転生先は背後霊

高梨ひかる

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あっという間に一年半経った。
半年ほどでお母さまも無事帰ってきたので、元の暮らしを初めて約1年。
セドリックの12歳の誕生日が近づいてきている。

学校が13歳になる年に入学ということで、セドリックの学校への入学もだいぶ近づいてきているところである。
まぁ話を聞く限り、普通の中学校と高校が義務教育としてありますよって感じなんだよな。
大学みたいのは本当に専門にやる人用みたいで、公爵家の世継ぎであるセドリックは6年間通った後はお父さまの補佐に入るって流れっぽい。
まぁ納得できる流れではある。

ついでに3年過ぎたころの16歳ぐらいから学校を通じて社交シーズンに出席し始めるのが一般的なようだ。
高位貴族だと小さなころから母親に連れられて……みたいなのはあるみたいだけど、大々的に社交し始めるのはどうやら学校に3年通ってからの模様。セドリックも10歳を超えたら社交界に――とか言ってはいたが、おばあさまのこともあり、結局学校に行ってからで良いとお父さまが判断したようなんだよな。
だから俺とセドは実は社交とかはとことん無縁だったりする。礼儀作法とかダンスとかその辺は見るからにプロ並みだけどな(家庭教師にものすごい褒められていたのでセドリックは才能がある模様)。

セドリックとの意思疎通はだいぶ簡略化が進み、最近では右と左にルビーとオニキスの指輪をつけることで決着がついた。
火の応用で軽い熱を伝えてセドリックにYESNOを伝えるという感じになったのだ。
宝石を媒介にした方がより魔力を使わないため、帰ってきたお母さまと改良に改良を重ねてこぎつけた俺とセド専用の意思疎通魔具である。
ちなみに杖の代わりや結界の魔道具にもなるので、はた目には杖代わりに指輪をしている認識に見えて何の問題もないようだ。公爵家だしそりゃ身を守る魔具くらいつけてるよね。ちゃんと他の魔法の媒介になるし。

ちなみにお母さまやお父さまがいる場合は普通に点火の魔方陣を使って相談していたりはする。
難点といえば、セドがいない限り魔力が使用されないのでお父さまやお母さまと内緒話は無理ってことなんだよなぁ。
俺が伝えることは全部セドに伝わるので、刺激が強そうなこととかはこっそりセドが寝ている間にお父さまが呟いてくれるとか一方通行の伝達方法しかないのである。

ちなみに基本的に俺は寝ていないので、寝ているセドの近くで喋れば大体伝わってるらしい、ということは両親に伝わっている。
その関係でセドが寝ているのを確認した後、この世界のことを教えに来てくれることがお父さまは多くなった。
セドは良い子なので基本的に早寝だしね。

で、なんでそんな話になったかって言うと。
やっぱりおばあ様のことなんだよね。何故呪われていたのか、ってのが未だ謎すぎてお父さまがセドの身に何かあったらと少しでも俺に情報を与えようとしてくれているんだ。
ついでに魔具に少しだけセドの魔力をためる機能をつけ、緊急時には俺がセドに危険を知らせれるようにしたりと割と過保護なことになっている。

どうもお父さまにはやはりというかなんというか、政敵が存在するようだ。
公爵家って時点でまあ王位継承も上の方だよなとは思っていたんだけど、今の王は賢王で何の問題もないし、お世継ぎも二人王子がいるそうで病弱なセドにお鉢が回ってくる可能性はほぼほぼない。
むしろセドリックしかいない公爵家の世継ぎの方を心配した方がいいレベル。

だけど、お父さまの役職が結構中枢の方……というかぶっちゃけ外交官だそうで。豊富な魔力と魔法陣を駆使して諸外国と渡り合っている関係上、その役職を譲ってほしい輩はいっぱいいるんだそうだ。
ついでに他国と癒着して私腹をこやしたい貴族とかもめちゃくちゃいるそうで、いつも調整大変そうなんだよなお父さま……がんばれお父さま。
セドリックは色んな意味で過保護にされざるを得ない状況にいるのがお判りいただけただろうか。

閑話休題。

セドリックの誕生日は春なので、誕生日が終わり真夏が過ぎ去ったら入学式になる。
感覚で言うと秋入学春卒業って感じなんかな?
ちなみにこの世界普通に四季があるので、普通に日本と同じような気候であるし、割と過ごしやすい環境である。冬も雪は降るが除雪とかも魔法で済んでしまうし、室内が寒いこともほとんどない。これは公爵家だからかもしれないがいたるところで快適に過ごせるように魔道具が設置してあるみたいで、セドリックが凍えていたり暑がっている姿を見た覚えもない。
あと魔法も火属性が使えるので、その気になれば俺が温度調整することもできる。

このまま学校に行くのを見守りつつ、俺もふよふよ浮きながら気ままに過ごしていくのかな。
そんな風に考えていた、ある日。


嵐は突然やってきた。






社交界は学校に入ってからとはいえ、何も予備知識がない状態でポンと行くのはまずかろう。
ということで、お茶会を公爵家で開くことになったのがそもそものきっかけだった。
学校へ入る前に自分の派閥の面通し及び、仲良くなるべき人を覚えようの会ってことだな要は。
主催が自分の家なので敵対しているような貴族はほとんど呼ばないし、メインはあくまでお母さま。
ついて来る子供たちは不思議とセドに近しい年齢の子ばかりではあるが、多少のお見合い要素も含めてセド自身を餌にしてお母さまは張り切ってお茶会を支度した。

もちろんこの公爵家には敵対貴族もいるわけなので、あくまでも身内のお茶会というふれこみではあった。
とはいえ公爵家が主催のお茶会が豪華じゃないわけもなく、当然のことながら数人でうふふというわけにはいかなかったらしく、セドの周りには二桁の単位で女子が群がることになったのであった。

まあ、美形だしなセド。
魔力欠乏症も克服し、多属性を操る将来性ばっちり血筋ばっちりな美形の貴公子(しかも婚約者なし)。
人気にならないわけがない。
まあ、すぐに人は散りましたけどね。主にセドの輝く笑顔にやられた女子がふらっと場所を開けてしまい、確信犯なのかさっとそこを抜けていくものだから囲み切れなかったのである。

……末恐ろしくないか、この子。

つまらなそうにしているご学友候補らしき男子にはむしろセドから積極的に声をかけていた。
12歳とは言え優秀と言われるだけあるというか、俺に付き合わせていたせいでどうにも言動が必要以上に大人っぽいというか。
男子に声をかけている貴公子に女子から話しかけるというのはさすがにはしたないと思ったのか、女子は遠巻きになり、男子とばかり話すセドリックが出来上がったとさ。

や、まぁいいんだけどね。
あんまり恋とか愛には興味がないみたいだったし、セドは10歳になるまでずっと命の危険と戦っていたのだ。
すぐに恋愛脳になれというのは難しいだろう。
お父さまもお母さまもすぐ婚約とかは考えていなかったみたいだし、仲良くできる男友達を優先したい気持ちはまぁわかる。学校に行く前に友達が出来ていれば学校生活も確かに明るいものになるだろう。
特にセドは高位貴族とあって派閥の中心になるべき人物だ。そういった意味でも女子に押されているような状況を作ること自体が好ましくないんだろうなぁ。なんか視界の端でお母さまが満足げに頷いているのが見えるし。

そんなわけでお茶会は主に男友達を作ることに終始し、声をかけきれなかった女子やらお母さまとお父さまの元ご学友さまとかやらは(見合いが成立しなかったからか)若干不満そうに帰っていったのだった。
まあ、与しやすいと思われなかったのが収穫だろうな。お母さまはセドの対応の良さをすごい誉めていたし、お父さまも息子の成長が感じられたのかなかなか嬉しそうだった。
お茶会の後はもらった手紙や贈り物に目を通し、そこでもセドの対応の優秀っぷりを見つつ、その日は何事もなく終わった。

問題は翌日に起こった。

「…………んん?」

いつの間に寝ていたのか、眩しい光に気付いて目が覚めた俺は、ベッドから身体を起こして気づいたのである。
少し小さめの毎日見ていた手、毎日見ていた部屋、おかしいと感じるのは目線が完全に下にあるからか。

「おい……嘘だろ?」



俺は――――――何故かセドリックになっていた。

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