5 / 106
甘さ控えめ
その笑顔を独占できたら
しおりを挟む
帰る時になったら参考書は返してもらえるんだろうか。
そんなどうでもいいことを考えてしまうのは、きっと緊張しているからだ。
どんな気まぐれであれ、先輩がおれを誘ってくれたのは紛れもない事実。
好きな人から誘われて嬉しくない奴などいない。
「あの、どこへ行くんですか?」
そう尋ねてみる。何でおれを誘ったんですかとは聞けなかった。
せっかくいい気分なんだ。とりあえず今日は、自分に都合のいいように考えておこう。
「スーパー」
「え?」
「駅前の」
「なんか先輩が買い物している姿って想像つかないです……」
「そうか? 普通にするよ。俺、母子家庭だもん」
「そうなんですか……」
「買い物くらいで驚いているのは甘いな~」
「何がですか?」
「んー……」
先輩はおれから奪った本を口元にあてて、考える仕草をとる。
「まあ、ついたら判る」
「はあ……」
スーパーについたら何が判るというんだろう。
そう思っていたおれは、先輩が足を止めた場所で確かに驚いた。
……クレープ、屋。
駅前のスーパーは大きくて、出たあたりにアイス屋とクレープ屋、たこやき屋が隣接してる。
初めはたこやきでも食べるのかな、と思ったんだけど。
「今日さ」
「はい」
「0のつく日で、クレープが全品50円引きなんだよな」
「はあ……」
「驚いたか?」
「ええ。クレープ屋に来たことより、やたら詳しいことに……」
「ははっ。俺、甘い物好きだからさ」
先輩が笑う。本当に幸せそうに。
ちょっとそんな笑顔、甘い物に対して使うのは勿体ない。
「どうしておれを誘ったんですか?」
さっきまで聞く気はなかったけど、誘われた場所が場所だったから、さすがに気になった。
甘い物を食べに行くのなら、流石に女の子を誘う気がする。
先輩、別に甘い物好きがばれて格好悪いって思うようなタイプには見えないし。
「後輩くん、甘い物好きそうに見えたから」
「よく言われますけど……」
「俺、男友達でこういうところ来てくれる奴居ないんだよな。特定の女の子誘うのも誤解させるし、かといって一人は恥ずかしい」
先輩はそこまで言って、ちらちらとクレープ屋を見た。
……おれも、誤解しますけどね。こんな風に誘われたら。
「で、何にする? 俺はチョコバナナカスタードかな」
「じゃあおれもそれで……」
「了解」
会話切ってまで行くとか、待ち切れなかったのか?
なんというか。なんというか……。見た目は男前なのに、可愛い人だな……。
先輩はなじみなのか、にこやかにクレープ屋店員のお姉さんを口説いている。
……そこは誤解されても構わないんだろうか。
「ほい、買ってきたぞ」
「ありがとうございます」
提示してある金額から50円引いた額を渡す。奢ってやるよとも言わず、先輩は素直にそれを受け取った。
備え付けのベンチに並んで座って、クレープを頬張る。
ちなみに先輩の言った通り、おれは確かに甘い物が嫌いじゃない……というかむしろ好きだし、容姿もあいまって、好きそうにも見えると思う。
「あの、先輩……」
「何だ?」
「一人で食べるの、恥ずかしいかもしれないですが、男二人で並んで食べている方が、恥ずかしいと思います」
先輩は、目をぱちくりと瞬かせてから、クレープにぱくついた。
「うん。確かにそうかもしれん」
今気付いた、とでも言いたげな声に、思わず噴き出しそうになる。
「でもなー。一人で食べるより、二人で食べた方が美味しいだろ? そう思わないか、後輩くん」
ホイップクリームを口の端につけたまま、先輩がさっきよりもずっといい笑顔で笑った。
狡いな。そんな笑顔は、卑怯です。おれだけのものに、したくなる。
そんなどうでもいいことを考えてしまうのは、きっと緊張しているからだ。
どんな気まぐれであれ、先輩がおれを誘ってくれたのは紛れもない事実。
好きな人から誘われて嬉しくない奴などいない。
「あの、どこへ行くんですか?」
そう尋ねてみる。何でおれを誘ったんですかとは聞けなかった。
せっかくいい気分なんだ。とりあえず今日は、自分に都合のいいように考えておこう。
「スーパー」
「え?」
「駅前の」
「なんか先輩が買い物している姿って想像つかないです……」
「そうか? 普通にするよ。俺、母子家庭だもん」
「そうなんですか……」
「買い物くらいで驚いているのは甘いな~」
「何がですか?」
「んー……」
先輩はおれから奪った本を口元にあてて、考える仕草をとる。
「まあ、ついたら判る」
「はあ……」
スーパーについたら何が判るというんだろう。
そう思っていたおれは、先輩が足を止めた場所で確かに驚いた。
……クレープ、屋。
駅前のスーパーは大きくて、出たあたりにアイス屋とクレープ屋、たこやき屋が隣接してる。
初めはたこやきでも食べるのかな、と思ったんだけど。
「今日さ」
「はい」
「0のつく日で、クレープが全品50円引きなんだよな」
「はあ……」
「驚いたか?」
「ええ。クレープ屋に来たことより、やたら詳しいことに……」
「ははっ。俺、甘い物好きだからさ」
先輩が笑う。本当に幸せそうに。
ちょっとそんな笑顔、甘い物に対して使うのは勿体ない。
「どうしておれを誘ったんですか?」
さっきまで聞く気はなかったけど、誘われた場所が場所だったから、さすがに気になった。
甘い物を食べに行くのなら、流石に女の子を誘う気がする。
先輩、別に甘い物好きがばれて格好悪いって思うようなタイプには見えないし。
「後輩くん、甘い物好きそうに見えたから」
「よく言われますけど……」
「俺、男友達でこういうところ来てくれる奴居ないんだよな。特定の女の子誘うのも誤解させるし、かといって一人は恥ずかしい」
先輩はそこまで言って、ちらちらとクレープ屋を見た。
……おれも、誤解しますけどね。こんな風に誘われたら。
「で、何にする? 俺はチョコバナナカスタードかな」
「じゃあおれもそれで……」
「了解」
会話切ってまで行くとか、待ち切れなかったのか?
なんというか。なんというか……。見た目は男前なのに、可愛い人だな……。
先輩はなじみなのか、にこやかにクレープ屋店員のお姉さんを口説いている。
……そこは誤解されても構わないんだろうか。
「ほい、買ってきたぞ」
「ありがとうございます」
提示してある金額から50円引いた額を渡す。奢ってやるよとも言わず、先輩は素直にそれを受け取った。
備え付けのベンチに並んで座って、クレープを頬張る。
ちなみに先輩の言った通り、おれは確かに甘い物が嫌いじゃない……というかむしろ好きだし、容姿もあいまって、好きそうにも見えると思う。
「あの、先輩……」
「何だ?」
「一人で食べるの、恥ずかしいかもしれないですが、男二人で並んで食べている方が、恥ずかしいと思います」
先輩は、目をぱちくりと瞬かせてから、クレープにぱくついた。
「うん。確かにそうかもしれん」
今気付いた、とでも言いたげな声に、思わず噴き出しそうになる。
「でもなー。一人で食べるより、二人で食べた方が美味しいだろ? そう思わないか、後輩くん」
ホイップクリームを口の端につけたまま、先輩がさっきよりもずっといい笑顔で笑った。
狡いな。そんな笑顔は、卑怯です。おれだけのものに、したくなる。
0
あなたにおすすめの小説
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる