甘すぎるのも悪くない

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甘さ控えめ

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 どうしよう。先輩、無反応だ。おれも何も言えない。罵るでもいいから、何か言ってほしい。


「あ、あの、先輩……」


 ……無反応というより、固まってる?

 注文まだだから、店員来ないよな。ならもう一回くらい、キスしておこうかな……。

 先輩がおれのこと受け入れてくれるならラッキーで、さもなければもうキスなんてできないだろうから、ここはしておくべき。


「ごめんなさい」


 一応謝ってから、もう一度口付ける。さっきは味わう余裕もなかったけど、以外とやらかい。

 ふんわりといい匂いもする。先輩、香水とかつけてるのかな。それとも体臭か。こんな甘い……。先輩の容姿にはあわないよな。きっと甘い物ばかり食べているからこんな匂いがするんだ。

 そっと舌を潜り込ませた途端、突き飛ばされた。

 ごしごしと口唇を擦られて切なくなる。


「おれが先輩を好きだなんて判ってたくせに、そんな態度はないんじゃないですか」


 無理矢理キスしたことを棚に上げて、ふてぶてしく非難してみた。


「行動に移すとは思っていなかった」


 あ。やっぱ気付いてはいたのか。


「それっておれを侮ってたってことですか?」


 先輩、無言。つまり恐らくは……肯定。

 でもこんな時は先輩、上手くごまかして笑いそうなものなのに。少しは動揺、しているんだろうか。上手い嘘がつけないほどには。


「じゃあ、きちんと言いますね。おれは、先輩が好きです」

「男同士だぞ」

「今更そこですか」

「お前みたいな優等生は、お嬢様みたいな子と付き合っておててつなぐような恋愛が似合ってるんだよ」

「お嬢様みたいな子は、こんな風に了承もなくキスされようものなら、裸足で逃げ出すでしょうね」

「……そうだな」

「おれ、先輩が思うほど、優等生じゃないですよ」


 先輩は口唇に手の甲をあてたまま。だから少し、声がくぐもってる。

 手を離したらキスでもされると思ってるんだろうか。

 そこを隠したところで口唇以外の場所ならどこにでもキスできるっていうのに。


「先輩」


 髪の毛にキスをする。凄い柔らかくてさらさらしてる。

 先輩がびくりと身を震わせた。


「この髪凄い綺麗で、キスしたいと思ってました。それ以上のこともしたいと思ってます。それでもおれは、優等生ですか?」

「ああ、優等生だ」


 ぐっと押し退けられた。先輩は予想外にも、挑発的な笑みを浮かべていた。


「思ってるだけで、しないんだから」

「そんなこと言ってると、本当にしますよ」


 こんなところで最後までする訳にはいかないけど、触ってその気にさせて、それこそトイレにでも連れ込んでやる。


「それはノーサンキュー」

「……なら、そんな誘うようなこと言わないでください」


 口唇を尖らせると、先輩がおれの頬をつんとつついた。


「何すんですか」

「やっぱ可愛い顔してるなと」

「それこそ、男ですよおれは……。振るならきっぱりと振って、期待持たせないでください」

「俺さ、お前のこと気に入ってるんだよ。でもしたいとは思わないんだよねー。だからさ、チャンスやるよ」

「チャンス?」

「俺に恋愛感情持たせてみろよ」

「いいんですか、そんなこと言って……」

「優等生がどこまでやれるか見てやるから」


 先輩が、くくっと笑う。

 そうやってまた人を無害扱いして。さっきキスされてるんですよ。ちょっとは危機感持ったらどうですか。


「おれは正々堂々と貴方にアタックする権利をもらえたってことですね」

「うん、そう」

「あの……何でそんなに軽いんですか」

「早く甘い物食いたいから」


 そう言って先輩は、おれが何か言う前にフロントに注文をした。おれは脱力した。

 一体何を考えてるんだか、この人は……。

 いや、きっと単に、本当に甘い物が食べたかっただけなのかもしれないな……。

 甘い物はおれにとって最大の味方……武器にもなるだろうが、それと同時に敵であると認識した。
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