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ホワイトクリスマス(R18
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優しくなったとはいえ、飴の比重が大きくなっただけで未だにツンツンしている部分もある秋尋様。
俺はツンだけだった秋尋様も可愛い好きと思っていたので、そんなところも愛おしい。
でも……。
「今年の誕生日はどうなさいますか?」
「ああ。友人と出かける」
この所業はあんまりすぎた。てっきり俺と過ごしてくださると思っていたのに。
「は!? 俺という恋人がいるのに、その友人とやらは何を考えているのですか!?」
「恋人って……設定だけだろう」
「それでもです!」
とまあ、言い張ってみても、結局俺はただの使用人でしかない。誕生日プレゼントとしてボディーガードをしてくれと言われたので、喜んで後ろからついていくことにした。
この日は春日さんも一緒だった。これを機にコツを学ぼうと思ったけど『お前、秋尋様とはどこまでいったんだよ』ってニヤニヤしながらからかわれて集中できないまま、学友とキャッキャする秋尋様を見守った。
そんな切ない秋を越えて……冬がやってきた。
クリスマスだ。
「朝香。今年のクリスマスは、2人でどこかに出かけるか?」
秋尋様がそう言ってくださるのを夢見る日々……え、いや、現実?
「い、いいのですか!?」
秋尋様とはクリスマスを楽しんだ覚えがない。
おととしは熱い夜を過ごせたけれど、途中までは別々だった。
それに今年は誕生日も友人と過ごされたので、またそうなるかなと予め期待しないようにしてた。
……からの、この展開である。
「ああ。去年は、その……。クリスマスをお前と過ごすことが、なんだか気恥ずかしかったんだ。恋人ごっこにしては、あまりにも、それらしいだろう? だから」
しかも可愛い。俺のこと意識しまくりじゃないですか。
秋尋様に放置される時、いつも、俺は単なる使用人だし……って引いちゃうけど、案外押したほうがいいのか……?
ヤダヤダ俺と過ごしてくれなきゃヤダヤダって子どものように駄々をこねたら、案外きいてくれちゃうのかも。
「ありがとうございます。嬉しいです! 光栄です!」
「……お前、そういうのやめろ」
鼻を摘まれた。
「そういうの、ですか?」
「光栄、とかいう……。一応友人同士だろう、僕らは」
前までならここで、友人であっても使用人ですからって返すところ。でも今の俺は違う。
「俺が、秋尋様を好きすぎるからです。手の届かない高嶺の花が俺に手折られに来てくれた……。これを光栄と言わずなんと言いましょうか」
「そういう芝居がかった言い方もやめろ。大体手折るってなんだ。お前、少し平坂の奴に似てきたんじゃないか?」
「そっ……、そんなことは、ないと思いますが」
でも影響を受けてないとは言えない。
今まで俺の周りには秋尋様をのぞいて大人しかいなかったから、それはまあ、多少は。庶民派代表として金井くんはかなり参考にさせてもらってるしな……。
「ともかく、クリスマス。予定、あけておけよ」
「もちろんです」
元より、奇跡を信じてイベントの日はすべて秋尋様のためにあけてありますので。まあ、あいてなくても秋尋様から誘われたら、他は断るんだけど。
今の秋尋様のお友達はみんな恋人持ちらしいから、しかたなく俺を選んだのかもしれない。それでも、自分に気のある相手とクリスマスを過ごそうっていうんだから、これはまぎれもないデートだ。期待しないようになんて、無理な話。
何かが起こりそうな予感に、指折り数えてその日を待った。
おととしは紅茶缶、去年はジンジャークッキー。両方、平坂家主催パーティーの、ビンゴ大会で貰ったやつ……。思えば、なにひとつきちんとしたものをあげてない。なにせ、それまでは贈り合いをするような仲ではなかったから。訂正。贈っても突き返されていた。
でも今年はそんな悲しいことにはならないはずだし……。何をプレゼントしようか。
ここは、指輪とか? 普通にアクセサリーとしてなら秋尋様はつけてくれそうな気がする……。秋尋様が俺のあげたものを身につけるという事実だけで、軽くイッてしまいそうだ。
さすがに指輪は攻めすぎなので、無難にマフラーにした。ブランドモノでもなんとか俺の買える値段だというのもありがたい。平坂くんのオススメが初めて参考になった。
これなら秋尋様が……俺のあげたものを首に巻いてくれるんだよ? 凄くない?
そんな感じで準備も終わり、いよいよクリスマス当日。
やっぱり無理になったと言われるんじゃないかってハラハラしたけど、お部屋へ迎えに行っても夢は醒めず、きちんと支度を終えた秋尋様がいた。
今日はいつもよりカジュアルめ。それでもどこか高貴さが滲み出てる。俺のご主人様、麗しすぎ……。
「どうした。ドアのところで立ち止まって」
「あ、あの! あまりにも……秋尋様が、素敵すぎて……エスコートさせてください」
跪いて手を差し出すと、さも当然のように手をとってくれた。
「お前がどう思ってるのか知らないが、普通はしないぞこんなこと」
その割にはずいぶんと、堂に入っている。
本人的には子どものごっこ遊びに付きっているような感覚かもしれないけど、その気持ちが嬉しい。
「まったく。わかりやすくはしゃいでいるな」
「当然です! 秋尋様がクリスマスを俺と過ごしてくださるのですから!」
今日この時まで期待しつつも本当に俺と出かけてくれるのだろうかと、どこかで疑っていたことはナイショだ。
クリスマスという日は俺にとってかなり特別な日だし、恋人というくくりでも重要な日である。
街まではいつものように車で送ってもらうのだけど、本日の運転手は小松さんじゃない。そんなところも、特別を感じさせる。
どうぞって車のドアを開けようとしたら自動で開いた。行き場のない手を握りしめて、秋尋様を追うように乗り込んだ。
外はまだ明るい。健全な真昼のデート。大人になったら夜景の綺麗なレストランへ出掛けたりするんだろうか。その時はできれば、俺が運転をして……。秋尋様をどこでも好きなところに連れて行くんだ。ドライブだ。
……ん? あれ。なんだかデートっぽくないな。
あっ、そっか。想像の中の秋尋様が後頭座席にいるからだ。普通は助手席だ。でも助手席にいる秋尋様、想像しにくいな。
「何を考え込んでいる」
「俺もいつかは免許を取るじゃないですか。秋尋様の運転手をするために……」
「お前、小松から仕事を奪うつもりか?」
「えっ!? そういうことになるんですか!?」
上手くいかないものだな。まあ、想像の中ですら上手くいかなかったもんな……。
「ところで今日はどういうご予定でしょうか」
「ああ。まずはこれをやる。クリスマスプレゼントだ」
こんなに早く? 何も持っているようには見えないけどポケットに指輪を入れていたりとか。
と思っていたら、財布を取り出した。まさかの現金。いや。
「チケット……?」
「お前は興味がないかもしれないが、クラシックコンサートのチケットだ」
「いいえ。ありがとうございます、嬉しいです」
クラシックのコンサート! 本当にデートみたいだ。
確かにそう興味はないけれど、秋尋様が好きなことは俺も知っておきたいから問題ない。
目の前でチケットを広げて文字を見る。
せっかくいただいた物をそのままの形で残しておけないのは残念だな。半券は大事にとっておこう……。
「でも俺、普通の服なんですけど大丈夫でしょうか」
「ドレスコードはないから平気だ。僕だって普通の服を着ている」
「秋尋様の場合は、ロイヤルが服を着て歩いているような感じがするので……」
「なんだそれは」
それに普通といっても、俺と秋尋様の服、絶対に桁が2つくらい違うと思う。
「会場には子どもも普通にいる。昼の部だしな」
「それなら安心です」
だけどやっぱり、気になってしまうな。貴方の隣を歩く以上は。
多少背伸びをして、ここぞという時の一張羅をシーズン毎に用意してあるけれど、それでも釣り合わないのはわかっている。
今までは秋尋様の隣にいられることだけが嬉しくて、釣り合うとかそういうのそこまで意識してなかった。そもそもが子どもと大人みたいな構図になっていて気にする必要がなかったからかもしれない。
俺も大人になったということかな……。
「朝香はコンサート、寝そうだな。お子様だしな」
俺がお子様でないことは、身を持って知ってると思いますけど?
「そんなもったいないことしません。ずっと貴方の顔を眺めています」
「曲を聴け」
こんな軽いやりとりも、いつの間にかできるようになっている。
来年には今よりもっと気安い関係になれているんだろうか。
案外、恋人同士になってたりして……。
そのきっかけが、今日だとしたら……。
ニヤけそうな顔をこらえるために両頬を押さえたら、秋尋様に聴く前からすでに眠いのかといわれもない疑いをかけられた。
開演時間にはまだ少し早く、俺と秋尋様は近くのファミリーレストランで時間を潰すことにした。並んでいたけれど幸い待ち時間はそんなに長くはなく、すぐに座ることができた。
「ここがふぁみれすというやつか。朝香は入ったことがあるのか?」
「はい。他の使用人の方に連れてきてもらったりしました」
むしろ秋尋様が入ったことがないのが意外だ。
まあ、ご友人ができたといっても、あの学校に通ってる生徒だもんな。入るとしたら高い喫茶店とかなのかも……。
「あっ。でも最近は来てないです。幼い頃、俺を可哀想に思った大人たちが連れてきてくれたのです。初めて来た日は感動しました。まず、ご飯が出てくるお店に入れることが俺にとっては凄いことで……」
「そうか」
秋尋様は複雑そうな表情をしている。
「どうかされましたか?」
「昔のお前を思い出して切なくなる反面、初めて来たのが僕とでなくて面白くないと思ってしまった」
なんだ、その可愛い独占欲は。そして、それを素直に俺に言っちゃうんだ。
「俺も初めては、貴方とがよかったです」
「変な言い方をするな。それに、その言い方はお前を連れてきた使用人に失礼だろう……」
でもどうしても、初めての感動を貴方と味わいたかったなと思ってしまう。
残念ながら過去には戻れないので、ファミレス初体験な秋尋様を堪能させてもらうとしよう。
と思ったけれど、もう高校生の秋尋様。初体験だからといってそんなにはしゃいだりすることもなく、普通に注文をし、普通に食事をしていた。
まあ、うちの学食とそんなに変わりはないもんな。
それにしても……。普段はあまり意識しないけど、秋尋様、本当に大人っぽくなったよなあ。
前よりも骨ばった指先。所作のひとつひとつに気品が感じられて、見るからに育ちがいいとわかる。伸びた背筋も、カップの持ち方も美しい。黒髪は何もつけていないのにツヤツヤしている。
「外に出たら、また寒そうだな」
「そうですね」
「……お前。窓際に座っているのだから、こういう時は普通は外を見ながら言うだろう。僕ばかり見るな」
「秋尋様しか目に入らなくて」
軽く睨まれたので、俺も窓の外を見る。
確かに寒そうだけれど、クリスマスの雰囲気に浮かれてみんな楽しそうにしてる。
きっと俺たちも……少なくとも俺は、あんな感じでいるだろうな。
「そろそろ行くか。暖かい場所に居すぎると、外に出た時につらくなりそうだ」
「そうですね」
折り目がつかないようふんわり畳んでいたコートを持って、秋尋様に着させる。
厚手だけれどそうは見えないスラッとしたえんじ色のそれは、普通が聞いて呆れるほど上品で仕立てがいい。秋尋様が着るともう天上の織物みたいだ。
そのスタイリッシュさが目立つのか、周りからやたらと視線を感じる。
……あっ。俺がコート着させたからか。
まあ、秋尋様は気づいてないみたいだし、さも当然のような顔をしているし、言わないでおこ。
「今日は僕が払うから、お前は甘えておけ」
「ありがとうございます」
何か特別な時以外、基本的にはお金は全部秋尋様が出してくれる。上に立つものの義務や務めだと思っている節があるので、お言葉に甘えている。
友達や恋人としてはどうなのかなって思うけど、俺たちの前提は主従なので。
お店を出てすぐコンサート会場へ向かう。
人混みの中、左右後方を確認していると、秋尋様に肘で小突かれた。
「初めてで物珍しいのはわかるが、あまりキョロキョロするな」
「いえ。秋尋様に危険がないよう、あたりを確認しておりました」
「またそうやって、すぐに悪を作ろうとする」
ボディーガードとしては重要なことだと思う。
護られる側はこういうとこ、わかんないんだろうなあ。
でも秋尋様に恥ずかしい想いをさせてしまったのは失敗だった。気づかれないように周囲に注意をはらうようにしないとな。
「では、秋尋様だけ見ていますね」
「……そういうことでもない」
まあ、物珍しいのも確かだ。何しろこんなところに来るのは初めてだ。秋尋様の言うとおり、ドレスコードもなさそうだしスニーカーを履いている人もいる。
「そういえば僕も、両親以外と来るのは初めてだ」
「えっ、本当ですか?」
「嬉しそうだな」
「嬉しいです」
秋尋様の手が俺の頭に伸びる。ヨシヨシッてしてくれるのかなと期待して待っていたら、微妙な顔をして手を引っ込めた。
なんで……? 俺、気持ち悪いほどニヤケてたりしたのかな。
「そ、そんな悲しそうな顔をするな。もうお前も大きくなったし、さすがに外で頭を撫でるのは控えたい」
「俺は気にしないのに」
「僕は気にする。あとで2人の時に撫でてやるから」
律儀だ。可愛い。そして嬉しい。楽しみにしていよう。
せっかくプレゼントしてもらったコンサートのチケットよりもナデナデのほうが嬉しいとか、なんだか少し申し訳ない気持ちになった。
そもそも俺には、音楽なんてあまりよくわからない。歌詞がついていればなんとなくだし、秋尋様が歌うのならば意味がある。
とか。考えていたけれど。
初めて体験したクラシックのコンサートは、それはそれは素晴らしかった。
素晴らしい音楽、素晴らしい秋尋様……。至上のひとときだった。
くるみ割り人形、アヴェ・マリア。他数曲。あとで秋尋様が『あまり詳しいわけでもないが』と解釈や意味などを色々説明してくれた。
「まあ。お前は結局、本当に僕の顔ばかり見ていたけどな……。退屈だったか?」
「いいえ。素晴らしかったです。それに秋尋様の顔を眺めていても曲なら聴こえますから」
「それもそうだな。楽しめたのなら良かった」
「特にくるみ割り人形が好きでした」
「そうか。僕もだ」
「一緒で嬉しいです」
それに同じ時間を共有して、こうして感想を言い合えるのが何より嬉しい。半券も宝物になるし、予想以上に楽しめた。
「本当にありがとうございました。今日という日を貴方と過ごせて、とても幸せです」
「そうか」
これは、僕もだ、とは言ってくれないのですね。
片思いだからしかたないけど切ない。
それにこうして二人きりでお出かけできただけで、充分幸せだし……。
「寒いわね」
「もっとこっちにお寄りよ」
近くでは男女のカップルがどこか演技めいた口調で肩を寄せ合っている。今秋尋様にすげなくされたばかりなので、爆発しろと思ってしまった。
近くには飾りつけされた大きなクリスマスツリーがあって、そこを待ち合わせ場所にしたり、見にきたりしているらしい。
「やはり、恋人同士が多いな」
「そうですか? 家族連れや友人同士も結構いますよ。それに秋尋様さえ頷いてくれるなら……」
俺たち、すぐに恋人同士になれるんですけど。なんて。
「お前は彼女を作ったりは、しないのか?」
「……は?」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
「あの……。俺、貴方のことが好きだって、何度も何度も言いましたよね」
それこそ言わない日はないくらい。
俺の愛が重いことは、秋尋様ももうわかっているはず。
なのに……。どうして、そんな残酷な質問ができるのか。
「朝香。よく見てみろ。街には可愛らしい女性がたくさん歩いているんだぞ。どうして僕なんだ」
「俺の目には秋尋様にしか映りません。貴方にしか欲情……」
口を塞がれた。手のひらが温かくて幸せなのに、なんだか泣けてくる。
「外で滅多なことを言うな。それに、勝手に泣きそうになるな」
涙も出ます。俺の愛まで疑われて。
「これは、その……。そういう、お前が……悲しくなるような、質問じゃない」
「え?」
驚きすぎて涙が引っ込んだ。さっきの質問にも相当驚いたけど、その上をいくかもしれない。
「単に、お前に彼女ができたら嫌だと思った。だから訊いたんだ。僕はいずれ結婚するだろう。でもその時、お前に僕以上の存在ができることが、とても嫌なんだ」
どこからくる感情であれ、その独占欲が嬉しい。
秋尋様が結婚するなんて前からわかっていたことだ。問題はその時、俺をお側においてくださるかどうか。それだけ。……それだけの、はずだった。
……でも。秋尋様が俺以外の人と、肌を重ねるのは嫌だなあ。俺との関係も、続けてくれるかな。無理か、性欲処理なんだし。
「あの、秋尋様。では……結婚する時は、ただの使用人に戻りますから、どうかそれまで、俺を恋人にしてはいただけませんでしょうか」
秋尋様は少し考え込んでから、睫毛を伏せた。
「だがそれは、僕に都合がよすぎないか?」
これ秋尋様にとって、都合のいいことなんだ。
俺と恋人になれることが。
本人は自分で何を言ってるか気づいてなさそうなんだけど、実はかなり俺のことが好きなのでは?
それとも、恋人になっておかないと俺が彼女を作るとでも思ってるのかな。貴方が好きすぎて、そんな余裕はどこにもないのだけれど。
「いいえ。というか俺たち、本当の恋人がするようなこと、もうひととおりしてますし、今日も2人きりで出かけてますし、今までとそんなに変わらないですよ」
それでも、恋人同士という肩書は幸せだし、秋尋様に何か変化が訪れるかもしれないという期待もあった。
あえてこういう言い方をしたのは、気負わせないためだ。
なのに、秋尋様はムッとしたように眉根を寄せた。
「変わるだろう」
「確かに俺にとっては、偽の恋人から真実になるだけで……」
「そうじゃない。お、お前に、好きって言ったり、可愛いって言ったり、できるだろう……」
言ってくださるんですか!?
えっ。待って、じゃあ俺に彼女ができたら嫌って、普通に嫉妬なの? 嘘でしょ。
今日が俺の命日では。天変地異でも起こるのでは。
「あ。朝香、雪……。雪が降ってきたぞ」
なんというタイミングで。
少しだけ暗くなってきて、ツリーもライトアップされる。周りすべてが俺たちを祝福してくれているみたいだ。仲睦まじいカップルを見ても、俺も今なら祝福できる。
ああ。雪の中の秋尋様も、泣きそうなくらい、お美しい。
「はぁ。まったく。お前、ずいぶんと泣き虫だったんだな」
「秋尋様に……関するごとだけでず……ッ」
優しい指先が俺の頬を撫でる。
雪が触れた先から蒸発していきそう……。
「結構降ってきたな。今日、予報では何も言っていなかったのに」
はっ。感動しすぎて棒立ちになってる場合じゃない。
秋尋様をお護りせねば。
「傘はないので、屋根があるところまではとりあえずこれを」
持っていた真っ白なハンカチを、秋尋様の頭にかぶせる。
……花嫁さんのヴェールみたいだ。
うん。そうだよな。
できることならば、結婚も俺がしたい。
近くのお店の軒先に避難する。悠長にしてられる程度の降りではなくなってきた。寒さもかなりのものだし、お店の中へ入りたかったけれど皆考えることは同じで満席。頭の上にかけたハンカチにも、だいぶ雪が積もっている。
「大丈夫ですか?」
背伸びをして、軽く払ってからどけた。
変な話だけど似合っていたので、少し残念なような……。
でもこれはプレゼントを渡すベストタイミングだ。今日の俺、天に味方されすぎ。もちろん秋尋様の御身が一番に大切だから、大雪になることを望んでいたわけではないけれども。
「あの、よかったらこれ、使ってくれませんか? クリスマスプレゼントなんですけど」
「使う? こんなところで開けるのか?」
「はい。荷物になってもいけないので、帰りの車で渡すつもりだったのですが……」
秋尋様はすでに高そうなマフラーを巻いている。
それをどけてまで俺のをしろとは言えないけれど、この寒さなら車を待つまでの間、2重にしておくのは全然アリだ。
「……マフラーか。このブランド……。お前が買うには高かったんじゃないか?」
バーバリーのグレーチェック柄。今日のコートには、あまりあっていない気もする。でもこの寒さだ。急場を凌ぐにはいいだろう。
「秋尋様が俺からのプレゼントを身につけてくださるご褒美に比べたらなんでもないです」
「はぁ……。お前は、恋人になってからもそのスタンスでいくつもりなのか?」
秋尋様の口から、恋人って言葉が。
感動しすぎて、ともすれば足が子鹿のように震えてしまいそうだ。
「それならなおさらでは。服をプレゼントするのは脱がしたいからだ、なんてよく言いますし、俺も」
口を塞がれた。プレゼントしたマフラーで。
そこはせめて、さっきみたいに手で塞いでください。
「わかった。身につける、つけるから」
「はい。では上から巻きますね。これで少しは寒さもマシかと……」
俺が言うと同時、秋尋様は元々していたマフラーを解いてしまった。
「それでは寒いですよ」
「上から巻くのでは身につけたとは言わないだろう。せっかくプレゼントをしてくれたんだ。目に焼きつけておけ」
「あ、秋尋様……ッ! お似合いです。素晴らしい……。妖精の織物を身につけたかのようです」
周りからクスクスと笑い声が聴こえてきて、秋尋様が頬を染めた。
「いちいち大袈裟なんだ、お前は」
「ちっとも大袈裟なんかではないです」
自分でも、ここまで感動するとは思ってなかった。
ブリザードのように吹き荒れてきた雪でさえ、花のように見えてくる。
いつかは洋服もプレゼントしてみたい。でも、センスがないから悲しいことにしかならないかも。
いや、そういうダサイ服を着た秋尋様も見てみたい気持ちがなくもない。
「雪、やみそうにないな……」
クリスマスだし、大雪だし、俺がオトナならこれを口実にホテルに誘えるのに。でも空きがないだろうか、クリスマスだと。それに……。
「今、迎えの者に連絡をいれますね」
雨が降ろうと槍が降ろうと、簡単にお迎えを呼べてしまいますからね~。俺たちは。
今日の運転手さんも、それほど遠くない駐車場で車を停めて待機しているはずだし。
「えっ、事故!? はい、はい……。わかりました」
「どうしたんだ!? 事故にあったのか? 小松は無事か!?」
ガクガクと揺さぶられながら通話を切る。
「お、落ち着いてください、秋尋様。この付近で事故があったらしく、俺たちのいるところまで来るのは少し、時間がかかるそうで……。あと、今日は小松さんじゃないです」
「あ、そ……そうか。お前が小松から仕事を奪うと言っていたのが印象的で、少し混乱した……」
え。俺のせいですか。あと別に奪うと言ったわけでは。
でも秋尋様が慌てる理由もわからなくはない。
小松さんは近衛家で一番秋尋様に近い人だろうから。もちろん、俺の存在を除けばの話。
「でも、お店も空きそうにないですし、困りましたね」
「この近くにうちが所有しているホテルがあるから、そこへ避難していよう」
「えっ……。ほ、ホテル……ッ」
秋尋様と……。クリスマスの夜に、ホテルへ!!
「……か、朝香、朝香! 聞いているのか?」
「はい!」
途中、何か言っていたのを聞き飛ばしてしまったけど、つい返事をした。
そして。俺と秋尋様は、本当にホテルへ。
「生き返る……」
室内の暖かさに、身を震わせる秋尋様。俺はもう、ここへ来るまでもドキドキして、気温とかわからなくなってる。
ホテルマンはやたらと愛想よく、寒かったでしょうとこちらを気遣ってくれ、部屋まで丁寧に案内してくれた。
広くて、凄く綺麗だ。秋尋様のお部屋よりは狭いけど、かわりに何室かある。とてもお高そう。
こんな部屋で、秋尋様と2人の夜を過ごせるのか。
「マフラーせっかく貰ったのに、かなり濡れてしまったな……」
「それこそ、プレゼントした甲斐があるというものです。でも風邪を引くといけないので、干しておきましょう」
何故か秋尋様は濡れたままのマフラーを外さず、ジッとしている。
……もしかして、名残惜しく思ってくれてるとか。
「秋尋様?」
秋尋様はマフラーの端を軽く摘んで、恥ずかしそうに俺のほうを見た。
「……脱がしたいんじゃなかったのか?」
恋人の秋尋様、凄すぎる。破壊力がとんでもない。
思わずごくりと生唾を飲み込む。きっと視線も、あまりにもあからさまだ。
興奮で目眩がしそうなのをこらえながら、俺は秋尋様をベッドへ押し倒した。
「朝香!? 馬鹿、ベッドが濡れ……ッ、おい、服まで脱がすな!」
「秋尋様が誘ってくださったのに」
「誘ってない! お前、やっぱり僕の話を聞いていなかったな。すぐに迎えが来るんだぞ」
「え……」
「そもそも、この時期に予約が空いてるわけないだろう。次のチェックインまでの間、入らせてもらっただけだ」
「あ、そ、そう……ですよね」
考えればすぐわかることなのに、勘違いして、秋尋様を押し倒し、きちっとメイクしてあったベッドを……。
「すみませんでした! せめてドライヤーで乾かしましょう、シーツを!」
「そこまではしなくても」
「そういうわけにはまいりません!」
洗面所にはドライヤーがしっかり置かれていたのでそれを持って戻り、熱風をシーツにあてた。アイロンでもあればもっとよかったけど、さすがに用意されてなさそうだった。
「俺、その……。秋尋様にホテルへ誘ってもらえたことが嬉しくて、浮かれすぎていて本当にすみませんでした」
ドライヤーをカチリと止めた途端、掠めとるようなキスをされた。ベッドに手をついた秋尋様が、身を屈めたまま下からジッと俺を見上げてくる。
「ここでは無理だというだけだからな。帰ったら、今度は……服も、脱がせていい」
デレの供給が凄すぎて、もうこの場で貪ってしまいそうなんですけど。今なら俺、東京中の雪をとかせそう。
秋尋様は、お湯がわきそうだなぁって笑いながら、俺の頭をたくさん撫でてくれた。
秋尋様に撫でてもらったり俺から啄むようなキスをしたり、恋人同士のような時間をホテルで過ごし、ほどなくして来た迎えの車に乗ってヌクヌクと帰宅。
普段なら、もう少しゆっくり来てくれてもいいのにと思うところだけど、今日ばかりはありがたかった。
いくら2人きりのホテルとはいえ、時間制限があるため手を出せない生殺し状態。何度理性を飛ばして襲いかかりそうになったことか。あと、暴発しそうにもなった。
そんな状態だもの。送り狼になるに決まってるよね。
秋尋様は、押し倒した俺を拒まなかった。
服を脱がせていいという言質を先にとっていたのだから、当然と言えば当然なんだけど。
「お前に脱がされるのなんて着替えも含めると星の数ほどなのに、今日はちょっと緊張するな……」
このあざとい台詞を計算とかでなく、素で言ってしまうんだから恐ろしい人だ。
思えば恋人の振りをしだした時もこんな様子だった。秋尋様は関係性を表す言葉に影響されやすいのかもしれない。
いずれ、本当にはしないんだからいいでしょう、と言いくるめて結婚式を挙げるフリでもしてみようか……。
「俺も緊張してます」
「余裕そうに見える」
「そんなわけないでしょう」
ただ緊張よりは、興奮のほうが強い。あれだけ煽られまくったのだから当然だ。むしろこの状態で緊張しかしていない秋尋様のほうが、余裕があるように思える。
「脱がす指に力がこもって服を破きでもしないかとハラハラしてるほどです」
「そういうお前も、少し見てみたい気はするな」
「乱暴にはしませんが……。今日はいつもより、ねちっこくなってしまうかもしれません」
「お前がねちっこくなかった日はないぞ……」
やや怯えたように逃げを打つ身体を押さえながら、着込まれている服を脱がしていく。
夏の薄着もよいけれど、こうして一枚ずつ剥いでいくのもまた違った味わいがある。
ローションもゴムも元からポケットにしのばせていた。これはクリスマスだからというか、いつなんどきチャンスが訪れるかわからないので、常日頃から。
でもバスタオルを取りに行く余裕まではなかった。代わりに俺のコートを敷いた。さようなら俺の一張羅。でも愛の軌跡として大切に保管しておくからな。
それから俺はいつものようにじっくりじっくり秋尋様の身体を開いて、少しの痛みもないよう最新の注意を払って挿入した。
いつもと違うのは、俺と秋尋様がちゃんと恋人同士ってこと。
恋人になれるのであれば、初めては今日までとっておいても良かったのかもしれない。キスも、セックスも。
でも秋尋様のことだからな。身体を繋げてでもいなければ俺になびいてはくれなかったかもしれないし、友情のまま終わっていた可能性も多大にある。
今は晴れて恋人同士だ。それだけじゃない。気持ち良さそうに、俺のちんちんを受け入れてくれてる。秋尋様のナカは少しずつ、俺の形に馴染んできている気もする。きっと気持ちもそんなふうに少しずつ、この人の身体から心へと染み込んでいったに違いない。
……欲が出た。
「あの……。秋尋様。あ、きひ……ろ、さま。好きって……好きって、言ってください、俺のこと」
律動をやめて懇願すると、秋尋様は目を瞬かせて俺を見た。内部が先を促すようにやわやわと絡みついてきて、思わずそのまま突き上げそうになる。
好きだって、結局まだ言ってもらえてない。
今。今がいい。俺ので気持ちよくなりながら、好きって言ってほしい。あと、名前も読んで欲しい。
「……今か?」
「はい」
「し、してる……時に?」
「してるからこそです」
手を重ねあわせて、ギュウッと握ってみる。
また中がうごめいた。
「確かに、朝香は……こういう時いつも言うな。僕のことが、好きだと」
そう。何回も何回も、呆れるほど繰り返す。でも秋尋様が想いを返してくれたことは一度もない。
秋尋様が下から手を伸ばして、俺の頬を優しく撫でた。
「好きだぞ、朝香」
躊躇うでもなく、恥じらうでもなく、ハッキリと告げられた言葉が、心を満たしていく。
「好きだ」
そのまま抱き寄せられて、もう一度。
「俺……。俺も、大好きです。愛してます。貴方しか要りません。ずっとずっと、貴方の傍にいたい」
また泣いてしまった。しかたない。ここ最近ありえないことばかりで、キャパオーバー気味。涙腺も決壊しやすくなっている。
「ならずっと、僕の傍にいろ」
「……はいっ」
ゆっくりと口づける。最初は柔らかく、次に深く。最後は奥まで。舌を絡めながら、秋尋様が驚かないよう優しく中を擦りあげた。
「んッ……。んん……。はぁ……、朝香……」
「好きです……。好き」
今までこんな反応なかったのに、俺が好きって言うたびに中がきゅうっと甘く締まるので、愛おしさでもう死んでしまいそうだった。
「あっ、なんか……変だ」
秋尋様が唇を震わせながら、縋るように俺の背にしがみつく。
「秋尋様……?」
「そ、そのまま、少し……動かないでくれ」
そんなことを言っても、俺の美味しそうにもぐもぐってしてるし、秋尋様のほうが腰を揺らしてるんですけど。
……すごく、やらしくて、こんなの……動かないでいるの、無理だ。
それに気持ち良さそうだし……。もっと、ヨくしたい。
「うぁっ……。動くなって言っ……、あ、あ、あっ……。朝香……ッ。こんなに気持ちいいの、変ッ……」
俺もおかしくなりそう……。
「可愛い。好き。秋尋様……好き」
「はぁ、う……っ。ぼ、僕も……」
心も身体も全部、きゅーって締めつけられて、たまらず熱を吐き出した。
「あっ……。それ気持ちい、です……。秋尋様……」
中はまだひくひくと収縮を繰り返している。
俺だけ先にイッてしまった……。
「すみません、秋尋様のも」
「あ、さわ……触るな、い……イッたから……」
もしかして、中でってこと? エロ……。
秋尋様は頬を染めながら、涙目で甘く俺を睨んでいる。
「だから動くなと言ったのに」
「とても、気持ちよさそうでしたので」
愛しくて頬に、額に、たくさんキスをする。
身長が足りないせいで、角度を落としていた俺のモノは勢いよくすっぽ抜けたけれど、後悔はしてない。
……もうちょっと入っていたかった。でも、それよりキスがしたかった。
「なんだか、するたびに気持ちよくなる……」
「俺もです」
「そうなのか?」
「俺は秋尋様が気持ちよければそれだけでイケるくらいなんですけど、身体的にも凄いんです。こう、咀嚼するみたいに秋尋様のナカが……」
「いい。説明しなくていい」
こういう時は手のひらでなく唇で塞いでほしいところだ。
舐めると、んっと可愛らしい声を上げた。
「お前のせいで、手のひらまでおかしくなった」
感じたってこと? やらしいが過ぎるでしょ。
心ゆくまで責任を取りたい……。
手のひらから手首まで舐めあげて、そのまま身体まで舐め倒すと、秋尋様は抱き締めることで俺の動きを封じてきた。そうなるとすっぽりおさまってしまう。
「まったく。本当に犬みたいなやつだな」
「犬より俺のほうが忠誠心が上ですよ、絶対に」
甘えるようにグリグリと頭を擦り寄せると、秋尋様はほっぺを俺の髪にポフッと乗せてくれた。
は? 何? かわ……。かわい……。恋人同士になったから?
最高のクリスマスを更新してしまった。
俺に優しくて甘い秋尋様、最高……。
「その、今日はクリスマスだしな。恋人らしく、あと一回くらいなら、つきあってやらないこともない」
「ぜひ!!」
ちょっと素直じゃないところも可愛い。好き。
結局のところ、俺は秋尋様であればなんでもいいのだ。
フられたとしてもずっと貴方が大好きですけれど、お傍にはおいてくださいね。永遠に仕えていきますので。
俺はツンだけだった秋尋様も可愛い好きと思っていたので、そんなところも愛おしい。
でも……。
「今年の誕生日はどうなさいますか?」
「ああ。友人と出かける」
この所業はあんまりすぎた。てっきり俺と過ごしてくださると思っていたのに。
「は!? 俺という恋人がいるのに、その友人とやらは何を考えているのですか!?」
「恋人って……設定だけだろう」
「それでもです!」
とまあ、言い張ってみても、結局俺はただの使用人でしかない。誕生日プレゼントとしてボディーガードをしてくれと言われたので、喜んで後ろからついていくことにした。
この日は春日さんも一緒だった。これを機にコツを学ぼうと思ったけど『お前、秋尋様とはどこまでいったんだよ』ってニヤニヤしながらからかわれて集中できないまま、学友とキャッキャする秋尋様を見守った。
そんな切ない秋を越えて……冬がやってきた。
クリスマスだ。
「朝香。今年のクリスマスは、2人でどこかに出かけるか?」
秋尋様がそう言ってくださるのを夢見る日々……え、いや、現実?
「い、いいのですか!?」
秋尋様とはクリスマスを楽しんだ覚えがない。
おととしは熱い夜を過ごせたけれど、途中までは別々だった。
それに今年は誕生日も友人と過ごされたので、またそうなるかなと予め期待しないようにしてた。
……からの、この展開である。
「ああ。去年は、その……。クリスマスをお前と過ごすことが、なんだか気恥ずかしかったんだ。恋人ごっこにしては、あまりにも、それらしいだろう? だから」
しかも可愛い。俺のこと意識しまくりじゃないですか。
秋尋様に放置される時、いつも、俺は単なる使用人だし……って引いちゃうけど、案外押したほうがいいのか……?
ヤダヤダ俺と過ごしてくれなきゃヤダヤダって子どものように駄々をこねたら、案外きいてくれちゃうのかも。
「ありがとうございます。嬉しいです! 光栄です!」
「……お前、そういうのやめろ」
鼻を摘まれた。
「そういうの、ですか?」
「光栄、とかいう……。一応友人同士だろう、僕らは」
前までならここで、友人であっても使用人ですからって返すところ。でも今の俺は違う。
「俺が、秋尋様を好きすぎるからです。手の届かない高嶺の花が俺に手折られに来てくれた……。これを光栄と言わずなんと言いましょうか」
「そういう芝居がかった言い方もやめろ。大体手折るってなんだ。お前、少し平坂の奴に似てきたんじゃないか?」
「そっ……、そんなことは、ないと思いますが」
でも影響を受けてないとは言えない。
今まで俺の周りには秋尋様をのぞいて大人しかいなかったから、それはまあ、多少は。庶民派代表として金井くんはかなり参考にさせてもらってるしな……。
「ともかく、クリスマス。予定、あけておけよ」
「もちろんです」
元より、奇跡を信じてイベントの日はすべて秋尋様のためにあけてありますので。まあ、あいてなくても秋尋様から誘われたら、他は断るんだけど。
今の秋尋様のお友達はみんな恋人持ちらしいから、しかたなく俺を選んだのかもしれない。それでも、自分に気のある相手とクリスマスを過ごそうっていうんだから、これはまぎれもないデートだ。期待しないようになんて、無理な話。
何かが起こりそうな予感に、指折り数えてその日を待った。
おととしは紅茶缶、去年はジンジャークッキー。両方、平坂家主催パーティーの、ビンゴ大会で貰ったやつ……。思えば、なにひとつきちんとしたものをあげてない。なにせ、それまでは贈り合いをするような仲ではなかったから。訂正。贈っても突き返されていた。
でも今年はそんな悲しいことにはならないはずだし……。何をプレゼントしようか。
ここは、指輪とか? 普通にアクセサリーとしてなら秋尋様はつけてくれそうな気がする……。秋尋様が俺のあげたものを身につけるという事実だけで、軽くイッてしまいそうだ。
さすがに指輪は攻めすぎなので、無難にマフラーにした。ブランドモノでもなんとか俺の買える値段だというのもありがたい。平坂くんのオススメが初めて参考になった。
これなら秋尋様が……俺のあげたものを首に巻いてくれるんだよ? 凄くない?
そんな感じで準備も終わり、いよいよクリスマス当日。
やっぱり無理になったと言われるんじゃないかってハラハラしたけど、お部屋へ迎えに行っても夢は醒めず、きちんと支度を終えた秋尋様がいた。
今日はいつもよりカジュアルめ。それでもどこか高貴さが滲み出てる。俺のご主人様、麗しすぎ……。
「どうした。ドアのところで立ち止まって」
「あ、あの! あまりにも……秋尋様が、素敵すぎて……エスコートさせてください」
跪いて手を差し出すと、さも当然のように手をとってくれた。
「お前がどう思ってるのか知らないが、普通はしないぞこんなこと」
その割にはずいぶんと、堂に入っている。
本人的には子どものごっこ遊びに付きっているような感覚かもしれないけど、その気持ちが嬉しい。
「まったく。わかりやすくはしゃいでいるな」
「当然です! 秋尋様がクリスマスを俺と過ごしてくださるのですから!」
今日この時まで期待しつつも本当に俺と出かけてくれるのだろうかと、どこかで疑っていたことはナイショだ。
クリスマスという日は俺にとってかなり特別な日だし、恋人というくくりでも重要な日である。
街まではいつものように車で送ってもらうのだけど、本日の運転手は小松さんじゃない。そんなところも、特別を感じさせる。
どうぞって車のドアを開けようとしたら自動で開いた。行き場のない手を握りしめて、秋尋様を追うように乗り込んだ。
外はまだ明るい。健全な真昼のデート。大人になったら夜景の綺麗なレストランへ出掛けたりするんだろうか。その時はできれば、俺が運転をして……。秋尋様をどこでも好きなところに連れて行くんだ。ドライブだ。
……ん? あれ。なんだかデートっぽくないな。
あっ、そっか。想像の中の秋尋様が後頭座席にいるからだ。普通は助手席だ。でも助手席にいる秋尋様、想像しにくいな。
「何を考え込んでいる」
「俺もいつかは免許を取るじゃないですか。秋尋様の運転手をするために……」
「お前、小松から仕事を奪うつもりか?」
「えっ!? そういうことになるんですか!?」
上手くいかないものだな。まあ、想像の中ですら上手くいかなかったもんな……。
「ところで今日はどういうご予定でしょうか」
「ああ。まずはこれをやる。クリスマスプレゼントだ」
こんなに早く? 何も持っているようには見えないけどポケットに指輪を入れていたりとか。
と思っていたら、財布を取り出した。まさかの現金。いや。
「チケット……?」
「お前は興味がないかもしれないが、クラシックコンサートのチケットだ」
「いいえ。ありがとうございます、嬉しいです」
クラシックのコンサート! 本当にデートみたいだ。
確かにそう興味はないけれど、秋尋様が好きなことは俺も知っておきたいから問題ない。
目の前でチケットを広げて文字を見る。
せっかくいただいた物をそのままの形で残しておけないのは残念だな。半券は大事にとっておこう……。
「でも俺、普通の服なんですけど大丈夫でしょうか」
「ドレスコードはないから平気だ。僕だって普通の服を着ている」
「秋尋様の場合は、ロイヤルが服を着て歩いているような感じがするので……」
「なんだそれは」
それに普通といっても、俺と秋尋様の服、絶対に桁が2つくらい違うと思う。
「会場には子どもも普通にいる。昼の部だしな」
「それなら安心です」
だけどやっぱり、気になってしまうな。貴方の隣を歩く以上は。
多少背伸びをして、ここぞという時の一張羅をシーズン毎に用意してあるけれど、それでも釣り合わないのはわかっている。
今までは秋尋様の隣にいられることだけが嬉しくて、釣り合うとかそういうのそこまで意識してなかった。そもそもが子どもと大人みたいな構図になっていて気にする必要がなかったからかもしれない。
俺も大人になったということかな……。
「朝香はコンサート、寝そうだな。お子様だしな」
俺がお子様でないことは、身を持って知ってると思いますけど?
「そんなもったいないことしません。ずっと貴方の顔を眺めています」
「曲を聴け」
こんな軽いやりとりも、いつの間にかできるようになっている。
来年には今よりもっと気安い関係になれているんだろうか。
案外、恋人同士になってたりして……。
そのきっかけが、今日だとしたら……。
ニヤけそうな顔をこらえるために両頬を押さえたら、秋尋様に聴く前からすでに眠いのかといわれもない疑いをかけられた。
開演時間にはまだ少し早く、俺と秋尋様は近くのファミリーレストランで時間を潰すことにした。並んでいたけれど幸い待ち時間はそんなに長くはなく、すぐに座ることができた。
「ここがふぁみれすというやつか。朝香は入ったことがあるのか?」
「はい。他の使用人の方に連れてきてもらったりしました」
むしろ秋尋様が入ったことがないのが意外だ。
まあ、ご友人ができたといっても、あの学校に通ってる生徒だもんな。入るとしたら高い喫茶店とかなのかも……。
「あっ。でも最近は来てないです。幼い頃、俺を可哀想に思った大人たちが連れてきてくれたのです。初めて来た日は感動しました。まず、ご飯が出てくるお店に入れることが俺にとっては凄いことで……」
「そうか」
秋尋様は複雑そうな表情をしている。
「どうかされましたか?」
「昔のお前を思い出して切なくなる反面、初めて来たのが僕とでなくて面白くないと思ってしまった」
なんだ、その可愛い独占欲は。そして、それを素直に俺に言っちゃうんだ。
「俺も初めては、貴方とがよかったです」
「変な言い方をするな。それに、その言い方はお前を連れてきた使用人に失礼だろう……」
でもどうしても、初めての感動を貴方と味わいたかったなと思ってしまう。
残念ながら過去には戻れないので、ファミレス初体験な秋尋様を堪能させてもらうとしよう。
と思ったけれど、もう高校生の秋尋様。初体験だからといってそんなにはしゃいだりすることもなく、普通に注文をし、普通に食事をしていた。
まあ、うちの学食とそんなに変わりはないもんな。
それにしても……。普段はあまり意識しないけど、秋尋様、本当に大人っぽくなったよなあ。
前よりも骨ばった指先。所作のひとつひとつに気品が感じられて、見るからに育ちがいいとわかる。伸びた背筋も、カップの持ち方も美しい。黒髪は何もつけていないのにツヤツヤしている。
「外に出たら、また寒そうだな」
「そうですね」
「……お前。窓際に座っているのだから、こういう時は普通は外を見ながら言うだろう。僕ばかり見るな」
「秋尋様しか目に入らなくて」
軽く睨まれたので、俺も窓の外を見る。
確かに寒そうだけれど、クリスマスの雰囲気に浮かれてみんな楽しそうにしてる。
きっと俺たちも……少なくとも俺は、あんな感じでいるだろうな。
「そろそろ行くか。暖かい場所に居すぎると、外に出た時につらくなりそうだ」
「そうですね」
折り目がつかないようふんわり畳んでいたコートを持って、秋尋様に着させる。
厚手だけれどそうは見えないスラッとしたえんじ色のそれは、普通が聞いて呆れるほど上品で仕立てがいい。秋尋様が着るともう天上の織物みたいだ。
そのスタイリッシュさが目立つのか、周りからやたらと視線を感じる。
……あっ。俺がコート着させたからか。
まあ、秋尋様は気づいてないみたいだし、さも当然のような顔をしているし、言わないでおこ。
「今日は僕が払うから、お前は甘えておけ」
「ありがとうございます」
何か特別な時以外、基本的にはお金は全部秋尋様が出してくれる。上に立つものの義務や務めだと思っている節があるので、お言葉に甘えている。
友達や恋人としてはどうなのかなって思うけど、俺たちの前提は主従なので。
お店を出てすぐコンサート会場へ向かう。
人混みの中、左右後方を確認していると、秋尋様に肘で小突かれた。
「初めてで物珍しいのはわかるが、あまりキョロキョロするな」
「いえ。秋尋様に危険がないよう、あたりを確認しておりました」
「またそうやって、すぐに悪を作ろうとする」
ボディーガードとしては重要なことだと思う。
護られる側はこういうとこ、わかんないんだろうなあ。
でも秋尋様に恥ずかしい想いをさせてしまったのは失敗だった。気づかれないように周囲に注意をはらうようにしないとな。
「では、秋尋様だけ見ていますね」
「……そういうことでもない」
まあ、物珍しいのも確かだ。何しろこんなところに来るのは初めてだ。秋尋様の言うとおり、ドレスコードもなさそうだしスニーカーを履いている人もいる。
「そういえば僕も、両親以外と来るのは初めてだ」
「えっ、本当ですか?」
「嬉しそうだな」
「嬉しいです」
秋尋様の手が俺の頭に伸びる。ヨシヨシッてしてくれるのかなと期待して待っていたら、微妙な顔をして手を引っ込めた。
なんで……? 俺、気持ち悪いほどニヤケてたりしたのかな。
「そ、そんな悲しそうな顔をするな。もうお前も大きくなったし、さすがに外で頭を撫でるのは控えたい」
「俺は気にしないのに」
「僕は気にする。あとで2人の時に撫でてやるから」
律儀だ。可愛い。そして嬉しい。楽しみにしていよう。
せっかくプレゼントしてもらったコンサートのチケットよりもナデナデのほうが嬉しいとか、なんだか少し申し訳ない気持ちになった。
そもそも俺には、音楽なんてあまりよくわからない。歌詞がついていればなんとなくだし、秋尋様が歌うのならば意味がある。
とか。考えていたけれど。
初めて体験したクラシックのコンサートは、それはそれは素晴らしかった。
素晴らしい音楽、素晴らしい秋尋様……。至上のひとときだった。
くるみ割り人形、アヴェ・マリア。他数曲。あとで秋尋様が『あまり詳しいわけでもないが』と解釈や意味などを色々説明してくれた。
「まあ。お前は結局、本当に僕の顔ばかり見ていたけどな……。退屈だったか?」
「いいえ。素晴らしかったです。それに秋尋様の顔を眺めていても曲なら聴こえますから」
「それもそうだな。楽しめたのなら良かった」
「特にくるみ割り人形が好きでした」
「そうか。僕もだ」
「一緒で嬉しいです」
それに同じ時間を共有して、こうして感想を言い合えるのが何より嬉しい。半券も宝物になるし、予想以上に楽しめた。
「本当にありがとうございました。今日という日を貴方と過ごせて、とても幸せです」
「そうか」
これは、僕もだ、とは言ってくれないのですね。
片思いだからしかたないけど切ない。
それにこうして二人きりでお出かけできただけで、充分幸せだし……。
「寒いわね」
「もっとこっちにお寄りよ」
近くでは男女のカップルがどこか演技めいた口調で肩を寄せ合っている。今秋尋様にすげなくされたばかりなので、爆発しろと思ってしまった。
近くには飾りつけされた大きなクリスマスツリーがあって、そこを待ち合わせ場所にしたり、見にきたりしているらしい。
「やはり、恋人同士が多いな」
「そうですか? 家族連れや友人同士も結構いますよ。それに秋尋様さえ頷いてくれるなら……」
俺たち、すぐに恋人同士になれるんですけど。なんて。
「お前は彼女を作ったりは、しないのか?」
「……は?」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
「あの……。俺、貴方のことが好きだって、何度も何度も言いましたよね」
それこそ言わない日はないくらい。
俺の愛が重いことは、秋尋様ももうわかっているはず。
なのに……。どうして、そんな残酷な質問ができるのか。
「朝香。よく見てみろ。街には可愛らしい女性がたくさん歩いているんだぞ。どうして僕なんだ」
「俺の目には秋尋様にしか映りません。貴方にしか欲情……」
口を塞がれた。手のひらが温かくて幸せなのに、なんだか泣けてくる。
「外で滅多なことを言うな。それに、勝手に泣きそうになるな」
涙も出ます。俺の愛まで疑われて。
「これは、その……。そういう、お前が……悲しくなるような、質問じゃない」
「え?」
驚きすぎて涙が引っ込んだ。さっきの質問にも相当驚いたけど、その上をいくかもしれない。
「単に、お前に彼女ができたら嫌だと思った。だから訊いたんだ。僕はいずれ結婚するだろう。でもその時、お前に僕以上の存在ができることが、とても嫌なんだ」
どこからくる感情であれ、その独占欲が嬉しい。
秋尋様が結婚するなんて前からわかっていたことだ。問題はその時、俺をお側においてくださるかどうか。それだけ。……それだけの、はずだった。
……でも。秋尋様が俺以外の人と、肌を重ねるのは嫌だなあ。俺との関係も、続けてくれるかな。無理か、性欲処理なんだし。
「あの、秋尋様。では……結婚する時は、ただの使用人に戻りますから、どうかそれまで、俺を恋人にしてはいただけませんでしょうか」
秋尋様は少し考え込んでから、睫毛を伏せた。
「だがそれは、僕に都合がよすぎないか?」
これ秋尋様にとって、都合のいいことなんだ。
俺と恋人になれることが。
本人は自分で何を言ってるか気づいてなさそうなんだけど、実はかなり俺のことが好きなのでは?
それとも、恋人になっておかないと俺が彼女を作るとでも思ってるのかな。貴方が好きすぎて、そんな余裕はどこにもないのだけれど。
「いいえ。というか俺たち、本当の恋人がするようなこと、もうひととおりしてますし、今日も2人きりで出かけてますし、今までとそんなに変わらないですよ」
それでも、恋人同士という肩書は幸せだし、秋尋様に何か変化が訪れるかもしれないという期待もあった。
あえてこういう言い方をしたのは、気負わせないためだ。
なのに、秋尋様はムッとしたように眉根を寄せた。
「変わるだろう」
「確かに俺にとっては、偽の恋人から真実になるだけで……」
「そうじゃない。お、お前に、好きって言ったり、可愛いって言ったり、できるだろう……」
言ってくださるんですか!?
えっ。待って、じゃあ俺に彼女ができたら嫌って、普通に嫉妬なの? 嘘でしょ。
今日が俺の命日では。天変地異でも起こるのでは。
「あ。朝香、雪……。雪が降ってきたぞ」
なんというタイミングで。
少しだけ暗くなってきて、ツリーもライトアップされる。周りすべてが俺たちを祝福してくれているみたいだ。仲睦まじいカップルを見ても、俺も今なら祝福できる。
ああ。雪の中の秋尋様も、泣きそうなくらい、お美しい。
「はぁ。まったく。お前、ずいぶんと泣き虫だったんだな」
「秋尋様に……関するごとだけでず……ッ」
優しい指先が俺の頬を撫でる。
雪が触れた先から蒸発していきそう……。
「結構降ってきたな。今日、予報では何も言っていなかったのに」
はっ。感動しすぎて棒立ちになってる場合じゃない。
秋尋様をお護りせねば。
「傘はないので、屋根があるところまではとりあえずこれを」
持っていた真っ白なハンカチを、秋尋様の頭にかぶせる。
……花嫁さんのヴェールみたいだ。
うん。そうだよな。
できることならば、結婚も俺がしたい。
近くのお店の軒先に避難する。悠長にしてられる程度の降りではなくなってきた。寒さもかなりのものだし、お店の中へ入りたかったけれど皆考えることは同じで満席。頭の上にかけたハンカチにも、だいぶ雪が積もっている。
「大丈夫ですか?」
背伸びをして、軽く払ってからどけた。
変な話だけど似合っていたので、少し残念なような……。
でもこれはプレゼントを渡すベストタイミングだ。今日の俺、天に味方されすぎ。もちろん秋尋様の御身が一番に大切だから、大雪になることを望んでいたわけではないけれども。
「あの、よかったらこれ、使ってくれませんか? クリスマスプレゼントなんですけど」
「使う? こんなところで開けるのか?」
「はい。荷物になってもいけないので、帰りの車で渡すつもりだったのですが……」
秋尋様はすでに高そうなマフラーを巻いている。
それをどけてまで俺のをしろとは言えないけれど、この寒さなら車を待つまでの間、2重にしておくのは全然アリだ。
「……マフラーか。このブランド……。お前が買うには高かったんじゃないか?」
バーバリーのグレーチェック柄。今日のコートには、あまりあっていない気もする。でもこの寒さだ。急場を凌ぐにはいいだろう。
「秋尋様が俺からのプレゼントを身につけてくださるご褒美に比べたらなんでもないです」
「はぁ……。お前は、恋人になってからもそのスタンスでいくつもりなのか?」
秋尋様の口から、恋人って言葉が。
感動しすぎて、ともすれば足が子鹿のように震えてしまいそうだ。
「それならなおさらでは。服をプレゼントするのは脱がしたいからだ、なんてよく言いますし、俺も」
口を塞がれた。プレゼントしたマフラーで。
そこはせめて、さっきみたいに手で塞いでください。
「わかった。身につける、つけるから」
「はい。では上から巻きますね。これで少しは寒さもマシかと……」
俺が言うと同時、秋尋様は元々していたマフラーを解いてしまった。
「それでは寒いですよ」
「上から巻くのでは身につけたとは言わないだろう。せっかくプレゼントをしてくれたんだ。目に焼きつけておけ」
「あ、秋尋様……ッ! お似合いです。素晴らしい……。妖精の織物を身につけたかのようです」
周りからクスクスと笑い声が聴こえてきて、秋尋様が頬を染めた。
「いちいち大袈裟なんだ、お前は」
「ちっとも大袈裟なんかではないです」
自分でも、ここまで感動するとは思ってなかった。
ブリザードのように吹き荒れてきた雪でさえ、花のように見えてくる。
いつかは洋服もプレゼントしてみたい。でも、センスがないから悲しいことにしかならないかも。
いや、そういうダサイ服を着た秋尋様も見てみたい気持ちがなくもない。
「雪、やみそうにないな……」
クリスマスだし、大雪だし、俺がオトナならこれを口実にホテルに誘えるのに。でも空きがないだろうか、クリスマスだと。それに……。
「今、迎えの者に連絡をいれますね」
雨が降ろうと槍が降ろうと、簡単にお迎えを呼べてしまいますからね~。俺たちは。
今日の運転手さんも、それほど遠くない駐車場で車を停めて待機しているはずだし。
「えっ、事故!? はい、はい……。わかりました」
「どうしたんだ!? 事故にあったのか? 小松は無事か!?」
ガクガクと揺さぶられながら通話を切る。
「お、落ち着いてください、秋尋様。この付近で事故があったらしく、俺たちのいるところまで来るのは少し、時間がかかるそうで……。あと、今日は小松さんじゃないです」
「あ、そ……そうか。お前が小松から仕事を奪うと言っていたのが印象的で、少し混乱した……」
え。俺のせいですか。あと別に奪うと言ったわけでは。
でも秋尋様が慌てる理由もわからなくはない。
小松さんは近衛家で一番秋尋様に近い人だろうから。もちろん、俺の存在を除けばの話。
「でも、お店も空きそうにないですし、困りましたね」
「この近くにうちが所有しているホテルがあるから、そこへ避難していよう」
「えっ……。ほ、ホテル……ッ」
秋尋様と……。クリスマスの夜に、ホテルへ!!
「……か、朝香、朝香! 聞いているのか?」
「はい!」
途中、何か言っていたのを聞き飛ばしてしまったけど、つい返事をした。
そして。俺と秋尋様は、本当にホテルへ。
「生き返る……」
室内の暖かさに、身を震わせる秋尋様。俺はもう、ここへ来るまでもドキドキして、気温とかわからなくなってる。
ホテルマンはやたらと愛想よく、寒かったでしょうとこちらを気遣ってくれ、部屋まで丁寧に案内してくれた。
広くて、凄く綺麗だ。秋尋様のお部屋よりは狭いけど、かわりに何室かある。とてもお高そう。
こんな部屋で、秋尋様と2人の夜を過ごせるのか。
「マフラーせっかく貰ったのに、かなり濡れてしまったな……」
「それこそ、プレゼントした甲斐があるというものです。でも風邪を引くといけないので、干しておきましょう」
何故か秋尋様は濡れたままのマフラーを外さず、ジッとしている。
……もしかして、名残惜しく思ってくれてるとか。
「秋尋様?」
秋尋様はマフラーの端を軽く摘んで、恥ずかしそうに俺のほうを見た。
「……脱がしたいんじゃなかったのか?」
恋人の秋尋様、凄すぎる。破壊力がとんでもない。
思わずごくりと生唾を飲み込む。きっと視線も、あまりにもあからさまだ。
興奮で目眩がしそうなのをこらえながら、俺は秋尋様をベッドへ押し倒した。
「朝香!? 馬鹿、ベッドが濡れ……ッ、おい、服まで脱がすな!」
「秋尋様が誘ってくださったのに」
「誘ってない! お前、やっぱり僕の話を聞いていなかったな。すぐに迎えが来るんだぞ」
「え……」
「そもそも、この時期に予約が空いてるわけないだろう。次のチェックインまでの間、入らせてもらっただけだ」
「あ、そ、そう……ですよね」
考えればすぐわかることなのに、勘違いして、秋尋様を押し倒し、きちっとメイクしてあったベッドを……。
「すみませんでした! せめてドライヤーで乾かしましょう、シーツを!」
「そこまではしなくても」
「そういうわけにはまいりません!」
洗面所にはドライヤーがしっかり置かれていたのでそれを持って戻り、熱風をシーツにあてた。アイロンでもあればもっとよかったけど、さすがに用意されてなさそうだった。
「俺、その……。秋尋様にホテルへ誘ってもらえたことが嬉しくて、浮かれすぎていて本当にすみませんでした」
ドライヤーをカチリと止めた途端、掠めとるようなキスをされた。ベッドに手をついた秋尋様が、身を屈めたまま下からジッと俺を見上げてくる。
「ここでは無理だというだけだからな。帰ったら、今度は……服も、脱がせていい」
デレの供給が凄すぎて、もうこの場で貪ってしまいそうなんですけど。今なら俺、東京中の雪をとかせそう。
秋尋様は、お湯がわきそうだなぁって笑いながら、俺の頭をたくさん撫でてくれた。
秋尋様に撫でてもらったり俺から啄むようなキスをしたり、恋人同士のような時間をホテルで過ごし、ほどなくして来た迎えの車に乗ってヌクヌクと帰宅。
普段なら、もう少しゆっくり来てくれてもいいのにと思うところだけど、今日ばかりはありがたかった。
いくら2人きりのホテルとはいえ、時間制限があるため手を出せない生殺し状態。何度理性を飛ばして襲いかかりそうになったことか。あと、暴発しそうにもなった。
そんな状態だもの。送り狼になるに決まってるよね。
秋尋様は、押し倒した俺を拒まなかった。
服を脱がせていいという言質を先にとっていたのだから、当然と言えば当然なんだけど。
「お前に脱がされるのなんて着替えも含めると星の数ほどなのに、今日はちょっと緊張するな……」
このあざとい台詞を計算とかでなく、素で言ってしまうんだから恐ろしい人だ。
思えば恋人の振りをしだした時もこんな様子だった。秋尋様は関係性を表す言葉に影響されやすいのかもしれない。
いずれ、本当にはしないんだからいいでしょう、と言いくるめて結婚式を挙げるフリでもしてみようか……。
「俺も緊張してます」
「余裕そうに見える」
「そんなわけないでしょう」
ただ緊張よりは、興奮のほうが強い。あれだけ煽られまくったのだから当然だ。むしろこの状態で緊張しかしていない秋尋様のほうが、余裕があるように思える。
「脱がす指に力がこもって服を破きでもしないかとハラハラしてるほどです」
「そういうお前も、少し見てみたい気はするな」
「乱暴にはしませんが……。今日はいつもより、ねちっこくなってしまうかもしれません」
「お前がねちっこくなかった日はないぞ……」
やや怯えたように逃げを打つ身体を押さえながら、着込まれている服を脱がしていく。
夏の薄着もよいけれど、こうして一枚ずつ剥いでいくのもまた違った味わいがある。
ローションもゴムも元からポケットにしのばせていた。これはクリスマスだからというか、いつなんどきチャンスが訪れるかわからないので、常日頃から。
でもバスタオルを取りに行く余裕まではなかった。代わりに俺のコートを敷いた。さようなら俺の一張羅。でも愛の軌跡として大切に保管しておくからな。
それから俺はいつものようにじっくりじっくり秋尋様の身体を開いて、少しの痛みもないよう最新の注意を払って挿入した。
いつもと違うのは、俺と秋尋様がちゃんと恋人同士ってこと。
恋人になれるのであれば、初めては今日までとっておいても良かったのかもしれない。キスも、セックスも。
でも秋尋様のことだからな。身体を繋げてでもいなければ俺になびいてはくれなかったかもしれないし、友情のまま終わっていた可能性も多大にある。
今は晴れて恋人同士だ。それだけじゃない。気持ち良さそうに、俺のちんちんを受け入れてくれてる。秋尋様のナカは少しずつ、俺の形に馴染んできている気もする。きっと気持ちもそんなふうに少しずつ、この人の身体から心へと染み込んでいったに違いない。
……欲が出た。
「あの……。秋尋様。あ、きひ……ろ、さま。好きって……好きって、言ってください、俺のこと」
律動をやめて懇願すると、秋尋様は目を瞬かせて俺を見た。内部が先を促すようにやわやわと絡みついてきて、思わずそのまま突き上げそうになる。
好きだって、結局まだ言ってもらえてない。
今。今がいい。俺ので気持ちよくなりながら、好きって言ってほしい。あと、名前も読んで欲しい。
「……今か?」
「はい」
「し、してる……時に?」
「してるからこそです」
手を重ねあわせて、ギュウッと握ってみる。
また中がうごめいた。
「確かに、朝香は……こういう時いつも言うな。僕のことが、好きだと」
そう。何回も何回も、呆れるほど繰り返す。でも秋尋様が想いを返してくれたことは一度もない。
秋尋様が下から手を伸ばして、俺の頬を優しく撫でた。
「好きだぞ、朝香」
躊躇うでもなく、恥じらうでもなく、ハッキリと告げられた言葉が、心を満たしていく。
「好きだ」
そのまま抱き寄せられて、もう一度。
「俺……。俺も、大好きです。愛してます。貴方しか要りません。ずっとずっと、貴方の傍にいたい」
また泣いてしまった。しかたない。ここ最近ありえないことばかりで、キャパオーバー気味。涙腺も決壊しやすくなっている。
「ならずっと、僕の傍にいろ」
「……はいっ」
ゆっくりと口づける。最初は柔らかく、次に深く。最後は奥まで。舌を絡めながら、秋尋様が驚かないよう優しく中を擦りあげた。
「んッ……。んん……。はぁ……、朝香……」
「好きです……。好き」
今までこんな反応なかったのに、俺が好きって言うたびに中がきゅうっと甘く締まるので、愛おしさでもう死んでしまいそうだった。
「あっ、なんか……変だ」
秋尋様が唇を震わせながら、縋るように俺の背にしがみつく。
「秋尋様……?」
「そ、そのまま、少し……動かないでくれ」
そんなことを言っても、俺の美味しそうにもぐもぐってしてるし、秋尋様のほうが腰を揺らしてるんですけど。
……すごく、やらしくて、こんなの……動かないでいるの、無理だ。
それに気持ち良さそうだし……。もっと、ヨくしたい。
「うぁっ……。動くなって言っ……、あ、あ、あっ……。朝香……ッ。こんなに気持ちいいの、変ッ……」
俺もおかしくなりそう……。
「可愛い。好き。秋尋様……好き」
「はぁ、う……っ。ぼ、僕も……」
心も身体も全部、きゅーって締めつけられて、たまらず熱を吐き出した。
「あっ……。それ気持ちい、です……。秋尋様……」
中はまだひくひくと収縮を繰り返している。
俺だけ先にイッてしまった……。
「すみません、秋尋様のも」
「あ、さわ……触るな、い……イッたから……」
もしかして、中でってこと? エロ……。
秋尋様は頬を染めながら、涙目で甘く俺を睨んでいる。
「だから動くなと言ったのに」
「とても、気持ちよさそうでしたので」
愛しくて頬に、額に、たくさんキスをする。
身長が足りないせいで、角度を落としていた俺のモノは勢いよくすっぽ抜けたけれど、後悔はしてない。
……もうちょっと入っていたかった。でも、それよりキスがしたかった。
「なんだか、するたびに気持ちよくなる……」
「俺もです」
「そうなのか?」
「俺は秋尋様が気持ちよければそれだけでイケるくらいなんですけど、身体的にも凄いんです。こう、咀嚼するみたいに秋尋様のナカが……」
「いい。説明しなくていい」
こういう時は手のひらでなく唇で塞いでほしいところだ。
舐めると、んっと可愛らしい声を上げた。
「お前のせいで、手のひらまでおかしくなった」
感じたってこと? やらしいが過ぎるでしょ。
心ゆくまで責任を取りたい……。
手のひらから手首まで舐めあげて、そのまま身体まで舐め倒すと、秋尋様は抱き締めることで俺の動きを封じてきた。そうなるとすっぽりおさまってしまう。
「まったく。本当に犬みたいなやつだな」
「犬より俺のほうが忠誠心が上ですよ、絶対に」
甘えるようにグリグリと頭を擦り寄せると、秋尋様はほっぺを俺の髪にポフッと乗せてくれた。
は? 何? かわ……。かわい……。恋人同士になったから?
最高のクリスマスを更新してしまった。
俺に優しくて甘い秋尋様、最高……。
「その、今日はクリスマスだしな。恋人らしく、あと一回くらいなら、つきあってやらないこともない」
「ぜひ!!」
ちょっと素直じゃないところも可愛い。好き。
結局のところ、俺は秋尋様であればなんでもいいのだ。
フられたとしてもずっと貴方が大好きですけれど、お傍にはおいてくださいね。永遠に仕えていきますので。
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