28 / 114
6.日日譚【アガルタ編集部の日常】②
義兄弟【元旦】
しおりを挟む
大晦日から元旦にかけ、それこそ今までの睡眠不足を取り戻す様に眠り続けた寿々は、ようやくスマホの通知音で目が覚めた。
厚い遮光カーテンを開けるとすっかり外は日が傾きかけている。
驚いて眼鏡を探し再びスマホの時計を見ると、なんと時刻は既に午後4時半になろうとしていた。
「・・・やば・・・俺何時間寝てたん?」
そしてチャットアプリの通知欄を見ると既に知り合いや、関わりのあるライターさんデザイナーさん、昨年度お世話になった人たちからの新年の挨拶メッセージが優に50件近く溜まっている事に気が付いた。
「うわぁ・・・・これ全部返すの大変そう・・・・」
寿々は一覧をざっとスクロールしながら確認していると、一番新しい通知に史の名前がある事に気付いた。
何気なくその内容を確認すると、見た事もない美しい海外の街並みと河川、そしてその先に広がる海の彼方から昇る日の出の写真と共に、
〖明けましておめでとうございます。スウェーデンは午前8時半が日の出の時刻なので、どうせ日の出も見ていないだろう寿々さんへこの写真を送ります〗
という文章が送られてきた。
「・・・日の出なんぞ見なくても正月は来るし、勝手にすぎていくんだよ!」
と一人突っ込みをしていると続けてもう一枚画像が送られてきた。
その写真は大きな馬?のような骨組みのオブジェがとんでもない勢いで燃えている画像だった。
「??」
流石にその写真の意味が分からない寿々は思わず
〖なにこれ・・・・トロイの木馬??〗
と返すと、
〖母の実家のイェヴレではホリデーシーズンに藁で作った巨大なヤギの像を厄払いとして街に飾るのですが、同時にこれは高確率で放火されるといういわくがあるんです。そして今年は見事に燃えていました〗
とまるでいいものを見たとでも言いたそうな雰囲気でヤバい事をさらっと言うので思わず
〖えぇ・・・スウェーデンこわ・・〗
と返信すると。
〖まぁヴァイキングの土地ですからね多少はそういう野蛮さもあるのかもしれません〗
〖明後日帰国する予定なので戻ったらまた連絡しますね〗
そう言って史からのメッセージは終わった。
〖せっかくなんだからゆっくり遊んで来いよ。てか明けましておめでとう〗
寿々もそれだけ返信した。
午後4時40分を過ぎて気づけばそれなりの空腹を感じていたそんな折、突然自宅のチャイムが鳴り来客を告げた。
「!?」
その予期せぬ来訪に寿々は思わずびっくりして、服装も寝巻のままだし、部屋の中も片付いていないしと慌てふためいていると、ドアの向こうからノックと共に。
「もしもーし、寿々?家におるんやろ??」
と聞き覚えのある関西弁が聞こえてきて更に驚いて急いで玄関のドアを開けた。
「颯太?何で??」
そう呼ぶ先に立っていたのは、身長170後半で健康的な褐色の肌にスポーツ選手並みのがたいの良い男。寿々の2つ下の義弟、三枝颯太だった。
颯太は久しぶりの義兄の姿を見ると急に泣き出しそうな顔になり寿々を玄関先で思いっきり抱きしめるとそのままひょいと抱え上げた。
寿々はその怪力に驚き思わず傷口が痛み、
「いたたた!やめろ颯太!」
と涙目で抵抗する。
「なんで今年は実家に帰って来ないんや!寂しくて会いに来てしもうたやないか・・」
愛情表現がオーバーな上に義理の兄弟だと言うのにブラコンが酷い。いや、実際その域を完全に超えている。
寿々も久しぶりの颯太のハイテンションについて行けず
「こら!颯太!まじでやめろよここ玄関だっつーの!!」
そう言うと颯太は真顔で寿々を降ろすと、何も言わずに今度はズカズカと家の中へと入りこんだ。
「ちょ・・・マジで落ち着けよ・・」
颯太は部屋のいたるところを見渡すと寿々の方に向き返り、
「寿々・・・彼女と別れたんか?」
と何を勘ぐったのか、颯太はそのはっきりとした凄みのある顔で瞳を潤ませ寿々に聞いてきた。
「・・あぁ~いやぁ・・・」
とはっきりとしない口調でごまかそうとしていると、
「オレは正直、今年こそはきっと彼女連れて実家に挨拶にでも来るんやろうと腹括って覚悟を決めて待っとったのに・・・何で彼女と別れたんならもっと早く教えてくれへんのや!!」
「だからそれは・・・色々あってだな。俺も大変だったから・・・」
「大変って何があったんか全部オレに話してみい。オレなら寿々の事全部受け止めてたる!」
あまりに興奮気味な颯太に寿々も手を付けられずちょっとうんざりしてしまい、
「颯太、頼むから落ち着けよ・・・。まぁ確かにお前の言う通り・・彼女とは別れた。そんな事もあって今年は実家に帰る気も起きなかった」
すると
「・・・何が原因や」
と直球で聞いてくる。
寿々はもし元彼女の間宮梨華が別の男にプロポーズされたから振られた・・。などとハッキリと話したら颯太はもしかしたら本気で梨華に直接暴言を吐きに行きかねないと思い、やはり経緯については語らないのが正解だとそう瞬発的に思った。
「まぁ・・俺が仕事で部署の異動があってあまりに忙しすぎたのがすべての原因だよ」
とだいぶ濁しながら説明をすると颯太はまだ納得がいかないとばかりに愚痴を続けた。
「寿々・・・オレは大学ん時ここの部屋で一緒に暮らしとったけど、寿々に彼女が出来て仕方なく卒業と共に実家に帰ったんや・・・オレがおったら邪魔やと思って・・・。ほんで不本意やけど群馬の実家で仕方なく役所勤めに就いた・・・」
颯太の父、つまり寿々の義父は関西出身の医者だ。義父も早いうちに前妻を亡くしており、そんな中仕事の都合で颯太と一緒に群馬の大学病院にやって来て、そこで入院していた寿々の母真紀と知り合ったのだ。
その後寿々が14歳、颯太が12歳の時に義父と母は再婚し一緒に暮らすようになった。
一緒に暮らし始めてすぐに颯太は寿々に異常なまでに懐き、寿々が都内の大学へ進学して一人暮らしをすると聞いた時も家で大暴れするほど反対し、更にその2年後には寿々を追うようにして都内の私立大に入学。その後4年間はこの部屋で一緒に暮らしていたのだ。
「でも、もう彼女おらんくなったんやらまたオレここで住んでもええやろ?なぁ?」
と聞き分けのない子供の様に颯太は寿々に懇願してきた。
「ダメに決まってるだろ?何言ってんだよ。仕事だってあるのにお前これ以上義父さんと母さんにまだ迷惑をかけるって言うのか??」
「仕事なんぞ東京でいくらでも探せるやろ!別に働かんと置いてくれ言うとるんやない。また一緒に暮らしたいだけなんや!な?頼む・・・」
そう言って颯太は頭を下げた。
寿々も元旦からどうしたものか・・・と、空腹もあり次第に頭がクラクラとしてきた。
「・・・とりあえずそれは今日決める事じゃない。てか俺も今めちゃくちゃ腹減って上手い事返答できないから。一先ずは飯食わせて・・」
そう言うと
「ほなオレが料理したる!待っとってな!!」
と颯太は慣れた手つきで急いでキッチンに飛んで行き寿々への料理を作り始めた。
『・・・あいかわらず料理は好きなんだな・・・』
颯太は一緒に暮らしている時も料理が全く出来ない寿々に替わり朝夕かかさず料理を作ってくれ、それに関しては本当に助かっていた。
ものの30分でテーブルには5,6品のおかずが並び、ビックリするほどどれも完成度が高かった。
「本当手際いいよなぁ・・・」
と寿々も感心していると、
「あ~でも、これとこれは真紀さんが持たせてくれた総菜やからな。あとは真紀さんが用意した食材で作ったもんばっかや」
颯太は寿々が肉や魚を一切食べない事を考慮した上で、寿々の好きな揚げ出し豆腐や青菜の胡麻和えや茶わん蒸しなどの料理を出した。
「じゃあさっそくいただきます・・・」
手を合わせて自分の作った料理を美味しそうに食べる寿々を颯太は本当に嬉しそうに眺めていた。
食事が終わるとすでに夜の7時を過ぎており、寿々も仕方なく今日だけは颯太を泊めてあげる事にした。
「せや、前行ってた銭湯に一緒に行かへんか?んでどうせ寿々今日どこも出とらんのやろ?帰りに初詣して来ようや」
という颯太の提案だったが、先日の肩の傷がまだ完治していない寿々はその事が颯太にバレないようにどうにかごかさなければならなかった。
「あ~っと・・・銭湯は今ちょっと無理かなぁ・・・」
「何でやの?なんか銭湯行かれへん理由でもあるんか?」
「いやぁ・・・まあ昼間にもうシャワー浴びてるしいいかな~・・」
とそれ以上どうも上手いごまかし方が思い浮かばなかった寿々は苦笑いをしてやり過ごそうとしていると。
「寿々、ちょっと左肩上げてみ?」
「・・・??」
と颯太に言われ寿々はマズいとばかりにさらに笑ってごまかす。
もともと小中高とずっと野球をやってきた颯太にとって体の動きが不自然である事など少し見ていれば容易にわかってしまうのだ。
「はよ!」
寿々は冷や汗をかきながら、少しぐらい無理すれば肩くらい上がるのではないかなと試しに腕をゆっくりと上げてみたが、45度くらい上げたところでそのまま動きが止まった。
「・・・・・・・」
颯太はそれを見て寿々のトレーナーが伸びるほどグイっとひっぱってガリガリの左肩を晒すと、全体的にうっ血した肩とまだうっすらと滲む傷口の防水フィルムのガーゼの痛々しさに絶句しそのまま号泣した。
「うわ!なんやこれ!!寿々!ほんまアカンわ!!!もう東京おったらアカン!!オレがおられへんのやったら絶対にもうこのまま群馬に連れて帰ったるわ!!!てか誰や!誰にやられたんや!」
寿々はこうなる事を危惧して色々と黙っていただけに、結局振り出しに戻った事を後悔した。
「ちょっと転んで怪我しただけがから気にするなよなぁ・・・もぉお・・泣くなって・・」
その後颯太は寿々から一時も離れようとせずずっと怒ったり泣いたりしながら一晩中引っ付いて離れなかったのだ。
流石の寿々もこれには完全に参ってしまい朝になるとすぐに颯太の荷物を勝手にまとめ、追い出す様に近場のにコインパーキングの料金を先に支払い、無理矢理颯太を乗って来た自家用車に乗せた。
「いいか颯太。お前今度来るときまた昨日みたいな駄々を捏ねたら俺はもう二度とお前と会ってやらないからな」
と寿々にしては珍しくだいぶ怒り気味に説教をする。
しばらくふてくされていた颯太だったが、二度と会ってやらないと言われ相当ショックだったようで一瞬にしてしょぼくれると、
「・・・ごめんなぁ。でもオレめっちゃ心配やねん・・・」
と開けた窓に顔を伏せてまた泣き出しそうになってしまった。
このままでは車すら発進させなさそうな颯太を見て仕方なしに窓越しに右腕で抱きしめ背中をバシバシと叩いてやり
「颯太心配かけて悪かったな・・・。また落ち着いたら俺からもちゃんと連絡するから。お前も仕事投げ出さずしっかり頑張れよ!」
と励まされようやく颯太はエンジンをかけ群馬へと帰っていったのだった。
「・・・・・・はぁ・・・年明けからとんでもなかったな・・・。まさかと思うけど今年は女難の相ならぬ男難の相だったりして?・・・・はは」
と何気なく呟いたその一言だったが。
まさかその冗談が本当になるとはその時の寿々は夢にも思っていなかったのだった・・・・。
厚い遮光カーテンを開けるとすっかり外は日が傾きかけている。
驚いて眼鏡を探し再びスマホの時計を見ると、なんと時刻は既に午後4時半になろうとしていた。
「・・・やば・・・俺何時間寝てたん?」
そしてチャットアプリの通知欄を見ると既に知り合いや、関わりのあるライターさんデザイナーさん、昨年度お世話になった人たちからの新年の挨拶メッセージが優に50件近く溜まっている事に気が付いた。
「うわぁ・・・・これ全部返すの大変そう・・・・」
寿々は一覧をざっとスクロールしながら確認していると、一番新しい通知に史の名前がある事に気付いた。
何気なくその内容を確認すると、見た事もない美しい海外の街並みと河川、そしてその先に広がる海の彼方から昇る日の出の写真と共に、
〖明けましておめでとうございます。スウェーデンは午前8時半が日の出の時刻なので、どうせ日の出も見ていないだろう寿々さんへこの写真を送ります〗
という文章が送られてきた。
「・・・日の出なんぞ見なくても正月は来るし、勝手にすぎていくんだよ!」
と一人突っ込みをしていると続けてもう一枚画像が送られてきた。
その写真は大きな馬?のような骨組みのオブジェがとんでもない勢いで燃えている画像だった。
「??」
流石にその写真の意味が分からない寿々は思わず
〖なにこれ・・・・トロイの木馬??〗
と返すと、
〖母の実家のイェヴレではホリデーシーズンに藁で作った巨大なヤギの像を厄払いとして街に飾るのですが、同時にこれは高確率で放火されるといういわくがあるんです。そして今年は見事に燃えていました〗
とまるでいいものを見たとでも言いたそうな雰囲気でヤバい事をさらっと言うので思わず
〖えぇ・・・スウェーデンこわ・・〗
と返信すると。
〖まぁヴァイキングの土地ですからね多少はそういう野蛮さもあるのかもしれません〗
〖明後日帰国する予定なので戻ったらまた連絡しますね〗
そう言って史からのメッセージは終わった。
〖せっかくなんだからゆっくり遊んで来いよ。てか明けましておめでとう〗
寿々もそれだけ返信した。
午後4時40分を過ぎて気づけばそれなりの空腹を感じていたそんな折、突然自宅のチャイムが鳴り来客を告げた。
「!?」
その予期せぬ来訪に寿々は思わずびっくりして、服装も寝巻のままだし、部屋の中も片付いていないしと慌てふためいていると、ドアの向こうからノックと共に。
「もしもーし、寿々?家におるんやろ??」
と聞き覚えのある関西弁が聞こえてきて更に驚いて急いで玄関のドアを開けた。
「颯太?何で??」
そう呼ぶ先に立っていたのは、身長170後半で健康的な褐色の肌にスポーツ選手並みのがたいの良い男。寿々の2つ下の義弟、三枝颯太だった。
颯太は久しぶりの義兄の姿を見ると急に泣き出しそうな顔になり寿々を玄関先で思いっきり抱きしめるとそのままひょいと抱え上げた。
寿々はその怪力に驚き思わず傷口が痛み、
「いたたた!やめろ颯太!」
と涙目で抵抗する。
「なんで今年は実家に帰って来ないんや!寂しくて会いに来てしもうたやないか・・」
愛情表現がオーバーな上に義理の兄弟だと言うのにブラコンが酷い。いや、実際その域を完全に超えている。
寿々も久しぶりの颯太のハイテンションについて行けず
「こら!颯太!まじでやめろよここ玄関だっつーの!!」
そう言うと颯太は真顔で寿々を降ろすと、何も言わずに今度はズカズカと家の中へと入りこんだ。
「ちょ・・・マジで落ち着けよ・・」
颯太は部屋のいたるところを見渡すと寿々の方に向き返り、
「寿々・・・彼女と別れたんか?」
と何を勘ぐったのか、颯太はそのはっきりとした凄みのある顔で瞳を潤ませ寿々に聞いてきた。
「・・あぁ~いやぁ・・・」
とはっきりとしない口調でごまかそうとしていると、
「オレは正直、今年こそはきっと彼女連れて実家に挨拶にでも来るんやろうと腹括って覚悟を決めて待っとったのに・・・何で彼女と別れたんならもっと早く教えてくれへんのや!!」
「だからそれは・・・色々あってだな。俺も大変だったから・・・」
「大変って何があったんか全部オレに話してみい。オレなら寿々の事全部受け止めてたる!」
あまりに興奮気味な颯太に寿々も手を付けられずちょっとうんざりしてしまい、
「颯太、頼むから落ち着けよ・・・。まぁ確かにお前の言う通り・・彼女とは別れた。そんな事もあって今年は実家に帰る気も起きなかった」
すると
「・・・何が原因や」
と直球で聞いてくる。
寿々はもし元彼女の間宮梨華が別の男にプロポーズされたから振られた・・。などとハッキリと話したら颯太はもしかしたら本気で梨華に直接暴言を吐きに行きかねないと思い、やはり経緯については語らないのが正解だとそう瞬発的に思った。
「まぁ・・俺が仕事で部署の異動があってあまりに忙しすぎたのがすべての原因だよ」
とだいぶ濁しながら説明をすると颯太はまだ納得がいかないとばかりに愚痴を続けた。
「寿々・・・オレは大学ん時ここの部屋で一緒に暮らしとったけど、寿々に彼女が出来て仕方なく卒業と共に実家に帰ったんや・・・オレがおったら邪魔やと思って・・・。ほんで不本意やけど群馬の実家で仕方なく役所勤めに就いた・・・」
颯太の父、つまり寿々の義父は関西出身の医者だ。義父も早いうちに前妻を亡くしており、そんな中仕事の都合で颯太と一緒に群馬の大学病院にやって来て、そこで入院していた寿々の母真紀と知り合ったのだ。
その後寿々が14歳、颯太が12歳の時に義父と母は再婚し一緒に暮らすようになった。
一緒に暮らし始めてすぐに颯太は寿々に異常なまでに懐き、寿々が都内の大学へ進学して一人暮らしをすると聞いた時も家で大暴れするほど反対し、更にその2年後には寿々を追うようにして都内の私立大に入学。その後4年間はこの部屋で一緒に暮らしていたのだ。
「でも、もう彼女おらんくなったんやらまたオレここで住んでもええやろ?なぁ?」
と聞き分けのない子供の様に颯太は寿々に懇願してきた。
「ダメに決まってるだろ?何言ってんだよ。仕事だってあるのにお前これ以上義父さんと母さんにまだ迷惑をかけるって言うのか??」
「仕事なんぞ東京でいくらでも探せるやろ!別に働かんと置いてくれ言うとるんやない。また一緒に暮らしたいだけなんや!な?頼む・・・」
そう言って颯太は頭を下げた。
寿々も元旦からどうしたものか・・・と、空腹もあり次第に頭がクラクラとしてきた。
「・・・とりあえずそれは今日決める事じゃない。てか俺も今めちゃくちゃ腹減って上手い事返答できないから。一先ずは飯食わせて・・」
そう言うと
「ほなオレが料理したる!待っとってな!!」
と颯太は慣れた手つきで急いでキッチンに飛んで行き寿々への料理を作り始めた。
『・・・あいかわらず料理は好きなんだな・・・』
颯太は一緒に暮らしている時も料理が全く出来ない寿々に替わり朝夕かかさず料理を作ってくれ、それに関しては本当に助かっていた。
ものの30分でテーブルには5,6品のおかずが並び、ビックリするほどどれも完成度が高かった。
「本当手際いいよなぁ・・・」
と寿々も感心していると、
「あ~でも、これとこれは真紀さんが持たせてくれた総菜やからな。あとは真紀さんが用意した食材で作ったもんばっかや」
颯太は寿々が肉や魚を一切食べない事を考慮した上で、寿々の好きな揚げ出し豆腐や青菜の胡麻和えや茶わん蒸しなどの料理を出した。
「じゃあさっそくいただきます・・・」
手を合わせて自分の作った料理を美味しそうに食べる寿々を颯太は本当に嬉しそうに眺めていた。
食事が終わるとすでに夜の7時を過ぎており、寿々も仕方なく今日だけは颯太を泊めてあげる事にした。
「せや、前行ってた銭湯に一緒に行かへんか?んでどうせ寿々今日どこも出とらんのやろ?帰りに初詣して来ようや」
という颯太の提案だったが、先日の肩の傷がまだ完治していない寿々はその事が颯太にバレないようにどうにかごかさなければならなかった。
「あ~っと・・・銭湯は今ちょっと無理かなぁ・・・」
「何でやの?なんか銭湯行かれへん理由でもあるんか?」
「いやぁ・・・まあ昼間にもうシャワー浴びてるしいいかな~・・」
とそれ以上どうも上手いごまかし方が思い浮かばなかった寿々は苦笑いをしてやり過ごそうとしていると。
「寿々、ちょっと左肩上げてみ?」
「・・・??」
と颯太に言われ寿々はマズいとばかりにさらに笑ってごまかす。
もともと小中高とずっと野球をやってきた颯太にとって体の動きが不自然である事など少し見ていれば容易にわかってしまうのだ。
「はよ!」
寿々は冷や汗をかきながら、少しぐらい無理すれば肩くらい上がるのではないかなと試しに腕をゆっくりと上げてみたが、45度くらい上げたところでそのまま動きが止まった。
「・・・・・・・」
颯太はそれを見て寿々のトレーナーが伸びるほどグイっとひっぱってガリガリの左肩を晒すと、全体的にうっ血した肩とまだうっすらと滲む傷口の防水フィルムのガーゼの痛々しさに絶句しそのまま号泣した。
「うわ!なんやこれ!!寿々!ほんまアカンわ!!!もう東京おったらアカン!!オレがおられへんのやったら絶対にもうこのまま群馬に連れて帰ったるわ!!!てか誰や!誰にやられたんや!」
寿々はこうなる事を危惧して色々と黙っていただけに、結局振り出しに戻った事を後悔した。
「ちょっと転んで怪我しただけがから気にするなよなぁ・・・もぉお・・泣くなって・・」
その後颯太は寿々から一時も離れようとせずずっと怒ったり泣いたりしながら一晩中引っ付いて離れなかったのだ。
流石の寿々もこれには完全に参ってしまい朝になるとすぐに颯太の荷物を勝手にまとめ、追い出す様に近場のにコインパーキングの料金を先に支払い、無理矢理颯太を乗って来た自家用車に乗せた。
「いいか颯太。お前今度来るときまた昨日みたいな駄々を捏ねたら俺はもう二度とお前と会ってやらないからな」
と寿々にしては珍しくだいぶ怒り気味に説教をする。
しばらくふてくされていた颯太だったが、二度と会ってやらないと言われ相当ショックだったようで一瞬にしてしょぼくれると、
「・・・ごめんなぁ。でもオレめっちゃ心配やねん・・・」
と開けた窓に顔を伏せてまた泣き出しそうになってしまった。
このままでは車すら発進させなさそうな颯太を見て仕方なしに窓越しに右腕で抱きしめ背中をバシバシと叩いてやり
「颯太心配かけて悪かったな・・・。また落ち着いたら俺からもちゃんと連絡するから。お前も仕事投げ出さずしっかり頑張れよ!」
と励まされようやく颯太はエンジンをかけ群馬へと帰っていったのだった。
「・・・・・・はぁ・・・年明けからとんでもなかったな・・・。まさかと思うけど今年は女難の相ならぬ男難の相だったりして?・・・・はは」
と何気なく呟いたその一言だったが。
まさかその冗談が本当になるとはその時の寿々は夢にも思っていなかったのだった・・・・。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
