オカルティック・アンダーワールド

アキラカ

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6.日日譚【アガルタ編集部の日常】②

ハンナ【大晦日】

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 ふひとは年末30日から母親の住むスウェーデン、ストックホルムに向けて成田から飛行機に搭乗していた。
 ストックホルムまでのフライトは14時間。日本との時差は8時間遅れだ。

 その間史は本を3冊読み、後は睡眠をとっているとあっという間に時間は過ぎていった。

 アーランダ国際空港に到着し、入国手続きを終えると身軽なボストンバッグ一つを担いで到着ロビーへと向かう。



!!」

 そう呼ばれて史は聞き覚えのあるその声の主を探すと、仕切られたベルトスタンドの向こう側から銀髪の長身の女性が手を振っている。





 史も軽く手を振ってその女性にに近づくと女性は史を力いっぱい抱きしめた。


 史の本名ははだ・ヒューゴ・ふひと
 ミドルネームのヒューゴは母の祖父からもらったものだ。


「ヒューゴ、4年ぶりね!!会えて良かったわ!」

「・・久しぶり母さん」


 史の母、ハンナ・ヴェーゲナーはドイツ系スウェーデン人で今年で43歳になる。
 身長が175㎝と長身で流石史の母親と言わんばかりの北欧美女だ。 
 ハンナは現在ストックホルムの国立科学研究センターで宇宙物理学の研究者として勤めている。
 また元々日本に住んでいた事もあり、日本語はかなり堪能で史とも普段は日本語での会話が基本だ。


「また大きくなったわね!4年前からどれだけ背が伸びたのかしら?」
「4年も経つからね。10㎝は伸びたと思うよ」

 そんな会話をしながら、母親は史と腕を組みながらターミナルの出口へと向かった。

「今日は叔父さんと?」
「そう、ヨナスが一緒に来てくれてるからこのまま急いでイェヴレの実家に向かわないとなの!」

 そう言うとハンナは史の荷物を奪うように受け取り、出口を出てすぐに停めてある一台のボルボ240の後部座席に急いで乗り込んだ。


「久しぶりヒューゴ!!」

 ハンナの弟ヨナスは英語で史に話しかける。

「お久しぶりです」

 史もそう答えると二人はがっしりと握手を交わした。

 空港からイェヴレまでは車で凡そ2時間、車の中で母ハンナはさっそくこの4年間を必死で取り戻そうと史にこれでもかと話し掛けてきた。

「ヒューゴ?総司ソージとは最近どうなの??」

「・・・・・・・」

 史は母の単刀直入な質問に少しばかり困り嫌そうな顔をしてしまった。

「はぁ・・・・やっぱり相変わらずなのね・・・・」

 ハンナもそうだろとは思っていたが、聞かずにはいられなかったのだ。

「まぁ・・私も人の事言えないもの。ソージも私もヒューゴにとってまともな親だとは言えないのはわかってるわ・・・」

 史は困りながらも

「・・・・父さんとはまだ上手くやれる自信はないけれど、今は前ほど嫌悪感を持っていないよ。だからもうそこまで心配しなくても大丈夫だと思う・・・」

 そう言う史にハンナは驚いた顔をしたかと思うとそのまま史をもう一度力いっぱい抱きしめた。

「ちょっ!苦し!・・力凄いから!」

 史も感情が高ぶると力加減が出来なくなるが、どうもそれは母親譲りなのかもしれない・・・・。

「ヒューゴ・・・・・・・。あんた大学終わったら絶対にこっちに引っ越しなさいよ」

「は?何?急に・・・・」

「やっぱり私、・・秦家を絶対に許せないわ!!ヒューゴと離された事も、日本に居られなくなったのも全部あの家のせいなんだから!」

 ハンナは異常な怨念を持ってその言葉を発した。
 これには秦家が大嫌いな史ですらちょっと恐怖を感じた。

 二人が話込んでいると思った以上に早く目的地のイェヴレに到着し、ハンナと史が荷物を下すと叔父のヨナスはこれから用事があるからと言って近くの自宅へと戻っていった。

 祖母の家は町の中心にあり、川のほとりに立つ一軒家だ。それなりに年季も入っているが、手入れがされているおかげで今でも綺麗に保たれている。

 祖母は英語があまり堪能でないので通じる言葉はドイツ語とスウェーデン語になる。挨拶を交わしたあとの簡単な質問に答えるくらいなら史も可能なスウェーデン語で返せたが、夕食時には祖母から色々と質問をされ、その時は母ハンナが中間に入って話しを進めてくれた。


 夕食後史はハンナから花火が上がるから庭に出て一緒に見ようと誘われ、なかば無理矢理年越し間際の寒い屋外へと連れ出されたのだった。

「へックシ・・!!」

 史はフライトの疲れもあり、大分体力が落ちているのを感じた。
 外の気温は-7℃
 流石に長時間この中で過ごすのは辛そうだ。

 ハンナは家の中からスウェーデンの定番のホットワイン、グロッグを持ってくると史に渡した。

「グロッグはね、本当はアルコールが飛ばないように蓋をして作るんだけれど。一応ヒューゴが飲めるようちゃんとアルコールは飛ばしてあるから安心してね」

「ありがとう・・」

 史は受け取ったスパイスの効いたホットワインを飲むと内側から体が温まるのを感じた。

 ハンナは庭のベンチに座る史の横に腰をかけると、グロッグを飲みながらゆっくりと話しかける。


「ヒューゴ・・・・もしかして、最近何かいい事でもあった?」

 その質問に飲んでいたホットワインを軽く吹き出た史はそのままゴホゴホとむせ、明らかな動揺を隠せなかった。

「・・ゴホ・・・・何?急に・・・」

「ははははは・・・・あんた思った以上に顔に出やすいのね!そんなに驚かなくてもいいのに」

 ハンナも史の動揺っぷりに驚き笑いが止まらない。

「特になにもないけど・・・」

「けど???」

 ハンナは何かを期待して質問を投げ返す。

「・・・だから。けども何もないってば・・・」

「へぇ~・・。私はてっきり好きな子でもできたのかと思ったのに」

 と何の躊躇いもなく答えた。

「・・・まったく。自分が一番、について良くわかっているのに。どうすればそういう質問ができるのか・・・」

 史はあからさまに機嫌が悪そうに返す。

「秦家の呪いねぇ・・・・・。確かに秦家の男は必ず異性から異常な執着をされる・・・。でも不思議でしょ?それなのに何で今まで家が途絶えていないのか?」

「・・・・・・・・」

「それはね。運命の相手とはそうはならないからなの。私とソージがそうだったように。私はソージに対して異常な執着をする事はなかったわ。まぁもっともソージの方が私の事を好きすぎて、私が仕方なく結婚してあげたって事も大きな意味があるのかもしれないけれどね」

 そう言うとハンナは史を見ながら軽くウィンクをした。

「・・・・・へぇ・・・」

 史も史で母親の話しをうんざりしながら聞き流す。

「だから。ヒューゴももし本当に好きな人が見つかったら、絶対に自分の方からちゃんと気持ちを伝えなさい。自分の気持ちに迷いが一つもなければきっとその人が運命の人だし、その人とだったら絶対に呪いも跳ね除けられるから」

 史はつい先日のストーカーの一件もあり、とてもそんな事がこれから起こるとは思えなかった。
『いつか本当に自分にもそういう人物が現れるとしたらそれは一体いつになるのだろうか・・・・。』

 と頭の中で考えた途端、何故かふと寿々すずの顔が一瞬思い浮かんだ。
 しかし流石にそれを考えるのはあり得ないと振り払うように頭を左右にブルっと震わした。
 それを自覚してしまったら全部が終わってしまう。だからもし今ある気持ちがそれに極めて近しい感情だったとしても今ならまだなんでも無かったと引き返せるとはずだ・・・・と


 するとハンナは史の手を取り、


「私は秦家の人みたいな特殊能力はないけれど、あなたの母親だからあなたの考えている事は何となくわかるわ。ねぇヒューゴ?・・・自分の気持ちに嘘をつく必要はない。でもそれと同時に焦る必要もないわ。もし今何か迷いがあったとしてもそれはいつか必ず答えが出る事だから。今は楽しい事だけに集中して、いつかでる答えを受け入れられるようゆっくりと準備すればいいの。それでももし悩みがあって困っていたらいつでも私に連絡しなさい、いいわね」

 そう言って再び史の手をギュッと握った。


「・・・ありがとう」


 史も母親のその言葉に少しだけ勇気が持てた気がした。

 気がつくと川の方から花火の音がして年が明けた事を二人は知った。







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