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とけたそのあとで
ハッピーハロウィン
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10月。今月は先輩が大好きそうなお祭りが待ち受けている。そう、月末、ハロウィンだ。
ちょうど日曜にぶち当たってしまって、月初めからつまらないつまらないと愚痴をこぼされた。どんだけだと思う。
もちろんおれ的には、先輩がおれだけにおねだりしてくれるのはかなり嬉しい。
だから午前中からお菓子を作って、先輩の来訪を待ち侘びていた。
でも高校生にもなって、しかもハロウィン何それとか言ってしまうようなキラキラした外見をしているのに、幸せそうにニコニコ笑いながらやってくるんだろうなぁと思うと微笑ましくて仕方ない。
午後になって、約束はしてないけれど先輩は当然のようにやってきた。
「よお、後輩くん」
お決まりの第一声がなかったのに少し戸惑いながら、リビングに上げる。
絶対に開口一番、トリックオアトリートや、お菓子をくれないとイタズラしちゃうぞと言ってくると思ったから、拍子抜けした。
でも珍しくショルダーバッグを持ってきてるからあの中にお菓子を入れて帰るつもりなのかもしれない。
……まいったな。張り切ってお菓子の城とか作っちゃったんだけど。やっぱりシュークリームにしておけば良かった……。美味しいって言ってくれたし……。
「どうぞ」
甘い紅茶を出すと、物欲しそうな目を向けられた。
そうだよな。いつも何かしらデザートを一緒に出すしなぁ。
先輩がハロウィンを忘れている訳はないと思うけど、何で言わないんだ? 言われる前に出すのもなんか……。うーん。
「なんか甘い匂いがするな」
「お菓子、作ってたんで……」
「俺用?」
「はい」
「出してくれないのか?」
「……だって」
何でおれが言葉をねだらなきゃいけないのか。
「もー、ちゃんとお決まりの台詞言ってくださいよ。用意してあるんだから」
「えっ。あ……。ん、そうか。よし、後輩くん、トリックオアトリート!」
「お菓子あげますから、おれがイタズラします」
「なっ……。ちょっ、おい、こら!」
「今日のは見たら、先輩が何度でも許したくなっちゃうような凄いのですよ? お菓子の城です」
「……そっ、それは欲しいが……」
「だから、お菓子が欲しければイタズラさせてください」
「どんなハロウィンだよ、それ!」
そんな感じで、お菓子よりも甘い先輩を貪った。
割りと無理矢理ことに及んでしまったせいで先輩の機嫌は急降下。でも、今日のおれには秘密兵器がある。
お菓子の城を出した時の先輩の反応はそれはもう物凄かった。あっという間に上機嫌だ。
本当に甘い物に弱い人だよなぁ……。あっさり誘拐とかされちゃうんじゃないか? この人。
とても一人では食べきれない量のお菓子で作ったけど、キラキラしているその城を先輩は一時間足らずで平らげた。
デコレーションケーキ2個分は軽くあった筈なのに……。さすがすぎる。
「美味しかったですか?」
「ああ、ご馳走様」
「良かったです。持ち帰りできない物ですいません。これに入れてあげたかったんですけど……」
と言って先輩のショルダーバッグを持ち上げると、ボタンがはずれて中からドサドサとコンビニで買ったと思われるお菓子が飛び出してきた。
「えっ……。せ、先輩。まさかおれの家に来る前にいろんなところ回ってきたんですか!? 酷い、先輩を餌付けしていいのはおれだけなのに!」
「な、何言ってるんだ、馬鹿!」
先輩が落ちたお菓子をかき集めて、再び詰め直す。そして、唇を少し尖らして、視線を逸らした。
「……後輩くんも言えよ、お約束の台詞」
「おれが? え? ええー。もしかして、これって」
「まったく、お菓子が欲しければイタズラさせろとか言いやがって。おれだって用意してたのに、先にイタズラされちゃったら出しにくいだろ」
「だって、先輩お菓子好きだし、普通逆パターン想像するじゃないですか」
「こういういのは普通、年下がねだって年上がやるもんなんだよ」
「今日学校休みだって知ったら、残念そうに愚痴ってたのに……」
「うちの学校、先生が生徒にくれるんだぜ? 知らなかった?」
そんなこと、今年入学したおれが知るはずない。クラスには知ってる奴もいるかもしれないけど、この甘い物好きの先輩とつるんでるんだ、おれはとうに知ってると思われているだろう。
「じゃあ、お菓子いりませんから、イタズラさせてください」
「ってこら、したばっかだろうが!」
「これもお約束の台詞じゃないですか、ね? そのお菓子も先輩が全部食べられるんですよ?」
「相変わらず卑怯だな、後輩くん……。仕方ないから、お菓子に免じて許してやる。ただ、今度は手加減しろよ、もう身体きつい」
「はい」
でも先輩の買ってきたお菓子、全部先輩が好きそうな物ばっかりなんですけどね。
きっとこうなることを判ってて買ってきたんだろうなぁと思うと、止まれるはずなんてなかった。
二回戦目で申し訳ないけど、制作時間6時間のお菓子の城に免じて許してくださいね。
ちょうど日曜にぶち当たってしまって、月初めからつまらないつまらないと愚痴をこぼされた。どんだけだと思う。
もちろんおれ的には、先輩がおれだけにおねだりしてくれるのはかなり嬉しい。
だから午前中からお菓子を作って、先輩の来訪を待ち侘びていた。
でも高校生にもなって、しかもハロウィン何それとか言ってしまうようなキラキラした外見をしているのに、幸せそうにニコニコ笑いながらやってくるんだろうなぁと思うと微笑ましくて仕方ない。
午後になって、約束はしてないけれど先輩は当然のようにやってきた。
「よお、後輩くん」
お決まりの第一声がなかったのに少し戸惑いながら、リビングに上げる。
絶対に開口一番、トリックオアトリートや、お菓子をくれないとイタズラしちゃうぞと言ってくると思ったから、拍子抜けした。
でも珍しくショルダーバッグを持ってきてるからあの中にお菓子を入れて帰るつもりなのかもしれない。
……まいったな。張り切ってお菓子の城とか作っちゃったんだけど。やっぱりシュークリームにしておけば良かった……。美味しいって言ってくれたし……。
「どうぞ」
甘い紅茶を出すと、物欲しそうな目を向けられた。
そうだよな。いつも何かしらデザートを一緒に出すしなぁ。
先輩がハロウィンを忘れている訳はないと思うけど、何で言わないんだ? 言われる前に出すのもなんか……。うーん。
「なんか甘い匂いがするな」
「お菓子、作ってたんで……」
「俺用?」
「はい」
「出してくれないのか?」
「……だって」
何でおれが言葉をねだらなきゃいけないのか。
「もー、ちゃんとお決まりの台詞言ってくださいよ。用意してあるんだから」
「えっ。あ……。ん、そうか。よし、後輩くん、トリックオアトリート!」
「お菓子あげますから、おれがイタズラします」
「なっ……。ちょっ、おい、こら!」
「今日のは見たら、先輩が何度でも許したくなっちゃうような凄いのですよ? お菓子の城です」
「……そっ、それは欲しいが……」
「だから、お菓子が欲しければイタズラさせてください」
「どんなハロウィンだよ、それ!」
そんな感じで、お菓子よりも甘い先輩を貪った。
割りと無理矢理ことに及んでしまったせいで先輩の機嫌は急降下。でも、今日のおれには秘密兵器がある。
お菓子の城を出した時の先輩の反応はそれはもう物凄かった。あっという間に上機嫌だ。
本当に甘い物に弱い人だよなぁ……。あっさり誘拐とかされちゃうんじゃないか? この人。
とても一人では食べきれない量のお菓子で作ったけど、キラキラしているその城を先輩は一時間足らずで平らげた。
デコレーションケーキ2個分は軽くあった筈なのに……。さすがすぎる。
「美味しかったですか?」
「ああ、ご馳走様」
「良かったです。持ち帰りできない物ですいません。これに入れてあげたかったんですけど……」
と言って先輩のショルダーバッグを持ち上げると、ボタンがはずれて中からドサドサとコンビニで買ったと思われるお菓子が飛び出してきた。
「えっ……。せ、先輩。まさかおれの家に来る前にいろんなところ回ってきたんですか!? 酷い、先輩を餌付けしていいのはおれだけなのに!」
「な、何言ってるんだ、馬鹿!」
先輩が落ちたお菓子をかき集めて、再び詰め直す。そして、唇を少し尖らして、視線を逸らした。
「……後輩くんも言えよ、お約束の台詞」
「おれが? え? ええー。もしかして、これって」
「まったく、お菓子が欲しければイタズラさせろとか言いやがって。おれだって用意してたのに、先にイタズラされちゃったら出しにくいだろ」
「だって、先輩お菓子好きだし、普通逆パターン想像するじゃないですか」
「こういういのは普通、年下がねだって年上がやるもんなんだよ」
「今日学校休みだって知ったら、残念そうに愚痴ってたのに……」
「うちの学校、先生が生徒にくれるんだぜ? 知らなかった?」
そんなこと、今年入学したおれが知るはずない。クラスには知ってる奴もいるかもしれないけど、この甘い物好きの先輩とつるんでるんだ、おれはとうに知ってると思われているだろう。
「じゃあ、お菓子いりませんから、イタズラさせてください」
「ってこら、したばっかだろうが!」
「これもお約束の台詞じゃないですか、ね? そのお菓子も先輩が全部食べられるんですよ?」
「相変わらず卑怯だな、後輩くん……。仕方ないから、お菓子に免じて許してやる。ただ、今度は手加減しろよ、もう身体きつい」
「はい」
でも先輩の買ってきたお菓子、全部先輩が好きそうな物ばっかりなんですけどね。
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