使用人の我儘

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夏休みのご予定は?

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 夜、久しぶりに秋尋様の部屋に呼んでもらえた。
 俺の手のひらで気持ちよくなってくださる姿を再び見ることができて、本当に幸せだった。

 腕、お腹、足。確かめるように触れて、俺の指を待ちわびてしとどに濡れるそこを何度も擦り上げた。
 秋尋様を射精まで導けることができて、胸の中がいっぱいになる。
 今日は手を洗ってこいと言われる前にコッソリ、味を確認させていただいた。
 だいぶ濃かったので、一人ではしていなかったのかもしれない。

「手……すべすべになったな」
「秋尋様のおかげです」
「なんだかお前の手じゃないみたいだ」
「少し荒れてるほうがいいですか?」
「いや……。このほうが、気持ちいい」

 手を取られ、頬に押しつけるようにスリッとされて、可愛さに身悶える。
 ここのところツレなかったのに今日はどうしたんだ。
 イッたばかりで頭がほわほわしてるのかなー。可愛いなー。

 さらりとした黒髪が額に落ちるのを払ってあげて、額に柔らかくキスをする。

「だが、やはり……。これは、友人同士でする行為としては、おかしいよな……?」
「俺は貴方の使用人でもありますし、尽くせることが喜びなのです。そして秋尋様は気持ちいい。お互いに損はないのだから、問題ないと思います!」
「そ、そうか……?」

 そこに嘘はない。ただ、物凄い下心があるというだけで。
 俺の手で秋尋様を気持ちよくできて、いやらしい姿が見られるとか、幸せしかない。嫌だって言われてもしたいのに。

「こんなことが嬉しいだなんて、お前は本当に変わってるな」
「むしろお役に立てないと悲しくて死んでしまいそうになります。今日は久しぶりに呼んでいただけて、どれほど感動したことか」
「そうだな。まさか泣かれるとは思わなかった」
「ようやく許していただけたのだと思ったら、泣きもします」

 それに……。このまま、夏休みまで触らせてもらえなかったらどうしよう。と、世界の終わりみたいな気分でいたから。

「また泣きそうな顔をしている」
「夏休みのことを考えたら切なくなりました」

 秋尋様が薄着になるのは嬉しいし、首元に滲む汗は舐め取りたくなるほど色っぽくて素晴らしいけれど、それも彼が傍にいないのでは意味がない。
 夏休みは毎年、海外へ行かれてしまうから……。

「ああ。それなんだが、今年は屋敷にいるぞ。嬉しいか?」
「えっ!? 本当ですか!? 本当の本当に!? 俺を期待させて、やっぱり行ってくるとか言いませんか!?」
「お、おい。少し興奮しすぎだ」
「……こほん。申し訳ありませんでした。嬉しさのあまり……」

 俺があまりに騒いだからか、秋尋様は苦虫を噛み潰したような顔をしている。……ドン引きされた。それこそ、やっぱり行ってくると言われかねない。

「まあ……。中学最後の夏休みだから、友達と過ごしなさいと両親がな……。と言っても……クラスの人間と普通に会話できるようになってはきたが、どこかへ行くような相手など」
「いるじゃないですか! ここに!」

 秋尋様は俺をちらりと見たあと、ふうと大きな溜息をついた。

「友達を作るというのは、難しいものだな」

 スルーされた……。

「俺と2人で出かけるのは、お嫌ですか?」
「そういうわけではないが……。代わり映えしないな、という気持ちはある」
「俺と2人で、いつもと違うことをしたらいいじゃないですか」
「たとえば、どんなだ」
「たとえば……」

 え。えっちなことしか思い浮かんでこない。
 だって秋尋様、情事後でなんか艶っぽいから、頭の中がそればかりになってしまって。
 俺が答えられずにいると、秋尋様は寝転がりながらコテンと首を傾げた。

「なら、僕が興味ありそうなことを考えてくれたら、夏休み……お前のために時間を作ってやる」
「はいっ! お任せください!」

 責任重大だ。なんとしてでも、秋尋様中学生活最後の夏休みを、俺と2人っきりの思い出で彩ってみせるぞー!




 夏といえば海……。あの柔肌を俺以外に晒すというのか……? 絶対にダメ。それに、ナンパされるに決まってる。
 ……本当に、清々しいほど思い浮かばない。涼しいお部屋で一緒に勉強するくらいしか。あと、えっちなことする……。いちゃいちゃする……。ひたすら秋尋様のご命令をきく……。こんなのばかりだ。

 こういう時に頼りになるのは、一般的な感性を持つ金井くん。
 広川くんに相談するとスポーツ関係を提案されそうだし、平坂くんはブルジョアすぎて参考にならなさそうだから。

 で。早速学校で相談してみた。

「それなら夏祭りがいいよ。僕の地元でやるんだ」
「夏祭……り?」
「まさか、行ったことないとか?」
「……ない」
「えー! 本当に? 花火とかもやるんだけど……。近衛先輩に、浴衣とか着てもらって一緒に行ったら? 出店とかもいっぱいあってねー」

 浴衣。浴衣姿の秋尋様。そんなの絶対に素敵すぎる。
 少し長めの髪を耳にかけて、白いうなじを見せながら振り返って、恥ずかしそうに俺の名前を呼ぶ……。

「ありがとう! ひとつめはそれに決定! 他には何かある?」
「うーん。そうだな……」

 次に金井くんが提案してくれたのは、キャンプだった。
 毎年、金井くん、広川くん、平坂くんの3人で、平坂家が所有するコテージを貸し切り、バーベキューなどをしているらしい。

 最初は……。2人きりになれないのはなぁ……と思ったけど、結局ボディーガードは後ろからついてくるんだし、俺と秋尋様でバーベキューとか不安しかなくない? ということで、甘えさせていただくことにした。

 しかも、コテージは何棟かあって、夜は秋尋様と2人にしてもらえるという話で。最高すぎる。
 それに平坂くん主催であればセキュリティも万全のはず。
 問題は秋尋様が頷いてくれるかどうかってこと。

 どう説得しようかと思い悩む俺とは裏腹に、その夜、秋尋様に話したところ、あっさりとオーケーをいただいた。

「え? い、いいんですか?」
「確かに、お前の友達の中に入っていくのは気まずさもあるが……。平坂がいるのだろう?」

 まさかの展開に、背筋が冷えた。
 なんですか、その恋する乙女のような顔は。

「ひ、平坂くんのこと、知ってるんですね……」
「いや……。知らないほうが珍しいと思うが。目立つ男だろう、彼は」

 言われてみれば、それもそうだ。テストなどが学年1位という時点で、大半の人は耳にする。加えてあの容姿。
 たまたま近衛の使用人として学校へ通わせてもらい、金井くんと席が後ろ前でそこから彼と繋がったけれど、本来ならきっと交わらない線だと思う。

「彼の母親のピアノは、両親とよく聞きに行くんだ。同じ学校に通っているのは知っていたが、まさか朝香と友人になっていたとは……」

 秋尋様のテンションの高さがなんだか悔しい。
 結局のところ俺は秋尋様に、自分以外を見てほしくないんだ。
 その瞳が俺以外を映すのだと思うだけで気が狂いそうになる。

 無理だとわかっているけれど、秋尋様をどこかに閉じ込めて鎖で繋いで貴方の世界には俺しかいませんよ。とか、してしまいたいなあ……。

「な、なんだ。そんな顔をせずとも、別にお前の友人は取らないぞ」
「あ……。申し訳ありません。そ、そうではなく……。あの、俺は……」
「ん?」

 秋尋様がすべてを見透かすような黒い瞳で俺を見つめる。
 光の反射か、キラキラしてる。いや、俺にとって秋尋様はいつでもキラキラだ。

「秋尋様が俺以外を構うのは嫌だなって、だいそれたことを考えてしまいました」
「……何を言ってるんだ。お前からキャンプへ誘ったくせに」
「そうなんですけど……」

 いつものように呆れられるかと思ったのに、秋尋様は俺の頬をそっと撫ぜた。
 見上げると、ふふっと笑われて胸がきゅうっとした。

「確かに……。飼い主を取られた犬のような顔をしている」
「ま、まだ取られてませんから!」
「そこに反論するのか。安心しろ。ずっと飼っていてやるから」
「秋尋様……」

 そんなふうに甘やかされると、噛み付いてしまいたくなります。性的な意味で。

「で、では、平坂くんたちには、許可をいただいたと伝えておきますね」
「ああ。よろしく頼む」
「はい」

 背を向けて秋尋様の部屋を出ようとすると、服の裾を掴まれた。

「朝香……。その……楽しい夏休みにしような?」

 なんかもうすでに、最高っていうか。

「は、はい……」
「それと……。今夜はもう少し、一緒にいろ。構ってやる」

 これは噛みついてもいい流れですか、秋尋様。

「わん」

 一声鳴いて、秋尋様の手のひらを舐める。汗の味がする。
 拒まれなかったので、そのまま舌で腕の方まで舐めていった。

「ん……」

 くぐもった小さな甘い息遣いに、脳がとろける。
 はあ……。薄着、最高。夏、最高……。

 毎年憂鬱だった夏休みを心待ちにしながら、秋尋様をたくさんカプカプした。 
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