む。自己満足である可能性など、アロも承知の上だった。だが、諦めを選べなかったから今があるのに。

「ね、アロ分かって」
「考えとく」



 結局、曖昧にしたままで夜は開けた。半ば喧嘩中ではあったが、ロンは申し出を放棄しなかった。だが、素早く結ってすぐ出ていってしまったが。

 後を追うように、アロも捜索を開始する。時別な髪型で歩くと、少し心が回復した。
 優しいロンのことは好きだ。兄と違う形の好意ではあるが、近いくらいにはロンを大切に思っている。

 だが、それでも諦められなかった。まるでプログラムのように、三大欲求のように、それこそ運命のように兄を求めてしまうのだ。
 だから、アロ自身どうしようもなかった。

「リゼットさん?」

 聞き慣れない響きと共に肩を叩かれる。驚きつつ振り向くと、そこには見知らぬ青年がいた。青年もアロ同様丸い目をする。

「あ、いや、すみません! あまりに知人に似ていたもので!」

 そんな訳ないのに……と呟いた青年に対し、アロは不思議な衝撃が走るのを感じた。咄嗟に定型文を口にする。

「あの、私今人探しをしていて! えっと場所はこの辺りだと思うのですが、女の子が死んでしまった馬車の事故って知りませんか? 昔の事故ではあるんですが……えと、髪型が私に似てるかもです!」

 青年の反応は、明らかに肯定を示していた。しかも、"ただ知っているだけ"のレベルではなさそうだ。

「……知ってます。貴方が求めているものかは分かりませんが……。九年前、ここで子どもを助けて女の子が一人亡くなっています……その女の子と貴方、髪型もよく似ています」

 推測は正解だったらしく、記憶通りの状況を青年は口にして見せた。逸る心が次なる言葉を走らせる。

「そこに女の子のお兄さんもいませんでしたか!?」
「いらっしゃいました」
「私、その方にどうしても会いたいんです! どこにいるかご存知ではありませんか!?」

 少し切なげな表情を浮かべる青年は、僅かに言い渋った後、口を開いた。

 アロの衝撃は間違いではなかった。青年の口から、待ち望んでいた答えが零れ落ちる。
 だが、それは同時に絶望も運んだ。
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