俺で妄想するのはやめてくれ!

元森

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6 肝心なところは隠されます

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「……ん」
 俺は、意識を浮上させた。
 夢か―――。
 しばらく天井をみていたが、時計を確認すると飛び起きる。7時…!
 朝になっていて、俺は慌てる。制服のままだし、昨日はご飯をたべていないし、いろいろとやらかしてしまっている。だけど、お母さんの声が聞こえてこないので、仕事に出かけて行ったのだろう。
 ふう…、と息をはいて俺は制服を整える。
 また俺は、栗須の夢を見た。
 最近、栗須に関する夢ばかり見る。しかもだいたいは、エロいやつだ。今日は、初めて会った日を思い出すような夢だった。今日はまだましな方だが、最近は恋人になったみたいな夢ばかり見る。
 デートしたり、妄想の俺のようなエロい夢だったり、そうかと思えば今日のような日常生活のような夢だったり。
 毎日毎日見るので、さすがに疲れる。
 でも夢の中の栗須はすごく優しい。妄想のように好き勝手な感じではなく、ちゃんとこっちの了承をとってからことに及んでいる。
 …なんで、夢の中まで栗須が出てくるんだろう。
 夢は、自分の願望や興味が深く関係しているらしい。…ってことは、あれは俺の願望?!
 俺はそこまで考えて、首を大きく振った。
 あんな夢を見るのは、栗須の妄想に苦しめられて、つらい感情がそのまま夢に表れているからなのかもしれない。そうだ。そうに決まっている。俺は自分を無理やり納得させて、カバンを今日の授業内容にかえた。
 だとしても、それだけ俺は栗須のことを考えているってことだよな…―――。
 夢に出てくるって、相当やばいよな。
 それだけ意識しているってことなのだろうか。
 あんな妄想しているけど、栗須は俺の大事な友達だし、それ以上の感情はないはずだ。栗須も俺への好意はたぶん勘違いしているだけだろう。
 今の時代、男同士ってのは珍しくない。差別意識は今の世の中あんまりないけど、基本は男女交際が一般的だ。俺も、普通に可愛いなって思っている女の芸能人もいるし、そっちの趣味はないのだ。
 そうは思っているのだが…。
 俺は深くため息をつく。
 こんなんで、修学旅行は大丈夫なのだろうか。
 西島は心配しまくりだし、角川は何考えているか一切わかんないし、問題の栗須も今回どう動くのかわからない。
 どうなっちゃうんだろう?
 高校生最後の修学旅行は波乱にみちてそうで、俺は息をそっと吐き出した。
 
◇◇◇
 
 
 いつの間にか修学旅行の日にちは間近に迫っていた。
 事前学習で、京都と奈良の歴史を調べてレポートにまとめて発表するという課題を出されて、俺たちの行動班は慌ただしく調べ物をしたりしていた。行動班で発表するので、俺と栗須は調べもの、発表は西島と角川がすることになっている。
 栗須と組むと決まった時は、どうなるかと思ったけど、別段問題は起こってない。むしろ助けてもらってばかりだ。
 栗須の調べ方がみんなと違うのか、なかなかマニアックな話題があがっている。それが日本史の先生にうけそうなところなのが、また栗須のすごいところだ。
 図をコピーしたり、切ったり、貼ったりは俺の役目になっている。
 時間がたらないので、放課後のこったりしたので、出来上がりはよかった。
 完成した時は、思わず栗須とハイタッチをしたものだ。
 資料は完成したので、あとは発表する二人にまかせた。
 修学旅行の前日。その日は修学旅行の荷物をもってくるほかに、クラス内でレポートを発表することになっていた。順番ははじめから2番目。なかなかいい順番を角川はひいてくれた。
 ついに順番が回ってきた。俺たちがつくった資料をつかって角川と西島は、奈良と京都の歴史をおもしろおかしく話していた。身振り手振りつかって話すので、教室内はあっという間にに二人の発表に聞き入っていた。あっというまに教室は笑い声につつまれて、俺は心底ほっとする。
 隣に座っていた栗須も楽しそうに笑っていた。
 日本史の先生もご満悦そうに評価をAにしてくれた。俺たちの発表は大成功に終わった。
 なかなかいい感じに修学旅行を迎えられそうだ。
 俺はそう思って、よかったとほっと息をつく。
 だが、そんな思いはあっけなく揺れた。
 俺がトイレにいって帰ってきたとき、廊下で話している栗須と角川を見かけた。会話は聞こえなかったが、栗須は神妙な顔つきで、反対に角川は愉しそうな顔つきで話し込んでいた。
 俺はとたんに嫌な予感がした。そっとその場を離れて、嫌な汗が流れているのを感じた。
 いったい、何を話していたんだろう。
 どくん、どくんと、心臓の音を間近に聞こえる。
 そんな疑問は、しばらくたって栗須を見かけたとき、彼の心の声が聞こえてきて余計にこんがらがってしまった。
『角川の計画がうまくいけばいい』
 栗須の欲望にみちた願望は、俺の心に突き刺さる。
 計画。
 俺は、何が計画されているのだろう?と、心臓がはやくなった。
『そうしたら、俺は増栄と……』
 その瞬間、花が舞い散るイメージがわきあがる。俺は思わずわきあがったピンクの花を手でよけていた。そのイメージに気を取られて、栗須のその言葉の続きを聞けなかった。
 俺は栗須にばれないように、学校の階段を駆け下りていく。
 いったい何だってんだよ!
 そう叫びたかった。もう声をあげていたのかもしれない。通りすがりの人はぎょっと俺のほうを見ていた。放課後の校舎を見上げたが、今日も真っ赤な夕焼けに染まっているいつもの高校だった。
 毒々しい夕焼けは、俺の心に不安を煽っていく。
 栗須はいったい、角川と何を計画してたんだ?
 どうしても気になって、家に向かう足が早歩きになってしまう。イラつきを抑えきれず、俺は頭をくしゃりとかき混ぜる。髪の毛がぐしゃりとなってしまったが、今の俺には関係ないことだった。
 栗須の願望は、絶対的な角川への信頼が感じられた。
 つまり、計画は絶対に成功させることが出来るってことなのか…?
 その計画とやらは、どうやら俺も関係してるみたいだし…。一体どんな計画だというのだろう。
「マジいみわかんねぇ…」
 俺は栗須たちの真意がわからなくて、道の真ん中で立ち止まるしかなかった。
 
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