転生先は背後霊

高梨ひかる

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プロローグ

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あ、死んだ――そう思った次の瞬間、俺は突然室内に移動していた。

『は?』

迫ってきていたはずの鉄筋はどこにもなく、あるのは白い天井だけ。
上を向いたままでいた俺は、見たこともない天井を呆然と見上げていた。
うん、全然状況がわからない。

さび付いたように上を向いていた首を動かし、恐る恐る下を見下ろしてみる。
穴が開いているとか、下も真っ白で何もないとか考えていたが、下に広がっていた光景はさらに俺の想像を斜め上に裏切るものだった。

『は? なんだこの状況』

俺がいたのは、いわゆる中世のお姫様の部屋にあると言えそうな豪奢なベッドがどどんと真ん中に置かれている部屋だった。
殺風景ともいえるくらい家具のないその部屋の真ん中、正確に言うと俺の真下にあるベッドには一人の男の子が横たわっている。
その周りには家族だろうか、男の子とよく特徴の似た父親らしき青年と、顔を青ざめて男の子の手を握っている母親らしき女性が一人。
明らかに医者だなという白衣の爺さんは、難しい顔で男の子を診察していた。

『えーと、なんだこれ……』

よくテレビで見そうな光景。
そう、いわゆるあれだ。
この後ご臨終ですとか言われて家族が泣き崩れるようなそんなシーンがまさに真下で繰り広げられていたのだ。
意味が分からない。

そっと浮いている足を持ち上げてみると、意思のままに動くもののどこか現実味がない。
それどころかさっきからぶつぶつ言っている俺の声は全く届いていないらしく、下の人たちは不審がって俺の方を見ることもない。
まるで夢の中で誰かの追体験をしているかの状況だ。

『ってこんな知り合いいねーよ!!』

下にいる人たちは誰しもが洋装で、ファッションに疎い俺だってなんとなくは別世界の人たちだなということがよくわかる。
というかこんな病気らしき男の子を囲んでるのにドレス着てるとか、普段着がドレスだと言っているようなものだ。
よく見たらメイドさんらしき少女が数人遠巻きに囲んでいるし、まさに中世のどこかの部屋で病気の男の子を看取る直前みたいな状況である。
ドラマや映画のワンシーンですと言われた方がしっくりくる。

困惑しながら下を眺めていると、医者らしき爺さんが男の子を見ながら首を傾げ始めた。
ん?
なんか微妙に不思議がっている。

「どうなさったのですか?」

医者の様子を見て困惑したのか、父親らしき青年が医者に話しかける。
喋っている言語はどう考えても日本語じゃないことはわかるのだが、内容が普通にわかるのでどうやらご都合主義のようだ。
いや、わかる方が助かるけど! わけわからん状況だし!

「いや……進行が……」
「?」
「進行が止まりましたな」
「え?」

よくよく眺めてみると、顔色が悪い男の子は微動だにしていないのだが息を荒げてはいない。
息は苦しそうだし今にも死にそうじゃね? とは思うが、苦しんでいる様子は確かに……ない?
あれ、俺が下見た瞬間は、もう死にますって感じだったような?

「止まった……? 何故でしょう」
「わかりませんな。神の奇跡としかいいようがない」
「奇跡……」

父親らしき青年が、母親らしき女性の手の上にあわせ、そっと男の子の手を握る。
男の子の反応はないが、確かに苦しそうだった吐息が収まったのがわかったらしく、そのまま祈るように額をその手に合わせた。

「神よ……! どうかそのまま我が子をお救い下さい」
「……!」

女性や医師、メイドさんも祈るように伏せるのを見て、俺はさらに困惑した。
いや、俺神様じゃねーよな?
なんかタイミングよく俺が降臨して止めましたみたいな状況になってるけど、相手にも見えてるわけでもなし俺にも何が何だかわからんのだけど?
とりあえず俺もこの子が死にませんようにって祈ればよいのか?

『いやしかし、美形だなこの家族……』

メイドさんたちの様子を見るに、きっと人格の良い貴族か何かなのだろう。
神様がいるのかはよくわからないが、この状況でこの男の子が死なれても確かに寝覚めが悪い。
このまま快方に向かってくれればいいな、そう思った時だった。

『うわ!?』

突然目に飛び込んできた光に目がくらみ、同時に突然浮力を失って墜落する。
俺は目をつぶったまま下に落ちているのを感じとった。

『うわ、ちょ、ここで落ちたら潰しちま――』

叫ぶ声もなんのその。
俺はそのままベッドの上にどかんと落ちて行ったのだった。
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