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甘さ控えめ
その笑顔を独占できたら
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帰る時になったら参考書は返してもらえるんだろうか。
そんなどうでもいいことを考えてしまうのは、きっと緊張しているからだ。
どんな気まぐれであれ、先輩がおれを誘ってくれたのは紛れもない事実。
好きな人から誘われて嬉しくない奴などいない。
「あの、どこへ行くんですか?」
そう尋ねてみる。何でおれを誘ったんですかとは聞けなかった。
せっかくいい気分なんだ。とりあえず今日は、自分に都合のいいように考えておこう。
「スーパー」
「え?」
「駅前の」
「なんか先輩が買い物している姿って想像つかないです……」
「そうか? 普通にするよ。俺、母子家庭だもん」
「そうなんですか……」
「買い物くらいで驚いているのは甘いな~」
「何がですか?」
「んー……」
先輩はおれから奪った本を口元にあてて、考える仕草をとる。
「まあ、ついたら判る」
「はあ……」
スーパーについたら何が判るというんだろう。
そう思っていたおれは、先輩が足を止めた場所で確かに驚いた。
……クレープ、屋。
駅前のスーパーは大きくて、出たあたりにアイス屋とクレープ屋、たこやき屋が隣接してる。
初めはたこやきでも食べるのかな、と思ったんだけど。
「今日さ」
「はい」
「0のつく日で、クレープが全品50円引きなんだよな」
「はあ……」
「驚いたか?」
「ええ。クレープ屋に来たことより、やたら詳しいことに……」
「ははっ。俺、甘い物好きだからさ」
先輩が笑う。本当に幸せそうに。
ちょっとそんな笑顔、甘い物に対して使うのは勿体ない。
「どうしておれを誘ったんですか?」
さっきまで聞く気はなかったけど、誘われた場所が場所だったから、さすがに気になった。
甘い物を食べに行くのなら、流石に女の子を誘う気がする。
先輩、別に甘い物好きがばれて格好悪いって思うようなタイプには見えないし。
「後輩くん、甘い物好きそうに見えたから」
「よく言われますけど……」
「俺、男友達でこういうところ来てくれる奴居ないんだよな。特定の女の子誘うのも誤解させるし、かといって一人は恥ずかしい」
先輩はそこまで言って、ちらちらとクレープ屋を見た。
……おれも、誤解しますけどね。こんな風に誘われたら。
「で、何にする? 俺はチョコバナナカスタードかな」
「じゃあおれもそれで……」
「了解」
会話切ってまで行くとか、待ち切れなかったのか?
なんというか。なんというか……。見た目は男前なのに、可愛い人だな……。
先輩はなじみなのか、にこやかにクレープ屋店員のお姉さんを口説いている。
……そこは誤解されても構わないんだろうか。
「ほい、買ってきたぞ」
「ありがとうございます」
提示してある金額から50円引いた額を渡す。奢ってやるよとも言わず、先輩は素直にそれを受け取った。
備え付けのベンチに並んで座って、クレープを頬張る。
ちなみに先輩の言った通り、おれは確かに甘い物が嫌いじゃない……というかむしろ好きだし、容姿もあいまって、好きそうにも見えると思う。
「あの、先輩……」
「何だ?」
「一人で食べるの、恥ずかしいかもしれないですが、男二人で並んで食べている方が、恥ずかしいと思います」
先輩は、目をぱちくりと瞬かせてから、クレープにぱくついた。
「うん。確かにそうかもしれん」
今気付いた、とでも言いたげな声に、思わず噴き出しそうになる。
「でもなー。一人で食べるより、二人で食べた方が美味しいだろ? そう思わないか、後輩くん」
ホイップクリームを口の端につけたまま、先輩がさっきよりもずっといい笑顔で笑った。
狡いな。そんな笑顔は、卑怯です。おれだけのものに、したくなる。
そんなどうでもいいことを考えてしまうのは、きっと緊張しているからだ。
どんな気まぐれであれ、先輩がおれを誘ってくれたのは紛れもない事実。
好きな人から誘われて嬉しくない奴などいない。
「あの、どこへ行くんですか?」
そう尋ねてみる。何でおれを誘ったんですかとは聞けなかった。
せっかくいい気分なんだ。とりあえず今日は、自分に都合のいいように考えておこう。
「スーパー」
「え?」
「駅前の」
「なんか先輩が買い物している姿って想像つかないです……」
「そうか? 普通にするよ。俺、母子家庭だもん」
「そうなんですか……」
「買い物くらいで驚いているのは甘いな~」
「何がですか?」
「んー……」
先輩はおれから奪った本を口元にあてて、考える仕草をとる。
「まあ、ついたら判る」
「はあ……」
スーパーについたら何が判るというんだろう。
そう思っていたおれは、先輩が足を止めた場所で確かに驚いた。
……クレープ、屋。
駅前のスーパーは大きくて、出たあたりにアイス屋とクレープ屋、たこやき屋が隣接してる。
初めはたこやきでも食べるのかな、と思ったんだけど。
「今日さ」
「はい」
「0のつく日で、クレープが全品50円引きなんだよな」
「はあ……」
「驚いたか?」
「ええ。クレープ屋に来たことより、やたら詳しいことに……」
「ははっ。俺、甘い物好きだからさ」
先輩が笑う。本当に幸せそうに。
ちょっとそんな笑顔、甘い物に対して使うのは勿体ない。
「どうしておれを誘ったんですか?」
さっきまで聞く気はなかったけど、誘われた場所が場所だったから、さすがに気になった。
甘い物を食べに行くのなら、流石に女の子を誘う気がする。
先輩、別に甘い物好きがばれて格好悪いって思うようなタイプには見えないし。
「後輩くん、甘い物好きそうに見えたから」
「よく言われますけど……」
「俺、男友達でこういうところ来てくれる奴居ないんだよな。特定の女の子誘うのも誤解させるし、かといって一人は恥ずかしい」
先輩はそこまで言って、ちらちらとクレープ屋を見た。
……おれも、誤解しますけどね。こんな風に誘われたら。
「で、何にする? 俺はチョコバナナカスタードかな」
「じゃあおれもそれで……」
「了解」
会話切ってまで行くとか、待ち切れなかったのか?
なんというか。なんというか……。見た目は男前なのに、可愛い人だな……。
先輩はなじみなのか、にこやかにクレープ屋店員のお姉さんを口説いている。
……そこは誤解されても構わないんだろうか。
「ほい、買ってきたぞ」
「ありがとうございます」
提示してある金額から50円引いた額を渡す。奢ってやるよとも言わず、先輩は素直にそれを受け取った。
備え付けのベンチに並んで座って、クレープを頬張る。
ちなみに先輩の言った通り、おれは確かに甘い物が嫌いじゃない……というかむしろ好きだし、容姿もあいまって、好きそうにも見えると思う。
「あの、先輩……」
「何だ?」
「一人で食べるの、恥ずかしいかもしれないですが、男二人で並んで食べている方が、恥ずかしいと思います」
先輩は、目をぱちくりと瞬かせてから、クレープにぱくついた。
「うん。確かにそうかもしれん」
今気付いた、とでも言いたげな声に、思わず噴き出しそうになる。
「でもなー。一人で食べるより、二人で食べた方が美味しいだろ? そう思わないか、後輩くん」
ホイップクリームを口の端につけたまま、先輩がさっきよりもずっといい笑顔で笑った。
狡いな。そんな笑顔は、卑怯です。おれだけのものに、したくなる。
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