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告白
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今年のお正月は初めて秋尋様と2人で初詣に行く……。
高校で友人ができたというので、置いていかれるだろうなと思っていたんだけど、……いや、ボディーガードとして後からついて行く気は満々だったんだけど、秋尋様が俺と2人で行きたいと言ってくれた。
もしや友達に断られた? ハブられた? 許すまじ。そう悶々としたものの、2人きりで行けることに感謝もあって、複雑な気持ち。
うっかり心の傷に触れてはいけないと何も訊かずに頷いたら、秋尋様から先に、お前を友人に会わせたくないから2人で行くんだと言われた。ちなみにコッソリ後をつけようとしていたのもバレていた。
なんにせよ、2人きりで行けるのならそれに越したことはない。新年から最高。今年は去年よりもずっとイイコトが待ってそう。秋尋様が俺にすべてを許してくれるとか。
……さすがにそれはないか。
「秋尋様は、お着物ですか?」
「いや。普通の服で行く」
「そうですか……」
「もしかして、着てほしいのか?」
「着てくださるんですか!?」
「着ない。着ないぞ。絶対に着ない!」
「は、はい……」
何もそんな力いっぱい断らなくても。3回も言われたし……。俺、なんか変なこと言ったかな?
ハッ。まさか下心が透けて見えてたとか。凄い、やらしい顔をしてたのかも。気をつけよう。
「秋尋様と年明けにお出かけできるだけで嬉しいです。ありがとうございます、秋尋様」
なるべく純粋そうに、ニッコリと。
「そ、そうか。まあ、存分に感謝しろ……」
「はい」
ピュアな感じを上手く出せたのか、秋尋様は俺の頭をワシワシと撫でてくれた。ちょっと犬にするような感じだったのが気になるけど、スキンシップは素直に嬉しい。
「午後から出ますか?」
「お前が平気なら、今から行こう」
「はい。では本日は小松が休みですので、別の者を呼びます。昼食はいかがされますか?」
「そうだな。外は混むだろうから家で食べよう。お前の分も用意させる」
「ありがとうございます」
本当に、今年はいい1年になりそうだなー。元旦は稽古も休みだし、ゆっくりできそう。
俺は頭から離れていく秋尋様の手のひらを名残惜しげに眺めながら、運転手に連絡を入れた。
そうして神社に来た俺と秋尋様。初詣者数が毎年トップだと言われているだけあって、凄い人混みだった。
「はぐれないように手をつなぎましょう」
「いくらお前がまだ小さいといっても、さすがに人前でつなぐのはそろそろおかしくないか?」
「これも秋尋様をお護りするために大事なことです。この朝香、いつでも貴方の盾となって死ぬ覚悟はできております」
「僕は殺し屋にでも狙われているのか。あと死ぬな」
鍛えていることもあって踏ん張りはきく。
前に立って秋尋様が少しでも揉まれないよう足をしっかり地につけた。
秋尋様が後から押されて密着してくるのが最高に幸せすぎる。流されて俺もムギュッとしたい。秋尋様、潰れちゃいそうだからしないけど。
初詣の願い事は当然、秋尋様が健康でいられるように、幸せな一年を過ごせますように。そして俺がその隣にいられますように。
俺の幸せに関しては、秋尋様の傍にいられたらそれだけで叶ってしまうので、願わなくても問題ない。
参拝を無事に終えた帰り道、ザワザワしていても秋尋様の声だけは耳に心地よく届いた。
「朝香、願い事は何にした?」
「もちろん秋尋様のことです」
「僕もお前のことを願ったぞ」
「えっ……」
そんな、嬉しい。秋尋様が俺の健康などを……。
「お前の過保護と変態が直りますようにと」
「……人に話すと叶わないといいますしね」
「いや。むしろ努力して直せ」
そもそもそれ、直るようなものでもないですから。
俺が変態になるのは秋尋様に対してだけだし……。それも好きすぎるからしかたのないことだし……。
「今年は秋尋様をもっとお護りできるよう、さらなる鍛錬を積みます」
「そういえばお前、去年は結構……」
「朝香!」
ノイズのような高い声。秋尋様が俺を呼ぶ声とは違って、酷く耳障りな。でもその音は、確かに俺の名前を形作る。ずっと蓋をしていた箱が開いてしまったような感覚に、足が止まる。
振り返りたくない。走って逃げたい。なのに足が動かない。
押されたのか、動かない俺に焦れたのか秋尋様が俺の背にぽすんと身体をあてた。そこでようやく、俺も歩き出せた。知らず息を止めていたらしく、一気に入ってきた冷たい空気でむせる。
「大丈夫か、朝香。今……誰かが、お前を呼んで……」
幻聴じゃ、なかったのか。秋尋様は俺の背をさすりながら、誰かの姿を探すようにあたりを見回した。
「友達か?」
「違います」
忘れたい。忘れたと思ってたけど、きっと一生忘れられない声。
強くなったと思ったのに、たかがこれだけのことで動揺して情けない。
「端の方へ行こう」
「いえ。早く帰りましょう」
ようやく少し人混みを抜けたところで、腕を掴まれた。
「どうして逃げるの、朝香」
「おかあ、さん……」
母親だなんて思いたくもないのに、俺はそう口にしていた。
秋尋様は驚いた表情で俺と母親の顔を見比べている。
……そうか。顔、知らなかったんだな。似てるのかな。嫌だな。
震える俺の身体を秋尋様が抱きしめて、母親を睨んだ。
秋尋様と俺の出会いが出会いだ。顔は知らなくとも、俺がされてきたことは、ある程度知っているはず。
「朝香に近づくな。話をしたければ、弁護士を通せ」
護るはずの俺が護られてる。これじゃあ逆です、秋尋様。
気温もわからないくらい身体が強張ってるけど、秋尋様の温もりだけはハッキリわかる。あったかくて、やさしい。
「少し話をするくらいいいでしょ? あたしはこの子の母親なんだから」
マニュキアを塗ったいやらしい赤い指先が再び俺に伸びてくる。
今なら殴られてもそんなに痛くないはずなのに、銃を突きつけられでもしたような恐怖があって動けない。
異様な状況だと気づいたのか、秋尋様のボディーガードが駆けつけてきて、俺から母親を引き剥がしてくれた。伸ばされた指先は俺に届かなかった。
ああ。今日のボディーガードは春日さんじゃなかったっけ。それでも、俺も護ってくれるんだな。そんなことをぼんやりと考えて、そこから先はあまり覚えてない。気づいたら屋敷にいた。
秋尋様の話によれば、冷たい声ながら受け答えはしっかりしていたから連れてきたという。
普通なら俺の部屋……とかだと思うんだけど、秋尋様の部屋なんだよね、ここ。もしかして、無意識にねだったりしたのかな。
柔らかいソファに身体を預ける俺の横で、秋尋様が心配そうにこちらを窺っている。
「秋尋様、申し訳ございませんでした。情けないところをお見せして……」
「いや、僕こそ……。上手く、対応できたのか……」
突然のことで驚いただろうに、それでも俺を護ろうとしてくれた。
子どもの時も、今も。いつだって俺を助けてくださるのは、秋尋様なんだ。
貴方が傍にいてくれるだけで俺は正気を取り戻せるし、愛しさも溢れて止まらない。甘えるように抱きつくと、背中をヨシヨシと撫でてくれた。
秋尋様の手も、少し震えてる。俺のせいで怖い想いをさせてしまったかもしれない。
「もしかして僕は、よけいなことをしていないか?」
「秋尋様が俺のためにしてくださることで、よけいなことなどありません」
「だから、そういう……。いや、いい。今日は甘やかしてやる」
可愛い。優しい。愛しい。秋尋様。たまらなくなって、その唇に口づけた。
「ん……っ。む、う……。はぁ……。ど、どうして甘やかす……で、コレなんだ……」
「ダメですか?」
今の俺の顔、もう絶対に純粋じゃない。可愛らしくおねだりするほうが、効果がありそうなのに。
「し、しかたないな……」
ゴシ……と秋尋様が自分の唇を擦る。嫌がられてるのかなと悲しくなって手を舐めると、秋尋様からキスしてくれた。
あとはもう、夢中で貪った。たまにもれる吐息がどうしようもなくやらしい。色々とはちきれそうだったけど、今はキスをしていたかった。身体を重ねるよりも、繋がれている気がするから。
「はぁ……。は……。さすがに、シツコイぞ……」
「だって……」
秋尋様、とろとろだ。可愛い。本当にたまんない。
またチュッてすると、秋尋様は半ば諦めたように力を抜いて、俺に身を任せた。
そして俺は……。本当に情けないことに、キスをしながら眠ってしまったらしい。おしゃぶりでもくわえているような感覚だったのかと、秋尋様にからかわれた。
でもその間もずっと抱きしめてくれていたみたいで、嬉しいやら恥ずかしいやらだ。……嬉しい。
「俺、どれくらい寝てました?」
「ほんの30分ほどだ。疲れたんだろう」
「そうですか……」
「……話さなくて、良かったのか? 母親と」
「あれを母親だなんて、思ってないです。俺の家族は近衛家に仕えている皆さんだと思ってますから」
「それは……大家族だな」
「でしょう?」
ふふ、と笑って秋尋様の胸に顔を埋める。
「今までずっと放っておいたのに、なんで今更……」
「もしかすると、動画でも見たのかもな。ほら、去年、柔道の大会でお前、結構有名になったから……」
ちなみに優勝したとかではない。俺の動画が出回ったのは、それなりに勝ち進んだこともあるけど、主にはこの容姿のせいだ。
「あれを見て、捨てるには惜しくなったと? 馬鹿馬鹿しい」
つい毒づいて、秋尋様の前だったと肩を竦めた。
「申し訳ございません」
「謝るな。愚痴りたければ愚痴れ。甘やかしてやると言った」
はあ……。こんなのもう無理。好きすぎる。モヤモヤした気持ちも全部吹っ飛んでいく。
基本的に俺の頭の中は、秋尋様のことでいっぱいだ。俺を捨てた母親のことなんてどうでもいい。
なのに……。自分がこんなふうになるなんて、思わなかった。伸ばされた手すら、避けられそうになくて。足も動かなくて。普段は顔も忘れてて夢にだって見ないのに、心の奥底に存在しているのかと思うと胸をかきむしりたいくらいおぞましい。反吐が出る。
もっと秋尋様を補充しようと唇を近づけると、今度は拒まれた。
「これ以上は、さすがに唇が腫れそうだ。こっちにさせてくれ」
そして俺の頭は再び秋尋様の胸の中へ。
「まあ……。硬くてあまり居心地も良くないだろうが」
「そんなことないです。最高です」
「最高だと言われても、反応に困るな……」
ブヨブヨした脂肪の塊なんかより、秋尋様のおっぱいのほうがはるかに素晴らしい。もう少し肉をつけたほうがいいなとは思うけど。でも俺が吸ったり揉んだりしてるせいか、乳のあたりは少し柔らかい。
せっかくなので思う存分、頭を押しつけたり、直に触ったりした。甘やかすという言葉の通り秋尋様はたまに引いたりしながらも結局全部許してくれて、なんだか申し訳ない気持ちにもなった。なったけど、色々した。
それから数日後。今度は本当に弁護士を通して話があり、俺は立ち会い人を交えて母親と会うことになった。
もう縁なんて切れたと思ってたけど、そう簡単なものでもないらしい。
そして……。話し合いの結果、最初はにこやかだった母親が再び暴力を振るおうとしてくれたおかげで、俺は無事、再び屋敷へと戻された。相変わらず考えなしな行動だけど、逆に助かった。
でも正直なところ『いつまで近衛の家に迷惑をかけるつもりなんだ』という一言は、かなり効いた。
高校も秋尋様と同じとこに通いたかったけど、学費が凄まじい金額なのは知っている。ご好意に甘えていい桁じゃない。幸い成績はいいし、奨学金を貰って別の高校へ通うほうが現実的だ。
中学卒業で正式に近衛の使用人として雇ってもらえたら、それが一番なんだけどなあ……。無理かな。結局、迷惑をかけることになるか。
自室のベッドで悶々と考え込んでいたら、凄い勢いで秋尋様が部屋に入ってきた。
ノックをせずに駆け込んでくるなんて珍しい。
「朝香!」
焦ったような顔で詰め寄られて、ドキドキしてしまう。
だってこの体勢、押し倒されてるみたいで。
いやいや。主人が来たのに寝たままでいるのはマズイ。起き上がる暇もなかったけど。
ゆっくり半身を起こすと、秋尋様もあわせて顔を退けた。
「どうされましたか」
「お前、ここを出ていくって本当か!?」
いつの間に出ていくことになってるんだ、俺。
誤解だろうけど……悪戯心がわいた。
俺が傍を離れることになったら、秋尋様はどんな反応をするのかなって。
「いつまでもお世話になっているのが……。申し訳なくて」
そう重々しく言うと、秋尋様は何度か躊躇いを見せたあと、一枚の紙切れを差し出した。
「……これを、覚えているか」
「え……。こ、これは……」
俺がおととし、秋尋様の誕生日にプレゼントした、なんでもいうこときく券。ここでコレを出されるなんて、まさかすぎた。
いつまで経っても使ってくれないから、結局要らなくて捨てたのかなと思ってた。それがまさか、こんな……。
短冊サイズの紙には、折り目ひとつない。大切にしまっていてくれたんだなと思うと、ジワジワと熱いものが込み上げてくる。
「勝手に出ていくことは許さないぞ。僕がお前を望んでいるんだ、申し訳なく思うことはない」
それ、つまりは、傍にいてほしいってことだよね。
……落ち着こう。大きく息を吸って、吐いて……。
…………ダメだ。勃った。
だってあの秋尋様が、涙目になりながら俺に行かないでって懇願してくれるなんて。
くらくらしすぎて鼻血も出そう……。
「わかりました。ずっと、貴方の傍にいます」
「そんな簡単に……決めて、いいのか。本当は……。母親の傍にいたい、とかは」
「それだけは天地がひっくり返ってもありえません」
ご両親に愛情を持って育てられてきた秋尋様にはピンとこないのかもしれない。情など欠片もない親子もいるってことを。
……あと。俺がどれだけ秋尋様を好きかってことを。
「それに俺、秋尋様の傍にいられなくなったら、生きていけませんから」
「だが……。お前は僕の身の回りの世話をしてくれていて、その。本当に……。い、色々、してくれるだろう。だから、お前なら、ここを出ても……一人で生きていける気がしてしまうんだ」
生活的な面では確かにそうかもしれないけど、俺が言ってるのは、そういう意味じゃない。
「俺は秋尋様の隣でないと、息ができないのです」
「呼吸困難になるということか?」
「え!? ええ、そう……ですね」
「それは大丈夫なのか? 病気か?」
なんだこのやりとりは。呼吸困難て。そんな病気があってたまるか。いや、精神的なものなら……そうとも言えるか。俺、秋尋様と離されたら過呼吸になりそうだし……。
秋尋様が鈍いっていうのもあるけど、いつも遠まわしに愛を伝えて『使用人として』で括ってきた俺も悪い。いよいよケジメをつける時がきた。
「はい、病気です。あの……。こ、恋の病っていうんですけど」
「こいのやまい? それはどういう……」
秋尋様の顔がどんどん赤くなっていって、言葉の最後が飲み込まれて。ああ、きちんと伝わったんだって思った。
「僕は男だぞ。それに、お前のように、可愛くもない」
「秋尋様は世界一、お可愛らしいです」
「しれっと、そういうことを言うな」
「ですが……」
抱きしめたくて、押し倒したくてたまんなくなってきた。返事ももらってないのに。もう、処理だなんて言い訳もできないのに。
「……いきなりで気持ちの整理がつかないな……。朝香。きちんと言葉にしてみてくれ」
「好きです。大好きです。愛してます。一度と言わず、一晩中、貴方に愛を囁きたい」
もちろん、エッチな意味がこもってる。
「そんなには……言わなくていい」
そして当然のように、秋尋様は俺の意図に気づいてくれない。
でも手のひらで自分の口を押さえながら真っ赤になっているのは、大変な可愛らしさだった。思わず、その手にそっとキスをした。直接唇に触れたわけでもないのに、なんだかいつもよりドキドキした。
「初めて会った日から貴方のことが好きなんです。今まで我慢した分、たくさん言わせてください」
秋尋様は、今度は俺の口を手で塞いだ。ペロリと舐めると、ヒャッと可愛らしい声をあげて飛び退く。
「な、ならお前、僕に奉仕をするのが喜びだと言っておきながら、結局は下心からだったんだな」
やっぱりソコを突っ込まれるか。でも思ったより、軽蔑はされてなさそう……。良かった。
「……申し訳ございません」
「いや。怒ってはいない。むしろ、させている罪悪感があったから、ホッとしているくらいだ」
あんな色んなことをされておいてソレで済ませるって、秋尋様、もう俺のことを好きなのでは?
「その……。下心だとしたら、もう秋尋様に触ることは叶いませんか?」
「……お前が触りたいなら、別に」
「え!? い、いいんですか?」
「いや、よくはないか。応えることができないのに」
もうそれでもいい。応えることができないってハッキリ言われて、気分はドン底だけど、貴方に触れられるならそれでもいいと思ってしまう。
それに、こう。断る理由が俺を気遣ってのことっぽいのが、ちょっと嬉しいというか! 複雑!!
「俺は身体だけでも嬉しいです。道具だと思ってくださって構いません」
「そんな悲しいことを言うな」
「本心です。だって俺、もう、こんなですよ?」
秋尋様が俺の下半身に視線を落として、ニ、三歩退いた。
「……待て。僕は真面目な話をしにきたんだぞ。今の会話のどこに、そうなる要素があった!?」
「秋尋様が俺に出て行くなって言ってくださったのが嬉しかったので!」
「それだけでか?」
「それだけで……」
あと、可愛すぎたので。
今の少し引きつってる表情も、ゾクゾクしてしまいます。
「おま……、お前、本当に……。そういう意味で、僕が好きなんだな」
思い返してもらえれば、すぐにわかると思う。俺が使用人として尽くしてきたことのすべてに、愛と下心があったのだから。
触られることに抵抗はなさそうだったので、そっと抱きしめてみた。少しビクリとされたけど、突き放されはしなかった。
「俺が気持ち悪いですか?」
「そ、そんなことはない。でも……。待ってくれ。今日は、ダメだ。なんだかグルグルする。昔のこととか、色々考えてしまって」
真っ赤な顔をしたまま俺を見て震える秋尋様が可愛くて、下からそっとキスをした。
「待てと言ったのに……ッ」
「キスだけです」
「当たり前だ。今……これ以上何かをされたら、爆発する……」
それは。いくらなんでもちょっと。可愛いが過ぎませんか?
爆発した。俺が。……下半身的な暴発……。
「あっ。でも、だからって、この屋敷を出ていくのはナシだからな」
「ええ。もちろん。ずっと貴方の傍にいさせてください」
俺のその言葉を聞いて満足したのか、これ以上触られてはたまらないと思ったのか、秋尋様は約束だぞと強めに言って部屋を出て行った。
俺の手のひらには、渡されたなんでもいうこときくこと券だけが残った。
いや、あと、幸せも。
応えられないと言われたけれど、なんだか脈もありそうだし……。告白も終えたから、これからは使用人というオブラートに包まなくても、たくさん愛を伝えていける。
今年はまだ始まったばかりだけど、いい一年になりそうだ。
高校で友人ができたというので、置いていかれるだろうなと思っていたんだけど、……いや、ボディーガードとして後からついて行く気は満々だったんだけど、秋尋様が俺と2人で行きたいと言ってくれた。
もしや友達に断られた? ハブられた? 許すまじ。そう悶々としたものの、2人きりで行けることに感謝もあって、複雑な気持ち。
うっかり心の傷に触れてはいけないと何も訊かずに頷いたら、秋尋様から先に、お前を友人に会わせたくないから2人で行くんだと言われた。ちなみにコッソリ後をつけようとしていたのもバレていた。
なんにせよ、2人きりで行けるのならそれに越したことはない。新年から最高。今年は去年よりもずっとイイコトが待ってそう。秋尋様が俺にすべてを許してくれるとか。
……さすがにそれはないか。
「秋尋様は、お着物ですか?」
「いや。普通の服で行く」
「そうですか……」
「もしかして、着てほしいのか?」
「着てくださるんですか!?」
「着ない。着ないぞ。絶対に着ない!」
「は、はい……」
何もそんな力いっぱい断らなくても。3回も言われたし……。俺、なんか変なこと言ったかな?
ハッ。まさか下心が透けて見えてたとか。凄い、やらしい顔をしてたのかも。気をつけよう。
「秋尋様と年明けにお出かけできるだけで嬉しいです。ありがとうございます、秋尋様」
なるべく純粋そうに、ニッコリと。
「そ、そうか。まあ、存分に感謝しろ……」
「はい」
ピュアな感じを上手く出せたのか、秋尋様は俺の頭をワシワシと撫でてくれた。ちょっと犬にするような感じだったのが気になるけど、スキンシップは素直に嬉しい。
「午後から出ますか?」
「お前が平気なら、今から行こう」
「はい。では本日は小松が休みですので、別の者を呼びます。昼食はいかがされますか?」
「そうだな。外は混むだろうから家で食べよう。お前の分も用意させる」
「ありがとうございます」
本当に、今年はいい1年になりそうだなー。元旦は稽古も休みだし、ゆっくりできそう。
俺は頭から離れていく秋尋様の手のひらを名残惜しげに眺めながら、運転手に連絡を入れた。
そうして神社に来た俺と秋尋様。初詣者数が毎年トップだと言われているだけあって、凄い人混みだった。
「はぐれないように手をつなぎましょう」
「いくらお前がまだ小さいといっても、さすがに人前でつなぐのはそろそろおかしくないか?」
「これも秋尋様をお護りするために大事なことです。この朝香、いつでも貴方の盾となって死ぬ覚悟はできております」
「僕は殺し屋にでも狙われているのか。あと死ぬな」
鍛えていることもあって踏ん張りはきく。
前に立って秋尋様が少しでも揉まれないよう足をしっかり地につけた。
秋尋様が後から押されて密着してくるのが最高に幸せすぎる。流されて俺もムギュッとしたい。秋尋様、潰れちゃいそうだからしないけど。
初詣の願い事は当然、秋尋様が健康でいられるように、幸せな一年を過ごせますように。そして俺がその隣にいられますように。
俺の幸せに関しては、秋尋様の傍にいられたらそれだけで叶ってしまうので、願わなくても問題ない。
参拝を無事に終えた帰り道、ザワザワしていても秋尋様の声だけは耳に心地よく届いた。
「朝香、願い事は何にした?」
「もちろん秋尋様のことです」
「僕もお前のことを願ったぞ」
「えっ……」
そんな、嬉しい。秋尋様が俺の健康などを……。
「お前の過保護と変態が直りますようにと」
「……人に話すと叶わないといいますしね」
「いや。むしろ努力して直せ」
そもそもそれ、直るようなものでもないですから。
俺が変態になるのは秋尋様に対してだけだし……。それも好きすぎるからしかたのないことだし……。
「今年は秋尋様をもっとお護りできるよう、さらなる鍛錬を積みます」
「そういえばお前、去年は結構……」
「朝香!」
ノイズのような高い声。秋尋様が俺を呼ぶ声とは違って、酷く耳障りな。でもその音は、確かに俺の名前を形作る。ずっと蓋をしていた箱が開いてしまったような感覚に、足が止まる。
振り返りたくない。走って逃げたい。なのに足が動かない。
押されたのか、動かない俺に焦れたのか秋尋様が俺の背にぽすんと身体をあてた。そこでようやく、俺も歩き出せた。知らず息を止めていたらしく、一気に入ってきた冷たい空気でむせる。
「大丈夫か、朝香。今……誰かが、お前を呼んで……」
幻聴じゃ、なかったのか。秋尋様は俺の背をさすりながら、誰かの姿を探すようにあたりを見回した。
「友達か?」
「違います」
忘れたい。忘れたと思ってたけど、きっと一生忘れられない声。
強くなったと思ったのに、たかがこれだけのことで動揺して情けない。
「端の方へ行こう」
「いえ。早く帰りましょう」
ようやく少し人混みを抜けたところで、腕を掴まれた。
「どうして逃げるの、朝香」
「おかあ、さん……」
母親だなんて思いたくもないのに、俺はそう口にしていた。
秋尋様は驚いた表情で俺と母親の顔を見比べている。
……そうか。顔、知らなかったんだな。似てるのかな。嫌だな。
震える俺の身体を秋尋様が抱きしめて、母親を睨んだ。
秋尋様と俺の出会いが出会いだ。顔は知らなくとも、俺がされてきたことは、ある程度知っているはず。
「朝香に近づくな。話をしたければ、弁護士を通せ」
護るはずの俺が護られてる。これじゃあ逆です、秋尋様。
気温もわからないくらい身体が強張ってるけど、秋尋様の温もりだけはハッキリわかる。あったかくて、やさしい。
「少し話をするくらいいいでしょ? あたしはこの子の母親なんだから」
マニュキアを塗ったいやらしい赤い指先が再び俺に伸びてくる。
今なら殴られてもそんなに痛くないはずなのに、銃を突きつけられでもしたような恐怖があって動けない。
異様な状況だと気づいたのか、秋尋様のボディーガードが駆けつけてきて、俺から母親を引き剥がしてくれた。伸ばされた指先は俺に届かなかった。
ああ。今日のボディーガードは春日さんじゃなかったっけ。それでも、俺も護ってくれるんだな。そんなことをぼんやりと考えて、そこから先はあまり覚えてない。気づいたら屋敷にいた。
秋尋様の話によれば、冷たい声ながら受け答えはしっかりしていたから連れてきたという。
普通なら俺の部屋……とかだと思うんだけど、秋尋様の部屋なんだよね、ここ。もしかして、無意識にねだったりしたのかな。
柔らかいソファに身体を預ける俺の横で、秋尋様が心配そうにこちらを窺っている。
「秋尋様、申し訳ございませんでした。情けないところをお見せして……」
「いや、僕こそ……。上手く、対応できたのか……」
突然のことで驚いただろうに、それでも俺を護ろうとしてくれた。
子どもの時も、今も。いつだって俺を助けてくださるのは、秋尋様なんだ。
貴方が傍にいてくれるだけで俺は正気を取り戻せるし、愛しさも溢れて止まらない。甘えるように抱きつくと、背中をヨシヨシと撫でてくれた。
秋尋様の手も、少し震えてる。俺のせいで怖い想いをさせてしまったかもしれない。
「もしかして僕は、よけいなことをしていないか?」
「秋尋様が俺のためにしてくださることで、よけいなことなどありません」
「だから、そういう……。いや、いい。今日は甘やかしてやる」
可愛い。優しい。愛しい。秋尋様。たまらなくなって、その唇に口づけた。
「ん……っ。む、う……。はぁ……。ど、どうして甘やかす……で、コレなんだ……」
「ダメですか?」
今の俺の顔、もう絶対に純粋じゃない。可愛らしくおねだりするほうが、効果がありそうなのに。
「し、しかたないな……」
ゴシ……と秋尋様が自分の唇を擦る。嫌がられてるのかなと悲しくなって手を舐めると、秋尋様からキスしてくれた。
あとはもう、夢中で貪った。たまにもれる吐息がどうしようもなくやらしい。色々とはちきれそうだったけど、今はキスをしていたかった。身体を重ねるよりも、繋がれている気がするから。
「はぁ……。は……。さすがに、シツコイぞ……」
「だって……」
秋尋様、とろとろだ。可愛い。本当にたまんない。
またチュッてすると、秋尋様は半ば諦めたように力を抜いて、俺に身を任せた。
そして俺は……。本当に情けないことに、キスをしながら眠ってしまったらしい。おしゃぶりでもくわえているような感覚だったのかと、秋尋様にからかわれた。
でもその間もずっと抱きしめてくれていたみたいで、嬉しいやら恥ずかしいやらだ。……嬉しい。
「俺、どれくらい寝てました?」
「ほんの30分ほどだ。疲れたんだろう」
「そうですか……」
「……話さなくて、良かったのか? 母親と」
「あれを母親だなんて、思ってないです。俺の家族は近衛家に仕えている皆さんだと思ってますから」
「それは……大家族だな」
「でしょう?」
ふふ、と笑って秋尋様の胸に顔を埋める。
「今までずっと放っておいたのに、なんで今更……」
「もしかすると、動画でも見たのかもな。ほら、去年、柔道の大会でお前、結構有名になったから……」
ちなみに優勝したとかではない。俺の動画が出回ったのは、それなりに勝ち進んだこともあるけど、主にはこの容姿のせいだ。
「あれを見て、捨てるには惜しくなったと? 馬鹿馬鹿しい」
つい毒づいて、秋尋様の前だったと肩を竦めた。
「申し訳ございません」
「謝るな。愚痴りたければ愚痴れ。甘やかしてやると言った」
はあ……。こんなのもう無理。好きすぎる。モヤモヤした気持ちも全部吹っ飛んでいく。
基本的に俺の頭の中は、秋尋様のことでいっぱいだ。俺を捨てた母親のことなんてどうでもいい。
なのに……。自分がこんなふうになるなんて、思わなかった。伸ばされた手すら、避けられそうになくて。足も動かなくて。普段は顔も忘れてて夢にだって見ないのに、心の奥底に存在しているのかと思うと胸をかきむしりたいくらいおぞましい。反吐が出る。
もっと秋尋様を補充しようと唇を近づけると、今度は拒まれた。
「これ以上は、さすがに唇が腫れそうだ。こっちにさせてくれ」
そして俺の頭は再び秋尋様の胸の中へ。
「まあ……。硬くてあまり居心地も良くないだろうが」
「そんなことないです。最高です」
「最高だと言われても、反応に困るな……」
ブヨブヨした脂肪の塊なんかより、秋尋様のおっぱいのほうがはるかに素晴らしい。もう少し肉をつけたほうがいいなとは思うけど。でも俺が吸ったり揉んだりしてるせいか、乳のあたりは少し柔らかい。
せっかくなので思う存分、頭を押しつけたり、直に触ったりした。甘やかすという言葉の通り秋尋様はたまに引いたりしながらも結局全部許してくれて、なんだか申し訳ない気持ちにもなった。なったけど、色々した。
それから数日後。今度は本当に弁護士を通して話があり、俺は立ち会い人を交えて母親と会うことになった。
もう縁なんて切れたと思ってたけど、そう簡単なものでもないらしい。
そして……。話し合いの結果、最初はにこやかだった母親が再び暴力を振るおうとしてくれたおかげで、俺は無事、再び屋敷へと戻された。相変わらず考えなしな行動だけど、逆に助かった。
でも正直なところ『いつまで近衛の家に迷惑をかけるつもりなんだ』という一言は、かなり効いた。
高校も秋尋様と同じとこに通いたかったけど、学費が凄まじい金額なのは知っている。ご好意に甘えていい桁じゃない。幸い成績はいいし、奨学金を貰って別の高校へ通うほうが現実的だ。
中学卒業で正式に近衛の使用人として雇ってもらえたら、それが一番なんだけどなあ……。無理かな。結局、迷惑をかけることになるか。
自室のベッドで悶々と考え込んでいたら、凄い勢いで秋尋様が部屋に入ってきた。
ノックをせずに駆け込んでくるなんて珍しい。
「朝香!」
焦ったような顔で詰め寄られて、ドキドキしてしまう。
だってこの体勢、押し倒されてるみたいで。
いやいや。主人が来たのに寝たままでいるのはマズイ。起き上がる暇もなかったけど。
ゆっくり半身を起こすと、秋尋様もあわせて顔を退けた。
「どうされましたか」
「お前、ここを出ていくって本当か!?」
いつの間に出ていくことになってるんだ、俺。
誤解だろうけど……悪戯心がわいた。
俺が傍を離れることになったら、秋尋様はどんな反応をするのかなって。
「いつまでもお世話になっているのが……。申し訳なくて」
そう重々しく言うと、秋尋様は何度か躊躇いを見せたあと、一枚の紙切れを差し出した。
「……これを、覚えているか」
「え……。こ、これは……」
俺がおととし、秋尋様の誕生日にプレゼントした、なんでもいうこときく券。ここでコレを出されるなんて、まさかすぎた。
いつまで経っても使ってくれないから、結局要らなくて捨てたのかなと思ってた。それがまさか、こんな……。
短冊サイズの紙には、折り目ひとつない。大切にしまっていてくれたんだなと思うと、ジワジワと熱いものが込み上げてくる。
「勝手に出ていくことは許さないぞ。僕がお前を望んでいるんだ、申し訳なく思うことはない」
それ、つまりは、傍にいてほしいってことだよね。
……落ち着こう。大きく息を吸って、吐いて……。
…………ダメだ。勃った。
だってあの秋尋様が、涙目になりながら俺に行かないでって懇願してくれるなんて。
くらくらしすぎて鼻血も出そう……。
「わかりました。ずっと、貴方の傍にいます」
「そんな簡単に……決めて、いいのか。本当は……。母親の傍にいたい、とかは」
「それだけは天地がひっくり返ってもありえません」
ご両親に愛情を持って育てられてきた秋尋様にはピンとこないのかもしれない。情など欠片もない親子もいるってことを。
……あと。俺がどれだけ秋尋様を好きかってことを。
「それに俺、秋尋様の傍にいられなくなったら、生きていけませんから」
「だが……。お前は僕の身の回りの世話をしてくれていて、その。本当に……。い、色々、してくれるだろう。だから、お前なら、ここを出ても……一人で生きていける気がしてしまうんだ」
生活的な面では確かにそうかもしれないけど、俺が言ってるのは、そういう意味じゃない。
「俺は秋尋様の隣でないと、息ができないのです」
「呼吸困難になるということか?」
「え!? ええ、そう……ですね」
「それは大丈夫なのか? 病気か?」
なんだこのやりとりは。呼吸困難て。そんな病気があってたまるか。いや、精神的なものなら……そうとも言えるか。俺、秋尋様と離されたら過呼吸になりそうだし……。
秋尋様が鈍いっていうのもあるけど、いつも遠まわしに愛を伝えて『使用人として』で括ってきた俺も悪い。いよいよケジメをつける時がきた。
「はい、病気です。あの……。こ、恋の病っていうんですけど」
「こいのやまい? それはどういう……」
秋尋様の顔がどんどん赤くなっていって、言葉の最後が飲み込まれて。ああ、きちんと伝わったんだって思った。
「僕は男だぞ。それに、お前のように、可愛くもない」
「秋尋様は世界一、お可愛らしいです」
「しれっと、そういうことを言うな」
「ですが……」
抱きしめたくて、押し倒したくてたまんなくなってきた。返事ももらってないのに。もう、処理だなんて言い訳もできないのに。
「……いきなりで気持ちの整理がつかないな……。朝香。きちんと言葉にしてみてくれ」
「好きです。大好きです。愛してます。一度と言わず、一晩中、貴方に愛を囁きたい」
もちろん、エッチな意味がこもってる。
「そんなには……言わなくていい」
そして当然のように、秋尋様は俺の意図に気づいてくれない。
でも手のひらで自分の口を押さえながら真っ赤になっているのは、大変な可愛らしさだった。思わず、その手にそっとキスをした。直接唇に触れたわけでもないのに、なんだかいつもよりドキドキした。
「初めて会った日から貴方のことが好きなんです。今まで我慢した分、たくさん言わせてください」
秋尋様は、今度は俺の口を手で塞いだ。ペロリと舐めると、ヒャッと可愛らしい声をあげて飛び退く。
「な、ならお前、僕に奉仕をするのが喜びだと言っておきながら、結局は下心からだったんだな」
やっぱりソコを突っ込まれるか。でも思ったより、軽蔑はされてなさそう……。良かった。
「……申し訳ございません」
「いや。怒ってはいない。むしろ、させている罪悪感があったから、ホッとしているくらいだ」
あんな色んなことをされておいてソレで済ませるって、秋尋様、もう俺のことを好きなのでは?
「その……。下心だとしたら、もう秋尋様に触ることは叶いませんか?」
「……お前が触りたいなら、別に」
「え!? い、いいんですか?」
「いや、よくはないか。応えることができないのに」
もうそれでもいい。応えることができないってハッキリ言われて、気分はドン底だけど、貴方に触れられるならそれでもいいと思ってしまう。
それに、こう。断る理由が俺を気遣ってのことっぽいのが、ちょっと嬉しいというか! 複雑!!
「俺は身体だけでも嬉しいです。道具だと思ってくださって構いません」
「そんな悲しいことを言うな」
「本心です。だって俺、もう、こんなですよ?」
秋尋様が俺の下半身に視線を落として、ニ、三歩退いた。
「……待て。僕は真面目な話をしにきたんだぞ。今の会話のどこに、そうなる要素があった!?」
「秋尋様が俺に出て行くなって言ってくださったのが嬉しかったので!」
「それだけでか?」
「それだけで……」
あと、可愛すぎたので。
今の少し引きつってる表情も、ゾクゾクしてしまいます。
「おま……、お前、本当に……。そういう意味で、僕が好きなんだな」
思い返してもらえれば、すぐにわかると思う。俺が使用人として尽くしてきたことのすべてに、愛と下心があったのだから。
触られることに抵抗はなさそうだったので、そっと抱きしめてみた。少しビクリとされたけど、突き放されはしなかった。
「俺が気持ち悪いですか?」
「そ、そんなことはない。でも……。待ってくれ。今日は、ダメだ。なんだかグルグルする。昔のこととか、色々考えてしまって」
真っ赤な顔をしたまま俺を見て震える秋尋様が可愛くて、下からそっとキスをした。
「待てと言ったのに……ッ」
「キスだけです」
「当たり前だ。今……これ以上何かをされたら、爆発する……」
それは。いくらなんでもちょっと。可愛いが過ぎませんか?
爆発した。俺が。……下半身的な暴発……。
「あっ。でも、だからって、この屋敷を出ていくのはナシだからな」
「ええ。もちろん。ずっと貴方の傍にいさせてください」
俺のその言葉を聞いて満足したのか、これ以上触られてはたまらないと思ったのか、秋尋様は約束だぞと強めに言って部屋を出て行った。
俺の手のひらには、渡されたなんでもいうこときくこと券だけが残った。
いや、あと、幸せも。
応えられないと言われたけれど、なんだか脈もありそうだし……。告白も終えたから、これからは使用人というオブラートに包まなくても、たくさん愛を伝えていける。
今年はまだ始まったばかりだけど、いい一年になりそうだ。
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